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猫と僕と知らない世界  作者: シマタロウ
第一部2章:猫と魔術師のお仕事

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4-4:焼け焦げた意識の底で 少し状況を教えてくれないか

 赤松さんが入院して3日目の夜、携帯に連絡が入った。「お前が連れてきた患者が襲われている」と。


 誰にも気付かれていなかったはずなのに

 自分が今更行っても出来る事は

 なんでこんなに早く

 やはり一か所に留まっていたのが


 色々な思いが頭をよぎる。だが、頭の中はグチャグチャでも体は動く。車に出来る限りの荷物を積み込み、俺は病院に向かった。

 まだ赤松さんが生きていてくれるなら、もし、まだあの病室で抵抗をしてくれているなら・・・その時は自分も出来る限りの事をしよう。そう覚悟を決めた。


 だが到着した俺が目にしたのは予想外の光景だった。グチャグチャに荒れた病室。赤松さんの上に圧し掛かっている首の無い獣のようなものの残骸。

 マジかよ。あの状態から意識を取り戻して、しかも勝ったのかよ。・・・すげぇな、この人。マジですげぇよ!


 にしても、この病室の荒れっぷり。個室にしてなかったら死人が出てたな。いやホント良かったよ。ちょっと費用は嵩んだけど、それだけで済んで。


「流石、赤松さんっすね。一体どうやって追手を撃退したんっすか?って、その前にこの白いの一体なになんっす?」


 そう言いながら、赤松さんの上に乗っていた白い獣のような物?・・・なんだがガラス質みたいな妙な感触、しかも、やけに重い、それを気合でなんとか横に除けた。


 そこで、やっと気が付いた。室内が暗いせいで気が付くのが遅れた。


 血だ。

 血だまりが出来ていた。


 赤松さんは右腕を中心にあちこちから出血していた。鋭利な刃物で何度も滅多刺しにされたような酷い傷だ。

 止血を・・・止血をしないと!意識も無い。魔力も感じない。急がないと。


「誰か手伝って!」


 そう呼びかけたが動きが無い。誰も来てくれない。それもそうか。みんな怖いよな。

 床に転がっていたタオルを拾い、一番傷が大きな肩を左手で圧迫する。圧迫を続けながらも右手で腰に付けているポーチを探る。

 時間稼ぎのための止血も必要だが、全身火傷に加え、深い裂傷・・・真面に治療して生き残れる状態とは思えない。となると必要なのは魔術による急速回復だが、残念な事に俺はそんな高度な術式を使う事は出来ない。だから、赤松さんに意識を取り戻して貰う事と魔力の充填を行う事が必要不可欠だ。


 ポーチから取り出したのは、お手製の魔力回復薬。あんまり大きな声では言えない成分を濃縮した特製の品。『もしかしたら使用するかも』そう考えてバイアル(ガラスの小瓶)に密封して持って来ていた。これを静脈から入れれば魔力の回復を促せる。もちろん、体への負担を考えると、多用出来る薬では無いのだけど、ましてや今の赤松さんの状態では・・・


「お手伝いします」


 看護婦さんが止血を代わってくれた。ありがたい。恐ろしいだろうに見知らぬ誰かを助けようと頑張ってくれるんだ。

 うん。迷うのはやめよう。

 俺がやるしかないのだから。俺にしか出来ないことがあるのだから。


 魔力回復薬を入れたバイアルに注射器を刺し中身を吸い出す。見た目は透明で普通の薬品にしか見えない。が、実際は劇薬もいいところ。今回の物は度を越えて高濃縮された物なので魔術回路どころか、体への負担も大きい。オーバーフローを起こしたりしたら、破損した回路に魔力を送り込み過ぎたら・・・不安はあるが、比較的無事な左手の静脈に、そっと薬品を注入する。

 ・・・特に変化は見られない。


 もう一回だ。

 一回目と同量を吸い上げ、再度注入する。

 今回はすぐに反応があった。微かな魔力の流れが感じられる。なんとか成功したようだ。とても不安定で弱いものだけど、それでも、確かに魔力の流れが回復した。後は意識を戻すだけなのだけど・・・


