第四話-2
「うわ、あっつい」
「そうですね。太陽の南中は過ぎていますが、まだ気温は三〇度を超えていますし」
「うん、まあ気温のこともそうだけど、それ以上に、ね?」
っていうか南中って久々に聞いたな。中学の理科以来だ。太陽が昇って一番高い瞬間だっけ。その時の角度が南中高度だったっけ。厳密には南中と時刻と最高気温の時間帯は少しずれていて、夏至は六月だけど年間で一番暑いのは八月だ。何の話?
でもそんなことは関係ない。いや全然関係ないし普通に暑いけど、それは夏だから仕方ない。何なら散歩に出てくる時間帯間違えたかなとか思ったけどそれはまだいい。良くないけど。
とにかく問題は、あれだ。
「明日はさすがに少しセーブしないといけないから、今日のうちに、ね?」
「しょうがないなあ、結衣。ほら、おいで」
「うん! 健人」
「どうした?」
「大好きだよ」
「俺も大好きだよ、結衣」
「ねえ、キスして」
「分かった分かった」
「ん……もう一回」
「結衣、可愛い」
……あっつい! 空気から雰囲気からもう何もかもが熱い! 熱い上に甘い! べっこう飴でも作ってんのか。なんでこの暑い中、わざわざ外で見せつけるようにいちゃこらしてるんだ。
小西が甘えるように相沢に抱きついたまま頭を肩にぐりぐりと擦り付け、相沢は相沢で、そんな小西を抱き締めている。そしてその体勢から互いに愛を囁き、口付けを交わす……何を見せられてるんだよ俺は。
「相沢と小西、学校の外だとあんなバカップルだったのか……」
そう、俺はなぜあの二人に鈴森神社の夏祭りへ誘われたのか、すっかり忘れていたのだ。鈴森は祖父さんの住所であると同時、相沢と小西の幼馴染カップルの生息域。普通に行動範囲が被ってる。出歩けば鉢合わせる可能性くらい、全然あるのだ。
たまたま足を踏み入れた公園の大樹の根元、設置されたベンチで砂糖をばら撒く友人夫婦。ちょっとこっちがいたたまれなくなってきた。これどうしたものかな、ほぼ正面にいるのにあいつら、二人きりの世界でこっちに気付いてないっぽい。
写真撮って回れ右するか。そう考えて、梨花と繋いでいない右手で、俺がスマートフォンを取り出したところで、相沢と目が合った。小西の方は……あれは気付いてないな。相沢が焦って小西の名前を呼んでいるが、その小西はというと、
「んー?」
と笑っているだけで、こっちを見ようともしない。構わずぱしゃり。そのシャッター音で、ようやく小西も俺たちに気付いた。
錆び付いたロボットのようにぎこちなく、ゆっくりとこちらを振り返り、そして僅かに頬を染めながら、そろそろと相沢に巻きついていた腕を外し、行儀良くベンチに座り直す。
俺は二人に声をかける前にLINERを起動し、御影とのチャット画面を開き、今しがた撮影した写真を無言で送信。スマートフォンを仕舞って何事もなかったかのように、
「よう、奇遇だな」
「お前今、何をした!?」
相沢お前、そんな超スピードで移動できたんだな。とりあえず梨花まで影響出てるから、そのぐわんぐわんは止めてもらおうか。
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