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光風は紅き盾と共に〜順風満帆な優等生少女は異世界転移された事でその人生の歪さを知る〜  作者: 五月十日


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4話

髪を揺らす心地よい風が、私の意識をクリアにしてくれた。

目の前には桜の木が綺麗な花を咲かせて、風がその花びらを運んでいる。

場所は私たちの家の近所の公園。

亀の形の大きい遊具が特徴で、この辺に住んでる人たちからはそのまま『亀さん公園』って呼ばれている。

小さな頃はよくお母さんやお姉ちゃんと来たなぁ。

もちろん今目の前にいる幼なじみ二人とも。

二人は持ち寄ったお菓子とジュースを広げ始めたところだった。

三つ置かれた紙コップには鈴芽が自分の持ってきた新発売の桃風味のジュースを注いでいる。

翼は小学校低学年の頃からよく食べているいつものチョコレート菓子の袋をパーティ開けしていた。

翼の広げたお菓子の袋の上に、薄ピンク色の小さな花びらが落ちた。


第二回目の開催となる、春のお花見 in 亀さん公園は去年持ち寄った物は禁止にしたはず。

鈴芽がそう咎めたけど、翼はお構いなしに桜の花びらを避けてお菓子を手に取る。

普段からしているようなやりとりなのに、何故か笑ってしまったのを覚えている。


そう、これは去年の春の出来事。

目に映っている幼なじみたちは、私が最後に見た姿より少し幼い。

多分夢の中なんだろう。

夢の中で夢と分かるのは初めての事かもしれないな。

不意に鈴芽が顔を公園の入り口の方へ向けた。

そして立ち上がり、入り口に走り出す。

その方向を見ると鈴芽のお父さんが立っていた。

そうだ、この時鈴芽のお父さんが様子を見に来てくれたんだった。

手に追加のお菓子を持って。

その様子を見て翼も立ち上がり、鈴芽のお父さんの方へ行く。

ぺこりとお辞儀をしてお菓子を受け取っていた。

私もお礼を言わないと。

立ち上がった瞬間―――


「カノ」


私を呼ぶ声がした。

この段階では聞き覚えのない声に、私は夢の終わりを悟った。



+++



「カノ」


自身を呼ぶ声に反応して、夏乃(かの)はゆっくりと目を開けた。

まず目に入ったのは高い天井。

慣れ親しんだ実家のどこにも見当たらないその天井に、昨日の出来事が夢ではない事を知らされている気分になった。

家の前に描かれていた落書きを踏んだら異世界に飛ばされて、そこの人たちからは期待外れの眼差しを、元の世界の誰かからは非常に疎ましいと思う気持ちを向けられている今のこの状況。


(どっちが夢かわからないな)


次に朝日が差し込んでいる大きい窓が視界に入った。

窓は昨夜、先程の声の主が寄りかかっていた所だ。

今はその人物はそこにはいない。

視線を変えると思いの外、近いところにいた。

夏乃が横になっているベッドの、窓とは逆側に立っている。

昨夜の月明かりと同様、朝の日でもキラキラと輝く瞳の彼がそこにいた。

夏乃の視線が自分をとらえた事を悟った彼は、胸の前で組んでいた両腕のうち右腕をほどき、その手で何かに向かって指を差す。

夏乃が上半身を起こして彼の指差した方を見てみると、綺麗に配膳された二人分と思われる量の食事がテーブルに置かれていた。


(用意してくれているの、全然気が付かなかった……って、ちょっと待って。私寝た時の記憶ない……!)


