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第7話 大人の義務と感謝の気持ち

 

 眠る母に治癒魔法をかけると、母の体をほんのりとした光が包み込んだ。

 光が消えた時、ほんの少しだが顔色が良くなった気がした。


「少しだけ待ってて」


 母を起こさないよう、静かに家から出た。

 探索魔法が示す方向へ向かって走り、村を出たところで探知魔法を使った。


「よし、誰もいない」


 周囲に人がいないことを確認すると、自分に強化魔法をかけ、生まれて初めて全力で走った。

 立ちふさがる空気の壁を力でねじ伏せ、大地を踏みしめ蹴り上げる。

 景色は風のように流れて行き、ニールの走り抜けた後には大地を削り取る四歳児の足跡と不運にも轢かれてしまった数匹の小動物の亡骸が残っていた。

 幸か不幸か、それは毛足の長い草原に隠され気がつくものは殆どいなかった。


 半刻ほど走ったところで手ごろな岩を見つけ腰を下した。

 どんなに肉体を強化できても疲労は限界に近づいていた。

 焦る気持ちはあったが、途中で動けなくなったら意味が無い。

 走り出そうとする体を押さえ込み、休憩を取る。

 馬車を使っても二時間はかかる道程を三十分で走破したニールは、遠くに森が広がっているのを視認した。

 微妙に残る距離を忌々しげに見ながら、全ての魔法を解いた。

 酷使した足に治癒魔法をかけるが、ほんのりとした光は消える気配が無い。

 思っていた以上にダメージを受けていたようだ。

 光が消えるのを待たず、ニールは魔道書の検索した頁に目を向け、魔法を唱えた。

 魔力を集めた目の前の空間が陽炎のように揺らいだかと思うと、次の瞬間には豆粒ほどの小さな水球が現れた。だんだん大きくなり大人の拳ほどの大きさになった。

 これは『ウォーターボール』という魔法でこの水の玉を対象にぶつけるものらしい。

 多少痛いかもしれないが、所詮水だ。

 なぜこんな役に立たない魔法があるのかと思ったが、火を纏う魔物や砂でできた魔物には効果があるらしい。

 火を纏ったら自身がこんがり焼けてしまうのではないか、砂粒のような小さな生き物を押し流してしまうということだろうか。

 全く想像ができないが、喉を潤すことはできるのではないか。

 水球に『解析』をかけたら、水、飲料可、と表示された。

 ふよふよと浮かぶ水球はニールの思い描いた通りに動いた。

 なんか面白い。

 口元に寄せたそれを啄ばみ、喉を潤した。



 水球を最後の一滴まで飲みきると、すでに足を包み込んでいた光は消えていた。

 腰を上げ、屈伸や深脚、ピョンピョン跳ねて足の調子を確認した。


「よし、大丈夫」


 顔を上げて、遠くに望む森を見る。

 あと少しだ。

 再び、探索魔法を展開し、方向を確認した。

 そして、探知魔法を使い、油断していたことに気がついた。

 左の方から、四人組の人間が近づいていたのだ。

 真っ直ぐにこちらに向かっている様子から、こちらに気がついているのは確実だろう。

 目を凝らすと、かなりのスピードでこちらに近づいてくる馬車が見えた。

 御者台の上で、こちらを指差す男が見えた。

 すでに手遅れで、今から逃げ出すこともできなかった。

 本気で逃げれば余裕で逃げることができるが、明らかに子供のニールが馬よりも早く走ったら、確実に騒ぎになるだろう。

 何より、ナールング草が手に入らなくなってしまう。

 それだけは避けなければいけない。

 逃げ出したい気持ちを抑えると、迫り来る馬車に気がつかない振りをして、森にむかってゆっくりと歩き出した。



 休憩した岩から二百メートルも進まないうちに追いつかれた。

 二頭引きの荷馬車はニールの行く手を阻むように止まった。

 気持ちよく走っていた馬達は、強く手綱を引かれたことに文句を言うように嘶いている。

 御者台から飛び降りた男は、重たそうな鎧をガシャガシャ鳴らしながら近づくきニールを見下ろした。

 男が身に纏う手先から足先まで全身を金属製の鎧は、昔美術館で見た西洋の甲冑に似ていた。


