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56 アイリの処遇

 リュウが中心となって提案した共同戦線については、おおかた話がまとまりつつあった。地下室は一種の興奮した空気で満たされている。ただ、作戦を実行するにはまだ考えなければならない問題が残っていた。それを口にしたのはロウシュだった。

「私が代表となるのはいいが、アイリはどうする。そもそも私はアイリの護衛としてここまで来たはずだが」

 えっ、と驚きの声をあげたのはサガンとホウだった。どうやら初耳だったようだ。

「マナの宗主を務められるような方が、少女の護衛、ですか」

「宗主と言うが、便宜上そのように名乗っているだけで、そなたらが思うような立場ではないのだ。従者にしても、本来は私を崇める必要などない。マナのもとには平等なのだから」

 それにしては尊大な態度だよな、とは後のリュウの言だ。ホウは話の矛先をアイリに向けた。

「お嬢さんは、そこまでしてこちらへ来たかったの?何のために?」

「そりゃいろいろ込み入った事情があんだよ」

 いきなり水を向けられて戸惑うアイリの代わりにリュウが応える。それが気に入らなかったのか、ホウがつっかかってくる。

「どうしてあなたが代わりに応えるんです?だいたいあなた方は秘密主義が過ぎるのでは?もしやこんな小さい子を利用するために連れ回してるんじゃないでしょうね」

「はぁっ!?アンタ……」

「お父さんのことを、調べにきたの」

 棘のある言い方に思わずリュウが言い返そうとするのを遮るように、アイリが震える声で言った。

「お父さんが、死んじゃう前に、こっちでお仕事してたみたいだから。事故だったって、言われたけど、本当のことが、わからなかった、から……」

 声を詰まらせながら、そこまで言うのがやっとだった。しゃくりあげるように泣き出したアイリの肩をユウリが抱き寄せる。こちらへ来て聞いた父の話を思い出してしまったのだろう。泣くアイリを見て、ホウは少なからず動揺したようだ。

「ご、ごめんなさい。責めるつもりじゃなかったんだ」

 眉尻を下げると、もう先程の強気な態度はなりをひそめた。リュウはひとつため息をつく。

「あのさ、ホウ。共同戦線を言い出した手前、そのために開示すべき情報は提供してるつもりだよ。情報ってのはね、何でもかんでもオープンにすればいいってもんじゃないんだ。アタシらはアンタたちにしてみれば余所者だから、信用しきれない気持ちもわかるけど、それはお互い様だと思わないかい?アタシはそのリスクを見込んででもアンタたちと手を組んだほうが有利だと思った。だからこその共同戦線なんだよ」

 リュウも怒っているわけではなく、諭すように静かに語った。おそらくホウをはじめ、泉守の人々が余所から来た人間と手を組むということは今までなかったのだろう。だから勝手がわからず、不審も抱く。その気持ちも理解した上で、共に動くための最低限の信頼関係は築かなければならない。うなだれてしばし考えこんだ後、ホウはつぶやいた。

「あなたが言うように、僕らももう少し柔軟になるべきなんでしょうね」

「一応、今は運命共同体だからな」

 この件に関してキジはノーコメントだった。話に加わるかどうかは気分次第のようだ。

 話がずれてしまった。本題はアイリの処遇についてだ。これに関してはまだ何も解決していない。

 そもそもアイリは都に入るところまでしか考えていなかった。さすがに街から街までを子ども一人で移動するのが無謀なことはわかっていたが、都にさえ着いてしまえばどうにでもなると思っていた。だが実際はロウシュが諭したように、都に入れば安全などということはない。むしろ人が多く、出入りも激しい分危険は増しているとも考えられる。保護する人間は絶対に必要だ。

「そういうことでしたら、このサガンにその役を引き継がせていただけませんか?」

 ずっと成り行きを見守っていたサガンがそう名乗り出た。皆が一斉にサガンを見る。彼は注目を集めたことで赤面しつつ、つっかえつっかえ言った。

「あ、いえ、私一人でロウシュ様の代わりが務まるとは、思っておりません。ですが密に連絡を取り合っている、他の従者もおりますので、力を合わせればなんとかなるかと」

「いや、アンタ一人でもなんとかなるとは思うけど」

「いえいえ……」

 リュウは微妙な表情でユウリを見た。腕の中で縮こまっているアイリもだいぶ落ち着きを取り戻したようだが、話の成り行きに不安そうな顔をする。何か大事になってしまう予感がする。そんな空気を読んだのか、ロウシュがひとつ咳払いする。

「サガンが引き受けてくれるなら頼もしい。護衛といっても私が何か特別なことをしていたわけではない。念のため私の護符を預けよう。アイリに不安がないようならこれが最善だと思うが、どうか?」

「アタシもそれでいいと思う」

 ユウリの腕越しに早口で言う。大事にされては余計に居心地が悪い、という思いが顔に出ている。

「よし、じゃあ話はまとまったな」

 その場を区切るようにリュウが言った。

「各々、行動を開始しよう」

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