破滅への序曲
「ねぇゴズ。あんたラスフィー何とか出来ない?」
トロンは顔を顰めながらそんな事を口にする。
その位、トロンはラスフィーが苦手だった。
カップ王国の魔王ラスフィー。
その名前はトロンにとって、弱小国クラウン王国にとってはもはや怨敵にも等しい。
傍の大国というだけで苦しむのは当然なのに、正しく強い最善の魔王なんてのだからもう手の付けようがない。
ラスフィーは他の魔王と異なり、最初から魔王となるべく生み出され、魔王となるべく育てられてきた。
このカップ王国のみ、他の国と異なり代々一族のみで魔王を選出している。
ワールドレリックである杯に選ばれないと魔王になれないという制約があるにも関わらず。
その制約に対しては、非常に簡単な方法で解決している。
レリックに選ばれる様最初から教育していけば良いという、道徳を無視した力技的な方法で。
それは教育とは決して呼べない。
それは、育成と洗脳を繰り返す拷問と呼ぶべき所業であった。
どういう風にマスターを選出しているかわからない。
だがこの一族は『品性方向で王としての誇りを持ち、国を心より愛すれば選ばれない訳がない』という頭お花畑な方法で代々受け継ぐ事に成功している。
その狂いきったに似非教育を一族はずっと受け継ぎ続け、その最高最善の成功例こそが、カップ王国当代魔王ラスフィーであった。
拷問の様な訓練にも折れず、何も楽しい事のない幼少期にも性根が曲がらず、常に向上心を持ち、民の事を第一に考え、世界平和を真摯に願う。
最悪最低な環境の中清く正しく真っ当に育ったというある意味において化物みたいな精神性をラスフィーは会得した。
両親は我らの教育が良かったからなんて思っているが、実際は泥に浮かぶ蓮である。
外見は完璧なまでに王子様で、ダンスパーティーを開けばパニックになり暴徒が生まれる為一切開けなくなった位には女性がほっておかない。
戦闘能力はゴズ一歩手前、つまりこの世界においての超が付く一流。
内政は諸々の仕事の片手間だが、それでも専守防衛+内政特化のトロンに並ぶ程。
兵の扱いにも長け、調練から指揮まで全て一人でこなす。
善良だからといって汚い手段が使えない訳ではなく、必要があるなら己だけでなく部下にさえも命を捨てる様命じる覚悟も持っている。
そして当然、民からも兵からも家族からも、国内の皆に愛されている。
つまるところ、本来物語上にしか存在し得ない理想の王様。
それがカップ王国の魔王ラスフィーである。
トロンは彼に対し本気で苦手意識を持っている。
憎んでいるとさえ言っても良い。
戦争状態の怨敵であるからというのもあるが、それ以上に完璧過ぎるからだ。
妬みの部分があるのも否定できないが、純粋に気持ち悪かった。
諜報活動でラスフィーがどういう環境で育ったか知った。
実の親にどれほど酷い目にあわされたのか理解した。
キラキラした目で『お前の為だから』と言いながらようやく立ちだした子供に剣を握らせ全身骨折になるまでボコボコにしたり『貴方はもっと出来るから』と言いながら子供時代遊ぶ他の子をよそ目に二十四時間走り続けさせられたり。
これまで読んだ本は全て学術書で、学んだ授業は全て王となる為。
王でなれない貴方に価値はないと親族全員に言われ、食事さえも栄養のみを取れる不味い物。
これだけの目に遭ったら普通闇堕ちして性格逆転する。
トロンは自分だったらまず親族全員を拷問に処す所から始めるだろうと自分を分析した。
だからこそ、無理だった。
優れた容姿、優れた才能、文字通り弛まぬ努力に無償の愛。
完璧すぎて気持ちが悪い。
同じ魔族にさえ見れなかった。
とは言え、トロンの個人的な好感は関係ない。
