第5話『お隣様』
「うんん……朝日が気持ちいいな〜!」
みんなより少しばかり早起きした俺は、真新しい巨大な屋敷の中庭で、うんと背伸びをする。
あのあと、特に問題もなく俺たちは新居に辿り着き、その少し後にお父様が新居にやって来た。
ナリアさんがバックの中から鍵を取り出し、中に入って10分後くらいの話だ。
そして、お父様ともう一匹が、新居に入った。
Sランク魔獣『ユニコーンペガサス』。そう、俺に話しかけて来たあいつだ。
『ダリィ、話を聞かせてもらおう』
噂をすれば、なんとやら……そのユニコーンペガサスは、俺のすぐ隣に現れ、リラックスの体勢でいるわけだが。
『さて、あの時の話の続きだ。貴様、何者だ?』
「……何者だろうなァ」
『誤魔化すな。五幻獣の一角をなめるな』
五幻獣とは、聖魂獣『ユニコーンペガサス』、炎獄獣『ラースケルベロス』、天帝獣『キマイラグリフォン』、癒生鳥『ヒールフェニックス』、魔海獣『ダーククラーケン』の五種らしい。
どれも基本は群れで生活し、人と敵対することもあれば協力もするんだとか。
ちなみに、この五種の中でも勇者の資質を受け継ぐ物が数々の竜や人間と共に魔神を倒すという絵本をこの間読んだ。
まあ、そんなことより……だ。今は、こいつを宥めて、生き延びるのが最優先だろう。
『質問に答えろ』
どうしようか……聖魂獣の二つ名は飾りではなく、ユニコーンペガサスは魂を見るとされている。
もういいや、いままで死にかけまくったし、これでこの命尽きても構わない。
「……ああ、正直に答えよう。俺は転生者だ」
『……! そうか、ついに現れたか!』
ユニコーンペガサスはそう言うと、自分のツノを折り、それを前脚で俺に押し付ける。
『貴様は、我々が千年の間待っていた勇者だったのだな』
「……え?」
◇◆◇◆◇
どうやら聞くところによると、このユニコーンペガサスは勇者の資質を受け継ぐものらしい。
俺に何をしろっていうのかは知らないが、これ、どういう反応すればいいんだ?
ちなみに、ユニコーンペガサスが折ったツノは忠誠の証らしい。
『ふふ……我は、貴様こそ勇者だとわかっていたぞ!』
それ俺の偽物が現れた時のセリフだろ。
っていうかなんだこの態度の急変!
俺のことバカにしてんの!?
「いや、勇者勇者と言われても、俺どうすればいいのかわかんねぇし……」
『……我もわからん』
「いやアホかお前! これからどうすればいいのかしっかり考えろよ!」
……と、こんな不毛な会話をしているうちに、お兄様が俺を呼びに来る。
「ダリィ! 朝ご飯だよ!」
お兄様(4番目)は、俺にそれだけ伝えると、長い廊下を俺のことを気にもかけず、トテトテと走って行った。
八歳になり、お父様にプレゼントされた刀を肩からかけながら。
◇◆◇◆◇
「「いただきまーす!」」
俺はお兄様とほぼ同時にそう言うと、少し硬めの黒パンに齧り付く。
パンを噛みちぎり、スプーンでスープをかきこむ。
手づかみで大皿の中の、肉の入ったサラダを掴み、取り皿に乗せる。
想像してみて欲しい。
これを3人で行っているのだ。
即ち、カオス。
ナリアさんは、この光景を見て、ため息をついている。
「……カイン様は、こんなんじゃなかったのに……」
俺は、ナリアさんがボソッとそう呟いたのを聞き逃さなかった。
まあ、確かに今日は4番目の兄様こと、カイン兄様はよく食べている。
上の兄様三人に気を使っていた……って線もありえなくはないが、そんな感じじゃない。
「そうだ、八歳になったカインには、これから竜喚士の修行をつけなければなりないな。カインは、俺について来てくれ。その間、ダリィは暇だろう。ナリアさんと一緒にお隣さんに挨拶に行くといい」
お父様は唐突にそう言うと、あっという間に消えたスープの入っていた皿を机に置き「ごちそうさま」と、静かにそう言い、席を立った。
ピリピリとした空気が流れるが、ナリアさんはそんなことを気にも留めず、着々とサラダの大皿やお父様が残した皿を片付けていった。
カイン兄様はその空気を感じ取ったのか、大急ぎでお父様の後を追いかける。
「ナリアさん、少し早目に行こうか」
「そうですね、もう準備は済ませてあります」
