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追放されなかった男~二度目の人生は土下座から始まりました~  作者: あらまき
二度目の元勇者、三度目の元魔王

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招待状なき来訪者6


「あ、クロスさんステラさん! やっと合流出来ましたね」

 そう言って、エリーは後からやってくる彼らに微笑みかけた。

 繋がりからクロスが無事であるという事はわかっていたが、それでも直接会えた時の安心感は大きかった。

「あ……ああ。そっちも無事で良かったよ」

 そんな、どこか歯切れの悪いクロスの答え方に、エリーはどこか小さな疑問を覚える。

 クロスという男はもっとさっぱりとしていて、そしてざっくばらんに日々を送る。

 つまるところ、シンプルな程単純明快な生き方しか出来ないのだ。

 だからこそ、そのらしくない様子はエリーが何かあったと疑問を抱くに十分な程の違和感だった。


 静かに、エリーはそっとクロスの魔力に目を向ける。

 そこには、確かに安堵はあった。

 ようやく再会出来たステラとアナスタシアに対しての。

 だが同時に、戸惑いや怯え、羞恥と言った感情も見え隠れしていた。

 危険や恐怖とは程遠い。

 良い事は良い事、悪い事は悪い事と考えるシンプルはクロスから心地よいマイナス感情なんて物を感じるのは本当に珍しい事だった。

 そして、その魔力は全体的にピンク色を彷彿とする様な色合いとなっている。


 ステラの方は……興奮と期待、勇気と不安。

 まるで甘酸っぱい果実の様でさえある。

 一言でまとめると……それは恋の感情。

 少なくとも、ステラにはそうとしか見えず……。


 エリーはテーブル前のソファに座り直し、テーブルに肘を置き手を組んで、鋭い鷹の様な目でクロスの方を見た。


「……詳しく、話を聞きましょうかクロスさん。何がありました」

「え? いや話す事なんて特に――」

「クロスさん」

「はい」

「今、私は冷静さを欠こうとしています」

「いや、既に冷静さなんて物欠片も」

「シャラップです」

「はい」

「という訳で、何があったのか面白おかしく詳しく聞きましょう。主にステラさんとの間に」

 エリーの言葉に、クロスとステラは揃ってびくっと体を震わせた。

「え……えっと……黙秘する事は許されませんでしょうかね?」

「クロスさん」

「はい」

「私は、興味本位で聞いている訳ではないんです」

「本当に?」

「……はい」

「じゃ、エリーさんはどういう理由で聞いているのでしょうか?」

「……では、話を変えましょう」

「はい」

「クロスさん」

「はい」

「……ぶっちゃけヤってしま――」

 すぱーんと、小気味良い音が響く。

 気づけばアナスタシアが頬を赤らめながら、エリーの後頭部を思いっきり叩いていた。


「あいったー!」

 エリーは半泣きのまま、頭を抑えた。

「エリー! 品がないし失礼過ぎる!」

 アナスタシアは顔を真っ赤にしながら肩で息をしていると思う程荒げていた。

「だって気になるじゃないですか!? 私にとっては命より重たい事なんですよ!」

「だからってこんな場で言える訳ないでしょ! ……だから後でこっそりとステラの方に聞きましょう」

 そんな事を、アナスタシアはエリーの耳元で、囁く様な小声で呟いた。


 ちなみにだが、クロスは耳が良い方である。

 故に当然、その呟きも聞こえていた。

「……なるほど。確かにそうですね。失礼しました。ではこの話はここまでにして先を急ぎましょう」

 そう言ってエリーは何事もなかったかのように立ち上がり、先の道に目を向けた。


「あー。ステラ。先に謝っとく。すまん」

 クロスの呟き、茫然としていたステラは頬を赤らめたまま首を傾げた。

「え? ごめんぼーっとしてた。何の話?」

「……ううん。何でもない。何でもないんだ……」

 そう言って、クロスはステラの頭を優しく撫でた。


 特に何事もなかったのだから別に隠す必要はないのだが……少々以上に気恥ずかしい。

 そんな感情で、クロスは苦笑した。


「ところで、どうでも良いんだけど……あんたらいつまで手を繋いでるの?」

 少し恥ずかしそうにしながら握られた手を指差すアナスタシアの声で、クロスとステラはずっと手を繋いでいた事にようやく気付き、頬を赤らめながら慌てて手を離した。




 いつも通り、お偉いさんの城みたいな巨大な通路を彼らは歩き続ける。

 だけど、気づけば今までの様な浮遊感に近い不快感はなくなっていた。

 足場がしっかりとしていて、自分がどこにいるのか明確に理解出来て……。

 エリー曰く『空間拡張されていない中心部に来たからでしょう』との事だが、クロスには良くわかなかった。

 強いてわかる事と言えば、ようやくこの長かった屋敷も終わりを迎えるという事位だろう。


 いつもの通路をしばらく歩いて……そして、彼らは彼女を見つけた。

