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53 情報屋の攻防

 ユウリはリュウとログの手元を交互に見た。これがログが情報屋であることを示しているのだろうか。

 行商たちが情報屋を兼ねることがあることは覚えていたが、ユウリがその取り引きを実際に目にしたのはジオウとの一件のみだ。そもそも本業ではないし、情報の質によって収益もバラバラなのでリュウも積極的に売買しているわけではない。はじめにも言っていたが、リュウが情報を売る相手はもっぱらジオウだ。行商の旅の間に手に入った情報を、薬種の仕入れついでに売っているに過ぎない。よってユウリはその取り引きを詳しく知っているわけではなかった。容易に口を挟めるものでもないのでただ成り行きを見守る。

「アンタ、北から来たんだろ?山側の街道を通って。いつこっちに着いたんだい?」

「今朝だよ。ここは入門に時間がかかって困るね」

 しばし考えた後、リュウは手持ちの財布から紙幣を取り出した。

「手付金だ。あとは内容による」

「いやぁ、なかなか気前がいいじゃないか」

 リュウから紙幣を受け取ると、ログは掲げた封筒を渡した。どうやらこの中にリュウが今しがた買った情報が入っているということらしい。

 封筒をその場で開封し、中に入った紙片を取り出す。そこに書かれていた内容を目で読むと、リュウは眉をひそめた。

「一体どこで仕入れたんだい?こんな情報」

「山間の宿場さ。猟師がいてね」

 難しい顔のまましばし考えこむ。リュウの手元は見えないので、書かれた内容はわからない。

 考えがまとまったのか、顔をあげるとリュウはログにさらに紙幣を渡した。

「アタシが払えるのはこれだけだ。情報の信憑性の評価込みでね」

「なるほど。勉強になるよ」

 リュウは渋い顔だったが、ログは満足したようだった。用は済んだとばかりに立ち去ろうとするログにリュウは付け足した。

「この情報、あまり売れると思わないほうがいい。アンタが良心のある行商ならね」

「?……忠告、と受け取っておくよ」

 一瞬不審な顔をしたログだったが、そこまで気にした様子はなかった。今度こそ雑踏の中へ姿を消した。

 息を詰めて成り行きを見守っていたユウリは、ログの姿が見えなくなるとぷはっ、と息を吐いた。するとリュウに不思議そうに見られた。

「どした?ユウリ」

「いや、油断すると変なことを訊いちゃいそうだったから、黙ってることに集中しすぎた」

「ははっ。出たよ、ユウリの真面目癖。アタシは好きだけどね」

 先ほどまでとは打って変わって砕けた様子のリュウに、ユウリは安心した。それからしばらくは関係ない話をしながら歩いた。

 周りに人の目がなくなったころ、ユウリはログのことに話を戻した。

「あんな風に気軽に情報を売り買いする行商もいるんだな。それともリュウが特別少ないのか?」

 水を向けてみると、リュウは微妙な顔をした。

「うーん、正直あのログって奴は情報屋としてはほとんど素人だと思うよ」

「えっ、そうなのか?」

 意外な返答にユウリは驚いた。先ほど見ていた限りでは随分手慣れた取り引きに見えたのだが、リュウの見解は違うようだ。

「まず、アタシにどこから来た行商なのか看破されてるのに、それを気にする風がなかった。情報の対価を左右しかねないのに」

 情報は「どこからのものか」というのも重要だ。その情報の鮮度をはかるうえでも、また情報の内容を類推するにも。看破される情報が多ければ、売る情報の価値は下がる。

「そもそもアタシが払った対価もそんな大金じゃない。あの程度で気前がいいなんて言うのは、他の取り引きでも足元見られてるってことだよ。いくらいい情報を仕入れたって、買い叩かれてたら意味がない」

 思い返してみれば、リュウがジオウに売った情報の対価は今のユウリの旅装と食事の補償だ。先ほどリュウが払った対価の何倍にもなる。実際、ユウリはこの旅の間、何度となくジオウが渡してくれた札に世話になっている。旅費が限られているユウリには大変ありがたかった。これに関してはジオウの気前よさが破格というのもあるのだろうが、ログが情報を買い叩かれているのも事実だろう。

「じゃああのとき最後に言っていた忠告みたいなことは、暗に情報屋は向いてないってことを伝えてたのか」

 正直、あのリュウの発言には少しヒヤリとしたユウリだった。言葉に棘があるように感じたのだ。しかし一人納得したようなユウリにリュウは否、と言った。

「あれは情報の内容に対して言ったんだ。あまり悪人には見えなかったけど、一応な」

「?」

 その肝心の内容を知らないユウリは首を傾げた。いつの間にかリュウは、先ほどログに見せていた渋い顔に戻っていた。周囲に人がいないことを改めて確認し、さらに声を落とす。

「情報の内容はこうだった。ヒオリ山脈の万年雪が溶けている」

「万年雪……?」

「標高が高いから、夏でも雪が溶けずに残ってんだよ。それが溶けたってんなら大事だ」

 ユウリにはまだそれがどういうことなのか理解できていなかった。だがリュウの表情を見れば深刻なことはわかった。リュウはさらに言葉を続けた。

「アタシがアイツから情報を買う気になったのは、北から来たらしいとわかる旅装だったからなんだ。そしたらドンピシャの情報持ってやがった。ヒオリ山脈ってのは、ヒュウゴウがねぐらにしてる山だよ」

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