「赤松さん!怪我が酷くて出血が止まりません!治せますか!」


 赤松さんの耳元で大きな声で呼びかける。止血をしてくれている看護婦さんが「こいつ狂ってんのか?」みたいな顔をしているが緊急事態なのでスルーさせてもらう。

 弱くても魔力を循環させている時点で意識はあるはず。それと魔術が使えるかどうかは別問題なのだけど、でも、赤松さんの丈夫さなら、きっと。


 薄っすらと目を開けながら赤松さんが何かを呟き出した。ちゃんと声になっていないようで聞き取れないし、魔術が発動する様子も見られない。

 魔力不足か?もう一本注射した方が・・・不安に苛まれていると赤松さんの全身から薄っすらと緑の光が湧き出てきた。良かった。小さな魔術だけど、とりあえず一安心。こうなってしまえば後は時間が解決してくれるはず。

 にしても死にかけでも魔術をちゃんと使えるって、やっぱ戦闘に魔術を使う人種って凄いわ。マジで人間辞めてるわ。


 それはそれとして、よく考えたら今ってメッチャ普通の人に目撃されてるよな。止血を手伝ってくれてた看護婦さんなんて何とも言えない顔をしてるし。部屋の入り口から、こっち見てる患者さんもいるし。とりあえず君達は危ないからお部屋にお帰り。さぁ、どうやってごまかそう。

 まぁ、そんなの無理っすけどね。ここからごまかすのはどう考えても無理ゲー。つまり、力づくで押し切るしかない。


「申し訳ありませんが、あなた方のためにも、いま起こった事を説明する事が出来ません。他の人にも話す事は無いようにして下さい。他言無用です。いいですね?」


 出来る限り真剣な顔で、凄く重大そうな感じに語ってみた。俺の見た目って、まぁ、ぶっちゃけチャラいからね。こういうのはあんまり成功した試しは無いのだけど、でも、なんとか今だけは信じて欲しいところ。

 そんな俺の内心とは裏腹に看護婦さんは必死そうな顔で何度も頷いてくれた。ついでに野次馬の患者さん達も部屋に追い払ってくれた。やったぜ!なんだか分からないけど作戦成功!(勝因は今も転がったままの白い獣?の死骸かな?)


 と思って浮かれてたら、その少し後に真剣な顔をしたお医者さんに「すまないが」からの説得をされて出ていく事になりました。

 うん、そりゃそうよね。こんだけ大暴れして謎の発光現象まで起こしてたら、そりゃ普通に考えたら追い出されるよね。


 ちなみに、追い出されたとはいえ、赤松さんを車に運ぶのは手伝ってくれたし、包帯とか医療品も分けてくれたし、とてもとても有難かった。とりあえず、せめてものお礼としてお金をだいぶ多めに渡そうとしたが、それは拒否された。医者として死にかけの患者を放り出す事に抵抗があったのだろうか?マジで申し訳ないっす。

 ので、せめて何かあった時に頼る先として、協会の極東支部の住所と代表連絡先を教えておいた。もし彼らがトラブルに巻き込まれるような事があった時は、きっと助けになってくれるだろう・・・たぶん。


 そして俺たちは病院を後にした。朝日が眩しかった。正直、疲労で吐き気がする・・・俺、インドアの人なんっすよ、体力無いんっすよ。


 行きと同じように後部座席に赤松さんを寝かせ、高速道路を走る。今回はマジで当てのない旅路って感じ。休憩もしたいし、御飯も食べたい。どっか適当なサービスエリアにでも入ろう。というか寝たい。もう限界。居眠り運転で死にそう。赤松さんと話でも出来たら違うんだろうけど、そんなのまだまだ無理だろうし。


 睡魔と戦いながらのドライブを30分ほど楽しんで、やっとこさ休憩ポイントに到着。目を揉み解しながら赤松さんの様子を確認しようと振り返ると、目が合った。


 赤松さんは、いつの間にか起きて胡坐をかいていた。疲れ果てたような何も考えが読めないような、そんな平坦な顔をしていた。


「すまない。少し状況を教えてくれないか」


 第一声がそれっすか・・・・・マジ元気っすね。というかキャラ違うくないっすか?

 


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