「……流石だね」
俺は、椅子から降り、急いで屋敷の扉を開けた。
◇◆◇◆◇
「はーい、ちょっと待っててくださいねー!」
ナリアさんが隣の家の呼び鈴を鳴らすと、15歳くらいのケモミミお姉さんが出てくる。
そのお姉さんは俺たちを見て、少しキョトンとしていたがそれを無視してナリアさんが自己紹介と挨拶をする。
「はじめまして、隣に引っ越してきたロズワルド家の者です。私は従者のナリアと申します。こちらは我が主君のご子息、ダリア様です。本日は主君は急用のため、ご挨拶できず申し訳ございません」
「これからよろしくお願いします」
俺はナリアさんに合わせて頭を下げながら挨拶すると、隣の家のお姉さんは恐縮そうに慌てふためき、家族を呼ぶ。
「いえいえ、そんな後丁寧に……ココー! 出て来てー!」
「何? お姉ちゃん……あれ? お客さん?」
「お隣に引っ越してきたロズワルドさんよ。遊んで来たら?」
出てきた、お姉さんの妹と思わしき人は、茶髪にボブくらいの髪型で頭にケモミミを生やした、美少女だった。
おそらくこの家庭はゲームやファンタジーでよくある獣族なんだろうなと思っていると、もう一人、家から出てくる。
「ココちゃん? ……その人誰?」
出て来たのはこちらもまた、ファンタジーで有名なエルフだった。こちらも美少女だが。
手には杖を持っており、耳はやはりエルフ耳。
服装はヘソだしの黒い上と、黒いスカートが印象的だ。
ケモミミの方の……ココちゃんは、白いワンピースを身に纏っている。
どちらも、おそらくは同年代だ。
胸の膨らみは……ココちゃんの方がやっぱりデカイな。
「うーん……とりあえず、ついてきて!」
ココちゃんはそう言うと、俺とエルフちゃんの腕を引いて、ズンズンと歩いて行く。
俺は、ココちゃんに腕を引かれると、抵抗することなくついて行くが、エルフちゃんは抵抗して……やがてひきづられる様な形になった。
ココちゃんと共にしばらく歩いて行くと、そのうち、大きな巨木……いや、それにしてもデカすぎる木の生えた丘が見えてきた。
◇◆◇◆◇
「じゃあ、自己紹介ね! 私はココ! この村の戦闘隊長の娘よ! 好きなものはなんでも! ほら、ミルも挨拶して!」
「……仕方ないわね。わかってると思うけど、ミルよ。聖級魔導士〈シルフ〉の娘。好きなものなんてあんたに教える気はないわ」
「ココに、ミルだな? よろしく! 俺は、ダリア・ロズワルド。ダリィって呼んでくれ!」
「うん、よろしく!」
「しっ……誰?」
「出て来なさいよ!」
エルフちゃん改め、ミルがそう言うとココもミルの視線の先、巨木の高い所を警戒する。
ミルが手から氷の鋭い石を形成し、それを放つと、黒い影が飛び降りて来た。
「チッ」
『人攫いが現れた!』
「へ?」
『人攫いが短剣を振るう』
「うらぁ!」
某超有名最新作がオンラインRPGの如く戦闘に字幕のようなというよりは、音声が出ると、その音声の通りに人攫いが短剣をココに向かって振るう。
「……弱い」
『ミルの氷砲弾
人攫いは攻撃をやめ、かわす』
「チィ……」
そう音がなると、人攫いは氷砲弾をバックステップでかわすが、そこに一筋の白い影が突撃する。
「ハアッ!」
『ココの攻撃』
ココは木の棒をもち、人攫いに殴りかかるが、人攫いは木の棒を横に弾き、ココを捕まえ、剣の腹を突きつける。
「グッ……タスケ……」
「くそっ……」
『……!?!?』
俺は走り込んで、人攫いの短剣を持つ手首をつかむ。
そのまま掴んだ人攫いの腕をココから引き離し、それを軸に両足の靴裏での蹴りを人攫いの顔面に当てる。
「イッ……」
短剣がザックリと体の下側になった俺の頬に傷をつけるが、ココを人攫いから引き離す。さらに、それとほぼ同時に人攫いが後ろに倒れた。
『……!?!?』
そのまま俺は地面に転がり込む。
さっきから五月蝿い音声が流れ続けているが、俺はそんなこと無視し、地面に落ちた短剣を拾い、人攫いの首に短剣を突きつける。
「ココ! ミル! なんか縛るもの持って来て!」
ガタガタと震えていたココを他所に、あまり動けなかったミルが巨木から頑丈な蔓で人攫いを縛る。
そこから先は、俺は意識を失っていた。




