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【第4部完結!】「ノースキル」の烙印を押された侯爵令嬢、実は世界の管理者(アドミニストレーター)でした  作者: 柊ユキヤ
覚醒編

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第11話 古の鉄巨人

 約束の日。王立研究所の重厚な門の前で、ラウルと一緒にジルを待っていた。

 石造りの立派な建物は、王国の威信をかけた学術機関にふさわしい風格を漂わせている。門には王家の紋章が刻まれ、衛兵が出入りを厳しく管理していた。


「まだかな……」


 楽しみで仕方がなく、思わず口にしていた。ちょうどそこへ、通りの向こうから見覚えのある人影が現れた。


「お待たせしました」


 ジルが穏やかな笑みを浮かべて近づいてきた。自分でも顔が綻ぶのが分かった。ところが、やっと入れるというのに、ラウルは複雑な表情でジルの姿を見ている。


(まーた変なこと考えているんじゃないでしょうね)


 先日から、どうもラウルの様子がおかしい。落ち着きがないというか、イライラしているというか。少なくとも、訪問を心待ちにしているという感じではない。


 ラウルはジルへ値踏みするような視線を送っている。


「こちらが、先日お話ししたラウルです」


 ジルへラウルを紹介すると、ジルは丁寧にお辞儀をした。


「ラウルさんですね。魔法がご専門とお聞きしました。心強いです」

「よろしくお願いします」


 ラウルも礼儀正しく応じたが、やはり警戒心を隠しきれない様子で、二人の間はなんだか微妙な空気だ。


(もう、ラウルったら。あんまり失礼な態度、とらないでよ!)


 とはいえ、ここでラウルをたしなめても逆効果だろう。


「それでは、参りましょうか。ジル様、よろしくお願いします」


 そんな微妙な空気に気づかないふりをして、わざと明るく声を上げた。




 門で身元を確認された後、研究所の中へ足を踏み入れた。廊下には魔導灯が規則正しく並び、白い壁には王国の歴代の学者たちの肖像画が飾られている。静謐で、どこかひんやりとした空気が漂っていた。


「所長室はこちらです」


 案内された部屋で、白髭を蓄えた初老の男性が出迎えてくれた。


「ようこそ、王立研究所へ。私が所長のアルザスです」


 所長と握手を交わした。


「古代の遺物研究は我が国の重要な課題です。若い方々にも関心を持っていただけて光栄です」

「ありがとうございます。是非、勉強させてください」


 頭を下げると、所長は満足そうにうなずいた。


「では、早速ご案内いたしましょう」


 魔導灯で青白く照らされた石造りの通路を奥に進む。所長とジルは前の方を歩きながら親しそうに話している。

 王立研究所の所長といったら王国の技術分野のトップだ。ジルの齢でそんな人と仲がいいなんて、とジルの人脈にますます謎めいたものを感じる。


 通路の突き当たりに一際大きな扉が現れた。


「保管室はこの奥です」


 分厚い扉を開けると、薄暗い部屋の中央にゴーレムは安置されていた。人の背丈の二倍ほどもある巨大な人型だ。


「これが、発見されたゴーレムです。我々は『鉄巨人』と呼んでおります」

「すごい……こんなに大きいのね」


 思わず息を呑んだ。その大きさに圧倒される。

 ラウルも目を見開き、感嘆の声を漏らした。


「凄い、まるで本当の巨人みたいだな。こんな巨大な人型を作る技術があったなんて……古代文明は想像以上だったのかな」


 鉄巨人はまるで永遠の眠りについているかのようだった。顔の部分には目や口らしき窪みがあり、胸部や腕、脚には複雑な文様が刻まれている。


「触っても大丈夫ですよ。どうにも反応しませんのでな」


 所長に勧められ、恐る恐る腕の部分に手を伸ばしてみた。触れた瞬間、不思議な感触が指先に伝わる。


「この材質……何だろう。金属でもないし、陶器でもない。でも、なぜか温かみを感じるわ」


 ラウルも同じ箇所に手を置くと、うーむと唸った。


「たしかに変だ。魔法で作られた物質とも違う。この質感は……まるで生きてるみたいだ」


 ラウルは研究員に許可を取り、魔法の痕跡がないか探知を試みた。しかし探知できたのは、通常の魔法とは異なる〝何か〟だった。


「魔力の流れが……変だ。まるでどこかで途切れてるみたいだ」

「それも謎の一つなんです」


 研究員は困惑した表情で続けた。


「どうやら、魔法的なもので出来ていないようなんです。石でも金属でもない未知の材質で出来ています。鍛冶師に見せても『こんな材質は見たことがない』と首を振るばかりで」


