↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
シークレットトラック  作者: 豊岡和人
そして音楽は続く
PR
80/84

そして音楽は続く(1)

 彼女の存在が消えて無くなっても、時間の流れは変わらない。


 一時間は六十分で過ぎるし、二十四時間で一日が終わる。朝になれば昇り夜になれば沈むという太陽の動きも、毎日踏切を通り過ぎる電車のスピードも、何一つ変わらない。簡単に毎日は流れていき、年が明けて一ヶ月が過ぎた。


 想像以上に世界は人の死に対して無関心であると、そしてどれだけ僕が悲しんでも、願っても、彼女は帰ってこないという当たり前の現実を、僕は日に日に理解してきていた。


 僕があのCDを渡した日から一週間後、彩音の容態は急変した。それを知らされた時には既に面会謝絶となっていて、ただ彼女の快復を信じて待つことしかできなかった。だが、その願いも叶うことはなかった。


 一月に入って一週間が経ち、町に漂う年始の浮ついた空気が薄れてきた頃に、彩音は息を引き取った。三学期の始業式を終えた放課後、笹崎に呼び出されて、その事実を聞かされた。後の会話はあまり記憶がない。重要な機能が取り除かれたかのように頭から熱が奪われて、喉の奥が締め付けられ、手足の感覚が急速に失われていったことだけは覚えている。


 絶望という言葉を本当の意味で突きつけられた気がした。もう、なんの施しようもないのだと。どれだけ努力しても、焦っても、願っても、彼女の溌剌とした声や、温かなギターの音を聞くことはできないのだと。あの鈴を張ったような瞳も、屈託の無い微笑みも、二度と見ることはできないのだと、見えない何かから教えられた気がした。


 あれから一ヶ月。僕は無気力で毎日を生きている。


 何かを見たり聞いたりして感情が動かされることもない。何かに対して楽しさや怒りを覚えることもない。大きな喪失に耐えられず、ずっと心が眠っているようだった。学校を終えて帰宅した今も、ベッドに横たわり、無為に時間を貪っている。多くの出来事は時間が解決してくれるが、そうじゃないこともあるのだと知った。


 窓外は、二度と春が来ないのではないかと思うような寒さに浸されている。間違いなく窓は閉まっているはずなのに、その冷たい空気が僕の体にまで届いてくるような感覚がする。ふとした瞬間に頭が痛む。胃から何かが押し出されるような不快感が走る。全ての思考に靄がかかる。


 このままではいけないと思いながらも、何をすればいいのかが分からない。毎日を過ごす目的が、生きていく理由が無くなった。死ぬ理由も無いから、呼吸と拍動を続けているだけだ。


 ――ただ、もしも今


 と、僕は胸の中で呟く。


 この現状を変えられるものがあるとすれば、それはきっと、あの存在だけだろう、と。


 そう思いながら、僕は自室の机に目をやった。そこには一つ、白色の封筒が置かれている。


 それは、彩音の通夜が行われた場で、彼女の母親から渡されたものだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。