「おいクソガキ、死にてえのか!てめえ自分が何やってるのかわかってんのか?」


 日に焼けたラテンっぽい男の、ほりの深い顔にはいくつもの傷跡があり、方耳は千切れていた。

 ヤクザの様な男に凄まれ地味に泣きそうになった。


「ちょっと、なに子供相手に切れてんのよ。怖がってるじゃない」


 荷台から蜂蜜のような金色の髪の小柄な美しい少女が降りてくると、ニールをかばうようにして立った。

 美少女からはとてもいい匂いがした。

 顔は小さく、つぶらな瞳も柳の葉のような細く美しい眉も髪と同じ蜂蜜色、鼻筋が通っていて、薄い唇は真っ白な肌に映える桜のようなピンク色。

 キラキラと輝く髪はとても細く、彼女が少し動くだけでフワリと揺れ、髪の間から先がとがった特徴的な耳が見えた。

 この女の人はガチガチに固めたヤクザみたいな男の人とは違い、普通の服の上から白い袖の無い袍(聖徳太子が着ているようなやつ)のようなものを着ただけの軽装だった。


「ハァ? 何も分っていねえガキに説教してやんのが、大人の義務ってもんだろ」

「…そうかもしれないけど、それにしたって言い方ってものがあるでしょ」


 美少女は、チラッとこちらを見て少し困った顔をしたが、ヤクザに言い返した。


「ああ、そうですか」


 ヤクザは腰をかがめてイカツイ顔を近づけてきた。


「ボクゥー、コンナトコロデ、ナニヤッテルンデチュカー、コンナトコロニイタラー、コワーイマモノヤー、コワーイオバチャンニ、タベラレチャイマチュヨー、ってゴフッ…」


 青筋を立てた女性はヤクザの顔を殴り飛ばした。


「何しやがるんだババア!」

「昔からバカは殴って躾けるって決まっているんだよ」

「誰がバカだ。殴って躾けなきゃいけねえのは、そこのガキだろうが」

「私からしたら、どっちもガキには変わりないわね」


 ジロリと睨まれ、そっぽを向いたヤクザが呟いた。


「素手で殴る僧侶なんて聞いたことねえよ」

「良かったじゃない、初体験ってやつ?」 


 美少女は腰に手を当て、小さな?薄い?胸?を張って豪快に笑う。明るい笑顔はまるで向日葵みたいだ。

 …あれ? 何か睨まれたような。


「ハイハイ、そこまで」


 気がつくと御者台にいたもう一人の男が隣にいた。

 馬が走り出さないように手綱は握ったままだったが、いつの間に下りたんだろう。


「こんにちは。僕はクエロだよ。この綺麗な女の人がフィリアで、あそこの怖いおじさんがグラド、もう一人、荷台の上にいる無口なのがショーンだよ。坊やの名前は?」


 背中に弓と矢の入った矢筒を背負った優男がおどけて自己紹介をした。

 伸ばしているのか、生え揃っていない中途半端な長さの髭は斑でみすぼらしいが、決して不潔ではなかった。

 ショーンは軽く手を振り、フィリアはニヤニヤとグラドを眺め、グラドは苦い顔をしていた。


「…ニール」


 怒涛のやり取りに呆然としたが、何とか搾り出した。


「ニールか、いい名前だね」


 しゃがんで目線を合わせたクエロがにっこりと笑った。


「でも、ニールみたいな小さな子が、こんなところに一人でいるなんて、おじさん感心しないな。クライン村の子かい? お父さんは?」


 クライン村がどこかは分らないが、どうやらこの近くに集落があるようだ。下手なことを言って連れて行かれるのも困る。

 首を横に振るだけに留めた。


「一人なのかい?」


 首を縦に振って肯定した。


「じゃあ、どこから来たんだい?」


 少しだけ困った表情を浮かべてクエロが聞いた。


「…あっち」


 振り返って来た方向を指差した。


「……あっちって、おまえ、ヴィーゼから来たのか?」


 ニールの言葉に四人とも驚きを隠せなかった。

 あの村って、ヴィーゼっていうのか。


「ヴィーゼ、わからない。けど、大きな壁があって、その近くにみんな集まって住んでる」

「…まあ、そうよね。ちょっと信じられないけど、その服装なら間違えなく貧民層の子よね」

「おい、信じるのか? どう考えてもこんなガキが来れるような距離じゃないだろ」


