目論見の果てに *
R15指定
「セラ。これは一体どういう状況だ?」
「申し訳ありません。でも、もうギャド様と一緒になる為にはこれしかないかと」
ギャド様がとても怖い顔で私を睨んでいます。
当然です。
ジェラルド様と共謀してギャド様を騙して、ベッドに縛り付けているのですから。
「・・・・っ頭いてぇ。酒に、変な薬入れやがったな、ジェラルドの奴」
「全て私の企みです。貴方がオスカール戦から帰って来たら実行するつもりで準備を進めました」
ギャド様が極めて濃い皇族の血を継いでいる事がわかってから、ずっと考えていました。
ギャド様はきっと私の事を想ってくれている筈です。
でも、私と結婚し子供が産まれた後その事がバレてしまえばレインハート家から命を狙われる可能性があります。
私も子供も勿論その対象です。
でも、私はそんな事が理由でギャド様を諦めたりしない。
貴方には強制的に既成事実を作って責任を取って頂きます!!
「考えた末の策がこれかよ・・・お前、俺が責任を放棄したらどうするつもりだ?」
「朝になったら私の家族とギャド様の家族がここに来ます。それまでギャド様はここに止まって頂きます」
そ、そんな顔で睨んでも、む、無駄です!!
わ、わ、わ、わ、私覚悟、決めましたので!
「あのなぁ、こんな状態の俺を見て、誰が俺に責任を取れと・・・・」
バサッ
「ーーーーーッ!お、おい!何してんだ!」
「何もしないなんて言ってません。責任を取って頂くのですから、それが発生する必要があります」
ギャド様、凄く嫌そうな顔されてます。
・・・・・そうですわよね。こんな子供みたいな女の裸を見た所で困りますわよね。しょんぼり。
「ーーーーーーい、今すぐ服を着ろ!!せめて、下着は脱がないでくれ!!頼む!」
「下着を脱がなかったらする事出来ないです!!無理です!!」
「いや、やりようは・・・ではなく!!お前は痴女か!」
うっ!分かってます。こんな事、ただギャド様に不快を与えるだけだって・・・でも、でもでもでもでも!どうやっても諦められないんです!ギャド様!
「セラ。そういう事情ならギャドとの事は賛成できない。諦めるんだ」
「お父様!!そんな!!黙っていればバレたりしません!」
「馬鹿か!現に今発覚しているだろう!!それも宰相の私が知ってしまったんだぞ!!私は、陛下に尋ねられたら嘘をつく事は出来ないんだ!!その重大性がお前には分からないのか!!」
「そんな・・・・・そんな事」
「いいな?近々ギャドとの婚約は破棄する。セラ、そんなに嫌ならもう無理に誰かと結婚しろなどと言ったりしない。反対していたが、学者の道を志すのも、もう止めはしない。だが、あの男だけは駄目だ!」
調べたりしなければよかった。
あれから事実関係が気になり、過去の記録を調べる度に、出てくるのはギャド様がノア様の本当の子供だという事実を肯定するものばかりだった。それが父に知られてしまうなんて・・・・。
オリヴィエ様がギャド様にノア様と同じものを求めていた事も・・・きっと、あの人はギャド様がずっとこの国の皇帝になる事を望んでいたのですね。
「どうしたのです?そんな追い詰められた顔をして」
「・・・・ギャド様がオスカール戦から帰って来たら、ギャド様との婚約をお父様に潰されてしまいます。もう、二度とギャド様に触れる事が、叶わなくなります」
「・・・・・何故、そんな、急に」
言えません。
理由は分かりませんが、何かの間違いが起こりギャド様が産まれたようです。その頃オリヴィエ様は既に夫のマッティア様と結婚していたんです。つまり、浮気か、もしくは・・・無理矢理・・・・。
「セラ様・・・あんなに長い間頑張ってらしたのに・・・これは、周りを懲らしめてやらないといけませんね?」
「え?懲らしめる?」
「セラ様。私は、兄は貴方のことを好きだと思います。ただ、兄は昔から両親と色々揉めており、それが原因で貴方と一緒になれない事情があるのだと思います」
そうですわね。そうだとは思いますわ。
「セラ様は覚悟がありますか?暫くは兄さんに許して貰えないかも知れないですが、きっとあの人は最終的にセラ様を引き取ると思うんです」
私は、それに頷きました。
もう、それしか方法がないと思ったからです。
「・・・・・さわ・・るな!」
「ギャド様、私を見て下さい」
本当に、嫌そうです。
こんな嫌そうなギャド様見た事ありません。
前、私とキスした時はこんな嫌そうな顔、しませんでした。もしかして、もう、嫌われてしまいました?
「・・・セラ!・・ほんと、に無理だ・・たのむ・・」
・・・・・・・・泣くほど?
ギャド様。泣く程私に触れられるの、嫌だったのですか?
私の姿を目に映したく無かったです?
わたくし、わたくし・・・は・・・。
わたくしは、なんのためにこんなことを?
「セ・・・・・・ラ?」
泣くな。泣くな泣くな泣くな泣くな!!
私が、泣く事なんて許されないです。
私は、本当はこんな事したかった訳じゃない。
私の記憶の中のギャド様は、いつも穏やかに、幸せそうに笑っています。会えない間も貴方は、仲間の皆さんに囲まれて幸せそうに笑っていました。
本当に、夢のように。
私は、その中に、入りたかった。
あの笑顔を奪ってまで、貴方を手に入れたかった訳じゃない。
笑え。
「・・・・・分かりました」
笑え!!
「じゃあ、最後に・・・・一つだけ」
もう、これで二度と会えなくなるんですから。
最後は笑顔でお別れしたい。
「キスして下さい。もう、それで終わりにします」
きっとこの縄を外したら、突き飛ばされてこの人は私を置いて去って行く。でも、しょうがない。
私の愛したギャド様は・・・そういう方だから。
そう・・・・・・・・私は・・・思い込んでいた。
「セラ」
彼の手が私の顎を乱暴に掴んで持ち上げ、その顔を見た時、私はまだ、わかっていなかった。
「お前の願いを叶えてやる。今、すぐに」
彼が一体何に苦しめられてきたのか。
私は何も分かっていなかった。
「だから、セラ。お前も俺の願いを叶えてくれ」
そう。私達は本当に愚かだった。
この人が守りたかった、必至に守ったその最後の砦を無自覚に踏みにじったのは・・・・・間違いなく・・・・。
私だったのに。
「俺と一緒に、奈落の底まで落ちてくれ」
その言葉の意味を。
私はこの後、嫌という程思い知る事になる。