第13話 レティシア・レッドフォードの昼①
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Side:リディア
お菓子の品評会から1時間ほどが経過していた。
私とアディはレッドフォード社お菓子支部を後にし、移動車に乗り込み次の目的地である服飾支部に向かっていた。その途中、アディが移動車を道の端に止めると一軒の屋台に向かっていった。店主とは知り合いなのか、楽しそうに話しているのが反対の後ろの窓から見えた。
私はベルトを外し、少しシートに身を乗り上げ屋台を見てみる。どうやらその屋台は”蒸しパン”を提供している小さな露店のようだった。
豆と砂糖を茹でて作られた餡が入っているお菓子系の蒸しパンから、モンスターのお肉が使われている惣菜系蒸しパンまで、色んな蒸しパン料理が提供されているようだった。
さっきたくさんのお菓子を試食したけど、なんとかは別腹って言葉が他国にはあるって聞いたもんね。
アディは私の分も買ってきてくれるかな。さっき食べたでしょ!って怒りそうな気もするけど。
「肉蒸しパンうまうま!少し甘味のあるしょっぱいソースとお肉の脂がいい塩梅!パン生地のもちっと触感がお肉とよく合う!」
「でしょでしょ?あそこの肉蒸しパンは絶品なの!」
停車中の移動車の中、2人で肉蒸しパンを食べる。お菓子をたくさん食べた後だったけど、アディは私の分の蒸しパンも買ってきてくれた。
「あのお店のお姉さんと、アディはお友達なの?」
「お友達、というより常連と店主って感じかしら?アタシがレッドフォード社を継いだくらいからの知り合いなの。」
「へえ。そんな昔からの知り合いなんだ。」
店主のお姉さんはアディと同い年くらいかな。綺麗な栗色の髪と琥珀色の瞳で、小動物を連想するような小柄さとぱっちりとした目。先ほどから男性客が続けて屋台に訪れているのが見える。同じ女性から見ても、可愛らしいと思うタイプの出で立ちをしていると思う。
…私は立派な女性でしょ?アディは小娘って言ってくるけど!
アディに渡された袋の中から、1つ蒸しパンを取り出す。切れ目に沿って紙の包装紙を破り、食べやすいように出してアディに渡す。
「はいアディ、さっき買った肉蒸しパンだよ。」
「ありがとー。移動中の食事はこれに限るわね。」
アディはあぐっと大きく蒸しパンにかぶり付いて咀嚼をする。アディの大きな口に沿って、蒸しパンが弧を描いていた。しばらくもぐもぐしていたかと思うと、ごくっと飲み込んで口を開いた。
「昔からお世話になっている子だから、アンタも一緒に連れて行って紹介すればよかった。」
「あの人には、私のこと伝えてないの?」
「ああ、養子迎えたって話はしたわよ。レティシア・レッドフォードっていう小生意気で暴食漢の女の子って。」
「ちょっとアディ!」
「あはは!嘘嘘!魔法が使える可愛い女の子って言っておきました!」
暴食漢って!自覚はあるけど、人に言っていいことでは無いと思う!
「さてと。出発するから、こぼさないように気を付けて食べなさいよ。ベルトしなさい!」
「はーい。」
私は残りの蒸しパンを口に詰め込み、ベルトを引っ張って体に固定する。それを確認したアディはエンジンを付け、移動車を発進させた。
窓から見える街並みが、映像のように変わっていく。私はそんな景色を眺めながら、口の中にある残りの蒸しパンを懸命に咀嚼した。
「あの、レティシア・レッドフォード、です。よろしくお願いします。」
「キャー!可愛い!レティシアちゃんって言うんだ!」
「社長が養子迎えたの、本当だったんですね!可愛い~!」
「そうよ!今日はその子、好きに扱っていいから!」
レッドフォード社服飾支部にて、私は複数人のお姉さんに取り囲まれていた。代わる代わる抱っこされ、可愛いと撫でられて、ほっぺをもちもちされて、悪い気はしない。
アディの事業の中心部はこの服飾関係の部分だと聞いている。かつて化粧品会社だった時のノウハウを復活させ、現在は大人から子供まで扱える化粧品も取り扱うようになったのだとか。
「さてと、まずは次のシーズンの子供向けドレスからね。レティシア、レビューよろしく!」
アディは片手に資料、片手にサンプルらしき衣服を持ちながら大きめなウィンクをした。お洋服のことは詳しくないけど、思ったことを素直に言えばいいかな。
今回は聖女様モードにはならないよ。他の人もたくさんいるからね。
「これはリボンが足りない気がする。この横のラインにもっと付けていいと思う。」
「足に引っかかって危なくない?」
「意外と長くないから引っかからないと思う。ちょっと歩いてみるね。」
「この色は少し大人っぽくて子供向けじゃないと思う。もっと明るい色のほうが目を引く。」
「ほんと?この色一応来期のトレンドなんだけど。」
「じゃあ、そのままでもいいかも。子供視点だと、落ち着いて見えたから。」
「袖のフリル、邪魔かも。手首に引っかかる感じがする。でも、フリル自体は可愛い。」
「じゃあフリルの長さは調整が必要かな~?他には?」
「特には。デザイン、可愛い。」
アディの部下のお姉さんたちに着せ替えられ、服を当てられ、思ったことを口にする。途中、アディが何か言いたそうにこっち見てたけど、気付いていないふりをした。
(アンタ今回は大人しいのね!)
(聖女様モードはアディが特別だからやるんだよ。)
(何言ってんのこの小娘。)
しばらくして、アディと社員のお姉さんたちだけで会話の輪ができていた。お仕事の話をしてるみたいで、私は邪魔にならないよう近くにあった椅子に座って一息ついた。
辺りをキョロキョロしてみたり、ハンガーラックに掛かっている色とりどりの洋服を眺めてみたり、興味は絶えないし座って周りを見るだけでも新鮮で楽しい。
「レティシアちゃーん。」
「…ん?」
小さな声で、誰かに呼ばれた気がして辺りを見回す。こっちこっち、と言う声を辿って顔ごと視線を移動させると、1人の女性社員が手招きをしていた。
(あの人は確か、このメンバーの中で一番の新人のシンシアという人だったはず。)
私は椅子から小さく飛び降り、シンシアの元に駆け寄った。
「どうしたの?」
「ねえねえ、メイクに興味ある?」
「メイク…。」
メイク、化粧。
ファンデーションやリップを塗って顔を装飾すること。
顔や体の一部に色を付けて、美しく見せる技術のこと。
大昔、まだ私が聖女として人前に出て神託を授けたり交流している頃に、何度か女神官にしてもらった記憶がある。今とは全然技術が違うけど、やることや目的は今も昔も変わらないらしい。
あの頃はただそういうものとして何も考えずに化粧を施してもらっていたけど、今は少し違うかもしれない。
というのも、アディが毎日化粧している姿を見ているから。アディが化粧をしている様は、まるで絵を描いているように優雅で、何より楽しそうに見えた。実際、アディも化粧をすることは楽しいし、毎日のモチベーションになっていると語っていた。
「お化粧、興味ある…。」
それなりの声量で言ったはずなのに、私の声はか細く消えていった。




