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猫と僕と知らない世界  作者: シマタロウ
第一部1章:猫と見習い

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6-4:猫と魔術師 なんなんだよ、あの人

 俺は目の前の光景を理解する事が出来なかった。


 竜牙兵の群れはこちらの全ての備えを破壊した。結界は砕かれ、念のためにと用意していた罠も踏み破かれ、強化魔術が使える武闘派も少しの時間稼ぎしか出来ずに打ち崩された。

 あとはもう死を待つだけの状態だった。救援が来る頃には全て終わっている、そう覚悟していた。


 そして今、恐怖の具現そのものだった竜牙兵は、まるで骨細工のおもちゃのように蹴散らされている。

 救援に来るとしたら依城さんかと思っていた。でも現れたのは赤松さん一人だけ。後方に差し向けられた戦力程度、彼だけでも十分に対処出来る、そんな判断だったのだろう。その判断が正しかった事は目の前の光景が証明している。


 ついさっきまでは「頭に猫をのせた変な人」という印象だったのに。・・・今はもう正直自分と同じ種類の生き物とは思えない。次に話をする時に普通に対応出来るか、その自信が無い。それほどまでに隔絶した何かを赤松さんから感じてしまう。


 今ここで行われている事は、そう思わせるだけの説得力を十分に持っていた。自分たちとは違う世界の住人が現れて、現実を引っ繰り返していく。目の前で繰り広げられているのはそんな光景だ。

 竜牙兵が次々に破壊されていく。まるで予め決まった動きを淡々とこなしているかのように。


 頭を殴って壊す。

 背中をへし折って壊す。

 槍のような物を投げて壊す。

 蹴り倒して頭を踏みつぶして壊す。

 計算された殺陣のように粛々とその数を減らしていく。


 竜牙兵は対人用の使い魔としては十分過ぎる程の凶悪さを持っている・・・はずだ。現に俺たち後方部隊は為す術も無く全滅するところだった。非戦闘員だけなく、簡易とはいえ霊装で武装し強化魔術さえ使用していた者もいたというのに。


 たとえ戦闘用の魔術を納めている魔術師といえど、あんな一方的に蹂躙出来るような相手ではないはずなのだ。


 それなのに赤松さんが現れた途端に俺たちは気楽な観客に早変わりだ。あまりに規格外すぎる。


 ・・・目の前の危険が消え去ったからだろうか、それとも単に目の前で振るわれる強力過ぎる暴力にあてられたのだろうか。ふと思考が違う方向に流れてしまう。

 今は一方的な蹂躙劇を眺めているだけだが「もし赤松さんが俺たちを襲撃している側だったら」、そんな考えが頭に浮かんできてしまう。彼が自分たちの味方に立ってくれているのは『たまたま依城さんが見つけたから』なのではないか、そう思ってしまった。もし人の好さそうな赤松さんが『協会に迫害されている魔術師』に先に声をかけられていたら。そうしたら一方的に蹂躙されていたのは、竜牙兵ではなく俺達だったのかも知れない。目の前の光景を眺めていると、何故かそんな思いが浮かび上がってきてしまう。


 俺たち魔術師は人間社会の異端。自らの目標のために異端の道を選んだ「人間社会のイレギュラー」。その中でも「自分の身体を弄り直接戦闘行為に勤しむ魔術師」は・・・端的に言えば異常。魔術は手段であり目的のために使っているだけのはずなのに、彼らはまるで戦う事自体が目的のようで。


 赤松さんもそんな魔術師達と同じなのだろうか?あの人の、赤松さんの行動原理が読めない。

 なぜ彼は、あそこまでの力を身に付ける必要があったのか?そんな事を思いながら、ぼんやりと蹂躙劇を眺めていると


 赤松さんの動きがいきなり止まった。


 次の瞬間、轟音とともに細く長い物が赤松さんの方に向かって飛んでいくのが一瞬見えた。そして響き渡る衝突音と巻き起こる粉塵。投げられた物に爆破の術式でも仕込んであったのか着弾地点の土やらコンクリートやらが派手に巻き上がっている。


「赤松さんっ!!」


 思わず叫び呼びかけた。

 早く治療を、そう思って誰かを呼ぼうとしたが


 その時、粉塵の中から外へと棒のような何かが投擲された。


 それは爆発するような事も無く、もちろん着弾の音さえ聞こえてくる事も無かったが、それだけで対応は済んだようだ。理解出来ない事に、その静かな一投で敵の反撃は封じられたようだ。


 正直、状況は分からない。分からないが、きっと竜牙兵や敵対する魔術師側の反撃は尽く失敗に終わっているのだろう。

 そして、晴れた粉塵の方を見やると赤松さんの姿は既に無く、次の骨細工の破壊に取り組んでいるところだった。


 それから数分して呆気なく、本当に呆気なく、竜牙兵の掃討は完了した。

 20体以上はいたはずの竜牙兵がたった一人の魔術師に一方的に壊滅させられていた。マジで冗談キツイ。なんなんだよ、あの人。


「大丈夫ですかぁ・・・あぁ、派手にやられてますねぇ。すみませーん、こっちの人を見てもらえますかぁ?」


 本人は自分が大それた事をしたとは思っていないのか、一緒にドーナツを食べていた時と同じような軽いノリで救助活動を行っている。


「おっ、柏木さんはケガも無さそうですな。良かった良かった。さっきの人はかなりやられてたからねぇ。魔術で治るといいんだけど」


 いつの間にか赤松さんが俺のところにまで来ていた。音も無く不意打ちで来るのはやめて欲しい。正直、味方と分かっていても少し怖い。


「あっちの人はもうダメっぽいし、竜牙兵ってマジで普通の人にとってはヤバいんだね。依城さんだけ見てたら感覚狂っちゃうよ。無双ゲーの案山子みたいなイメージしか無かったもん。

 じゃあ、僕はそろそろ工房の方に行くんで後はよろしく。もう周りには何の反応もないし大丈夫だとは思うけど、もし何かあったら連絡ちょうだいね。じゃ!」


 そう言うなり赤松さんは意味の分からない加速でもって山を下って行った。

 そして、彼の言う通り、立ち向かった人員の中から2名重傷者が出ていた。命が助かるかどうかも怪しいレベルの大怪我だ。

 それも赤松さんにとっては些細な事だったのだろうが・・・助けてもらって何だが俺は赤松さんの事がうまく理解出来なかった。


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