2-2:猫と知らない人 説明は猫に任せた。
今日は土下座記念日。
僕とクロが壊した監視用使い魔である鬼火の貴重さを聞いて、精一杯の謝罪を伝える必要があると思ったから。適切かどうかは分からないけど、これしか思いつかなかったし。
あの鬼火ってね、20年ぐらい前の達人が遺した作品でもう作れる人がいないんだって。圧倒的な自立活動能力を備えた超高級な使い魔なんだって。作成されてから、ずっとあの海岸であちこちを監視してたんだって、僕達が壊すあの日まで。
それを手軽な燃料タンク扱いして全損させたというわけで・・・・申し訳ない。実に申し訳ない。
そんなに大事な物とは知らなかったんだ。責任は取らないといけないけど、弁償は無理だし、代わりの物を作るのも当然無理。
詰んだ。わりとマジで詰んだ。
体で払う?肉体労働なら強化魔術のおかげで凄く得意よ?誰かに見られる職場はダメだけど。
そんな現実逃避気味な事をつらつら考えている僕に依城さんがため息交じりに告げた。
「顔を上げて下さい。あのレイスの存在は、私達も協会内部でしか共有出来ていませんでしたし、事故の起こる可能性がある事も分かっていました。ですので、この事で赤松さんに個人的な負担をして頂く事は考えていません。安心して下さい。・・・気に病んでらっしゃるの、そこでしょう?」
うん。その通り。ぶっちゃけ超ホッとした。依城さん超良い人。表情がなんか怖いけど。というか初対面なのに僕の内心って読まれ過ぎ。
とりあえず、依城さんの気が変わる前に土下座を終了して、そそくさと座りなおす。
「それはそれとしまして、問題なのは、あのレイスを単独で痕跡すら残さず破壊できるような魔術師が管理もされず在野で活動している事です。しかも、本人に魔術は秘匿しなければならないという意識が欠片もない状態で。
知ってます?あなたの強化魔術の訓練や海岸でのひと暴れ、SNSで晒されてますよ?しかも、ちょっとした怪談扱いされてましたし」
おぉ、怒ってるわー、って、そら怒るわなー。てか、ネットで晒されてるのかー、スマホではゲームしかしないから気付かなかった。あれか、そのせいで家にまで乗り込まれてんのか。怖いな現代社会。
「まぁ、反省してるようですし、それは別に良しとしましょう。とりあえず経緯を説明してくれますか?」
「使い魔破壊事件の経緯?」
「それもありますけど、あなたのような強力な魔術師がプラプラしてる理由もです」
強力だってさ。おだてられても労働力ぐらいしか出せないぜ!
とは言え、どう伝えたもんかな?自分でもいまいち事情が分かってないところもあるんだけど。
「マスターだと詳しく説明出来ないから、わたしから説明させてもらって良いかしら?」
我が家の頭脳労働担当のクロが説明を名乗り出た。
確かに何も分かってない僕から説明するのは無理よね。クロが正しい・・・・猫に代弁させる成人男性の絵面がかなりキツイけど。
「へぇ、凄いですね。こんな明確に会話が出来る使い魔なんて。一体どうやって作ったんですか?かなり高度なものだと思いますけど」
依城さんがちょっと驚いた顔をしていた。そういや、高級品なのにレイスさんは話が出来るどころか意思すら怪しそうな感じでしたね?ひょっとしてクロって凄く高スペックな感じ?
「いや、この子は拾った時から普通にしゃべってたよ。使い魔って、こんなものだとばかり」
「は?拾った?使い魔を??そう言えば、さっきもそんな事を言ってましたけど、使い魔って普通は落ちてませんよ?」
おっと会話が事故だ。でも、こっちは魔術師の常識なんか分からないから気の利いた返答なんて出来ないんだぜ。もちろん、普通の会話でも気を利かす事なんて出来ないけどな!
