撃砕
『…第一艦隊長よりThe Athenaへ。これより全艦隊の指揮権限を貴艦にお渡しする。』
その言葉には、かつての様相を完全に取り戻したガランへの畏敬の念が込められているように思えた。
第三艦隊以下他艦隊の長たちも、口々に了承の意を示し始める。
無線を聞き終えたガランは、フッと微笑み。
「感謝申し上げる。…ここからは、我々の時間だ。」
行くぞ、皆。
この領域は我々のもの。
そしてこの星も、我々のものだ。
全艦隊に告ぐ。
我々の、母なる大地を。
守り抜け。
「この星を、焼かせはしない。」
『この星を、焼かせはしない。』
無線を傍受していた攻撃艦・The Blade。
艦長のヴァレルはガランの声を聞くと同時に、笑い出した。
『フッ…ハハハッ!!!…そうか、やはりそうか!!!』
The Athenaが、マレニアが裏切った。
面白くなってきたじゃないか。
いやはや、それにしても…。
侮れん男だ。
父を殺され、地位も失ったところから這い上がる。
おまけに敵将を寝返らせ、全艦隊の権限を掌握するその胆力。
敵ながら天晴、といったところだ。
だが、だがな。
敵将ガランよ、1つだけ勘違いをしてはいないか?
『我々は、その星を焼きに来たのではないぞ…!!!』
また新たに、戦は動き出す。
『主砲装填、敵艦弾薬庫を狙え。』
「一番艦、対宙魚雷発射用意…!!!」
二人の名将による戦いが始まった。
これまでにないほど余裕が無く、激化していく戦闘。
数十隻の戦艦たちが陣形を組み、それぞれの思いや使命を胸に弾を撃つ。
そこには負けられない理由なんて山ほどある。
故郷のため、地位のため。
様々な正義があるだろう。
ガラン風に言うならば、この場には善い人しかいない。
だが、それは二の次なのだ。
なぜならこれは戦争である。
自らが生き残ることが、最善。
そして、死んでしまえば最悪。
単純な世界であるが、これほど残酷で簡単なルールを他に知らない。
「被弾状況は!?」
『決して艦側部を相手に向けるな。』
全艦が放つ砲弾は、次第にその密度を増していく。
弾の精度も上がっていく。
実戦経験がどうしても少なくなりがちな宇宙での戦闘。
お互いは、戦いの中でコツを掴みだし。
徐々に正確な攻撃を繰り出すようになっていく。
お互いの成長が、お互いを苦しめ、楽にする。
切磋琢磨し、高め合え。
それが本当に、命のやり取りをしているのだとしても。
ごっこ遊びではない、本当の戦いのために。
戦局が、どちらに傾くのか。
あるいは、もう傾き始めているのか。
それを知る者は、この場にはいない。
それを知る余裕なんてあれば、どんなに楽なことか。
ガランは指令室内を縦横無尽に動き回り、戦局を自らの眼で知ろうと躍起する。
飛び交う弾幕は、まるで横向きに飛ぶ無数の花火か流星のようだった。
その美しさに見とれる余裕も、道理もないのが残念である。
辺りが弾の輝きで明るく照らされる。
そして、ついに。
『第一艦隊一番艦が被弾!!!艦上部に損傷あり!!!』
火の手が上がる。
長い両者の歴史上初めて、宇宙戦艦に戦闘による損傷が生じた。
被害を受けたのは、地球連合第一艦隊一番艦。
先程までガランが搭乗していた艦であった。
「艦隊長!!!無事か!?」
ガランが発信した通信への返答は、いくら待てど返ってこなかった。
その返答代わりとなったのは。
『…ッッッッ!!!!!!!!』
という、衝撃波。
爆発音は、聞こえてこない。
真空状態なのだから、当たり前である。
ただ、大破する一番艦の様子はしっかりとガランの網膜に刻まれた。
艦内から漏れ出す酸素と反応して燃え、落ちていく。
その直後から、被弾報告がひっきりなしにガランの元へと飛んでくるようになった。
戦友たちが、次々と死んでいく。
ガランは今一度認識を改めることを強いられた。
これが、戦争なのだと。
犠牲無しの勝利は、本来ありえないものなのだと。
だが、我々は戦わなくてはならない。
今一度、立ち上がらなくてはならない。
どんなに犠牲を払っても、守るべきもののために。
ここでの敗退は、すなわち地球の敗北を意味する。
この青く豊かな惑星を追い出され、120億が路頭に迷うことだろう。
それだけは何としても避けなくてはならないのだ。
ここに居る、軍の戦友たちは。
今一度、自分に付いてきてくれることを、選んだのだ。
ならば、私も選ぼうではないか。
私が、地球のリーダーとしてまた走り出す未来を。
「二~七番艦、主砲装填!!!対宙魚雷もありったけ出せ!!!」
ここからは、私と奴の意地の張り合いだ。
反撃を、繰り出せ。
声を上げろ。
叫べ、腹の奥底から。
咆哮とも呼べる、攻撃の狼煙を。
目の前に立ちはだかる、全てを消し去れ。
主砲装填完了。
全艦、攻撃目標へ。
「…撃てェッッッ!!!!!」
打ち砕け、敵の全てを。




