第三話-4
残念ながら、どうやら小西に相沢を止めろと頼んでも無駄らしい。言われたその言葉の意味が判明したのは、乗り換えのある駅で一度列車を降りたときである。
「乗り換える列車の出発時刻は一時間後だ。切符を見せれば再入場できるらしいから、適当にその辺で散歩でもしていてくれ」
という雑な塚本先生の指示により、俺たちは駅の外に出ることになった。そうして一時解散の際、どっちへ行こうか考えていた俺に、御影が声をかけてきたわけだ。
「まだ行先決まってないなら、一緒に歩かない?」
渡りに船とはこのことか、と思ってその提案に乗っかり、二人並んで田舎道を歩く。地図を見るとここは既に山梨県内……というかもうほとんど、長野に近い場所みたいだ。
「静かで広々としたところだねー」
両手をぐっと上に伸ばしながら御影が言う。
「言葉を選ばずに言えば、何もないな」
「そういうこと言わないの! せっかくわたしが言葉を選んだのに」
「なんでそれ自白しちゃったの?」
言わなければばれなかったのに、と二人で笑う。こういう何気ない時間が、ただひたすらに楽しい。
駅の周りこそ住宅が建ち並んでいたが、少し離れると間隔がまばらになっていき、やがて畑が現れた。標高が高くアスファルトに地面が覆われていないためだろうか、首都圏よりも気温は低い気がする。
言葉を選ばなければ何もない、とは言ったが、こういう土地は嫌いじゃなかった。両手を広げ、全身で空気を感じるような姿勢で御影が前に出る。目的地が山の上ということで今は御影はパンツルックだが、この風景ではワンピースも似合いそうだ。
いや、それは決して今の服装を似合ってないと言っているのではなく……誰に言い訳しているんだと馬鹿らしくなって、俺は考えるのをやめた。似合っているならそれでいいじゃないか。
「風が気持ちいいね」
「そうだな、菅野台だと、この時期どうしても熱風だ」
「自転車通学民には堪えるよね、本当に」
立地の悪い菅野台高校の生徒とは、切っても切り離せない問題だ。駅は遠いのにバスは少ない。なぜこんな学校を選んでしまったのか、と後悔する人たちを去年から何人も見ている気がする。多分、来年の終わりまで見るんだろう。
「ところでさ、東宮くん」
両手を後ろに回し、御影がこちらを振り返った。長めの前髪から覗く顔が、心なしか、ややいたずらっぽく笑っているようにも見える。
「二人っきりになるの、朝日出でデートしたとき以来だね」
心臓が跳ねた、とは、こういうときに使う言葉なのだろう。ああ、まったく、驚かせないでくれ。俺が非モテ陰キャなの、知らないわけではないだろうに。
わざわざ意識しないようにしていたのに、その努力が一瞬で無駄にされてしまった。どうしても目を合わせるのが気恥ずかしくて、俺は明後日の方角に視線を逸らし、
「そういえば、さっきは特急で小西の隣だったんだよな? 何か聞いたか?」
耐えきれなくなって話題を変えようとして、思いっきり失敗した。振るにしてももう少し何か別の話があっただろうに、よりにもよってなぜこれなのか。変わったようであまり変わっていない酷すぎる選択に、俺は五秒過去に遡れないかと本気で後悔した。
……家に帰ったら、梨花に時間遡及の魔法がないか訊いてみよう。
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