2-1:猫と知らない人 怖いよね、SNS
その日、私は浮かれていました。
使い魔が破壊された事を知って、私はすぐに行動を始めました。まずは破壊された場面が記録されていないかの確認。本来であれば遠隔監視用の霊装には記録の仕組みがあるはずだけど
「何も残っていない・・・10年以上も前の術式だし、そりゃ解析もされてますか」
残念ながら正攻法では何の痕跡も追う事が出来ないようです。となると、次に打てる手は決まってますよね。
すぐに出張申請書を作成し、課長の決裁をもらい(笑顔で許可をくれました)、夕方には新幹線に乗り込みました。
「こんな事もあろうかと!」の精神のたまもの、日ごろから準備をしていたからこそのスムーズな旅立ち。調査用の道具や戦闘用の魔術霊装、旅行セット一式の全てをロッカーに格納してあったのだ!
三年たってやっと日の目を見た装備一式!初めての魔術師らしい仕事!調査!探索!!場合によっては戦闘!!
素晴らしい!実に素晴らしい!!無意味に顔がほころんでくる!!
・・・何もする事が無いというのも意外と辛いものなんですよ?とはいえ、新幹線の中でニヤニヤしていたら変な人だと思われてしまいますので、少し心を落ち着けないといけませんね。
とりあえず到着前に状況を整理しておきましょう。何せ時間はまだまだあるのですから。新幹線でも片道3時間。目標は近畿圏の地方都市。初めて行くところですし、ここは地味に現地の地図でも見るところから始めておきましょう。備えあれば憂いなし、というやつです。
そんな感じにまったりしている内に現地に到着したのですが、新幹線を降りてから、更に地下鉄とタクシーを使う必要があり、思っていたより現場入りに時間がかかってしまいました。現場の海岸はすでに真っ暗で人気もありません。ある意味で調査には丁度良い環境が整っていますけど。
「それにしても寂しい場所ですねぇ。海って、もっと観光地っぽくなってるものじゃないんですかね?」
海側=人が一杯、みたいな先入観を持っていたので肩透かしな感じがします。事前に仕込んでいた人払いの準備は無意味になってしまいました。別にいいのですけど。
さて、気分を入れ替えて、さっそく魔力の痕跡を辿っていきますよー。というわけで、動き出しましたが、結果は残念、全て空振りです。というのも、ここには使い魔を支援するためのサブシステム的な術式も複数設置してあったはずなのですが、それらも全て破壊されているようなのです。つまり魔術的には既に何も残っておらずノーヒントな状況。
「念入りな事ですね」
恐らくは追跡を恐れての隠ぺい工作の結果なのでしょうけど、普通に考えれば、完全に魔術的な痕跡を無くす事は相当に難しいはず。魔術を壊すのも、また魔術なのですから、どうしたって何かの情報は残ってしまいます。だから、何の痕跡も無いという事は本来ならあり得ないはずなんですよね。
詳しくは分からないですけど、これは『組織的に特殊な処理が行われた』という事を意味するのかも知れません。少なくとも『気軽に少人数で出来るような対処では無い』という事は確実です。言い換えれば、そこまでの手間暇をかけてでも、協会の監視の目を潰す必要があった、という事。となると・・・
「大規模な儀式魔術でも行おうとしているのかも知れませんね」
何にせよ、近場に工房なり儀式場なりがあるのでしょう。後手にはなってしまいますが、網さえ張っていれば『何かの発動の兆候』があれば気が付けるでしょうし、一旦はそれで良しとしましょうか。
私はそう考え、初日の調査を終え、拠点を構え(結構良い感じの観光客向けホテルです)、待機に移りました。
で、それから一週間経ちましたが、何も起こる気配がありません。何もしないなら、なぜ監視網を壊したのでしょう??意味が分かりません。
そんな時、ふとした事から進展がありました。支部に帰った時の言い訳を考えつつ現実逃避気味にSNSをしていたのですが、たまたま件の現場について触れているユーザーを見つけたんです。話題としては「浜辺に唐突に出来た謎の爪痕」みたいな感じのものに過ぎませんでしたが、そのツリーを辿ってみると、同日に「その海岸で暴れていた謎の男性」の目撃情報がありました。これです、そう、これですよ!こんな情報が欲しかったんです!SNS上では「その暴れていた男性が何らかの手段で浜辺に深い溝を掘って謎の遊びをしていた」という推測が流されていましたが、実際は「深い溝はレイスの反撃で生まれたもので、奮戦虚しくレイスはその男性に破壊された」と考えて間違いないでしょう。
となると、使い魔を破壊した事に、特に深い理由はないのかも知れません。だって、SNSで晒されるとか、計画性を埒外にした行動を取っていたとしか思えないんですもの。秘密の計画の前準備とかなら他の人に見られないようにするでしょ?
