第3話『生きるということ』
何か悪い所があれば、ご指摘ください
「アリアが……死んだ……?」
いつものように、突然帰ってきたお父様は、お兄様たちからのお母様の死亡報告を聞き、唖然とした。
お母様は3日前、突然体調が悪くなり、そのまま倒れた。
お父様が、フラッとどこかに消えてから、約1ヶ月後の出来事だった。
◇◆◇◆◇
「ナリアさん! お花摘んできたい!」
俺は、歩けるようになってからの日課である、少し遠く、小高い丘の上にある花畑への散歩をナリアさんに要求する。
「ええ、わかりました。行きましょうか」
ナリアさんはそう言って、ニッコリと微笑むと、ピクニックに使うバスケットにサンドウィッチを入れる。
「ナリアさん! 今日は、お母様にお花をプレゼントするの! お母様は、大変そうだから、お花で応援してあげるの!」
俺は、ナリアさんに元気よくそう伝える。
転生者ながら、中々の名演技じゃないか?
「そうですね。いっぱい摘んで、花束にでもしてあげましょうか。お母様、きっと喜んでくださいますよ?」
ナリアさんはそう言って、俺の手を引いていき、扉の前で護衛の兵を1人呼び出す。
「お呼びでしょうか?」
「ええ、外出するので、護衛をお願いします」
「かしこまりました! ダリィ様、よろしくお願いしますね」
護衛は律儀にそう言って、俺たちの少し後ろを歩く。
俺は3ヶ月ほど前、ついに外出をすることができた。あの時は無理やりナリアさんに連れ出されたんだっけ。まあ、今では護衛の兵がいる間だけだが、とても安心して外を歩けるから、特に問題もない。
それに、悪いことばかりでもなく、この間なんかは近づけると、俺の手の甲が光る、エメラルドのような宝石がはめられたネックレスを見つけた。
それからというもの、前世では苦手だった運動をするようになり、その1つとして長めの散歩がある。
その行き先として、少し離れの小高い丘は、綺麗な花が咲き誇る花畑と美しい眺めで、俺のお気に入りスポットの1つだ。
普段の散歩はメイドさんと護衛はあと1人づついるんだが……お母様の体調が良くないせいか、ここ最近はずっと3人だけだ。
優しいお母様が、元気になってくれればいいんだが……
◇◆◇◆◇
「着いたー!」
今日も長い道のりを歩き終えて、花畑に辿り着くことができた。
急いで、花を1人で摘んでいると……
「あなたはだぁれ?」
だが、突然聞こえた声に、ビクッとして後ろを振り返ると、そこには俺と同い年くらいか、それより2、3歳年上の女の子が立っていた。
「僕の名前は、ダリア・ロズワルド。ダリィって呼んでね!」
「ダリィ……いい名前ね! 私の名前は、マミアよ。よろしくね! ダリィ!」
「うん!」
俺たちは、友達の証として握手をしたがわマミアの様子は少し寂しそうだった。
「でも……私、もうすぐ引っ越すの。ダリィとは、もう会えないかも……」
「そんなぁ! うーん……あ! そうだ! これ、あげる!」
「なぁに? これ……」
俺は、離れてもわかるようにと、不思議なある物をマミアに渡す。
「ネックレスだよ! 近づけると、僕の手の甲が光るの! これで、離れても近くにいたら、わかるよ!」
「本当? ありがとう!」
マミアは、俺のことをぎゅっと抱きしめると、そのまま丘を下りていってしまった。
さて、花摘み続行だ。
◇◆◇◆◇
「お母様! お花を摘んで参りました!」
俺は、元気な声でナリアさんと共に、我が家という名の大豪邸の大きな扉を開ける。
「まあ! 綺麗なお花ね。また、あの丘の花畑まで登って行ったの?」
「ええ、いつも以上に、今日はダリィ様張り切っていたんですよ?」
3歳児の俺は、「えへへ」と照れ隠しをするように後頭部を掻く。
「ねえ! お母様!」
「なぁに?」
「今度、一緒にあの丘を登れない?」
「そうね……良いかもしれないわね。お兄様達もみんなを誘って行きましょうか」
「やったー!」
無邪気に喜ぶ子供(俺)に対し、ナリアさんは困ったような表情を見せる。
