第8話:動的合成と、空を覆う眼
遺跡から地上へ戻った俺たちを待っていたのは、歓迎の宴ではなかった。
「出たな、小賢しいネズミ共!」
待ち構えていたのは、王都の密使と、彼らに買収された森都の温存派の私兵たちだ。
しかも、彼らの装備は異様だった。全員が目を覆うような布【遮眼幕】を被り、手には奇妙な杖を握っている。
「貴様の能力は、すでに我々の『観測』で割れている! “視る”ことで魔法を模倣し、合成するのだろう? ならば視線を遮り、この【反合成鍵】で術式の結合を阻害すれば、貴様はただの無力な――」
密使が杖を振り上げると、空間が歪み、俺の頭の中にエラーメッセージが鳴り響いた。
『警告:術式の結合が外部干渉により阻害されています』
「迅! 魔法が……形にならない!」
リアナが不安げに声を上げる。確かに、これまでの「A+B=C」という固定化された合成プロセスでは、途中の結合部分をジャミングされて霧散してしまう。
「……なるほど。メタ対策としては及第点だ」
俺は笑みを浮かべた。
「だけどな、エンジニアを舐めるなよ。結合プロセスを固定するから邪魔される。なら、常に変異し続ける流動的なプログラムにすればいい」
(【基盤プロトコル】を軸に、ストックした全術式のパラメータをミリ秒単位でランダム変動させながら合成・展開を繰り返す!)
――合成完了。【動的合成】。
俺の手のひらから放たれたのは、炎でも氷でもなく、万華鏡のように性質を変化させ続ける光の奔流。
ジャミングの周波数を常に置き去りにしながら、光は私兵たちの杖だけを正確に溶かし、彼らの足元を泥に変えて拘束した。
もちろん、今回も一切の流血はない。
「ば、馬鹿な……対策は完璧だったはずだ……!」
「お前らの“観測”は、アップデートが遅いんだよ」
腰を抜かす密使たちを前に、リアナが凛とした足取りで進み出る。
「王家の名において宣言します! 森都の不当な裏取引に関与した者たちの、一時停職と財産凍結を命じます!」
その宣言は、魔導拡声器を通じて森都全域に響き渡った。
旧態依然とした権力構造が崩れ去り、新しい秩序が生まれた瞬間だった。
だが――。
「迅、あれを……!」
リアナが震える指で空を指差す。
森都の上空、雲を割って現れたのは、都市を覆うほど巨大な『円環と眼』のホログラム投影だった。
『――特異点の無限循環を確認。これより、該当地域の確率固定を開始する』
空に浮かぶ巨大な目が、無感情に俺たちを見下ろしていた。
王都の腐敗は、単なる表層のエラーに過ぎない。この世界そのものを管理し、停滞させようとする不可視の監督機構『観測者』。
本当の戦争が、ここから始まろうとしていた。