昨夜の記憶は、この綺麗な瞳を持つ彼―――リーヴェに、元の世界に戻りたいと意志を告げた少し後で終わっていた。

彼が入浴しに行くタイミングで先に寝てろと言われたものの、身体を休める場所の相談をし損ねてしまった。

そのため入浴を終えて出てくるまでソファで待っておこうと思った所で記憶が途絶えている。

どうやらそこで寝落ちしてしまったようだ。

けれどそれだと辻褄が合わない。今夏乃がいるのはこの部屋に一台しかないベッドの上だ。

幼き日に母親が「夏乃は一度寝たらほとんど動かなくて。とっても寝相が良いの」と、母親の友人に話していた姿を覚えている。

それはある程度育った今でも、おそらく変わっていないだろう。

となれば答えは一つだった。

夏乃は勢いよくベッドから出て、リーヴェの前に

立った。

彼がスッと差し出してくれた右手を軽く握って、彼の目を見る。


「おはようございます。あの……もしかしてベッド――――」


「ん……あぁ、風呂から出たらそこで寝てたからベッドに運んだ」


夏乃の想像通りの答えが返ってきた。

予想していたとはいえ、実際に答えを聞いた瞬間に心臓がヒュッと風が通ったように冷えた。


「私がベッド使ったって事は、リーヴェさんは別の……ソファとかで寝たって事ですよね」


夏乃のその問いには返事がなかった。

だがそれは肯定の意だろうと夏乃は取り、更にあわあわと慌て出す。


「すみません!持ち主そっちのけで寝ちゃ、っ……!」


こつん、と、夏乃が触れていない方のリーヴェの手がギュッと握られた状態で、彼女の頭頂部に当てられた。

痛くはなかったが軽い衝撃に驚いて夏乃の言葉が止まる。

その手の主の顔を見ると、不機嫌そうに眉間に皺を寄せていた。


「話し方、『リーヴェさん』」


約う者(ちかうもの)魔の者(まのもの)は対等な関係、それがリーヴェの考えであり、そのように振る舞う約束があった事を、夏乃は今思い出した。

とは言え年上には敬語を使うようにとの習慣が強い日本の文化で12年以上過ごしてきた彼女にとっては、歳上の彼と対等に言葉を交わすというのはなかなか慣れないものだ。


「それにつまらん事で謝るな」


「……えっと、じゃあ改めて。ベッド貸してくれてありがとう、リーヴェ」


夏乃の返事におおむね満足したのか、リーヴェは鼻を鳴らし無言で彼女の頭に置いていた手をどかせた。

そして「飯にするぞ」と言い、昨日喚ぶ者(よぶもの)であり今回の事に今の所最も訳を知る人物―――フェインと三人で話したソファの方に歩みを進めた。

当然夏乃が触れていた彼の右手も遠くに行く。

夏乃がリーヴェと言葉による意思疎通ができるのは身体が触れている間のみ。

フェインとは彼が夏乃の頭部に触れないと不可能であるとの事だ。

よって触れていた右手が離れた今、再び触れないと言葉が届かない状態となった。

夏乃は黙ってリーヴェの後に続く。

そして彼が腰掛けた隣に、少しだけ空間をあけて座った。


(仕方ないんだけど、さすがにまだなんていうか……ムズムズするなぁ)


