47.諸悪の根源も身近にいました。
陽さんは基本、夜型です。昼間に活動できないわけではないようですが、私が信さんの家で夕食をいただいた後くらいに、だいたい起きてきます。
本日もそうでした。
「おはよ、セリ」
「おはようございます、陽さん」
ふわぁっと欠伸と伸びをしながら現れた陽さんは、まだ眠そうな様子で信さんの隣に腰掛けました。
「なんだか妙なモノ付けてきたみたいだけど、どうかしたの?」
どのように話を持っていこうかといまだに悩んでいた私が口を開く前に、陽さんの方が何かを見つけたらしく私に問いました。
私がくっつけているらしき妙なモノが何か。それはよくわかりませんが、可能性としてはユズさんに掛けられた夢魔の呪い、の名残みたいなものだと思います。それ以外に、妙なモノに関わった覚えはないですから。
「陽さんにお願いがあります」
奇しくも、話し出すきっかけは陽さん作ってくれました。それならば、私は覚悟を決めてお願いするだけです。
「私が職場でお世話になっている方が今、夢魔の呪いに苦しんでいます。明さんから陽さんならどうにかできると聞いたのですが――無理、ですか?」
陽さんの表情が険しくなっています。普段の彼女はほんわかした雰囲気の少女です。甘い物が絡まない限りという前提ではありますが、それでもこんな顔をした陽さんは初めて見ました。
私の言葉が、他人様頼りでしかないとわかっています。そして、ここの方達は基本的に協会そのものが嫌いです。
それはまあ、その一部とはいえ信さんの命を狙っているわけですから、そんな方達を好きになれという方が虫のいい話ですし、仕方ないとも思っています。
自分の身に置き換えてみれば、それは無理な話ですからね。
……私は聖人君子には絶対になれません。他人様に自分が受け付けないことを強要する気もないです。それはしてはいけないとわかっています。でも――。
「セリの職場ってことは、協会の奴だよね?」
やっぱり無理……、ですか?
――心は期待を捨てきれないんです。
「確かにユズさんは協会の方ですけど。でも、悪い方ではないですよ。マイペースで大雑把で研究命な部分はありますけど、面倒見は良い方で物知らずな私の問いにも嫌な顔ひとつせずに答えてくれますし、あそこにいる子達には慕われています」
絢くんにはくそ医者呼ばわりされているユズさんですが、ずっとあの子達の面倒を見てきただけあって扱いも心得ているらしく、一見放置のようでいてしっかりと要所は外しません。あの子達にとって、ユズさんは良い先生でした。
そして、それは私にとっても同じです。ユズさんは私にこちらでの一般常識を教えてくれていました。裏を返せば、私がそれだけ常識に欠けた行動をして、彼女に迷惑を掛けているということでもあります。
「保母さん仲間?」
「そう捉えてもいいと思います。本職は医者兼研究員のようですが、現状、モコモコさん達と私の面倒を見ることに大部分の時間が割かれていますから」
「…………そう。う~ん、ま、いっか。どうにもセリに付いている妙なモノって虹ちゃんがらみみたいだし、本人に解かせるよ。ちょっと待ってて。虹ちゃん叩き起こしてくるから」
どうやら陽さんの中でなんらかの決着がついたようです。コロリと険しい顔から人懐っこい笑顔に変わった陽さんは、それだけ告げると部屋から出ていってしまいました。
「え? あの~」
その場に取り残された私は、困惑したままテーブルを囲むお馴染みの方達の顔を順繰りに見ます。どの顔も、なんだか仕方ないとでも言いたそうな苦笑を浮かべていました。いえ、睦月さんだけはいつもの無表情ですが、雰囲気は他の方達と同じなんですよ。
「夢魔の呪いということでしたが、具体的にはどのような代物ですか? 最近の虹さんは協会まで出向くことはなかったと思っていたのですけどねぇ」
信さんが少しだけ不思議そうに問うので、私もわからないなりに知っていることを説明しました。
