11話 俺こそが正義だ!
リリアは拳を強く握りしめた。長い叫びのせいで呼吸は乱れていた。屋敷の屋根の上に立ちながら、彼女は叫び声を聞いた。
「助けて!」
屋敷が襲撃されていた。ノエルとエリス、そして兵士たちが攻撃に応戦している。リリアは急いで彼らのもとへ駆けつけた。
魔力で強化された短剣を持つ盗賊の一人がエリスへと突進する。エリスはすぐさま手を掲げ、その男を空高く弾き飛ばした。男は地面へと落下し、そのまま動かなくなった。
ノエルは集団ごとに敵を殲滅していく。一見するとただの盗賊だった。彼らは弱く、大した魔力も持っていない。
「愛しい人!私は王とその家族の様子を見てくる!大丈夫か?」
「私を疑っているの?」
ノエルは微笑み、そのまま屋敷の中へと向かった。
「息子の楽しい宴を台無しにした報いよ!」
リリアはエリスのもとへ駆け寄った。彼女の視線は虚ろで、どこにも焦点が合っていない。
「リリア?あなただけ?アーサーは見ていない?」
メイドは視線を落とした。エリスの目が大きく見開かれる。
「リリア……私の息子はどこ?」
「申し訳ありません……彼は連れ去られました……」
リリアはその場で凍りついた。
エリスは、まだ言われたことを完全には理解できていないかのように彼女を見つめていた。
「……もう一度言いなさい」
その声は静かになっていたが、そこには危険なほどの冷たさが宿っていた。リリアは必死に唾を飲み込む。
「私……彼を守れませんでした……」
「私が聞いているのは、息子がどこにいるかよ」
エリスは一歩前へ踏み出した。
彼女から放たれる重圧のような魔力で、周囲の空気が重くなる。
「申し訳ありません……申し訳ありません……申し訳ありません……必ず見つけます……」
しかし、その言葉はもう誰にも届いていなかった。エリスは魔力の爆発と共に空へと跳び上がり、空間を引き裂くようにして一瞬で姿を消した。
「エリス様!?」
方その頃、ノエルは同時進行で騒動を収めつつ、客たちへ謝罪していた。国王はその場で立ち尽くし、王妃と気をもんだ様子で言葉を交わしていた。
「殿下!ご無事ですか!」
王はゆっくりと顔を向ける。その瞬間、ノエルは凍りついた。彼の顔には、生気が一切なかった。
彼は静かに呟いた。
「……連れ去られた」
「連れ去られた?誰がだ?」
王妃は顔を背け、静かに涙を流していた。ノエルは焦ったように周囲を見回す。そこにプリンセスたちの姿はなかった。その瞬間、ようやく彼は理解する。同じ頃、アーサーは意識を取り戻しつつあった。彼は勢いよく目を開け、周囲を見回す。湿った地下室。滴る水の音。
手足は鎖で拘束され、口には猿轡がはめられていた。
それはただの縄ではない。鋼の鎖だった。
その音は、かつての世界の牢獄を思わせるものだった。
……何が……起きた……そうだ……気を失った……誰が……
アーサーはもがき、猿轡越しにくぐもった声を漏らす。
「起きたか?」
石壁の角から、黒い密着した服を着た男が現れた。
その後ろにも同じ姿の者たちが並んでいる。
「目覚めを祝おう……ノエルの息子よ」
アーサーは凍りついた。
「息子」という言葉は、彼の身体を縛る鎖よりも強く意識を打った。
彼はゆっくりと話している男へ視線を上げる。
……
黒い影たちは動かなかった。アーサーは突然腕を引いた。しかし鎖はびくともしない。
「無駄だ」黒衣の男は冷静に言った。「これは魔法の拘束具だ。普通の子供では壊せない」
アーサーは目を細める。
鼻から鋭く息を吐き、気持ちを落ち着けようとした。
同じ服装の影の一人が、女性の声で話した。顔は依然として隠されている。
「心配しないで。殺すつもりはない……今のところはね」
「今のところ……?」
足音が聞こえた。
「戻ったか?」
足音はしたが、最初は姿が見えなかった。しかし次の瞬間、その男は現れた。他の者たちと同じ黒い衣装。
「こいつが……」
アーサーは身構えた。
思い出す……急に意識を失った。そして何か見えないものに掴まれた気がして……その後は暗闇だった……
やって来た男の声は、喉を痛めたように掠れていた。
「すみませんボス……ですがここに……」
彼は壁の向こうを見て、すぐにしゃがみ込むようにして何かを引きずり出した。
人の大きさほどの檻だった。
アーサーは固まった。中を見た瞬間、目を見開く。
そこにはチャオとザオがいた。 怯えながら身を寄せ合っている。アーサーは固まった。
瞬、自分の見間違いかと思ったが、違った――檻の中には確かに双子のプリンセスがいた。
チャオは顔を上げ、アーサーの姿を見つけた。
「アーサー!?」
ザオもその名前を聞き、姉と同じように顔を上げた。
「アーサー! 無事なの!? あなたたち、彼女たちに何をしたの!?」
誘拐犯の一人が檻を見て、驚きのあまり息を呑んだ。
「てめぇ何してやがる、クソ野郎!? 捕まったらどうなるかわかってんのか!? 俺たちの目的はノエルの息子だけだったはずだ!」
「すみませんボス! 欲が出てしまいました! 彼女たちを奴隷として売ったらどれだけ稼げるか想像してしまって…」
「クソが!」
アーサーは檻を見つめ、口枷越しにうめいた。
チャオとザオは道中で落とされたように汚れていた。
「おい、こいつの口枷外すか?」
「正気か?」
「話だけでも聞いてみよう」
そう言って女がアーサーの口枷を外した。唾が彼の襟に落ちる。
「お前ら、何をしている?」
女は大きくため息をつき、再び口枷を彼の口に押し込んだ。
「別に大したことじゃないわ」
「で、プリンセスたちはどうする?」
「本当に奴隷として売るのもありかもね? 見て、この可愛さ! 大金になるわよ」
「うーん、どうだろうな」
女はリーダーに近づき、その肩に手を置いた。
「大丈夫よ…」
「まぁ…いいか」
彼女は手を叩いた。手袋が音を吸収する。
「よし、それじゃまずはプリンセスたちから片付けるわよ!」
そう言うと、彼女は軽やかに檻の方へ向かった。
「させるか!」
アーサーは口枷を噛みちぎった。
「そこから動くな、さもないと死ぬ」
「は?」
斉にアーサーへ視線が向いた。彼はすでに立ち上がっていた。鎖はすでに砕かれ、床に落ちている。アーサーは腕を伸ばし、人差し指を女へ向けた――指は“銃”の形に組まれていた。
「なっ!? どうやって抜け出した!? 誰も気づかなかったのか!?」
「油断してただけさ…」
女の声は恐怖ではなく、むしろ嘲るようだった。
「やだ、怖いわぁ! 小さな男の子が指で脅してるわよ?」
彼女は一歩踏み出した。次の瞬間、鋭い音が響いた。彼女は一瞬だけ動きを止め――
そして、額に小さな穴を空けたまま崩れ落ちた。