テーブルを挟んだ向かい側にもソファ席があり、二人しかいない状態では通常向かいに座るのがセオリーだろう。

しかし今の状況的に、向かい合って座ってしまうと咄嗟の意思疎通が困難になり面倒である。

朝食の配膳も明らかに横並びで用意されており、今座ってる所が正解なのは間違いない。

が、感情は別である。

少なくとも夏乃のパーソナルスペースは、この距離だと敏感に反応を示す。

それが昨日会ったばかりの大人の異性となれば特にだ。

しかし当の彼はというと、そんな事は全く気にするそぶりもなく、いつの間にか朝食を食べ始めていた。

夏乃の視線を感じたのか、飲もうと手に取ったスープの入った器をテーブルに戻して彼女の名前を呼ぶ。

夏乃が己の名前に反応してリーヴェの手を取った事を確認したリーヴェは、夏乃が予想もしていなかった事を話し出した。


「心配しなくても毒なんか入っちゃいねぇよ。なんせお前が死ねば俺もあの世行きだからな」


「……え?」


「テメェの命綱捨ててまでお前を消そうとするような度胸のある奴はここにはいねぇ。だからそこは安心しとけ」


リーヴェはそう言い終わると再びスープカップを手に取ろうと、夏乃の手を軽くほどいてそれに手を伸ばした。


「ちょ、ちょっと待って!」


が、ほどかれた手を夏乃はもう一度取り返した。

先程より力が入り、リーヴェの腕が少し夏乃の方に寄る。

さすがに体格の差が大きいため、身体までは傾かなかったが。


「今すごく大事な事サラッと言われた気がするんだけど。私が死んだらリーヴェも死ぬって」


「そうだな」


「どうしてそんな大切な事昨日すぐ教えてくれなかったの!?」


リーヴェは左手でおそらく紅茶の入ったカップを取り、一口ゆっくりと飲んだ。

そして紅茶の香りを存分に味わった後に一言。


「急がなくても良いと判断した。それだけだ」


「それだけ……って、お互いの命に関わる事なのに」


「『お互い』じゃねぇんだよ。……とりあえず先に飯食わせろ」


リーヴェの右手が夏乃の手を振り解こうと動く。

先程振り解かれた時より勢いよく振られたが、咄嗟に夏乃が手に力を込めたため、それは叶わなかった。

「チッ」とリーヴェが舌打ちをして夏乃の目を見る。

その表情はかなり険しいもので、夏乃は内心恐怖を感じたが、それでもここは彼女にとっても譲れない場面だった。

自分が死ねば目の前の彼も命を落とす。

そんなファンタジーな事が起こるとすれば、おそらく転移の際に結ばれた彼との関係によるものだ。

それなら当事者の自分は知る必要がある。

なにより自分の命は自分だけのものなのに、彼を巻き込んでしまう事になるのは心底嫌だ。

が、だからと言って険悪な雰囲気になるのは本意ではない。


「ご飯食べたら全部教えてくださいね。あなたと私が対等だって、本当に思ってるなら」


そう言って夏乃はリーヴェの手を離した。

そして手を合わせて「いただきます」と言い、目の前に用意されている食事を口に運ぶ。

美味しい料理だが、夏乃は申し訳なく思った。

本来なら上等な味がするであろう食事が、味を感じる余裕がない。

とにかく食べて身体に栄養とエネルギーを与える事と、震えてしまう手を抑える事で頭がいっぱいだった。

そんな夏乃の様子を横目で見て、リーヴェは小さく息を吐いて、「……ガキ」と呟いた。




+++



「魔の者が怪我をすれば約う者も同じ所が傷になり、魔の者が命を落とすと約う者も命を落とす。ただし約う者が怪我したり命を落としても、魔の者に影響はない」


「そういう事だ」


朝食を終え、着替えなどの身支度をしてから部屋を出た二人は、それなりに長い廊下を横並びで歩く。

この建物の規模は夏乃には分からないが、いくつもの扉やこの廊下の長さを考えると、個人宅では考えられない大きさだ。

リーヴェの家族の家だと思っていたが、そうではなく何かの拠点だったりするのだろう。

現に今歩いていて何人かすれ違ってはいるが、清掃をしている人や兵士のような格好をしている人など、リーヴェの親族ではなさそうな雰囲気の者ばかりだった。

ただ、先程までいた部屋はリーヴェの服や小物が沢山置かれており、その勝手知ったる使い方は自室のそれだった。

リーヴェの父親がこの辺りの領地の当主と言っていたので、もしかするとここはこの領を守備する隊の拠点兼当主家族の住居だったりするのだろうか。

夏乃はリーヴェと言葉を交わしながら頭の片隅でそのような事を考えていたが、今はこの建物の事よりも重要な事があると思い、その事に関する思考を停止した。

そう、今彼に確認した事柄をもっと細かく知らなくてはならない。

まず一番疑問に思った点を尋ねようと、夏乃は話し出す。


「約う者に何かあっても魔の者に影響しないのはどうしてなんだろう。なんて言うか、不公平じゃない?」


「仕組みは知らんが道理は分かる。約う者は術で魔の者を喚び出し、共に戦う事を強要させるんだ。何の前触れもなく、今まで生きてきた世界を捨てさせてな。それは人生を奪うも同義だ」