「奥様、しかし……」
「大丈夫よ。私は、ワイバーンに乗れば問題ないでしょ?」
「まあ、そうですが……」
ナリアさんは、お母様の体調のことを気にしているようだ。
◇◆◇◆◇
お母様の体調が急変した。容体は良くない。
この屋敷の専属医は、寝室でお兄様と一緒に話しをしている。
なんでも、熱が急激に上がって呼吸が安定しないらしい。
回復の魔法や薬を使っても、一向に良くなる気配はないらしい。
せめて、お父様がいてくれたら……
俺たち兄弟は、そんなことを思わずにはいられなかった。
◇◆◇◆◇
3日後、お母様の体調は一切回復することなく、生涯の幕を閉じた。
3日間、お母様は俺たちに絶対に人を憎まないことを約束させた。
終ぞ、一緒にあの丘の花畑まで行く、という約束は叶えられることはなかった。
◇◆◇◆◇
お母様の口癖は、「人を恨んではいけない、人を呪ってはいけない。全ては運命によって繋がれた、未知なる未来なのだから」だったか。
その口癖を体現するように、お母様は最後までお父様を恨まなかった。
だが、俺たちはそんなことは出来ない。特に、長男は最後までお母様の看病をずっとしていた。怒りも、並大抵のことでは収まらないだろう。
「アンタ、この1ヶ月、どこに行ってたんだよ! 母さんは、アンタがいなくなってから1ヶ月、倒れてもずっとアンタを待ち続けてたんだ! おい! なんとか言えよ!」
長男がお父様にそう言い放つと、お父様は下を向いて黙りこくる。
「ケッ! もう、アンタは俺たちの親父じゃねぇ。この家は、俺たちが当主として貰い受ける。悪いが、もうアンタには誰も付いてかねぇ」
「「え……?」」
それに最も驚いたのは俺と、俺と年が1番近い兄だった。
「ちょっと待ってよ! 今は、家族で喧嘩している場合じゃないよ!」
「うるせえ!」
長男はそう言うと、抗議した下から2番目の兄さんを、手で叩き飛ばす。
「アンタが、そんなんだから母さんは最も看取られたい相手に看取られないまま、死んだんだ」
長男がお父様のネクタイを掴み、引き寄せるように……そうだな、喧嘩番長のような掴み方をする。
「出てけよ、クソ親父。もう、アンタはウチでは悪魔だ。俺たちの大切な母さんを殺したも同然、さっさとウチから消え失せろ」
長男はそう言うと、お父様の腹に膝蹴りを叩き込む。
「グォッ」
お父様は腹を抱え込み、長男を睨みつける。
『我が大切な相棒を傷つけたこと、覚悟は出来ているのだろうな』
その声は、突然聞こえた。
少し深みがあり、低く、聞き取りづらい声は、お父様の声だと、数秒して理解できた。
さらに、声と同時にお父様の全身がシャンパンゴールドの鱗で包まれ、手には巨大な大剣が出現する。
『上等だ、アルフレッド。貴様には、ずっとイライラさせられてきたんだ』
その声もまた、お父様のように、お兄様から聞こえてくる。
声の質は、お父様よりは高いが、それでもかなり低い方だ。
お兄様の姿は、あの時見た竜人の姿になり、太く、鋭い爪が指を包み込む。
『グオオオオオオオオオオオオオオオン』
『グルラァァァァァァァァァァァ』
2人の間に、火花が散った……が、それは、直後に2人の竜人によって止められた。
『落ち着け、インフェルノ。まだ時ではない』
『そうだ、アルフレッドも堪えろ』
2人は、それぞれ別の竜人に羽織い締めされ、抑えている2人と、怒り狂う2人の竜人の姿が、人間の物に戻る。
「……」
「……」
お兄様とお父様、両者無言の睨み合いが続く。
「わかった……出て行こう。だが、これだけは伝えさせてくれ。
……子供たちよ。
俺が父親で、ゴメンな」
お父様はそう言うと、大きな荷物を4つ抱えたナリアさんから荷物を1つ受け取り、残りの3つを巨大な竜の鞍の上にロープで固定する。
そのまま俺たち3人を鞍の上に引き上げ、ドラゴンは大きく翼をはためかせる。
俺は、お父様が謝った瞬間に泣きだした上のお兄様3人が、強く印象的だった。




