6-5:猫と魔術師 楽しいダンジョンアタック
行きと同じように帰りも全力で山を駆け下りフェンスを飛び越え工場街を走り抜ける。
依城さんが僕の助けを必要とする事態はあまり無さそうな・・・いやはっきり言えば全然そんなの想像さえ出来ないけど、とはいえ「全て解決してから追い付きました」なんて事になったら激しくやるせないので、急いだ方がきっと無難。
にしても、今の僕達の強化魔術なら前より強くなれるとは思っていたけど、正直想像以上だった。クロ的な言い方をすれば『一回目の変身(別に変身はしてないけど)』ぐらいの強度は出ていたと思うのだけど・・・何の負荷も感じずに自然に動けた、いや動き続ける事が出来た。竜牙兵ぐらいなら「いくら来ても余裕」って感じ。自分の事とはいえ、あまりの一足飛びの進歩過ぎて気味が悪い。
まぁ、そこまで成長しても依城さんがお仕事のパートナーである以上、どうしてもパッとしない感じが・・・比べたらダメなのかも知れないけど。
そんな風に詮無いことを考えているうちに目的の工場、というか工房まで後少し。まだ依城さんの大暴れは開始されていないようで火の手が上がったりはしておらず、ほっと一安心。
そのまま特にトラブルも迎撃も無く走り続け目的の工房前までたどり着く。やはりというか何というか敷地入口の門は、派手に切り裂かれ原型をとどめていなかった。
『なんで壊したのかしらね?』
電話でしゃべるような微妙な距離感でクロの声がした。頭の中だけで響く愛猫の声、不思議な感じ。
「依城さんの考える事はいまいち分からないけど、それはそれとしてクロって、この状態でもしゃべれたんだ?」
『ええ、なんかやってみたら出来たみたい。でもこれマスターにしか聞こえないわね、たぶん』
「いいんでないの。この状態で他の人と話す事もあまりないだろうし。というか、これ傍から見たら完全に独り言よね?」
『今更そんなの気にしても・・・さっきも人間を辞めた感じで大暴れしてきたばっかりじゃない。結構みんなドン引きしてたわよ?』
「うっそ!マジで?あそこってピンチから助けてくれてありがとう!感動した!!みたいな場面じゃなかったの?!」
『・・・マスターには、そういうのはちょっと早かったみたいね』
「マジかー、勘違いしてたわー」
いつも通りにクロと無駄話をしながらフラフラと敷地の中を歩く。そこそこ大きい敷地だけど事前調査の時点で目星は付いている。もちろん、毎度おなじみドローンで撮った写真も見せてもらっている。
目標は敷地の端っこの四階建ての大きなビル。各階にそれぞれ違った種類の製造ラインを構えていた立派なビルだ。今は中で何を創ってるか分からないけど。あれかな、メインの生産品はやっぱり竜牙兵だったりするのかしら?というか、アレどうやって作るんだろう?培養?組み立て??召喚???さんざん壊した後でなんだけど不思議よね。今度、依城先生に聞いてみよう!
そして、目標ビルの入り口に到着。正面入り口はエントランスとして大きな自動ドアがあったはずだけど・・・またもや切り裂かれて完膚なきまでに破壊されていた。なぜ毎度毎度壊すのか。
『シャッターが閉まってたから壊したみたいね』
クロが回答をくれたけど迂回路を捜すとかそういう発想が欲しいね。とりあえず壊しちゃうのはやめよう?で、それはそれとして、依城さんの破壊の後をノコノコ付いていくだけってのも
「ねぇ、クロや。このまま依城さんの後を辿って行っても破壊現場の見学ツアーにしかならないからさ、僕達は違うコースで行ってみない?後衛の人達がやろうとしてたのも失敗しちゃったし援護になりそうな事をしてみたいのだけど」
思い付きを口にした。心なしか前回も同じような発想で依城さんと別行動して死にかけたような気がしないでも無いけど、まぁ、だいぶ強くなったし大丈夫でしょう!!(慢心)
『それもそうねぇ。相手さんは一階から侵入してくるナギを迎撃してるだろうし、上から行ったら良い感じかもしれないわね。あれよ、挟撃って奴よ、挟撃。響きがカッコいいわよね』
「いいね、いいねー。そういやビルの中の様子ってクロの魔術で見えない?」
『・・・ふむ、何も見えないわね。結界的なのが用意してあるんじゃない?本拠地なわけだし。見えないものは仕方ないし、とりあえず屋上から入って降りて行ってみましょうよ?』
「あいさー」
僕とクロはお気軽なノリで探索を開始した。そうよね。馬鹿正直にダンジョンアタックみたいな事をする必要はないよね。
だけど残念ながら外階段も非常階段も丁寧に崩されていた。そりゃそうか。そんな分かりやすい侵入経路を放置してるわけはないね。
しかし、そんなもの今の我々にとっては何の問題でも無いのだ!そんなわけで崩れた階段跡を足場にぴょんぴょん飛んでビルの屋上へ。はい、到着。簡単でしたね。
「あれだね。自分でやっといてなんだけど、普通飛べそうでも飛ばないよね?」
『大丈夫よ、マスター。そもそも普通は飛べないんだから』
凄いよね魔術。普通にやってる事が人外。
到着した屋上には何も置かれておらず、見張りもおらず、見事に何も無かった。強いて言えば取り残された業務用エアコンの室外機っぽいのがあるぐらい。
のんびりするのも何だし、とりあえず下の階に降りますか。そう考え階段室っぽいところの扉を開けようとしたが・・・
「痛たぁ!」
なんか激しめの静電気みたいなのを食らった。不意打ちだからめっさ痛い。
『あちゃあ、結界が張ってあったみたいね。そういや一階の入口も滅多切りされてたもんね。マスターも壊してみたらいいんじゃない』
なるほど。依城さんが門とか扉をぶっ壊してたのはこれが理由か。なんかムカついからやったのかと思ってた。にしても結界を壊すってどうやるんだろ?とりあえず魔力込めて殴ったらいいのかな?竜牙兵が壊せるんだから結界もいけるでしょ?