しかし、そうなると、私は何のために出張なんぞしてるのか?という事になるのですけど。・・・とりあえず現状を課長にメールで報告、すぐに「未登録のノラ魔術師の確保よろしく」との返信。
課長は最初から下手人が愉快犯である可能性に気付いていたんですかね?なんか無念です。
まぁ、気を取り直して調査再開。というか、だいぶ迂闊な人みたいなので、魔術の面から調査するより、SNSでこの辺りの不審者情報を捜してみた方が早いかもしれません。どこか他の場所でも暴れたり、魔術を暴発させたりしているかも?
そして、その日はホテルでSNSをコチコチやっているだけで終わりました。せっかくの出張?なのに何やってるんだか
でも、成果はありました、残念ながら。とある公園で毎晩、超凄いトレーニングを繰り返す男性が頻繁に目撃されているそうです。ネットの人いわく『短距離走みたいなペースでマラソンして、公園の遊具を飛び越えて遊んで、一人で楽しそうにしゃべっている』との事。内容があまりに酷いので自称目撃者の想像上の超人かも知れませんが、同様の事を他にも書いている人がいるので、とりあえず、実在はしているのでしょう、程度はともかくとして。
善は急げ、さっそく件の公園を訪問です。タクシーで一時間もかからない距離にあって、なんとなく悔しい気持ちが湧いてきます。
とりあえず初日は場所の確認だけのつもりでしたが、早速当たりを引きました。あまりにも迂闊すぎる。あるいは罠?・・・いや、ないですね、たぶん。他にも人がいたからでしょうが、噂の超凄いトレーニングとやらは見れませんでした。でも、それは別に問題ではありません。そんな物を見なくても、一目で分かるほどの分かりやすい証拠があったのですから。彼は魔力を隠してもいない使い魔を無警戒に連れていました。彼が件の魔術師です。間違いありません。
隠蔽は出来ないのか、あえてしていないのかは分かりませんが、彼は使い魔を用意出来る程度の魔術師ではあるわけで。
あまり安易に考えず、接触は慎重に行った方が良いのかも知れません。
そこから一週間目標の事を調べました。日ごろの行動、住居、夜のトレーニング内容などなど。
結論としては、それほどの脅威は無いように思えます。というより、「強化魔術しか使えないのでは?」という疑問が出て来ますが・・・でもレイスを破壊していますし、何か他にも隠し玉があると思っておいた方が良さそうな感じです。
そんなわけで初めての接触は、目標の仕事が休みの土曜朝に行う事にしました。
ありったけの魔術霊装をしのばせ、簡易結界も準備し、最悪の場合は部屋ごと焼き払う気概で臨んだファーストコンタクトでしたが・・・
その目標は私の前で土下座していました。
流石に成人男性に土下座されるのとか初めてで凄くビビってしまいます。凄いですね。土下座ってもはや暴力です。知りませんでした。もう止めてって感じです。
ちなみに、その横で使い魔の黒猫も同じように土下座の姿勢。こちらは俗に言うところの『ごめん寝』のポーズで可愛らしい。
いや、ホントどうしてこうなった。