 研究員はため息を漏らす。


「発見されてから三か月、あらゆる手段を試しましたが、微動だにしません」


 鉄巨人に目をやる。

 鉄巨人の胸の部分には複雑な文様が刻まれていた。これが何なのかは分からないが、何かが引っかかる。


「この模様……どこかで見たような……?」


 もう一度、今度は胸の文様に手を置いてみた。その瞬間だった。脳内に鮮明な声が響いた。


《ステータス確認……操作不能……致命的エラー検出》


「っ!?」


 声のあまりの鮮明さに、軽いめまいを覚えてよろめいた。ラウルが即座に駆け寄って支えてくれた。


「エミリア! 大丈夫か?」

「ええ、大丈夫……ちょっとめまいがしただけ……」


 その時、鉄巨人に彫り込まれた文様がほんの一瞬だけ微かに光ったように見えた。しかし、その光は瞬時に消えた。


「今、光ったような…?」

「いえ、気のせいでしょう」

「いや、たしかに光ったぞ」


 研究員たちが顔を見合わせる。


 ラウルも文様を凝視していた。そして、こちらと文様を交互に見ている。


「ちょっと失礼」


 ジルが前に出てゴーレムを見つめている。しかし顎に手を当て、何かを考えるような素振りを見せた。


「エミリアさん、少し休まれますか?」


 ジルが尋ねてきた。


「いえ、大丈夫です。ありがとうございます」


 表面上は微笑んで答えた。だが、胸の奥では先ほどの声が反響していた。


(また、あの声……『ステータス確認』って何? まるで道具か何かを調べてるみたい。──この鉄巨人は、ただの置物じゃない……!)


 不可解な現象に、保管室に困惑した空気が流れた──


「お待ちください! 困ります!」


 扉の向こうが騒がしい。大声が聞こえると同時に、保管室の扉が勢いよく開かれた。

 白い法衣を着た数名の人影が現れた。あれは──教会の神官たちだ。


「失礼いたします」


 先頭に立つ神官が有無を言わさぬ態度で室内を見回すと、淡々とした口調で告げた。


「この古代遺物は、教会が管理すべき聖遺物と認定されました。安全管理のため、即刻接収いたします」

「しかし、調査の途中です! 調査は王立研究所の管轄でしょう!」


 所長が慌てた様子で抗議するも、神官は眉一つ動かさず書類を突きつけた。


「聖遺物の管理は教会の専権事項です。王室にも既に通達済みです」


 先頭の神官が手を挙げて作業員を呼ぶと、作業員たちは手慣れた様子で鉄巨人を運び出す準備を始めた。

 そのあまりに強引なやり方に言葉が出ない。


「……抗議しても無駄ですな。正式な手続きですから。王室も教会には……」


 所長が苦い顔でつぶやいた。


 結局、鉄巨人が運び出されるのを見送るしかなかった。



   ◇ ◇ ◇



 研究所を後にした。

 ラウルもジルも黙っている。空気が重い。


 それにしても、教会のあの強引なやり方には腹が立つ。思わず声を荒げた。


「また教会……! 聖石の時も結局うやむやになって返事もないし、今度もこれ? いったい何なの!?」


 噛みつくように怒りを口にする。だが、ラウルは妙に冷静だった。


「でも、鉄巨人は確実に君に反応してたと思う。間違いない。あれはたしかに光った」


 鉄巨人の文様に浮かんだ淡い光が頭によぎる。たしかに光った。だが、何をしても動かなかったという鉄巨人がいったい何に反応したというのか。


「それにしても、教会の動きが妙ですね。三か月何も言ってこなかったのに、今日になって急に乗り込んでくるとは……」


 ジルは不可解だと言わんばかりの表情を浮かべた。




 やがてジルは「では、私はここで」と頭を下げた。礼を言い、ジルと別れ、ラウルと屋敷への通りを歩く。


 日が傾きだし、石畳の影が深くなる。私もラウルも無言のままだった。色んなことがどうにも不可解だった。


「もしかして教会は、何か知ってるのかしら……」

「どうだろう。まあ、怪しいよな」

「まるで最初から狙っていたみたいだったわね」


 だが、一つだけ分かったことがある。


「でも、私の力は確実に古代の遺物と関係があると思うの」

「ああ、俺もそう思う」


 また、沈黙が流れた。


「……ねえ、教会に邪魔されない方法ってないかな?」

「うーん、そうは言っても、教会の力は絶大だからな……」

「そうよね。でも、この謎は絶対に解いてみせる」


 謎の解明──あらためて口にすると、俄然やる気が湧いてくる。


「なぜ、私にだけこんなことが起きるのか──必ず突き止めるわ」


 ──夕日が石畳を赤く染めていった。



  ◇ ◇ ◇



 ──その部屋は、鉄巨人と同じような材質で作られていた。金属のようでもあり、陶器のようでもある。継ぎ目は見当たらない。どこまでも滑らかな、不思議な壁だった。

 中央には、やはり同じような材質の箱──大きさはまるで棺のようだった。


 ──部屋は暗く、詳しくは分からない。


 突然、棺の上面全てが開いた。何か蓋のようなものが開いたわけではない。表面がぐにゃりと変形し、溶けるように滑らかに〝穴が開いた〟のだ。


 部屋に無機質な声が響く。


《支援ユニット故障信号……探知》

《予備ユニット起動処理開始。完了後、捜索モードへ移行》


 棺の中で、赤い光が二つ、ゆっくりと明滅を始めた。

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