「ほう。本に付加されたものですか。それはまた――」
私の拙い説明を聞いた後の、信さんの第一声です。
「もしや、それは――あの時期辺りに作成されたものでは?」
某か心当たりがあるのか、睦月さんの疲れを滲ませたような声が聞こえました。
「あの時期?」
その言葉に反応した聖くんが、訝しげな声を上げます。
明さんは何も言わずに、素知らぬ顔で食後の紅茶を飲んでいました。その態度が、ちょっと憎らしく思えるのは私の心の狭さのせいでしょうか。
ちなみに余談ですが、本日の夕食は洋食系で、紅茶にぴったりでした。そして、明さんの淹れたお茶はやはり美味しかったです。
「そうでしょうねぇ。色々有り余って暴走していた――いえ、あれも若さ故のことでしょう」
この様子だと信さんは何か知っていそうです。
「若さ、ですか? 確かあの当時の彼女の年齢は――いえ、女性の年齢など口にするものではありませんね。忘れてください」
睦月さんが信さんの言葉を否定しかけて、途中で止めました。何かを感じたのか、誰もいないのに後ろを振り返っています。
「二人でわかりあってないで、こっちにもわかるように説明しろよ」
そこに聖くんが不満そうな声を上げました。私も聖くんと同感です。教えてください。
二人を交互に見れば、信さんがその顔に浮かんだ笑みを隠すように扇を広げました。
「あの時の虹さんの様子を表現するなら女番長、とでもいいましょうか」
「信。その言い方は古いですよ。レディースです」
睦月さんが微妙な訂正をしていますが、どちらも似たような印象しか思い浮かびませんよ、私。
長ランとだぼっとしたズボンを着て、金髪に近い茶髪にマスク。竹刀を持ってヤンキー座りしているイメージです。
でも、私の青春時代でもそれは時代遅れでした。もう廃れていたので、実物は見たこともありません。テレビの中のお話の世界、しかも過去系でした。
そもそも、こちらの世界でもそういうものがあるんですね。ちょっと意外です。
「女番長? レディース? 何それ?」
聖くんが不思議そうな顔をしています。この様子だとこちらでも死語、時代遅れですか、ね?
明さんは私の隣で声もなく爆笑しています。そんなわけで、やはりあてにはなりそうもないです。
「……む~つ~き~ちゃん? 勝手に他人の黒歴史を暴露しないでくれるかしら~?」
唐突に、語尾が伸びた女性の声が聞こえました。
「後で恥ずかしいと思うなら、初めからやらなければいいんです」
それに睦月さんはシレッとした態度で応対していますが、その首にほっそりとした腕が鎌のように掛かっています。
「うるっさい! あたしが駄目って言ったら駄目なのよ。右を向けって言ったら右を向きなさい」
睦月さんの首をギリギリと締め上げているのは、女性というよりも少女でした。どう見ても小学生くらいの……。道理で声も甲高い子供の声なわけです。
「どこの女王様ですか、その発言。そもそも私は信の言葉を訂正しただけです。文句なら信に言ってください」
その腕から易々と逃れた睦月さんは、ひょいっと少女を抱き上げ立ち上がります。
「おはようございます、虹さん」
信さんはニコニコと好々爺な笑みを浮かべ、何事もなかったように横に下ろされ、その場に正座した少女に挨拶をしました。
もう夜ですが、寝起きですから挨拶はおはようで間違いないです。
虹さんと呼ばれた少女がウッと言葉に詰まり、気まずそうな顔になりました。
「……おはよ、信」
信さん相手には文句も言えないのか、虹さんは小さな声で挨拶をした後、ふいっと首ごと視線をそらしました。そのそらした視線と私はバッチリと目が合います。
別にフリフリでゴスロリ風味な服がとても似合っているから、マジマジと見つめていたわけではないですよ? いえ、実際に着ている方を生で見るのは初めてですから、物珍しかったのは否定できませんけどね。