問題となるのは自分達と絶対に仲良く出来ない強大な国に完璧過ぎる王が居座った事の方。
恐ろしく強大な敵に対してどうするか。
こればかりはクロスにさえも任せられない。
国を亡ぼすというのは、単独では出来ない。
いや、してはいけないと言った方が良いだろう。
国の総力を個人が覆した世界になれば、国という概念そのものが崩壊しかねない。
それは、魔王トロンが望まない世界である。
だから、トロンはゴズに対し尋ねたのだ。
外の国の存在で、そして世界で最も卑怯な元魔王であるゴズに。
「あん? いきなりどうした」
「私あの完璧さん苦手なのよ」
「女にしちゃ珍しいな。とは言えここならそうなるか。んで、それで?」
「いや、あれがいなくなれば多少楽になるから何とかならないかなって。ゴズはアレに飲まれず割と好き放題してたみたいだし」
「まあ……そうだな。何とか出来たらしたいわな」
「やっぱりあんたにも無理か」
「そうだな。俺には無理だな」
ニヤニヤした顔で、どこか意味深に。
流石にそれだけ露骨ならその意図もトロンは読み取れた。
「……クロスなら何とかなるって事?」
「というか何とかする必要さえないって感じだな」
「どういう事?」
「感じさせりゃ良いんだよ。ああ、感じるって言ってもセックスしろって意味じゃ――」
「わかってるわよ! というか男同士じゃない!?」
「穴がありゃ何でも――」
「そっちの話はどうでも良いから! それで、感じさせるってどういう意味よ。ふざけたらぶん殴るから」
「だから拳壊すから止めとけって。まあ、あの野郎は、ラスフィーの野郎は誰よりも積み重ねて来たからああなんだってのは分かるよな?」
「わかるわよ。わかりたくないけど」
「そう。あの野郎は訳わからん努力を誰よりもしたからあの地位にいる。それが一つの自負であり誇りだ。――だから、クロスという存在を見たら終わる」
「……説明して」
「誰よりも努力って部分があの野郎の軸だからこそ、壊れるだろうさ。一体どんな過去かは知らんし知りたくもないが、クロスの過去はラスフィーなんざよりよほど濃く深い。動き一つの習熟度でわかる。努力だけで見てもラスフィー以上だ」
ゴズの言葉を、トロンは話半分にしか受け止められない。
ラスフィーの苦労を知るからこそ、そんな訳がないと無意識に思い込んでいた。
「いや、そんな馬鹿な……例えそうだとしても見るだけ程度じゃ……」
「そりゃあんたが本気の努力で上に上がってないから言えるんだよ。見る奴がみたら絶望して自殺するぞ。んで、それに最も近い位置にいるのだがラスフィーだ」
そう、ゴズは断言する。
見てもいないが絶対と言い切れるだけ自信があった。
クロスの立ち振る舞いや行動からそのかつての経験を垣間見たら、ラスフィーの精神が壊れると。
才能が上なら良かった。
それなら諦めが付く。
経験が上なら良かった。
それなら同情するだけで済む。
だが、努力だけは駄目だ。
誰よりも苦しみ、誰よりも努力してきた。
ラスフィーは全てを犠牲にし民の為の努力だけで構成された。
そんな自分よりも尚努力した存在がいる。
それも、ちょっと上とか超えるとかそういう話ではなく何倍も。
ここにいる彼らも知らない事だが、その経験はおよそ一年、魔王討伐の旅であるその僅か一年程度で構成されている。
だからこそ、ラスフィーには耐えられない。
壊れていないラスフィーでは、これ以上深い闇も、光にも、耐えられない。
光に焼かれ、劣等感に苛まれ、友の為に世界最強を目指し壊れたクロスと同じ事を、与えられた努力しかしてこなかったラスフィーに出来る訳がなかった。
「そんな訳で、クロスを見せるか、まあ一度軽く手合わせでもしたら全部終わるさ。少なくとも、これまで通りの善良で高潔で完璧な王様じゃなくなる。どう壊れるか考えるだけでいきり勃つってもんだ」