その声が何となく悲しげに聞こえて、思わず夏乃は隣を歩くリーヴェの顔を見た。

が、表情に変化はない。

悲しそうに聞こえたのは思い違いかと思い、夏乃は次のリーヴェの言葉を待った。


「だから約う者は、テメェが喚んだ者に対して責任を持つべきだ。文字通り、命をかけてな。そう思う誰かがこの仕組みにしたんだろう」


「他人の人生の、責任……」


命や傷をリンクさせるなんて事は、今までの夏乃の常識外の出来事だ。

フィクションのような事だが、それでも夏乃は一生懸命思考した。

もしそれが元の世界でも一般的な事だったとしても―――


(人生を奪われる。力があるとはいえ戦いを強要される。間違いなく今の私の立場よりつらいよね。でもだからといって他人の命を握るような事は許されるの?)


答えはすぐには出てこなかった。

けれどはっきりわかる事もある。


(私は嫌だな。どんな境遇になったとしても、他人の命を握る立場になるのは)


しかし現状リーヴェの命を握っているも等しい立場になってしまっている事に、溜め息が出そうだった。


「だから、俺は……」


「……リーヴェ?」


不自然な所で会話が止まった。

再度夏乃はリーヴェの顔を、今度は覗き込むように見た。

一瞬目と目が合ったが、リーヴェはすぐにふいと視線を外して「なんでもない」とだけ口にする。


(気になるけど、突っ込める程の関係じゃない……よね)