 うんうん、と納得しているフィリアにグラドが噛み付いた。


「まぁ、その気持ちもわからないこともないけど、この子が私達に嘘をついても仕方が無いでしょ?」

「だがなぁ」


 グラドはボリボリと頭をかいた。


「でも、どうしてこんなところまで来たの?」

「母さんが病気で倒れて、こっちに元気になる草があるって聞いた」

「それで、薬草を取りにこんなところまで歩いてきたの?」


 ニールはコクリと頷いた。

 フィリアは真っ黒なニールの足を見て、泥だらけになりながら母のためにトボトボと歩く幼児の姿を思い浮かべ、堪らずニールに抱きついていた。


「……大変だったわね。大丈夫よ。私に任せておけば安心なんだからね」

「うぉぉぉーーーー! なんて健気なんだーーー! こんな子供を疑うなんて、俺は屑野郎だーーー!!!」


 フィリアに抱きつかれ頭を撫でられるニールを見ながら、グラドは人目を憚らず男泣きし、ショーンは黙って腕を組んだままウンウンと頷いていた。

 クエロは他の3人を見て困ったように笑うのだった。



 あの後、フィリアとグラドが渋るクエロを説き伏せた。

 正直一人のほうがよかったので、必死に断ったのだが、聞き入れられることは無かった。

 御者台にクエロとグラド、荷台にショーンとフィリアが乗り込み、ニールを引っ張りあげた。

 荷台の中にはグランドボアという巨大な猪が三体転がっていた。

 すでに血抜きがされているが、荷台の中には血と獣の臭いが立ち込めていた。

 馬が走り出すと、すぐ臭いは流れて薄くなったが、臭いものは臭かった。

 四人は結成して十年以上の妖精の牙というランクCのベテランパーティーらしい。

 妖精というのは小さな女の子で背中に四枚の羽根があって、空を跳んだり踊ったりするらしい。

 顔に似合わず可愛い物好きのグラドがうっとりしながら話してくれたけど、牙が生えている女の子って怖い気がする。

 元々はグラド、ショーンの兄弟とその叔父さん、それに兄弟の幼馴染のクエロというメンバーだったらしい。

 でも、寄る年波には勝てず、五年ほど前に叔父さんが抜けてパーティーは解散寸前だったらしい。

 そこに、森から出てきたばかりのフィリアが現れた。

 エルフという種族に何か憧れというか崇拝みたいなものを持っていたグラドが拝み倒して今の形になったらしい。

 フィリアは、まだ少女にしか見えないが、ヤクザなおっさんのグラドよりも年上らしい。

 エルフって種族は長寿で年をとるのが遅いらしい。

 グラドが教えてくれたのだが、その後フィリアに殴られて荷台から落ちていた。

 今日は、最近クライン村の近くに現れる魔物がいるということで討伐に来たらしい。

 それが、グランドボアだったらしい。

 それで、討伐報告して素材を売るためにヴィーゼへ帰る途中で僕を見つけたらしい。

 ちなみに、どうやって見つけたかは秘密らしい。




「ニール、これ使え」


 森から少しだけ離れたところで荷馬車から飛び降りると、無口なショーンが声をかけてきた。

 薬草を集めるための袋を貸してくれるようだ。


「ありがとう」


 ショーンは荷馬車の警護およびグランドボアの解体をするために残るらしい。

 ペコリと頭を下げ、グラド達を追いかけた。


「それで、ニールは何を探しに来たの?」


 フィリアは飛び出そうとしていたニールを捕まえた。


「ナールング草です」


 ニールの言葉を聞いた、グラドとクエロなんともいえない微妙な顔をし、フィリアは黙り込んでいた。

 やはり、手に入れるのが難しいのだろうか。


「…ナールング草って、あれだよな…」

「えぇ、あれですね」

「ニール、おめぇ、それを母ちゃんに食わせる気か?」


 グラドとクエロはお互いに頷きあい、何かを確認していた。


「元気をだすなら、それがいいって聞きました」

「…あのなぁ……」


 少し躊躇していたが、何かを言おうとしたグラドをフィリアが遮った。


「確かに、そうね。物を食べる元気が無い病人に与えるというのなら、ナールング草がいいかもしれないわ」

