第三話-12
一区切りついてふと時計を見ると、時刻は午前一時を過ぎたところだ。御影はまだ戻らないのか、と隣を見てみると、
「……おい、まさか、寝たのか?」
目を閉じて壁に身体を預け、静かな寝息を立てる御影がいた。恐る恐る肩をつついてみても、ぴくりとも反応しない。参ったな。そりゃあ疲れていたんだろうけど、でも、
「動けるうちに帰るんじゃなかったのかよ……!」
頭を抱える羽目になった。
俺の傍が落ち着くとか言ってたが、半分は寝言だと思っていた。でもこれを見れば、少なくとも嘘でなかったことは分かる。それはそれとして、御影は安心しすぎだ。少しは自分の可愛さを自覚してくれ。
「起きて……起きてくれ御影……」
肩を揺すってみても、起きる気配がない。そして体勢を崩すな、こちらに倒れてくるな! ……ああ、倒れてきた。せめて俺はベンチから立ち上がっておくんだった。この状況で膝枕状態は心臓に悪すぎる。
女は直感を、男は理性を、それぞれ神に賜ったと何かで読んだことがあるが、多分嘘だろうなと思う。現に今、俺の理性は居留守を決め込もうとしやがった。理性と羞恥心と良心で三権分立相互監視していなかったら、危なかったかもしれない。
しかしこれ、本格的にどうするかな。同室のはずの小西に頼んで連れて行ってもらうか。起きてるといいなあ……。
多分小西も部屋に戻ったはず。この時間なら寝ていてもおかしくない。でも最初からそれしか手段はないし、だめもとで電話をしてみることにした。
「九割九分寝てるよな……あれ、繋がった」
自分が電話をかけておきながら繋がったことに驚いていると、眠そうながらも割としっかりした声が電話から届いた。
「どうしたの?」
「その、ベンチで小説書いてたら御影が来て、そのまま寝ちゃったんで連れて行ってもらえないかと」
「なにそれどういう状況?」
俺が訊きたいよ。
「まあいいよ、今行くから場所教えて」
「すまん、とても助かる」
菅野台のジャージを着た小西が到着したのは、それから三分後だった。
「やっぱそれだよな」
「まあジャージは楽だからね。それで、これは本当にどういうことなの……?」
「寝落ちする前に帰るって言ってたんだけど、気付いたら寝落ちしてて、起こそうとしたらこうなりました」
「だめだ説明聴いても分かんない」
だろうな俺も分からない。
すると小西は、何を思ったかおもむろにスマートフォンを取り出して、画面を一度タッチした。シャッター音が聞こえた気がする。
「……おい」
「安心して、東宮くんの顔は写ってないから」
「いやいや、御影だけ撮るのも問題じゃないか? ……そしてその写真を俺に送ってくるな」
「これで共犯だね。さてそれじゃあ御影ちゃんだけど」
なぜ一度共犯にする必要があったのか。そしてそのまま何事もなかったかのように話を進めないでほしい。
「正直な話、御影ちゃんが寝たままだと私一人で部屋まで連れて行くのは無理だから、東宮くんにも手伝ってもらうからね。本当に寝たままだったらだけど」
「……うん? それはどういうこと?」
「こういうこと。ほらほら、寝たふりしてると東宮くんに御影ちゃんの秘密ばらしちゃうよ」
何の話だよ。
「う……」
しかも本当に起きちゃったし。何この解決の仕方?
「ってことだから、あとはこっちで連れて行くからね」
「あ、ああ。よろしく……?」
なんだ、何がどうなってるんだ? 御影は起きてたのか? それとも、「秘密をばらす」という部分に反応して起きたのか? 分からない。よく分からないが、
「おやすみ、東宮くん」
「うん、おやすみ……」
手を引かれて帰って行った御影の寝顔写真は、こっそりとメモリーカードに保存しておいた。
よろしければ、作品のブックマークやいいね・レビューなど頂けますと幸いです。