何かに驚いたように虹さんの瞳が大きく見開かれ――なぜか急に立ち上がった後、指差されました。
「虹ちゃん。他人様を指差しちゃ駄目だって」
現れた陽さんが虹さんの腕を下ろし、その場に座らせます。
「お姉さまと呼びなさいって、何度言ったらわかるのッ――じゃなくて、陽。あれ、あれ!」
「虹ちゃんは虹ちゃんだよ。お姉さまってガラじゃないし~。とにかく少し落ち着いた方がいいと思うよ? セリは天然だけど、明は猛獣だから」
ケラケラ笑いながらそんなことを言える陽さんの神経は相変わらずです。明さんが猛獣扱いされていました。堂々と本人のいる前でそういう暴言とも取れる言葉を口にできる陽さんは、ある意味すごいです。でも、見習いたくはないですけどね。
「明が猛獣なのは今更よ、陽。そうじゃなくて、その隣のあの子」
虹さんもサラリと明さんを猛獣扱いして、隣に座った陽さんの腕をパシパシと叩いています。
明さんが猛獣なのは、共通認識ですか~。
睦月さんはそんな二人の姿を気にした様子もなく、その前のテーブル上に紅茶の入ったカップをそれぞれに置き、信さんにおかわりが必要か訊いていました。そして、それににこやかに答えている信さんがいます。
皆さん、マイペースです。でも、そろそろこの少女の説明をして欲しいのですが――。
明さんは答えてくれるつもりはなさそうな顔をしています。説明するのが面倒、と顔に書いてあるんです。
次に目が合ったのは信さんでした。好々爺然とした笑みを浮かべた信さんが睦月さんからもらったお茶を一口飲み、そのカップをテーブルに戻します。笑顔のままではありますが、その浮かべた笑みの種類が変わったような――。
「虹さん」
虹さんの動きがピタリと止まりました。
信さんはただ、名前を読んだだけです。ですが、その声や笑顔に含まれる、静かな威圧とでも言いましょうか。その一言だけで、この場の空気が変わりました。
……信さんはやはり、只者ではないです。
「な、な、な何? あたし何もやってないわよ、たぶん!」
動揺も露に虹さんは隣の陽さんの袖を掴み、どもりながら信さんの方を見ます。でも、その瞳がうっすら涙目です。
その様子は、怯えて毛を逆立て虚勢を張る小動物のようでした。
「ここ最近、良質な悪夢が届いていませんでしたか?」
「……悪夢? う~ん、ちょっと毛色の変わったものならあったかな?」
意外なことを聞かれた、とでも言いたげにキョトンとなった虹さんが首を傾げます。
「な~に、信。悪夢でも欲しくなったの?」
「私が悪夢をもらっても、扱いに困るだけですよ」
苦笑する信さんに、虹さんの首が更に傾きました。ならなんで? と問うような不思議そうな顔をしています。
「……虹ちゃん。もしかしてどの仕掛けが作動して悪夢が取り込まれているか、管理してないの?」
陽さんが何かに気づいたようで、呆れた顔で問いました。
「管理? そんなもの必要ないでしょ。どこの誰の夢かなんて、あたし興味ないもの」
あっけらかんとした答えに、その場の空気が呆れたよう諦めたようなものになります。
「そこはもう少し気にしようよ~」
「ま、虹さんですからねぇ」
「今更ですね」
上から、陽さん、信さん、睦月さんの感想です。
「俺、あれが年上だってどうにも思えないんだけど――」
その言葉に聖くんの複雑な思いが十分表れていますね。
「外見につられて中身も成長しないんだろ」
その呟きに答えるように、明さんが至極真面目な顔を取り繕って告げました。ですが、私にはわかりますよ。内心ではゲラゲラと大笑いしていますよね、明さん。
「あ~、なるほど」
聖くんがそれに納得していますが、そういう問題ですか? 違う気がします。
「セリ。これが虹ちゃん。私の姉で、セリの探していた諸悪の根元」
私が聖くんと明さんの会話に気を取られていると、陽さんが虹さんについて説明してくれました。でも、姉とか、諸悪の根元とか、妙な単語が出てきましたけど、どういうことですか?
