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21 峠道

 足元を気にしながらの旅はやはり過酷なものだった。地下を通ったグイルがその上の街道をそっくり沿っていったはずもなく、ところによっては街道の端であっても崩れている。路肩に迂回できればいいが、逃げ場がない場合はやむを得ず踏み越していくことになった。下が空洞になっているのだから、盛り上がっている場所はいつ崩落してもおかしくはない。先を行くリュウが足で探って安全そうなところを通り、ユウリたちはその後に続く形でなんとか通りすぎる。崩れたせいで砂埃が舞っていて、喉や目がいがらっぽい。

 昼前頃には、平坦だった街道が坂へと差しかかる辺りまで来た。グイルが通った跡は、ちょうどその辺りで途切れていた。どうやらそこまでは山の中を進んできたようだ。アオガがその痕跡を見て思案顔になる。

「あのグイルは、山向こうの水脈から迷いこんだということか。地下に潜りきれずに街道を裂いたか……」

 ブツブツと呟く声はユウリには聞こえたが、おそらくその前を行くリュウには聞こえていない。ある意味ユウリが緩衝剤になることで問題なく進むことができている。ユウリも今となってはアオガとリュウが邂逅することはなかば諦めている。

 リュウが先に言っていた通り、上り坂に転じた街道はその斜度をどんどん増していた。コウル山という急峻な山を越える峠道で、途中に宿場は存在しない。あくまで街道なので馬車でも通れるように整備はされているものの、斜度がきつくなりすぎないように切り返しの多い道になっているので、歩いて越えるには相当の時間がかかる。峠を越えた向こうの麓に小さな宿場があるので、今日中にそこまでたどり着くことが目下の目標だ。もし着けなければ今夜こそ野営を張らねばならない。アオガもいるのでそれはできるだけ避けたい。

 ユウリの後ろでブツブツと独り言を言っていたアオガも、坂がきつくなったのか静かになった。リュウは歩を緩める様子はないので、必死についていくしかない。遅れれば置いていく、と言い渡されていることもあり、今のところ音を上げずについてきている。何度目かの切り返しに差しかかったとき、リュウが昼休憩を宣言した。そこは長い坂で馬を休めるための車止めがあり、少しばかり道も広くとられている。今馬車が行き来することはないだろうが、念のため端に寄って敷き布を拡げる。

 宿場がないことはわかっていたので、先ほどトウキで昼食を買いこんでいた。街の特産である赤い豆と少し辛味のある香草を炒めたものを、平たく焼かれたパンで巻いてあるものだ。香草が入っているので多少の持ち歩きでは傷まないのと、片手で簡単に食べられるのとで、旅人向けの屋台が門の近くで売っている。甘く炊いた芋も一包み買ったので、三人で分けて食べる。

 辛いものが平気なリュウは大口で頬張っているが、ユウリは少しずつ噛みしめながら食べることになった。そこまで辛味が強いわけではないのだが、独特の風味と相まって鼻の奥がつんとする。途中で挟む芋の甘味が口に優しくてほっとする。アオガはどう感じているのか、ただ黙々と食べている。

「さて、ちょっと休んだら出発しよう」

 三人とも食べ終わると、片付けを始めながらリュウが言った。あまりのんびりはしていられない。

 鬱蒼と茂る木々に遮られて日差しはほとんど届かない。時間はおおよそで推測するしかないが、中天を少し過ぎた頃と思われた。三人は再び坂を登り始めた。木陰を歩いているとはいえ、上り坂であるし季節的にも気温は高いしで汗が滴り落ちる。ユウリは薄い上衣を用意してくれたジオウに改めて感謝した。しばらく歩いて、ようやく峠に辿り着いたときには日は大分傾いていた。ここからはほとんど下り坂となるが、やはり少し急いだ方がよさそうだ。先を見据えたリュウが、数刻振りに後ろのアオガを振り返る。

「なぁ、これは別にアンタが憎いから言うわけじゃないんだけどさ、アオガがアタシたちと同道するメリットってほとんどないんじゃないか?」

 リュウの方から話しかけられたアオガは驚いたように目を見開いた。

「やはり、オイラがいては足手まといということかね」

「いや、そうじゃない……って否定もしきれないけど、アンタの目的って異変の調査なんだろ?アタシらは先を急ぐし、悠長に調査してるアンタを待ってる気もない。だったらアンタは単独で動いた方が好都合なんじゃない?」

 アオガの言を信じるなら、先のグイルの一件も異変のひとつということになる。本来それを調べるのが目的であるはずのアオガはしかし、リュウのペースについてくるのもやっとという有り様だ。これは客観的にみても相性が悪いと思えてならない、というのがここまで同道してきてリュウが感じた実感だった。それをこの場で突きつけたのは、宿場に着いてしまう前にはっきりさせておこうというリュウの思惑だった。人の多いところであまり揉めている姿は見せたくない。

 アオガは今までと同様に口の重い様子で頭をぽりぽり掻いた。

「うーむ、オイラとしては、一人旅では中央の近くまで行くのが難しそうだと思って同道を願い出た。はじめは本当に純粋にそう思ってたんだが……これを言ったら話が違うと言われそうだが」

「なんだよ」

「実は、お二方にオイラの師匠に会ってもらえないだろうかと、思いはじめたところなのだ」

 リュウとユウリは顔を見合わせた。アオガの本当の目的は何なのか。それはもう少し詳しく話を聞いてみないことには判断がつかなかった。そしてここで話を聞いているような時間的余裕はもうないことも事実だった。結局、三人は連れだって宿場へと向かうことになった。その宿場に着いたのは、日もすっかり沈んだ頃のことだった。

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