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36 アイリの旅支度

 いよいよマナを出て、都を目指す準備が始まった。道のりはユウリたちがマナに来た道を戻るのでは遠回りになるので、別の道を使う。それはマナが国有地となったときに、都と繋ぐためにつくられた道だ。一般に使われる道ではないので、街道を中心とした地図には載っていない。行商として様々な地を旅してきたリュウでも、その道の存在は話にちらと聞いたことがあっただけだった。どんな荒れた道なのかと思えば、都から官職の者が来るときにも使うということできちんと整備はされているようだ。

 何はともあれ、一番準備が必要なのはアイリだ。都に行けることが決まって浮かれているが、旅装も何も整えずに出てきてしまったので、最低限のものを揃える必要がある。とはいっても、このマナには商店のようなものはない。住人たちは生活に必要なほとんどのものを自給自足でまかない、たまに都から流れてくる行商からそのときどきに必要なものを手に入れて生活していた。それもほとんどが物々交換であったり、寝食を提供した見返りとして得たりがほとんどだ。だから貨幣経済はほとんど発展していない。リュウが今回の寝食の礼として荷を少し分けるとたいそう喜んでくれた。ユウリには渡せるものがなかったので、薪割りや掃除を手伝った。そんな具合なので、物を買い揃えるというのは難しいことだった。せめて旅装だけでもなんとかならないか、はじめの日に会ったリアナに相談してみると、子供向けの道服と薄手のローブを工面してくれた。

「ありがとう。とても助かりました」

 ユウリが言うと、リアナは屈託なく笑った。

「いえいえ。困ったときはお互い様です。私たちも、皆さんが来て楽しいですし。他所からのお客様なんて久しくありませんでしたから」

「そうなんだ」

「ええ。いつもなら都の方からの来客がいくらかあるのですが……」

 少し寂しそうに言いながらも、それほど気にしている風ではない。基本的には、都とはつかず離れずくらいの関係性を保っているように見える。しかし、都からの人の流れも止まっているというのは初耳だった。これも一連の異変と何か関係があるのだろうか。

 ユウリがリアナから預かったものを運んだのは、ユウリたちが寝床として借りた小屋だった。今はそこでアイリが荷物をまとめている。

「本当に、アイリの向こう見ずには逆に感心するよ」

 扉を開けてはじめに聞こえたのは、そんなリュウの呆れた声だった。手元で荷物をまとめながら、アイリは反論する。

「しょうがないでしょ。あなたたちを追いかけるには時間がなかったんだもの。とにかく合流できたら、後のことはそのときに考えようって思ったの」

「それが向こう見ずだっつってんだよ。だいたい他力本願すぎるだろ。甘えんなよ」

 リュウに叱られて顔を膨らますが、それでも機嫌をそこねたわけではない。とにかく自分の主張は通ったので満足なのだろう。

 しばらく戸口に立ってその様子を見守っていたユウリだったが、そうしているわけにもいかないのでアイリへと歩み寄った。この預かり物をアイリに渡せば、甘やかしすぎだとさらにリュウの機嫌を損ねるのではないか、と思うとひやひやした。

「これ、リアナさんが工面してくれたんだ。旅装として使って」

「わぁ、すごい!ありがとう」

 歓声をあげてそれらを受け取るアイリ。それは子どもらしい素直さなのだろうが、旅の同行者としては不安のほうが大きい。ユウリもまた複雑な心境でアイリを見ていた。すると背後からリュウの声がした。

「礼を言う相手が違うだろ、アイリ」

 茶化すでも、呆れるでもない静かな声。さすがのアイリも、これはちゃんと聞かなければならないと思ったようだ。手を止めて、リュウと向き合う。

「もちろん、ユウリがリアナに話をつけてくれて、こうして用意してくれたことへの礼はしとけ。それは本当ならお前が自分ですべきことだったんだから。でも、その服を工面してくれたのはリアナだ。お前がちゃんと旅装を準備していればかからなかった手間をかけてくれたんだ。そこへの感謝は本来、いくらしてもし足りないくらいのものだぞ。相手は断ることだってできたんだ」

 リュウは今、アイリを子どもとしてではなく、旅の同行者として話しているのだった。アイリが今まとめている荷物の中に、アイリ自身で用意したものはほとんどない。鞄はリュウが予備に持っていたものだし、食糧はマナで分けてもらった保存食だ。

「お前は旅を簡単に考えてはいないと言ったが、旅装を整えるだけでこれだけの人間に手間をかけさせている。自分じゃできないことがあるのはしょうがない。だかそれを肩代わりする人間への感謝だけは忘れるな。でなきゃとてもじゃないが、旅なんてまかり通んねぇんだよ」

 厳しい言葉ではあったが、そこにはリュウの実感が多分に込められていた。これから道を同じくする以上、アイリにはどうしても言っておきたかったのだろう。

 リュウの言葉は真剣だった。それと同様にアイリも真剣に受け止めたようだ。そこは宿屋の娘としていろんな人の話を聞いてきただけはある。これはちゃんと聞くべき話だと、ちゃんとわかっているのだ。

 話を聞き終えると、アイリは居住まいを正した。そして。

「ごめんなさい。そしてありがとう」

 アイリが謝ったのはこれが初めてだった。少し顔が赤いのは、気恥ずかしいからかもしれない。

「アタシ、こんなだけど一応、あなたたちには感謝してるつもりなの。これでようやく中央へ行ける。あなたたちがいなかったらできなかったことだから」

 リュウがアイリを子ども扱いしなかったことで、アイリもそれに応えようとしているのがわかった。アイリは顔を引き締めて言った。

「アタシ、リアナさんにお礼を言ってくる」

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