ゴズはそう言葉にし、下卑た笑みを見せる。
あの清ました顔のイケメン様の精神がぐちゃぐちゃになるその瞬間を想像したら、そう笑わずにはいられなかった。
「まあ……私には理解出来ないけど本気で言ってるのだけはわかったから一応信じてあげるわ。だから二つ程聞いても良い?」
「おう。ま、答えないと言った瞬間殺されるから答えるしかないんだけどな」
「それはごめんなさい。んで一個目だけど、ゴズは絶望しなかったの。あんたも極まった一つでしょ?」
「する訳ないだろ。誇りとか努力とか俺らしいか?」
「いいえ全く」
「だろ? ま、ショックな部分もあったがな」
「へぇ。やっぱり戦士として負けるたらあんたでも悔しいんだ」
ゴズは一種だけ無表情になり、黙り込む。
だがそれに反論せず曖昧な笑みを浮かべ誤魔化した。
戦いの力で負ける事にショックを受ける様なメンタルはしていない。
なにせゴズは蛮族で略奪大好きなだけのスリルジャンキーである。
ガチでヤバいと言われたドラゴンの住処に忍びこみ財宝を盗もうとした事がある位に。
まあ、一目見た瞬間全力で逃げ出したから一切の成果なしだったが。
ショックを受けたのは実力では……卑怯な事をしようとしたその瞬間。
戦っている途中あらゆるダーティーな手段を思いついたのに、それを何一つ実行に移せなかった。
目潰しも、罠も、同情を誘う手段も。
その全てが読まれきっていた。
クロスのその部分。
こんな全うな生き方してる癖に自分よりも悪に染まっている事。
悪を受け入れ他者を害し続けいつか殺されるまで好き放題生きてきた自分よりもよほど邪悪に染まっている事。
それが、ゴズにとって悔しいと感じた部分であった。
だからこそ、ゴズはこの世界で最もクロスの本性に近い。
決して善良な訳じゃあない。
むしろその性質は邪悪そのもの。
自分本気の傲慢で不遜な生き方しか出来ない。
つまるところ、ゴズとクロスは同類であった。
正反対の生き方をしていたとしても、性根の部分で彼らは似通っている。
その事を利用しクロスの気持ちを推し量り万が一を拾い生きたゴズこそがその証拠と言えるだろう。
それを理解しているからこそ、ゴズは自分が殺される事も理解出来ていた。
なにせ同類でありながら、いや同族だからこそ尚その許容ラインが見える。
クロスの許し生かせるという許容ラインを自分がぶっちぎっているとゴズは最初から理解出来ていた。
「それで、もう一個の質問ってのは何だ?」
「ああうん。これ簡単な事なんだけどさ……クロスをラスフィーに実際見せたと仮定するじゃん?」
「おう」
「その場合さ、かなり不味い事にならない?」
「なるだろうな。カップも、その他も。なにせ真っ当な魔王様がぶっ壊れる訳だから。カップ国総出で復讐者になったりしてな。反転してあいつが下種になりでもしたら倍率ドンだ! その才能はあると思うぜ。なにせ幼い頃から拷問を受けて育ったんだからな」
ケラケラ笑うゴズを横目に、トロンは静かに頭を抱える。
要するに、カップ王国の対処にクロスを使えば世界の秩序そのものが崩壊するという事。
ゴズが言いたい事はこういう事である以上……トロンからしてみれば、最大の敵に対し最大戦力に頼れないという事を意味していた。
少数の護衛だけを携えた豪勢な部屋。
カップ王国王城の来賓用、それも国賓用の部屋の中に彼らはいた。
テーブルを挟み奥に座るのは、カップ王国の国王ラスフィー。
その隣には女性秘書が立ったまま応対し少し離れた位置に軍の将が数人待機していているだけ。
テーブルの手前席には、遥か遠方の国『ザインドール』より訪れた魔王ザインが座っていた。
