1-2:猫と日常 猫相手にそんな外連味溢れるセリフを
週末の朝は八時に起きる事にしている。特に明確な理由は無いけど、なんとなくの習慣で学生の時から続けている。平日は七時起きなので、朝起きた時点で休み感が出て良いなとか思ってたり。
朝ごはんも平日とは違って、いつものメニューにプラスでプロテインバーを食べる。朝から甘くて美味しい。そして、クロも休みの日は朝ごはんを食べる。今朝はこの前スーパーで買ってからお気に入りのカニカマを食べている。
眠いので互いに会話は無いが、実にのんびりして良い時間。
今日はクロの好きな食べ物探しでもしてみようかな、そんな風にのんびりと考え事をしているとと何故か玄関の呼び鈴がなった。
自分で言うのもなんだけど友人も知り合いもろくにいない僕の家の呼び鈴が鳴る事なんて滅多にない。通販の配達以外だと、基本的にセールスか宗教の勧誘ぐらいのもの。しかも、時間はまだ八時過ぎ。まぁ、まともな来客ではないだろう。
とか考えていると、再び呼び鈴が鳴った。
「ねぇ、出ないの?お客さんみたいだけど?」
クロはカニカマを食べる作業を続けたままでそう言った。今まで考えてなかったけど、どうやって発声してるんだ、この子?
「あー、こんな時間に来るぐらいだし、たぶん何かの勧誘とかだよ?一応確認しようか」
そう言いながら重い重い腰をあげ、玄関のドアスコープから誰が来ているかを確認する。
来客はスーツを着た若い女性だった。髪は黒く肩口まで、身だしなみも綺麗で変な人には見えない。知的な感じで僕とは違う世界の住人のようだ。
「たぶん保険の勧誘かなんかだよ。会ったことないスーツの人だったし。断るのもしんどいし居留守を使ってスルーする方向で」
食卓に戻りながらクロにそう説明した。
「あら、そうなの?お客さんだったら消えてないとダメだけど、カニカマはどうしようかな?って思ってたの。ちょうど良かったわ」
クロもそれで納得。再び平和な食卓が始まると思ったが、今度はドアをガツンガツンと力強くノックする音が響いてきた。
「・・・しつこいなー、早く帰ればいいのに」
愚痴りながらオールブランを食べる。いつも思うけど、これコルクを食べてるみたいだよね。あるいは鶏の餌。でも体に良いんだよねー。
「赤松さーん、いらっしゃいますかー?」
外から呼びかけられた。最近のセールスは朝から頑張るねぇ。どうせ金もないし、僕なんかに構ったところで何の得もないのに。
再びドアがゴツンゴツンとノックされる。頑張って無視していると少しの間、静かになったけど
「御在宅なのは分かっているので、そろそろ開けてくれませんかねー?」
いきなり断定口調で話しかけて来ただと?!何故バレた?!いや、ブラフか?!
「一か月前の海岸での事についてお話したいんですけどー」
それを聞いて、僕はすぐに扉を開けた。
ドアの前に居たのは、僕より頭一つ分ぐらい小柄で、大学生ぐらいにしか見えない、綺麗な黒髪の滅茶苦茶ムカついた顔をしている女性だった。
「・・・居留守を使って申し訳ございません。何かのセールスかと勘違いしてました。あの、海岸の件って」
いきなり下手からのトークスタートである。・・・ダメだ。こちらにやましいところがありすぎて会話運びが最初から辛すぎる!何も思いつかん!クロ助けて!!
彼女はムカついた表情を崩さないまま玄関口で淀みなく答えた。
「海岸に設置していた我々の監視用使い魔が破壊された件です。あなたが破壊した事までは掴んでいるので速やかに事情を聞かせて欲しいのですが。
ところで来客をドアの前に立たせたままというのも、どうかと思いますよ?」
あかん、この人ちょっと怖いわー。
「気が利かず申し訳ありません。狭い部屋ですがどうぞ」
したてに、したてに。もう怒ってるけど、これ以上怒らせないように・・・と思ってたら、クロが尻尾と毛並みを逆立てて、その女性をちゃぶ台の上から威嚇していた。
やめて!!お客様の神経を逆なでしないで!!僕のコミュ力だとカバー出来ないの?!やめて!!!
「ほう、やる気ですか。既に陣地に入り込まれているのに大した胆力ですね」
女性は表情を薄く笑みの形に変えそう言った。
・・・ん?なに言ってるの?怒ってるのは分かるけど、猫相手にそんな外連味溢れるセリフを。
まぁ、いいか。とりあえずクロを落ち着かせないと。
「ほら、クロ怒らないで。あの人は前の海岸で壊しちゃったやつの持ち主の方らしくてさ、ちょっと事情を聞きたいんだって。だから、ほら怒らないで」
そう言いながらクロの背中をトントンする。するとジワジワ毛並みが収まって、膨れていた尻尾もしぼんできた。
「そうなの、ごめんなさい。なんか怖い人が無理やり押し切って入って来たのかと思っちゃった。カニカマ食べてて話を聞いてなかったの」
というか、お客さんの前で普通にクロとしゃべっちゃったけど、これはいいのかな?とりあえず説明を。
「この子はクロ。最近、拾った使い魔です。一か月ほど前からここで一緒に暮らしています」
「どうもよろしくー」
クロも右手を上げて軽く挨拶をする。こういう時に見かけが猫というのは大きなアドバンテージ。とりあえず可愛いから掴みは大丈夫なはず、と思って顔色を伺って見ると、なんだか浮かない感じ?
まさか・・・クロの可愛さが通用していない?!
「ふーん、なんか、この場で切った張ったになるかと思ってたんですけど、そんな感じでもないんですね。とりあえず座ってもいいですか?」
彼女にはちゃぶ台の正面を勧め、クロはそのままちゃぶ台の上、僕は彼女の斜め横に座った。
「すみません、食事中に。留守を避けようと思って早めに来たんですけど、早すぎましたね」
なんかいきなり穏やかなペースになっておじさん付いていけないぞ?
「とりあえず、細かい話をする前に自己紹介から始めましょうか。私はあなたの事を調べましたけど、あなたはこちらの事を何も知らないようですし」
彼女はそう言いつつ鞄から名刺を取り出した。
「私は魔術協会の極東支部所属の依城と申します。本日は、海岸で破壊された監視用使い魔の件の事情聴取に伺いました。お話、聞かせてもらえますね?」
依城さんは薄い笑顔を浮かべている。
朝から大惨事の到来です。さぁ、どうしよう。役所かなんかの人が来ちゃったよ。