 黒髪単発で身長の高い美女。

 淡々とした表情とその姿勢の良さはまるで貴族に使える従者の様。

 服装こそごく一般的な私服だが、メイド服などそういう服を着ればきっとおそろしく似合う事だろう。


 基本的外見はそんな人間と同じ物だが、耳の形が少しだけ、人から逸脱している。

 彼女の耳は少しだけ、だが人間ではあり得ない位に尖っていた。


「お待ちしておりました」

 そう言葉にし、彼女はこちらに向かって深く頭を下げる。

 礼儀正しく、それでいて、仰々しい。

 気品という物を確かに感じられる、そんな仕草だった。


「どうぞこちらに」

 そう言葉を付け足し、彼女が右手奥を示すと、その方向に道が出来る。

 常に一本道であった今までと違う初めての分かれ道だった。


「その前に、一つ聞いても良いか?」

 クロスは彼女に声をかけた。

「構いませんが、屋敷の主である方がお待ちですので私よりよほどその(かた)(ほう)が事情を……」

「いや、そういう話じゃない。聞きたい事はたった一つについてだ。あのケーキを作ったのは君で間違いないな?」

 クロスの質問が予想外だったらしく、彼女の無表情に少しだけ驚きの表情が混じる。

 だがすぐ表情を元の鉄面皮に戻し、肯定を表す軽いお辞儀をしてみせた。

「はい、その通りでございます。もしかしてお口に合いませんでしたか?」

「いいやそれこそまさかだ。本当に美味かった。悔しいとしか言えない位に」

「恐れ入ります」

「だからこそ聞きたいんだ。その腕前ってのは、どうやって身に着けたんだ? あんたにとって料理ってのは一体何なんだ?」

 燃える様な熱量を、女性はクロスから感じていた。

 それを向けられ、自らさえもが燃えてしまう様な、そんな強い熱量。


 だからこそ、女性も理解した。

 彼もまた、自分と同じく料理に命をかける存在であると。

 表情は綺麗に取り繕っていても、彼と同じ様に自分の中にも燃え盛るマグマの様な熱がある事もまた、彼女は自覚していたからだ。


「私は料理人では御座いません。あくまで趣味の範疇です。ただ……それでも宜しければ……」

「趣味とかそういうのは良い。あんたのその腕を支える信念が知りたいんだ」

「わかりました。私にとって料理とは……愛です」

 平然と、そして堂々と、彼女は誇るかのようにその言葉にした。

「愛?」

「ええ。その通りです。愛と同じです。愛と言っても、自分勝手に気持ちを押し付ける自慰行為の様な独善的な愛とは異なりまして。料理にとっての愛とは――」

「――いかにレシピに忠実に、いかに手間暇惜しまずに、いかに金をかけられるか」

 クロスの答えを聞き、女性は目をぱちくりとさせクロスの方をじっと見る。

 クロスもまた、彼女の方を真剣な瞳で見つめていた。


 両者が見つめ合う時間は、十秒以上続いた。

 まるで何かを伝えあっている様な、確認し合っている様な、そんな時間。

 そしてその後――彼ら一歩ずつ近寄り、硬く強く握手をした。

 まるで、十年来の友と出会ったかの様に。


「なるほど。同士だったんだな」

 クロスの言葉に彼女は頷いた。

「ええ。その様で。私の名前はルクスリアと申します。同士のお名前を尋ねても?」

「ああ。クロス・リヴァイヴ。クロスと呼んでくれ」

「では私はルクスと」

 そう言葉にし、彼らは見つめ合い微笑み合った。




「あのさ、あんた的にこれはありなの? その……せっかく仲良くなれたのにすぐ他の女と仲良くっての」

 小さな声で、心配げにアナスタシアはステラに尋ねた。

 だがアナスタシアは微笑み首を横に振った。

「元々クロスを独占するつもりはないから。それに……」

「それに?」

「今のクロスそう言う事考えてなくて、料理の事しか考えてないから。むしろ嬉しい。だってクロスが料理を頑張るって決めたきっかけは……」

 そう呟き、ステラは嬉しそうに微笑んだ。

「そ、そう。あんたが良いならそれなら良いわ。……と、ところでさ……昔のクロスの事とか、聞いても良い?」

「うん。むしろ聞いて欲しいな」

 そういって、ステラはアナスタシアに人間だった時の事を話し始めた。




「同じ信念だがこの腕の差は……」

「それはたぶん年数の差だけできっと想いの強さでは……」

 そんな会話をするルクスとクロス。


「それで、その時クロスは村を護る為に囮を……」

「そ、それはかっこいい……だけど正直止めて欲しいとも思っちゃう。危な過ぎる……」

 クロスの英雄譚を自慢げに話すステラとそれをワクワクハラハラとした表情で聞くアナスタシア。


 そんな彼らを一歩離れた位置から見ながら……エリーは小さく溜息を吐いた。

「これ、みんなヴィラさんの事忘れてますよね……」

 信頼はしていると言えば嘘になるが、流石に忘れられるのは不憫過ぎる……。

 そんな事を考え、エリーはこの場にいない仲間にこっそりと同情した。


ありがとうございました。

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