打開策
過酷な艦砲射撃の応酬が展開されている。
ガランの一声で、生き残った地球軍も主砲を全開で撃ち続ける。
少ないものの、敵艦に被害を出すことにも成功している。
しかし、状況は劣勢のまま。
何か、一石を投じる必要がある。
『ガラン殿、この戦局をどう打破するのですか?』
「…一つだけ考えがある。」
ガランはマレニアに、地球軍と無線を繋いでくれと頼む。
いつも考えることがある。
この作戦は無謀だろうか。
どれだけの人が死ぬだろうか。
その人たちは、報われるような死に方が出来たのだろうか。
いや、そうではない。
『報われる死』なんてものはこの世に存在しないんだ。
それはきっと、生き残った者のエゴにしか過ぎないのだろう。
でも、軍人をやっている以上は『死』に直面することがどうしてもある。
現に私だって、何度も死にかけてはいる。
ただ運が良くて、生き残っただけかもしれない。
そう考えると恐ろしいものだな、と思うよ。
だから私は思うんだ。
せめて、善い人であろうと。
確固たる信念を持った、強い人間であろうと。
皆、よく聴いてくれ。
これより、私が合図するまで。
砲撃を行ってはならない。
敵が完全に油断し、警戒を解くまで待ち続けるのだ。
だから、どうか耐えてくれ。
私が合図を送るまでの間、敵からの砲撃に耐えてくれ。
難しい注文かもしれない。
それは自分でも分かっている。
だが、私にできることは。
私に考え付くことは、これぐらいしかなかった。
『脳筋』だの、『安い頭』だの罵ってくれ。
統一戦争時代は、そんなことをよく言われたものだ。
懐かしいよ。
キミたちと戦った日々が、ついこの間のようで。
位はあの頃と違えど、私たちはこうして一堂に会して戦っている。
そう考えると、段々愉快になってこないか?
人は、死に直面すると生を実感するらしい。
それは恐らく、正しいと思う。
あれだけ死に直面してきた私が言うのだ、間違いはないだろう。
どうせだからここらで皆、生を感じてみようじゃないか。
新たな扉が開き、人として次のステージに向かうことができるかもしれない。
…長話はよそうか。
戦闘の最中だということをすっかり忘れていたよ。
皆。
私はこれより、本艦のワームホール機能を利用した奇襲作戦を行う。
目標は敵参謀の乗る攻撃艦、The Bladeである。
武運を祈ってくれ。
そして私も、皆の武運を祈っている。
この戦いで死んだ者を、私は忘れない。
墓も作れば、祈りもするだろう。
没者の中には個人的に親交の深かった者もいる。
悲しみが無い訳ではない。
だがこの悲しみが、今は。
今だけは、私を強くしてくれるのだということを、私は知っている。
いいか、最後に今一度確認をしておく。
合図があるまでは絶対に撃つな。
安心してくれ。
私はそうそう死にはしない。
これより敵レーダー感知の正確性を少しでも下げるため、合図を行うまでは通信を行わない事とする。
では。
『敵戦艦に命中。次々に墜としています。』
『よーし、それでいい。』
攻撃艦The Blade、指令室。
ヴァレルは爆発轟沈していく敵戦艦を眺めながら、満足げに頷く。
敵の砲弾は一向に飛んでくる気配がない。
『それにしても…マレニア様はなぜ今になって第三惑星の味方など…』
悲しげに呟いた軍人の肩を、ヴァレルは抱き寄せ。
わざとらしく囁く。
『向こう側の人間に唆されたのだろう。彼女はまだ若かった…若すぎたのかもしれんな。』
表情だけは悲壮感を漂わせつつも、内心はほくそ笑んでいることだろう。
不可抗力という言い訳を付けて、二人に始末が付けられそうなのだから。
『人間、終わる時はあっけないものなのだよ。特に…』
ヴァレルが言葉を紡ぎかけた、その時。
『ヴァレル様!!!レーダーに敵艦の反応が!!!』
『…なんだと?』
立ち上がり、レーダーを確認する。
『本艦のすぐ後ろです…!!!』
背後を取られた?
バカな、そんなことがあるはずは…。
…いや、ある。
1つだけその可能性が残されている。
レーダーに記されたIDは、The Athena。
敵艦の中で、ワームホールが使える唯一の艦であった。
至近距離から、装甲の薄い攻撃艦に主砲を叩き込む。
一発ではない。
何発も、何発も。
この戦争の元凶を、確実に葬り去ることが出来るように。
「今だッ!!!」
ガランは通信機器を解放。
味方艦隊に無線にて連絡をする。
「撃てェッ!!!!!」
その声が届いたかどうかは、確認するまでもなかった。
味方艦隊の居る方角から、あまりにも眩い光の束が飛んできたのだから。
ガランの合図で、全艦が敵艦隊全域に向けて主砲による射撃を一斉に開始。
前衛後衛関係なく、狙いすまされた一撃…否。
何撃も、何撃もの砲弾が、アテナ軍を襲う。
命中。
またもう一発、命中。
不動、不変であった敵艦隊の隊列が、徐々に崩れ始める。
それに先立ち、まず上がった戦果が。
アテナの戦艦、一隻大破轟沈。
その一隻は、攻撃艦。
The Bladeだった。
『人間、終わる時はあっけないものです。特に、人からの想いを無下にする者は。』