限りなく暗い褐色の肌をし、独特の水着に近い位薄着の服装を見に纏った無表情の美女。
人間味を一切感じないその立ち振る舞いも含めると、まるで暗殺者を彷彿とさせる。
いや、実際そうなのだろう。
ザインには暗殺を生業とした組織があると聞いた事があったなとラスフィーは思い出した。
ザインドール。
それは砂漠の地に住む民を統べる国。
代々魔王を継ぐ者はその名ザインも継いでいっている。
平地に暮らす人達とは法も考え方も違うが、過酷な地に住む分個人個人の戦力は非常に高い。
総合力でカップ王国の兵力に近い程はあるだろう。
つまり、協力相手としては申し分ない。
そう、ラスフィーは考えていた。
「それではザイン様。こちらで問題ないでしょうか?」
笑顔でのラスフィーの言葉にザインはこくりと頷く。
「むしろこれで良いのか?」
抑揚のない、だけど綺麗で透き通った声でザインは聞き返した。
その契約内容を簡単に訳すとこうなる。
クラウン王国の討伐にザインドールは協力する。
その見返りとしてクラウン王国が保有するワールドレリック並びにそれに準する物全てをザインに渡す。
また数年以内の内にザインドールがカップ王国が保有するワールドレリック以外全てを手にした場合、カップ王国はそれをザインドールに引き渡す。
その他細かい内容は書かれているが、重要な部分はこの三つ。
小国を亡ぼすだけでザインドールは三つのワールドレリックを手に出来、更に七つを手にしたら自動的に唯一の魔王となる事が出来る。
あまりにもザインドール側に有利過ぎる条件と言えた。
とは言え、これはラスフィーが一方的に譲ったという訳ではなく、彼にとってこの方が都合が良いという事情もあった。
ラスフィーは、はっきり言ってカップ王国に価値を見出していない。
いや、具体的に言えばカップ王国を滅ぼすべきとさえ考えている。
カップ王国の民は護りたいと思うしこの国を心より愛している。
だが……もし自分の子供が生まれた時、自分と同じ目に遭わせたいかと言えばそれはない。
というか子供に拷問したいなんて真っ当な奴が思う訳がない。
そう考えるとカップ王国の形はあまりにも歪であり、これを続けても誰の未来にも良い影響を与えないと結論付けざるを得ない。
要するに、カップ王国の歪さや親族の抱えてきた歪みなんて鼻で笑う程ラスフィーは真っ当で、正論の中生きていた。
だからこれは譲っている訳ではない。
むしろ選別。
カップ王国が滅んだ後その民全員を平和で幸せな未来に導く為、どの国が残るべきかをラスフィーは選別していた。
逆に、ザインドールが唯一の国として相応しくないと思った時には、ラスフィーは容赦なく牙を向く。
具体的に言えば七つを手にする前に他国に同様の条件を出し寝返るという形で。
それが許される程度にはカップ王国は強国で大国であった。
「こちらとしては構いません。ワールドレリックに価値を見出していませんので。……いえ、国を強くするという意味でなら十分有用ですが……その……」
「願いが叶うというのは信じていないと」
「いえ、ザイン様が信じている事を否定している訳ではないです。ただ私はそうは思っていないだけですので……その……」
「大丈夫ですよ。私も信じていませんから」
「えっ?」
その反応を見て、ラスフィーは違和感に気付く。
ザインドールはワールドレリックを求めこんな場所に来ている。
そして当初八つ集めると願いが叶うという事も話していた。
だというのに、信じていない?
ならば何故来たのか。
更に言えば、ここに来るまでに他の魔王の住む国にも寄っているはずだ。
その位彼らはワールドレリックに興味を持っていたはずである。
だというのに……信じていない?