「おい、フィリア…」


 グラドはフィリアに何かを言おうとするが、フィリアは二人を逡巡して続けた。


「確かに人族はナールング草を精力剤にしか使わないけど、エルフの薬剤師の中にはそれが上位のスタミナポーションの材料になっていることを知っている人もいるわよ」

「「!!!」」

「実際、エルフの里では重度の病人にナールング草を使ったドリンクを飲ませるのは一般的ね。ニールはいったい誰からそんなことを聞いたの?」


 三人とも驚いて言葉につまった。

 グラドとクエロは上級スタミナポーションの素材と知って驚き、ニールはこれがそんなにマイナーな情報だということに驚いた。

 だって、普通にレシピ知ってるし。

 上級のスタミナポーションは死にそうな貴族が大枚叩いて買い求めるほど貴重なもので、グラドもクエロも実物を見たことなんて無かった。


「えーっと、誰かが言っているのを聞いただけだから…」


 明らかに困っているニールを見て、自分が睨んでいたことに気がついた。


「あー、ゴメンね。別に隠しているわけじゃないんだけどね。あんまりこの事が知られるとバカな人達が乱獲しちゃうから。…できたら、ナイショにしてね」


 唇に人差し指を当ててウインクをするフィリアに三人とも見とれてしまった。


「それじゃ、探しましょうか」


 コクコクと首を縦に振る三人を見てフィリアがいうと、ナールング草を探した。



 ナールング草はすぐ見つかり、他にも数種類の薬草や木の実を手に入れた。

 普通には見つけるのが難しいという話だったので、不思議そうにしていると、「エルフは森の民だから」とフィリアは笑っていた。



 森から出ると、お礼を言って離れようとするニールだったが、グラドが有無を言わさず荷台に突っ込んだ。

 荷台の中には綺麗に解体されたグランドボアらしき物と、森に入る前には無かった数体の何かの死体があった。

 ある程度森から離れると、「ここまでくれば大丈夫」とお昼ご飯を食べることになった。

 森などの魔物が多いところの近くで動物や魔物の解体や料理をすると、臭いにつられていろいろやってくるらしい。

 それって今回すごく迷惑をかけたんじゃないかとショーンに謝ったが、「ここら辺はそんなに魔物も強くないから大丈夫」と笑っていた。

 それでも、普通はリスクを負うようなことはしないらしい。

 お昼は、グランドボアの肉を焼いただけの物だったが、この世界に生まれて、初めてご飯がおいしいと思えた。

 涙を流して食べていると、何を勘違いしたのか、みんなが優しくしてくれた。



 その後は懇々とお説教を受けた。

 武器も持たず魔物に襲われたらどうするのか。

 怪我をして動けなくなったらどうするのか。

 自分達ではなく盗賊や人攫いに会っていたらどうするのか。

 町の外を装備もなしで歩いてはいけない。

 等々。

 村に着くまで延延続いた。


 いろいろ為になったし反省することも多かったが、まずは人に見つからなくなる魔法を覚える必要があると思いました。



 説教を受けながら二時間の道のりを終えると、自分の村が見えてきた。

 初めて知ったが、村は南門と呼ばれる大きな門から十分ほど東門の方に行ったところにあった。

 門が見えたところで降ろしてもらおうとしたが、グラドが「無事に送り届けるのが男の義務だ」、といって聞かず、クエロも何も言わなかった。


「………これは、すごいね」


 愛想笑いここに極まれり、そんな何とも言えないクエロの言葉が胸に痛い。

 村に入った全員が悪臭で鼻を曲げることになった。



 家にたどり着いた僕を見て、走ってきた姉が泣きながら抱きついた。


「どごにいっでだのよー、じんばいじだんだがらーー」


 目を真っ赤にした姉に、痛いほど抱きしめられて、勝手に出て行ったことを少し申し訳なく思った。

 姉に引きずられるように薄暗い家の中に入ると、未だ目を覚まさない母と、玩具を取り上げられたような表情で詰まらなさそうに座っている兄達、そして、酒瓶に口をつけて顔を赤らめた父がいた。