「ほらほら、マスターは魔術の事なんて分からないし、あなたはマスターの事を知らないんだから、もっと互いに丁寧に話さないとダメじゃないの。
そうね・・・わたしから事の起こりとか今の状況の説明をしておくから、マスターは朝ごはんの片付けして、お茶でも入れて来てくれないかしら?」
飼い猫に厄介払いされた!・・・大丈夫、悲しくなんかないよ?うちの猫は賢くて凄くて嬉しいなぁ。
「・・・そうでした。お茶の一つも出さず申し訳ない。ちょっと用意してきますので、その間クロに話を聞いておいてもらえますか?」
「ええっ?!いや、そりゃ、別にいいですけど」
困惑した依城さんの視線がクロと僕の間を行ったり来たり。うん、そりゃそうだ。マジで猫に話をさせるとは思わないよね。
だが、マジだ。僕は頼りにならんからな!
というわけで、ちゃぶ台の上を片付けて、そそくさと台所に引っ込む。どっかに紅茶があったような、無かったような、そんな事を考えながら洗い物をしていく。
たっぷり十分程度をかけて洗い物とお茶の用意を終えた。扉一枚隔てたところの話が一段落するのを待っていたわけではない。本当だよ?
「お待たせしました。日本茶とお茶請けのキットカットです。有り物で申し訳ないですが」
紅茶は無かった。お茶請けも無かった。仕方あるまい。来客なんて当家にはないのだ。
「ありがとうございます。クロちゃんから話は聞きました。正直、いまいち分からないところもあるんですけど、色々と大変でしたね。というか、よく無事でしたね」
クロがうまく説明してくれたようだ。依城さんから攻撃色が消えて、ちょっと同情的な雰囲気さえ漂っている。ありがとう、クロ。君は凄い猫だな。
「それにしても、ゼロから魔術を初めて3週間で強化魔術を使いこなしてるとか凄いですよ。普通は素人がイキってそんな事したら事故って神経ズタズタですもの」
「マジっすか?!」
そんな危ないもん使ってたんかい!なんで普及しないのかと思ってたけど、そりゃ無理よ!知らない内に命がけとか酷いじゃん?!
クロは顔を背け、ちょっと気まずそう。そして、そっぽ向いたまま言い訳を始めた。
「ほら、初めて使った時はレイスの前で命がけだったし?あれしか出来る事も無かったから仕方がなかったかなって」
「・・・なるほど。せやね。無事だったし別にいいよ」
よく考えたら、あの時はああするしか無かったし仕方ない。結果良ければ全て良し!その後の訓練はもうちょっとマイルドにやっても良かったかも知れないけど。
「いやいや軽くないですか?!それだけで納得するとかなくないです?!・・・というか、何も知らないで使ってたんですね」
あきれ顔、いやむしろ疲れた感じ?たぶん、僕とクロがかなりアレな事を言ってるんでしょうな?よく分からないけど。
「でも、ほら実際に使う前にはクロが使い方とか?の記憶一式を流し込んでくれたから、そんなに問題は無かったよ?最初はちょっとコントロールを失敗して飛び回ったりはしたけど」
取り急ぎクロのフォローに回る。フォローになってるかどうかは分からないけど。
「・・・私は専門外ではありますが、人の記憶を扱う術式もあると聞いた事はあります。それのおかげでなんとか強化術式を発動しレイスを吸収出来たと」
依城さんが頭の中を整理しながらぶつぶつと呟いている。どこに引っかかるとこがあるのか見当もつかないので、黙ったまま、とりあえずクロを見てみると
朝のカニカマの残りを食べていた。
あれよね、凄く賢いけど、やっぱこの子、根本的に猫よね。超絶マイペース。可愛いけど、何もかもを猫に任せようってのもヤバイかもね?
依城さんは、まだどこか納得のいかない顔をしている。僕と猫をつついたところで、特に何も出てこないと思うよ。
「だいたいの状況と事情は分かりましたが、何個か納得のいかない点があります。・・・私の勘違いでしたらごめんなさい。まだ言っていない事があるんじゃないですか?」
少し困ったような顔をしながら、そう質問されたが、隠すような事も誤魔化すような事も
「ええ、あるわ」
「あんのかよ?!」
即答したクロに思わず突っ込んでしまった。
これ会話の流れをクロに任せたの失敗だったのでは?




