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【第4部更新中】「ノースキル」の烙印を押された侯爵令嬢、実は世界の管理者(アドミニストレーター)でした  作者: 柊ユキヤ
竜の谷編

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第89話 西へ

 山間の集落の外れ。野営地のすぐそばには森が広がり、時おり冷たい山風が木々の間からかすかに流れ込んでくる。風は森の木々を揺らし、周囲には葉のざわめきだけが響いていた。

 冬山の夜は想像以上に冷えた。外套を羽織っていても、肌に触れる空気は刺すような冷たさだ。


 エミリアは焚き火の側に座り、村へ続く道の方を見つめていた。アンナとレオンが村へ向かってから随分経つ。

 シェナは待ちくたびれたのか、いつの間にか横になって小さな寝息を立てていた。


(アンナ、大丈夫かしら……)


 デルナム邸への潜入もそうだったが、彼女はたまに突飛な行動をする。あの時のような危険さはないとは思うが、それでもやはり心配だ。


 ジルベルトがエミリアの隣に腰を下ろした。


「冷えますね」

「ええ、殿下」


 二人とも言葉が続かなかった。

 焚き火が爆ぜる音だけが聞こえていた。


 その時、暗闇の向こうから松明の小さな光が見えた。


「お嬢様!」


 アンナの声が響いた。


「アンナ! 大丈夫だった?」

「お嬢様、お待たせいたしました」


 アンナはいつもの楚々とした表情で、軽く頭を下げた。

 レオンは、ジルベルトに向かって敬礼しようとして、わずかに足元を揺らした。見ると顔が真っ赤だった。


「殿下、ただいま戻りました」

「ご苦労様。少し休んでいなさい」

「はっ」


 レオンがふらつきながら、衛兵たちが囲んでいる焚き火へ向かうのを見送ると、アンナを近くに呼び寄せる。


「さ、座って、アンナ。……それでどうだったの?」

「はい、お嬢様」


 アンナは一息つくと、酒場での出来事を語り始めた。


「なるほど。神官が出入りしだしたんですね」

「はい、殿下。ただ、村の人たちはその神官が法王国か帝国かまでは知らないようです」


 ジルベルトは顎に手を当て、つぶやいた。


「マレンデールのすぐ北は帝国です。普通に考えたら帝国正教会の神官でしょうが……」


 エミリアの脳裏に、これまで立ちはだかったロイデンやソルダムといった法王国の面々のことが思い浮かぶ。


(まさか、こんなところまで、ね)


 法王国の神官が、さすがにこんな地の果てまでやってくることはないだろう。たまたま帝国正教会の神官が布教を再開したに違いない──


 そう思うことにするが、それでも妙に胸騒ぎがした。


 アンナは少し寒さを感じたのか近くにあった毛布を膝にかけた。それに気づいたジルベルトは薪を一本、焚き火へ放り込む。


 アンナは報告を続けた。


「神官は夜遅くまで何かをしているそうです。人の出入りを嫌がっているとも」

「何かを準備している、ということですか。まあ、ひとまず様子見ですね。他には?」


 ジルベルトがさらに尋ねると、アンナはこれが本題だと言わんばかりに身を乗り出した。


「それが……竜の棲む山──『竜の谷』と呼ばれる場所が、ここから西にあるそうです」

「西、ですか」

「はい」


 エミリアは思わずアンナを凝視した。やはりマレンデールに竜はいた──おとぎ話などではなかった。ラウルを連れ去った竜も、この山のどこかにいるかもしれない。


「それで、十数年ほど前からそこへの道が危険になったそうです」


 アンナの言葉に、二人の動きが止まった。


「十数年前……?」

「はい、そうです。以前はそれほど危険な道ではなかったと、村の老人が言っていました。けれど、ここ十数年、みんな崖から落ちたり落石に巻き込まれたりしたせいで、誰も通らなくなったとのことでした」


(どういうこと……?)


「今まで通れた道が通れなくなった、ということですか?」

「物理的に通れないわけではないような口ぶりでしたが……」


 アンナの言葉に、ジルベルトは腕を組み、考え込む仕草を見せた。

 道が急に危険になる──災害でも起きたのだろうか?


「いったい、何があったんでしょうね?」


 エミリアがジルベルトへ尋ねると、彼は首をかしげるも、エミリアをじっと見つめた。


「そうですね……ただ、その道の先に目指す場所があるのはたしかなようですね」

「……はい」


 竜が確実に存在することが分かった今、たとえ危険な道であっても進む他ない。


「アンナ、ありがとう。本当に助かったわ」

「お役に立てて何よりです」


 アンナはふわりと頭を下げた。



   ◇ ◇ ◇



 翌朝、エミリア一行は村長の家を訪ねた。


「ええっ!? 竜の谷へ向かわれるので!?」

「ええ。やはり伝説の竜とやらを一目見たいと思いましてね」

「殿下、それだけはおやめください。『竜の廻廊』を通るのはあまりに危険でございます」


 村長はとんでもない、といった表情で必死に引き止めようとした。


「へぇ、『竜の廻廊』というんですのね。でも村長さん、大丈夫ですわよ。こちらには屈強な衛兵たちもいますし、何かあれは、すぐに戻ってきますわ。ね、お兄様」

「ああ、そうだな。そういうわけで、しばらくの間、馬を頼みます」


 村長は観念したかのように大きなため息をつくと、馬の世話を引き受けた。世間知らずにもほどがある、とでも思っているような目でこちらを見ている。


(村長さん、呆れてるわよね。でも、私たちは行かなきゃならないの)


「では、ごめんあそばせ〜」


 何も分かってないフリをして集落を後にした。目指すはここから西にあるという『竜の廻廊』、そしてその先にある『竜の谷』だ。

 そこにも人が住んでいたという。行けば何か手がかりが掴めるかもしれない。


 エミリアは小さく息を吐き、西の空を見据えた。

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