「てりゃ」
まずは手始めに軽く殴ってみた。
パリンと風鈴を地面に投げ捨てたような音が鳴り、階段室の周りに微かにあった魔力の気配が霧散した。
『あれね、結構しょぼい結界だったわね』
「屋上から誰か入ってくるとか考えてなかったんだろうね・・・とりあえず進もうか。では、おじゃまします」
僕達は無事?工房への侵入を果たした。というか、元が工場とは言え大型のビルなので、普通に不法侵入してる感じ。
中は当然のように明かりも無く真っ暗だが、魔力で強化された目はわずかな光を問題無く掴かみ取り視界に全く問題はない。
階段を下りた先の4階部分は・・・・ここも屋上と同じく何も無くガラリとした広い空間が広がっているばかり。きっと昔はここで色々な物が作られていたのだろう・・・いや、何の会社だったかの確認すらしてないから実際のところは分からないけど。取り残された配線とかが転がってるし機械系かな?家電とかかな?
とりあえずプラプラとフロアをうろつく。
『なんか端っこに魔力の残滓があるわね?』
クロが何か見つけたようだ。あっちあっちと誘導するクロに従って壁際まで小走りで移動する。
ホントだ。確かになんか白いのが地面に転がってる。なんだろ?そう思ってのぞき込んだ途端
指先程の白い何かが爆発的に膨れ上がり、人のような形を
「うわっ!!」
びっくりして思わず顔面パンチ。
白い何かは衝撃で壁にぶつかりバラバラになった。
『びっくりしたわねー。なんだったのかしらコレ??』
「・・・よく見たら竜牙兵じゃない?上半身が砕けちゃったからよく分からないけど」
『あー、なるほどー。さっきの白いのって牙だわ。竜の牙』
「へ?竜って実在するの?」
『さぁ、分かんないわねぇ。竜牙兵がいるぐらいだから竜もいるんじゃない?』
「へぇー、それは一回見てみたいなぁ。魔術の世界に入ったものの結局いまだにファンタジーっぽい物って一回も見てないし」
たぶん罠にかかったんだろうけど、竜牙兵程度なら馬鹿話をやめる切っ掛けにもなりゃしない。なんてお気軽なダンジョンアタック。
というか、よく考えると僕とクロの組み合わせだと罠があっても絶対に避けられない予感。柏木さんも一
緒に来た方が良かったかな?死ぬ気で拒否されるだろうけど。
『じゃあ、他には何も無さそうだし、下に行きましょうか。探査の魔術も全然通らないし、何があるかは行ってみてのお楽しみって感じね』
クロもすっかりお気軽モード。何も見つからないし、罠があっても出てくるのは骨だけだし。実に気楽。というか、ここの魔術師って幽霊と骨しか使えないのかな?量はたくさんあっても何の役にも立ってないよ?もうちょっと魔術っぽい要素を増やした方がいいんじゃないかな?もちろん、僕がやってる事よりかは魔術師っぽいとは思うけどさ。僕なんて、さっきから殴ってるだけだし。
「はい、じゃあ結界やぶりまーす。てや!」
屋上と同じように軽いパンチで階段に張られた結界を破壊。さっきよりも激しく割れる音が響いた、今回は皿を地面に叩きつけたような感じ。
そして結界が割れると同時、階下から久しぶりの幽霊が複数上がってきた。だけど、まぁ、今となっては・・・幽霊は骨よりだいぶ弱い。というか、軽いパンチでサクサク消えるので戦闘というより最早掃除って感じ。
加速してすれ違いがてらに頭をコツン、後ろから背中の真ん中をコツン。そんな感じでサクサク数を減らしていき、1分もしないうちに幽霊さんは全てお亡くなりになった。大掃除の時にちょいちょい出てくる蜘蛛を退治するより気楽な作業。
なんだろうね。全部の戦力を前の偽工房と後方への派遣で使っちゃったって感じなのかな?テロを起こしてまで確保した大量の魔力は一体どこにやったのやら。
「なんか拍子抜けだけど降りようか」
『そうね。3階には何かあったらいいわね。このままナギと合流したらそれはそれで面白いけど』
「いやいや、それだとまた騙されたって事じゃねぇの?」
軽口を叩きながら階段を降りる。次の階はぼんやりと明るいようだ。薄緑っぽい光が階段の踊り場まで零れている。
今までと違う様子に少しだけ緊張する。何があっても反応出来るように気を引き締めながら3階のフロアをのぞき込む。
あまり物が無いのは4階と同じだけど、部屋の真ん中あたりに緑に光る大きな箱が置いてあった。その周りにも何かゴチャゴチャと色々なサイズの箱が置いてあり、各々が配線のような物で繋がれている。小さな箱の中にはチラホラと薄く緑に光っている物もあるけど、ほとんどは光るわけでもなく、ただそこに置いてあるだけのようだ。
なんだろう。なんだか少し気味が悪い。ただ光っているだけなのに何故か不快感が湧き出てくる。
遠目に見ていても仕方ないので警戒しながら近づいていく。そして、ふと気が付いた。
「これ石棺だ」
そこにあったのは無数の棺だった。