 僕の後ろからついてきた妖精の牙の面々を見て「何だお前ら」と威嚇する父だったが、僧侶姿のフィリアを見て「金なんかねえぞ」と呟いて再び飲みだした。



 母の治療はフィリアが行ってくれた。

 フィリアがエルフ直伝のナールング草ドリンクを作るのを、姉は食い入るように見入っていた。

 フィリアは丁寧に作り方を教え、自分達の分のナールング草も少し分けてくれた。

 出来上がったナールング草ドリンクは、どう見ても青汁でした。



 眠っている母を起こし、できる限り飲ませた。

 母の具合は思っていた以上に悪かったようだ。

 通常の濃度では強すぎるらしく希釈して飲ませることになった。

 普段からろくな物を口にしていないせいか、抵抗無く飲めたのは僥倖だった。

 半分くらいは飲めたが、見違えるような変化は無かった。

 表情が曇ったのを見られたのか、フィリアに「あと数日飲み続けたらよくなるから」と励まされた。

 フィリアは簡単に診察すると、他は問題ないと告げた。

 なんで、そんなことができるのか疑問に思っていると、フィリアはいろいろな町の治療院と呼ばれる施設で、医者のようなことをすることもあると言っていた。

 診察が終ったことを悟った父は「用が終ったんならさっさと出て行け」と妖精の牙を追い出した。


「これで少しくらい良い物を食わせてやんな」


 玄関先で振り返ったグラドが、僕に向かって銀貨を親指で弾いた。

 僕は手を差し出したが、その手の上に銀貨が落ちてくることは無かった。


「こいつの物は、俺の物だ。なんか文句あるか」


 グラドは父を苦々しく見ていたが、クエロの促されると軽く手を振って去っていった。

 フィリアも名残惜しそうに何度も振り返っていたが、結局何も言わず荷馬車に乗り込んだ。

 村から出て行く荷馬車を、僕と姉は頭を下げて見えなくなるまで見送った。



 僕と姉が家に戻ると、すでに兄達もいなくなっていた。

 どうやら、再び隣町の宴会に戻っていったみたいだ。

 おそらく、グラドのくれた銀貨も今頃は父の酒に化けているだろう。


「「ハァ」」


 溜息をつくと、同じ事を思っていたのだろう、姉と被った。

 目が合うと二人してクスクス笑った。


「じゃあ、ご飯の準備しようか。手伝ってくれる?」

「うんっ」


 僕がブンブンと音が聞こえそうなくらい頷くと、姉がクスリと笑った。


「まあ、いつものマイスーしか無いんだけどね」

 また二人でクスクス笑う。



 二人で台所に立つと、隅のほうに袋が置いてあるのに気がついた。

 姉は見たことの無い袋に困惑していたが、僕はそれが誰のものなのか知っていた。

 袋から出てきたグランドボアの肉と様々な木の実や果実を見て、姉は大喜びした。

 夕飯の分だけ中身を取り出すと、残りは父達にばれないように隠した。


「この隠し場所は二人のナイショだからね」

「うん」


 姉が人差し指を唇にあてると、僕も真似した。

 ナイショの隠し場所は僕と姉の秘密だ。

 姉と目が合い、本日何度目かわからないクスクス笑いをした。

 こんなに笑ったのは、いったい何十年振りだろうか。



 僕は心の中でまた妖精の牙に感謝した。



よく考えてみたら、一切の設定というものを考えずに突き進んできました。

作者が一番の読者です。

かっこよく言ってみても、ただのノープランには変わりありません。

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