アルビオン・カレッジ演劇部
演劇対抗戦本番の数日前、物々しい集団が王立学園正門前に複数台の馬車で乗り付けた。
名門アルビオン・カレッジの演劇部員たちである。
演劇対抗戦の舞台は王立学園演劇ホール。
本番に先立って大道具・小道具・衣装その他必要になる物一式を運び込み、前日には本番さながらのリハーサルを行う。
引率する教師とアルビオン・カレッジ演劇部部長、王立学園演劇部顧問と王立学園演劇部部長が対面し、にこやかに挨拶を交わす。
それを挟んで睨み合う両校の演劇部員たち。
友好的な挨拶の場面であって、宣戦布告の場面ではないはずなのだが……。
「このような美しいお嬢さんが部長を務めておられるとは思いませんでした(女がでしゃばるなよ、泣かすぞ?)」
「伝統ある名門校の皆様においでいただいて光栄ですわ(貴族のボンボンがえらそーに。その鼻っ柱へし折ってやるわよ)」
早くも威圧し合う両者。
アルビオンの演劇部部長は王立学園側より一学年上の十八歳だが、年上の男子だからといって怖気づくヴィヴィアンではない。
二人の間で見えない火花が散っている。
学園長が不在なので、この場面を取り仕切るのは副学園長だ。
「それではさっそく演劇ホールの中をご案内しましょう」
血の気の多い若者たちを制御するには、まず体を動かすことだ。
ガンを飛ばすな、サクサク歩け。
王立学園演劇部は各自教室に戻れ。
アルビオン演劇部はついてこい。
放電しそうなピリピリした空気の中、百戦錬磨の副学園長は対戦相手を案内して演劇ホールの中を歩いた。
早く新しい学園長が赴任して、この役目を代わってくれたらいいのに……と思いながら。
※
アルビオン・カレッジ演劇部一同は王立学園から割り当てられた空き教室でディスカッションをしていた。
テーマは『王立学園の演劇ホールを見学して』。
「部長、悔しいです!」
「電力照明だった……白熱電球がいっぱいあった……うちの舞台照明はまだガスなのに……」
「スポットライトもフットライトも最新型だったなー、いいなー」
「楽屋が綺麗なんだよ、臭くないんだよ。あれどうなってんの?」
「作られてからまだ五年しか経ってないからだろ」
「女子がいるからじゃね?」
「それな」
真面目なディスカッションをするはずが、なんだか違う方向に行っている。
「全体的にピカピカなんだよ、贅沢なんだよ! どんだけ金かけてんだよ、学校なのに!」
「そりゃお前、ダイヤモンド王の娘がいるからだろ。あっちの部長、ダイヤモンド・プリンセスじゃん。寄付金の桁が違うんだよ」
「ダイヤモンド・プリンセスだけじゃない。海運王リッジポート男爵の娘もいるらしい」
「なんで王立学園にいるんだよ! 女子校行けよ!」
「成金の考えることはわからん……」
「うちにも成金の子どもがいれば……スポットライトだけでも新型の電力照明に交換できるのに……」
「言うなよ、哀しくなるだろ」
激高する者もいれば、沈痛な面持ちで嘆く者もいる。
ディスカッションは愚痴大会の様相を呈し始めている。
名門校だからといって全てに恵まれているわけではない。
設備の中には古い物も多いのだ。
「泣くな! 寄付金の額が全てじゃない! 母校の誇りを思い出せ!」
「そうだ、俺たちはアルビオンだぞ!」
「こんな時は歌だ! 応援歌で気分を盛り上げるぞ!」
空き教室に『オ~オ~、オオオオ~』とウォークライのような迫力ある低音の歌が響き渡った。
アルビオン・カレッジに伝わる伝統的な歌の一つ、『応援歌・北風荒きアルビオン』である。
文語調の歌詞はざっくり要約すると『俺たちアルビオン生、王国の覇者! 鍛えまくって最強! 敵に魔力があっても負けないぜ!』といった内容である。
試合前に歌うと士気が高揚するとされている。
ひとしきり歌い終わった後で。
「なあ、今ふと思ったんだけどさ、王立学園ってもしかして食事も美味かったりして?」
「まさか、コンチネンタル式の美食ランチだとでも言うのか!?」
「そんなんだったら俺は泣くぞ!」
「バカ、泣くな! 食べ物が美味い国の軍隊は弱いんだ。不味い国の方が強いんだぞ」
「国、同じじゃん! 同じ国の学生なのに、王立学園だけ美食とか許さん!」
「不公平だ! 暴動を起こすぞ! 格差反対!」
その後、食堂で提供されたランチは普通に王国式(味は二の次で栄養だけはしっかりある質実剛健な料理)だったため、暴動は起きずに済んだ。
大富豪の子女がいても、寄付金の額が違っても、学校のランチが美味しくなるわけじゃないんだなあ……とアルビオン・カレッジ演劇部は思った。
王立学園の生徒たちに交じって、何列にも並べられた長テーブルで、揚げたジャガイモをもりもり食べながら……。
※
揚げたジャガイモをもりもり食べているアルビオン・カレッジ演劇部を遠目に観察している王立学園の生徒たちの中に、クインシーとカーティスがいた。
もちろんこの二人も味の薄いジャガイモに塩を追加してもりもり食べている。
「あいつら敵地でよく食うなあ」
「腹が減っては戦はできないからな。食べられる時に食べておくべきだ」
「周り中敵だと思うと食事が喉を通らないもんじゃねえの?」
「そんな弱さがアルビオンにあると思うか。やつらは自分たちこそ最強と思い込んで生きているサラブレッドだぞ」
「なるほど。お前みたいなやつの集団かー」
「どういう意味だ」
「それよりさー、シェイクスピア対決、どう思う? 女子たちは勝算あるって言ってるけどさ、本当に勝てると思う?」
「さあな、わからん」
「真面目に考えろよー」
「情報が足りない。考えても信頼できる答えは出ない」
「ち、つまんねーの。じゃあさ、偵察に行こうぜ」
「行かない」
「行こうって~」
今ひとつノリの悪いクインシーをカーティスがゆさゆさ揺さぶっていると。
「おい」
アルビオン・カレッジの制服を着た男子が一人、クインシーの前に立った。
「クインシー・サイクラード。僕の顔を覚えているか?」
「デクスター・ロバートソン。もちろん覚えている」
対抗戦の種目の一つ『弁論』で、クインシーが打ち負かした相手だった。
本編とは関係ありませんが、この回の投稿日10月23日は私が「小説家になろう」に投稿を始めた日で、投稿歴がちょうど二年になります。応援してくださる皆様に心より感謝申し上げます。ありがとうございます。これからも読む人を楽しませる軽くて明るくて読後感の悪くないライトな話を書き綴っていきたいと思います。2026年10月、ful-fil.