きっと彼にとって『なんでもない』事はなく、何か思うところがあるのだろう。

そう夏乃は感じ取ってはいたが、それを尋ねる事はしなかった。

おそらくこれ以上は話してくれない内容を追求するより、まだもう一つある疑問の方を聞こうと、夏乃は再び口を開かせる。


「えっと、私が傷を負った時の話なんだけど。リーヴェと私じゃ体格にかなり差があるよね。同じ攻撃を同じ体勢で受けてもダメージに差が出ると思うんだけど」


今の空気感で質問に答えてくれるか不安だったが、それは杞憂に終わった。


「まぁお前の方が全体的に柔いだろうから、俺の身体よりサクッと切れちまうかもな」


「その場合、リーヴェも同じくらいサクッと切れた傷ができちゃうの……?」


「確証はない。が、まぁそうだろう。同じ力で斬られたとしても、直接俺が攻撃を受けるより、お前を介した方が深い傷になるし痛ぇだろうな」


さも当たり前の事を言うように、平然とした態度でリーヴェだったが、夏乃はその言葉を聞いて緊張感を持った。

自分が痛い思いをした際に、自分だけではなく第三者にもその痛みがいってしまうのは何とも申し訳ないと感じたからだ。

例えドアに足の小指をぶつけてしまうような小さい事でも気をつけようと心掛けようと思った。

二人は階段に差し掛かり、ひとつ下の階に降りるためにそこを降り始める。


「だからもし、戦闘になったらお前は―――」


ちょうど階段の踊り場に着き、リーヴェは歩みを止めた。

隣に立つ夏乃の目をジッと見る。

そしておそらく無意識的に、リーヴェは繋がれている手の指に力を少し込めた。

今まで繋いでいるリーヴェの手の指はダラっと下を向いていたので、ギュッと握られたようで夏乃は少し驚く。


「お前は、絶対に俺の側から離れるな」


リーヴェの赤でありオレンジのような輝く瞳に、呆然と彼を見上げる自分の姿が映っているのがよく見える。


「安全な場所に隠れてろ。じゃなくて?」


「あぁ。言い忘れていたんだが、魔の者は約う者の側から離れられないそうだ」


もはや夏乃は大きなリアクションを取ることもしなかった。

昨日から続く非日常的な出来事、今朝初めて聞いたリンクする二人の命の話。

もうお腹いっぱいで、普通なら驚くような話でも反応が鈍ってきていた。

夏乃は一息ついてから言葉を口から出す。


「……もしかして、離れすぎたら魔の者が死んじゃうとか?」


「ふん、随分察しがいいじゃねぇか」


珍しくリーヴェが少しだけ機嫌良さそうに答えた。

説明が省けて良かった、とでも思っているのだろうか。

イコール自分の命も落とす事になるはずなのに、とか、昨日勝手に部屋から出てたらどうなっていたのだろうとか、夏乃は思うところがいくつかあった。

が、リーヴェが何か語ろうとしているのを察知して、一旦それら全てを飲み込んだ。


「昨日、ここに置いてやる条件で『対等に接しろ』と言った事を覚えているか?」


覚えているもなにも、今朝も言っていたではないか。と思いながら、夏乃はこくんと頷いた。


「もう一つ追加させろ。『無茶はするな』。何かあれば必ず俺が守る」


リーヴェはそう言い終わると夏乃の手を軽く引いて、再び歩み出した。

夏乃も続けて歩みを再開させたのを確認すると、彼は繋いでいる手の指を脱力させた。

再び夏乃だけが指に力を入れて、リーヴェの手を離さまいとしている状態となる。


(……びっくりした。そんな場合じゃ、全然ないのに)


夏乃は空いている手をそっと自身の心臓の前に置いた。

いつもより早く脈打っている気がする。

『守る』という言葉に引っ張られて、彼に特別な意識を向けてしまいそうだった。

落ち着け、と自分に言い聞かせて、リーヴェに気付かれないように大きく深呼吸をする。


(こんな事でドキッとしちゃ駄目だ。リーヴェは自分の命を守ろうとして言っただけだ)


何度も何度も心にそう言い聞かせているうちに、少なからずときめいた心は落ち着きを取り戻していく。

むしろ真剣な場面なのにと申し訳なく思ってきていた。


「一先ず、俺が知っている事はさっきので終いだ。あとは奴に聞くんだな」


そう言いながらリーヴェは一つの扉の前で止まった。

そうこう考えている間に、どうやら目的の場所に到着したようだ。

彼は左手で扉をノックしながら声を上げる。


「フェイン。俺だ」


奥から足音が近付いてくるのが聞こえた。

重量のある扉が開かれ、中から黒髪の青年が顔を出す。

魔の者を約う者に引き合わせる喚ぶ者―――クリス・フェインだ。

フェインは一言リーヴェに声をかけたと思ったら、夏乃を一瞥して彼女の頭にゆっくりと自身の手を寄せた。


「おはようございます。よく眠れましたか?」


ふわりと添えられた手のおかげで、フェインの言葉が理解できるようになった。

やはり便利なのか不便なのか分からない力だなと夏乃は思う。


「おはようございます。リーヴェのおかげで十分休めました」


「おや、一日で随分彼と仲良くなったようですね。もしや元の世界に戻る事は諦め、こちらに留まる事にしたのでしょうか」


昨日と変わらず、フェインの物腰は柔らかい。

しかし刺すような冷たい視線が、夏乃に恐怖心を植え付ける。

夏乃はリーヴェの手を繋いでいる方ではない手を、ギュッと握った。


(大丈夫……昨日の反応からして今から話す内容は、フェインさんが不満に思うものではないはず)


夏乃は少し緊張気味に声を出す。


「いいえ、元の世界に帰ります。だから教えてください。どうすれば、帰れますか?」


夏乃の言葉を聞いたフェインはにこりと笑みを浮かべ、夏乃の頭部に触れている手を動かし、撫でるような動作をする。

まさか撫でられると思ってもいなかった夏乃は少し驚いて、顔を上げた。

思っていたよりずっと近くにフェインの顔があり、そこでももう一度驚く。

ここで初めて夏乃は、彼が浅瀬のような青緑色の瞳をしている事に気がついた。


「あなたが賢い子で良かったです。もちろんお教えしますよ。……ただその前に」


フェインはちらりと部屋の中に目を向ける。

すると先程と同じように、足音が聞こえてきた。

どうやらこの部屋にはフェインの他にもう一人いたようだ。

既に扉は開かれているため、その足音の人物は容易に特定できた。

夏乃とリーヴェが同時に息を呑む。


「リーヴェ。お父上があなたにお話があるようですよ」


リーヴェの父親であり、この土地の当主、アルベリク・ヨルダがリーヴェの前に歩み寄ってきた。


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