「陽さん。それでは言葉が足りませんよ。セリさんが探していた夢魔族ですが、陽さんの見立てでは虹さんのようです。どうぞ煮るなり焼くなりしてください」
……信さん。最後の言葉は比喩ですよね? 信さんが言うと冗談に聞こえません。それが空恐ろしいです。
と、まず気にすべきことはそちらではないですね。
探している夢魔族、ということはこの方が呪いを掛けた張本人ということになります。
「信。いったいなんの話?」
「あなたの暗黒時代の遺物が出てきて悪さをしたのですよ。管理もできていないなら、それがどこで何をどうなっていたかも知らないでしょう。どういう経緯か、協会に保存されていたようですよ?」
そう告げられた後の虹さんの顔は、とっても嫌そうにしかめられていました。
「あの時代に仕掛けた呪いの数々はすべて回収して処分したわよ。協会になんてあるはずないわ」
そして、全否定です。
「でも、セリにうっすら虹ちゃんの呪い痕が残っているから。回収しそこなった物があったのは事実みたいだよ~」
ほらほらっと先程の言葉はさておき、陽さんが私を指差しました。
「陽だって他人様のこと、指差してるじゃない」
虹さんがそのことにぶうたれた顔で文句を言っています。
「私が指しているのは、セリじゃなくて虹ちゃんの呪い痕。だからいいの」
陽さんがそう言い返しました。
指差しているのは私ではないんですね。でも、見えない者にはわかりませんよ、そんな妙な違い……。ですが、虹さんには通じたようです。
「うわっ。マジであたしの呪い痕じゃない。なんで協会なんて場所に――ん? この呪いって……」
私ではなく、たぶん私が付けているだろう呪い痕を見ているのだと思いますが、虹さんが訝しげな顔で首を傾げました。
「何か心当たりでもありましたか?」
信さんがブツブツと小さく何事か呟き出した虹さんに問い掛けます。
「あれ、あたしの暗黒時代の代物じゃない。その前の」
どうやらいつ施した代物か思い出したようです。でも、そんな細かな訂正をしなくても、誰も気にしていませんから。気にする部分はそこではないですから!
「昔ね、ものすっごくムカつくヤツがいてね。無類の本好き、活字中毒者だったから、そいつが収集していた本に呪いを掛けまくったの。これ、その中でも一番念入りにじわじわとなぶるように仕掛けた、あの当時のあたしの最高傑作だわ」
……もう、どこから突っ込みを入れるべきでしょうか。
そんなしみじみとした懐かしそうな顔をしないでください。そういう物騒な代物こそ、さっさと処分してくださいよ。掛けまくったということは、こういう本がまだ他にも存在していると言うことですよね? なんて傍迷惑な――。
そう思ったのは私だけではないと思いたいです。隣の明さんは声もなく爆笑していますが、そのせいで大変なことになっているユズさんを知っていますから、私にとっては笑い話ではないです。
明さんの態度にちょっと腹が立ったので、その腕をバシッと叩きました。
まったく、笑わないでくださいよ。こちらは真剣に悩んで、相談を持ちかけたんですから。
そうしたら明さんに頭をグリグリと撫でられました。
仕返しですか? ちょっ、止めてください。
「え? ぇえ!? は、陽。陽ぅ、あれ、本当の本当に明なの? 明に超そっくりな偽者じゃないのぉ!?」
なんだかとても動揺した虹さんの声が聞こえます。
「驚くのはわかるけど、今の明はいつもあんなだよ~、虹ちゃん。明はセリに会った辺りから別人みたいだもの。今更気づいたの? おっくれてるよ~」
陽さんの声は少しの呆れと多くの笑いを含んでいました。
「陽さん。別人は言い過ぎです。明は昔からこうでしたよ、外面は」
そこに信さんが微妙な訂正を入れています。
「信の方がひどいよ。確かに外面は変わってないけど」
陽さん。肯定している時点で、同罪だと思います。というか、明さんの外面ってどんなもんでしょうね。知りたいような知りたくないような……。
