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とあるファンタジーの顛末  作者: 近衛
とあるファンタジーの日常
17/17

魔導師様と騎士団長様

 まさか一年以上もこねくり回すとは……我ながら……


 さて、勇者パーティと魔王側近、各々最後の一人です。

 楽しんでいただければ幸いです。






 ひゅ、と銀色の光が大気を裂く。


 迷わず首筋を狙って来たソレを、シレーネは軽く首を捻って避けた。

 更に大振りになった二撃目は前傾姿勢になって身体全体を沈み込ませる事で避け、頭上を銀の軌跡が髪を掠めて過ぎ去るのと同時に、体勢を低くしたまま地を蹴る。

 一瞬で懐に飛び込むと、無防備に眼前に晒された胴にそっと手を添え……



空衝波(エアロ・ウェイブ)



 その一言と同時に、シレーネの手と相手の胴の間に一瞬で膨大な量の大気が凝縮され、人の目には見えない渦を巻く。

 次の瞬間、凄まじい勢いで一方向へ集約されて炸裂する!


 至近距離で魔術を喰らわされた男はそのまま悲鳴をあげる間も無く高々と吹き飛ばされ……落下してきた所をまた違う魔術で受け止められ、気絶した状態のままふよふよ空に浮かんでいた。



「や、お見事ー」



 周囲があまりにあっさりと人が吹き飛んだ光景に言葉を失う中、一人笑みを浮かべて暢気に拍手までしている人物。

 言うまでも無く魔王軍騎士団長、コンフリー・ステルンベルギアである。



「それって普通鍛えた成人男性の拳での一撃程度の威力しかない魔術なんだろ? 極めると人も飛ばせるんだなぁ」



 ニコニコと上機嫌な笑みを浮かべて絶賛され、だがシレーネはその賞賛に微妙に眉を寄せた。



「極める? あの程度で? まだまだよ。あんなの拳でも出来るんだから……突き詰めていけばもっと威力は上がる筈よ」



 「目標はもう落ちてこない程の高さまで打ち上げる事よ」と腕を組んだシレーネの言葉に、同じ場所に居た兵士達は震え上がって微妙に距離を置いた。もし死ぬならせめて地上が良いです。

 だがそんな恐れ戦く周囲の空気が読めないのかはたまたあえて読まないのか。

 榛色の隻眼をにこやかに細め、金茶色の長髪を後ろで一本に編んだ長身の男……魔王軍騎士団長コンフリー・ステルンベルギアは、修練場のほぼ中央に立つ紫銀の麗人に実に気安く歩み寄る。

 まるで友人にでも近寄るような軽い足取り……だが次の瞬間、高い剣戟の音と共に二条の銀光がはしった。


 いつの間にかコンフリーの両手に淡く輝く銀の光を纏った双剣が握られ、その切っ先はシレーネの白くほっそりとした首筋に触れるか触れないか、といった所で交差している。

 尋常ではない速度で襲いかかったであろうそれを防いだのは、宙に浮かび上がった紫水晶を思わせる、極薄い魔力障壁だった。

 薄皮一枚刻むことなく防がれた己の双剣を静かに引き、コンフリーは苦笑する。



「防がれたか……相変わらず魔導士とは思えない反応速度だな」


「そりゃあ修羅場も潜ってるもの、防ぐわよ。当たり前でしょ」



 いやいやいや当たり前じゃないです。

 修練場にいた兵士達は、一糸乱れぬ動きで揃って首を横にブンブン振った。

 無理無理無理無理絶対無理。だっていつ抜いたかわかんなかったもん。

 そんな蒼白な顔色の兵士達を尻目に、コンフリーは酷く残念そうに息を吐いた。



「これでちょうど七十七分けか……魔術の使用は禁じてないけど、接近戦で一撃も通らないって自信無くすよなぁ」

「それはこっちのセリフよ。詠唱の邪魔は一切されないのに火傷一つ付けられないなんて……魔導師としての矜持がズタボロだわ、全く」



 お互いの視線が交差する。

 一つはキョトンと見開かれた隻眼、もう一つはいら立ちと呆れが滲んだ紫水晶。



     避ければ     だろ

「「だって    問題ない   ?」」

      防げば     でしょ



 ンなやり取り出来るのはアンタらだけだぁぁぁと叫びかけた兵士の脳裏に過ぎる銀と黒。

 元世界最強の無表情と、それを打ち破った新たなる世界最強の弾ける笑顔を思い出し、兵士達は口を噤んだ。

 強さとは時に理不尽で不可解だという現実を噛み締める。


 肩を落として溜息をつく兵士一同を首を傾げつつ見遣り、だがすぐに興味を失ったシレーネは軽く伸びをすると、魔法やら何故か炎を纏った剣戟やらであちこち抉れたり焦げたりしている練兵場から離れるべくすたすたと歩き出した。その後に軽い足取りでコンフリーが続く。



「後片付け終わったら終了でいいからなー」



 軽い口調で我らが騎士団長に丸投げされた兵士達は、反射的に「はいっ!!」と返事を返してからハッと辺りを見回した。

 片付けたら終わり=片付けなきゃ終わらない。


 後方であがった悲鳴に喉の奥でクツクツと笑いを噛み殺す騎士団長に、勇者パーティの魔導師は呆れの入り混じった半眼を向けた。この男、絶対嗜虐趣味持ちだと確信しながら。



「手伝わなくて良いの? 騎士団長サマ?」


「いいのいいの、俺放出型の魔術ド下手だから」


「だから実戦でも手合わせでも一度も魔術撃ってこなかったのね……」



 はあ、と溜息をつきながら、シレーネは少し後ろをのんびりついて歩いているように見える男にチラリと視線を向けた。

 すぐさまへら、と笑った男にひらひらと手を振られ、その紫水晶の瞳をス、と細める。



 魔王軍魔術師団長であったブラン・リューココリーネが自由国家クラーキアに行くのとほぼ入れ替わりに、勇者パーティの魔導師であり、ユーフォルビア魔導国国立魔導研究所の所長でもあったシレーネ・ユーフォルビアはここ、魔族領土の魔王城に滞在していた。


 魔王城の住み心地は上々。美しく愛らしく且つ優秀なメイド達に傅かれ、家具も衣類もあらゆる物が一級品の上を行く。人間だからと侮られる事もさしあたっては無く、寧ろ練兵場で力を揮う度に向けられる視線には尊敬の色が濃くなっていく。食事は美味しいし希望があれば即座に叶えられ、以前サクラが言っていた「上げ膳据え膳」とはこの事か、とシレーネは内心頷いたりしている。



 ……まあ、問題が全く無いわけでは無いのだけれど。



 いつでも何処でも、眠る時以外は常について回るコンフリー・ステルンベルギアという男。

 そのハシバミ色の隻眼の奥に消えない冷ややかさを宿らせた魔王軍の騎士団長。




 シレーネが目的を達するためには、この隙の無い男への対処が一番の難関であった。







 また違う感じの二人です。

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