「そもそもの話ですが、その嘘の噂を流した私ですから」
そう呟くザインの表情は、微笑となっていた。
これまで常に無表情だったにも関わらず。
そして笑みのはずなのに、ラスフィーは背中に極寒かと思う程の凍える寒さを感じた。
ラスフィーは天才だった。
才能も、実力も、運も、全てを持っている。
だからだろう。
何かを感じ取ったラスフィーの行動は、あまりにも早かった。
ラスフィーは、まるでペンでも取るかの様な気軽な動作で剣を取り、ノータイムで、誰にも止める間もなくザインの胴体に突き刺した。
あまりの事でザインドール側の護衛に動く暇さえも与えず、味方側の人間さえも茫然とする事しか出来なかった。
国家同士の交流において最悪の行動。
最も許されざる恥ずべき愚行。
にもかかわらず、カップ王国の彼らはラスフィーの行いに対し何も言わない。
茫然としたのは一瞬のみで、その後即座にラスフィーに次ぎ戦闘の心構えを行う。
例えどの様な行いだとしても必要な事しかしない。
秘書や側近はその程度には、ラスフィーの事を信用していた。
そして、驚いていないのはカップ王国の民だけでなく、ザインドールの民の方もだった。
彼らは護衛でありながらその剣が突き刺さった主をどうでも良さそうに見つめていた。
「いきなりとは少し予想外でした。流石最善の魔王」
そう言葉にするのは、剣に貫かれるザイン本人。
これまでと異なり、その表情は確かな物となっている。
ザインは、嗤っていた。
「これは……」
奇妙な手応えからラスフィーはそう呟く。
「それで、お人形遊びは楽しいですか?」
艶やかな声色には、サディスティックさが含まれている。
これが、ザインの本性。
無表情の能面なのは作り物だったらしい。
「加虐趣味かな」
「貫いている貴方が言うのはおかしな話だと思うけど」
くすくす笑いながら、ザインは突き刺さる剣を指で折る。
ラスフィーは自分の失敗を理解する。
ラスフィーは完璧な王であった。
だから、彼には失敗の経験があまりにも少なかった。
突き刺したのは悪手だった。
そんな余裕ある行動など取れる程の猶予さえ最初からなかった。
この場において最適な行動は、即座に逃げる事だった。
それに気づいたのは己の失敗を悟ってから、既に選択を誤った後。
だから、その失敗の責任を取る必要があった。
「逃げて下さい!」
秘書はそう叫び、ラスフィーの前に立つ。
ラスフィーの表情で、彼の考えを秘書は理解出来ていた。
その顔色を見たら何を考えているかわかる位、彼女は彼の事を毎日見てきたのだから。
直後に、側近の将が動き秘書同様ラスフィーの前に立つ。
王の失敗による責任を取るのは、王ではなく民。
それをラスフィーは痛い程理解している。
だが、この場で逃げないという選択肢を取れば彼らの死さえも無駄にしてしまう。
だから、ラスフィーは自分だけで、部下を見捨て逃げた。
秘書が自分を愛してくれている事を知っていた。
将軍がどれだけこの国を愛しているかを知っている。
それでも、ラスフィーは彼らを捨て駒として扱った。
王として、正しい選択をする為に。
「伝えなければ……この事を、他所の国に……どこでも良い。ザインドール以外ならどこでも……」
何を企んでいるかわからない。
だが、正しく生きたが故にの嗅覚が言っていた。
ゴズの様な邪悪さえもまだ足りない。
言葉にするなら、暗黒。
ザインの醜悪さは人さえも暮らせない暗黒そのもの。
もしも好き放題すればどんな末路にせよ最悪以外の言葉が出ない世界になってしまう。
それに気づくのが、あまりにも遅すぎた。
そうして逃げて逃げて必死に逃げて……ラスフィーはもう一度、正しき所以に選択を誤った。
「……これが、カップ王国の……」
ザインは穴の開いた体のまま、全身に矢や槍が刺さりながらそう呟き、杯を見つめる。
その足元に、ラスフィーであった残骸を踏みつけながら。
ラスフィーは正しい最善の魔王であった。
ザインの目的がこの国のワールドレリックであると理解し、それを回収しようと動く位に。
その正しさが、こうして彼を殺していた。
「失敗したな。どうせならこれだけ見せるまでは生かしておけば良かった。まあどうでも良いか」
そう呟いた後、ザインはラスフィーだった残骸の傍にカップを置き、思いっきり踏みつけた。
床が砕け地響きが起きる程のスタンプ。
それにカップが耐えられる訳がなく、名前も効果も知らないワールドレリックは当たり前の様に破壊される。
国の保証であり正当性であったカップはそのままただの金属の塊に成り下がった。
そこで転がるラスフィーと同じ様に。
「じゃ後は宜しく」
部下にそう呟いて、ザインは興味なさげに歩き出す。
その日を境に、カップ王国は消滅した。
何の情報もないまま、ただその事実だけが隣国のクラウン王国に届けられた。
ありがとうございました。