「とにかく、今は明のことはどうでもいいの。虹ちゃん。過去の自分の尻拭いは自分でやろうね?」
虹さんに向けて陽さんはのほほんと笑い掛けます。でも、その空気が笑ってないです。威圧されているような気がします。
「お姉ちゃん、なんのことだかわかんな~い」
虹さんはうるうるとさせた瞳で陽さんを見てそらっとぼけました。典型的な良い子ぶりっ子です。
あの~、それはさすがにありえないと思いますよ? 先程、自分で自分がやったと肯定していたじゃないですか。
「虹さん。そのとぼけ方は滑稽です。陽さんが本気で怒らないうちに、素直に謝って解きに行ったほうが良いと思いますよ」
今まで素知らぬ顔でお茶を飲んでいた睦月さんが、そんな虹さんに告げました。
「そうですよ、虹さん。陽さんを怒らすと宥めるのが大変ですから、今の内に対処してください」
信さんも笑みを消した真剣な顔で促しています。
二人の忠告に、虹さんの顔色がいっきに悪くなったような気がします。一見そうは見えませんが、背後で大量の冷や汗をかいているような、そんな雰囲気です。
ですが、うんともすんとも答えません。なんだか固まっているようにも見えました。
「なあ、明。俺、思うんだけどさ。あれって自分でやったのに自分で解けないんじゃないか?」
こそっと聖くんが明さんに問い掛けました。
「そうだろうな。虹ならありえることだ。それならそうだと初めから素直に告げれば陽も怒らないだろうが――」
「こ、う、ちゃ~ん?」
立ち上がった陽さんが、虹さんの襟首を掴んでいました。
「あれには無理だな」
明さんが呆れた顔をしています。
「学習能力ないね」
聖くんがため息を吐きました。
その視線の先では――。
「お仕置き決定!」
陽さんが逃亡に失敗した虹さんをドナドナして部屋を出ていくところでした。合掌。
「陽さんはああなってしまうと長いですから――今夜はもう無理ですねぇ」
唖然として見送っていると、信さんの苦笑交じりな言葉が聞こえてきました。
「明日の朝には、虹さんも解放されているでしょう。協会へ行く前にこちらに寄ってくれますか? 虹さんが無理でも陽さんがなんとかしてくれるでしょうから、大丈夫ですよ」
「……ありがとうございます」
感謝の言葉と共に、ペコリと頭を下げます。
ここの皆さんは協会に良い感情など持っていないというのに、その感情を抑えて私の頼みを聞いてくれるというんです。元々の原因は虹さんのようですが、それでも協会との関係を思えば知らないと突っぱねられてもおかしくなかったというのに――。
ありがたくも、とても申し訳ないような気分で、心の中はどうにも複雑でした。
「セリさん。私達は協会の存在を否定するつもりはありません。確かにあの組織には色々思う部分がないわけではありませんけどねぇ。それでもあれがあるからこそ、人間の生活圏の平穏が保たれていることも理解していますから。それに、今回のことは虹さんの不手際ですよ。虹さんが責任を取るのは当たり前です」
そう告げる信さんの顔には、いつもの好々爺な笑みが浮かんでいました。
組織に対する感情と、個人がやらかしたことに対する責任は別物ですか。確かにそうですが、口で言うほどそういうことをしっかりと割り切るのはなかなか難しいことだと思います。
「それにあなたは私達の家族ですから。家族のお願いを聞くのに特別な理由なんて必要ありませんよ。そうですよねぇ、睦月くん」
「ええ、そうですね。セリさんがそんな顔をする理由はありませんね。私達は私達のやりたいと思うことを、今回は虹さんの不手際ではありますが、気が向いたらからやるんです。それだけなんですよ?」
変化はわずかですが、珍しく睦月さんの顔が笑っています。
それらの言葉が本心からのものか、私が気にしないようにそう言ってくれたのかはわかりません。でも、信さんと睦月さんのやさしさが伝わってくるものでした。だから――。
「ありがとうございます」
彼らの気持ちに応えるように、今度は笑顔で心からのお礼の言葉を口にしました。




