プロローグ 現場中継
夕刻、平井鈴花は、ある教室のドアに隠れて廊下の奥を観察していた。手元には一台のスマートフォン、その画面には、一人の少年が正面から映ったリアルタイムの映像。
ある少女の胸ポケットに入れられたスマートフォンとビデオ通話を接続し、映像と音声を確認できるようにしてあるのだ。わざわざこんなことをしている理由は、現在の状況について、証拠を残すためだった。
──嘘告白。好意のない相手に交際を求め、ネタバラシをすることでショックを与える、悪質な行為。いじめやただの罰ゲームなど、その行為に及ぶ過程は様々であるが、信用を崩し、裏切る行為であることには変わりない。
精神的外傷を残しかねない、誰も幸福にならない悪質な行為。カメラに映っているのは、その現場だ。ただし、これにはいくらかの事情がある。
故に、嘘告白をする側とされる側、その両方に、今回の嘘告白はただの茶番劇だと知れていた。主題は──証拠がなければ作ればいい。
冤罪をでっちあげるための計画ではなかった。本質は全く逆で、証拠不十分で相手にされないのを防ぐための計画だ。嘘告白まで起こしてしまえば、否応なしに第三者を巻き込むことになる。大事になれば、さすがにもみ消すことも、無視することもできない。しらを切るなどもってのほか。
「わたし、あなたのことが好きです。わたしと付き合ってください」
「俺も……俺も、御影のことが好きだ。だからその、付き合おう」
(始まった……!)
鈴花が画面を見守る中、少年の方は注文通りの台詞を返すことで茶番劇が進行していく。そして、どこか別の教室のドアが開く音が響く。
「はい引っかかったー!」
「ドッキリ大成功ー!」
「期待しちゃったねー残念だったねー!」
「お前みたいなクソ陰キャに相手に誰が告白するかっての! 現実見ろよ!」
「ってかお前、身長一七〇なくね? もしかして人権ないんじゃない?」
「自意識過剰乙ー!」
聞こえてくるのは三人の少女の声。聞くに耐えない、暴言と嘲笑。すぐにでも出て行って拘束したいが、今鈴花が出ては意味がない。この場は自制心をもって状況の注視と記録に徹する──そのつもりだったのだ。
しかし次の瞬間、鈴花は画面の録画を中止した。充分な証拠が撮れたからではない。ここからはむしろ、余計な証拠を残してはならないことを、第六感によって察知したからだ。
鈴花は、自分と共に息を潜めて待機していた二人に声をかけ、飛び出す判断を下した。
「状況が変わります。このままにしておくとまずいです。すぐ止めに行きましょう、みなみ先輩、相沢先輩」
──間に合え。今はそれだけを目的に、予定を変更する。
その判断が自分たちの正当性の証明にとっては正しかったことは、その後一分もせずに明らかになる。
明日から投稿開始になります。
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