炎翼鳥が戦う古き神
炎翼鳥の出番。少しだけ名前が出ていたオールドエイジとの軋轢の話
八百刃獣の中でも、属性特化型の中でも屈指に入る炎の翼を持つ鳥、炎翼鳥。
元々は、バードス国の守護者をしていたが、蒼貫槍の干渉から滅びようとしていた時に八百刃獣となった。
現在は、武器や兵器の監査を行っている。
しかし、今回は、普段と少し異なる仕事を任される事になった。
「忙しい所、済まないわね。ちょっとトラブルが発生して、その対処をお願いしたいの」
八百刃の言葉に炎翼鳥が頭を下げる。
「お任せ下さい。それで、どの様なトラブルなのでしょうか?」
白牙が資料を渡しながら言う。
「紅炎甲様の配下の神、赤風目様が、オールドエイジ、黒縛糸様の管理している世界に乱入して、その世界の住人を滅ぼした」
それを聞いて流石に、炎翼鳥も顔を顰める。
「まさか、そんな事をすれば、大問題になる事は、明白だろう」
白牙が舌打ちしながら言う。
「異界を侵食しようとしていた違反者だとしても、事前の申告を行わないのが紅炎甲様の配下だって事だ」
八百刃がフォローする。
「あのね、敬称つければ良いって問題じゃ無いよ。真面目に仕事した結果なんだから、フォローは、あちきの仕事でも仕方ないよ」
炎翼鳥が頷き言う。
「なる程、それでは、私が八百刃様の名代として、黒縛糸様の所に行けば宜しいのですね?」
八百刃が難しい顔をする。
「正確に言うと違うの。黒縛糸殿は、あちきからの直接の謝罪を求めているの」
それを聞いた瞬間、炎翼鳥の顔が怖くなる。
「黒縛糸様は、何の冗談を言っているのでしょうか?」
白牙も怒りをぶり返させながら言う。
「本気みたいだ。一線を退いた存在が、最上級神に謝罪させようと言うのだから、ふざけている。こんな事が漏れてみろ、ただでは、すまないぞ」
頷く炎翼鳥。
「十中八九、若い八百刃獣や八百刃様に媚を売りたい神々がこぞって討伐に出ます。最上級神に対する不敬罪は、それだけの事を許す物です」
言外に当然と言う雰囲気を漂わせている白牙と炎翼鳥に対して八百刃が言う。
「あのね、事前承認を取らなかったこっちの手落ちなんだから、あちきが謝罪しに行っても良い話だよ」
「「絶対に駄目です」」
声を揃えて否定される八百刃は、小さくため息を吐いて言う。
「新名殿や天包布殿からも止められてるから、今は、いけない。だから、炎翼鳥には、あちきがいけない間の場繋ぎをお願いしたいの。色々と言われて辛いと思うけど頼める?」
怒りを堪えながらも炎翼鳥は、頭を下げる。
「拝命いたしました」
炎翼鳥が八百刃の執務室を出た後、白牙が後を追ってきた。
「ヤオに秘密でお前に頼みたい事がある」
それを聞いて炎翼鳥が言う。
「八百刃様を虚仮にした奴を滅ぼし、罰を受けると言う話でしたら喜んで受けましょう」
白牙が首を横に振る。
「それだったら、中位の奴にやらせている。礼儀を守りながらも焦らし、相手にお前を攻撃させろ。お前が攻撃されたら、反逆の意思がありとして、公然に始末させられる。金海波様に後ろ盾になってもらう確約は、とってある。すまないがよろしく頼む」
炎翼鳥が頷き答える。
「了解した。ただし、始末をする役目は、譲らないぞ」
白牙が頷く。
「塵一つ残さず、焼き尽くしてやれ」
こうして、炎翼鳥は、黒縛糸の元に向かうのであった。
「お初にお目にかかります。最上級神、聖獣戦神八百刃様に使える八百刃獣の一刃、炎翼鳥と申します」
黒縛糸に頭を下げる炎翼鳥。
「私は、八百刃に謝罪に来いと伝えた筈だが?」
黒縛糸の不遜な態度に炎翼鳥の隣に居た赤風目がいきり立つ。
「貴様、何様のつもりだ! 八百刃様は、六極神だぞ。いくらオールドエイジでも、貴様ごときが、呼び捨てにして良いお方だと思っているのか!」
今にも攻撃しそうになる赤風目を押さえる炎翼鳥。
「六極神と偉そうな名前を冠していた所で、所詮は、戦闘しか能が無い小娘だろう。何故、古来より数多の世界を管理してきた私が礼を持って対応せねばならぬのだ?」
当然と言った雰囲気の黒縛糸に赤風目が更に激昂するが、炎翼鳥が前に出て言う。
「黒縛糸様、言葉には、お気をつけ下さい。八百刃様が最上級神なのは、貴方様の同輩お方も認めていることでございます。八百刃様の事を侮辱するのは、そのお方がたも侮辱する事になります」
その言葉に不機嫌になる黒縛糸。
「もう良い、八百刃が来ないのならお前達には、用は、無い。帰れ!」
そのまま、奥の私室に戻って行ってしまう。
炎翼鳥と赤風目が用意された部屋に戻る。
用意された部屋は、とても客室とは、呼べないものだった。
「何様のつもりだ!」
激怒する赤風目に炎翼鳥が言う。
「赤風目様、ここに居ても不愉快な思いをするだけ、この後の事は、私がお受けしますので、元の任務にお戻り下さいませ」
赤風目が壁を叩きながら言う。
「紅炎甲様からは、今回の一件は、最後まで付き合って来いと言われている。当然のお言葉だ」
赤風目の見えない所で、足手纏いに落胆する炎翼鳥。
「しかし、今回の件、どうして事前の申請を行わなかったのですか?」
炎翼鳥の言葉に、赤風目が苛立ちながらも答える。
「これが初めてでは、無いのだ、以前にもあって、その際には、面倒と思いながらも黒縛糸に申請した。しかし、申請は、通らず、問題の奴も行方知れずになった」
炎翼鳥の顔が一気に鋭いものになる。
「まさか、黒縛糸様が直接関与している可能性があると言うのですか?」
赤風目は、目を正義の怒りの赤に染めて答える。
「そうだ! だからこそ、今回は、申請無しに成敗した。その結果があの態度だ。絶対に何か裏があるのだ!」
炎翼鳥も頷く。
「そうかもしれません。解りました、私の配下の者にも極秘に調査させます」
「頼んだぞ!」
赤風目も期待する。
炎翼鳥と赤風目は、毎日の様に黒縛糸の元に行き、謝罪を申し入れるが、八百刃が来るまで謝罪を受け付けないと突っぱねられ続けた。
その中、幾つかの事実が発覚した。
一応の客室で赤風目が言う。
「詰り、黒縛糸は、現体制に反意があるという事なのだな?」
炎翼鳥が頷く。
「元々、上位世界の存在が下位世界に干渉する事を容認していた節があり、現在の一方的な世界干渉を禁ずる政策には、反対だった様です」
赤風目が象徴である赤い正義の風を吹き荒し言う。
「決まりでは、無いか。そんな反意を持つ者は、成敗しても問題ない。今からでも襲撃をして!」
炎翼鳥が止める。
「反意があるとされているだけで明確な行動を示していません。このままの状況で成敗すれば、他のオールドエイジのお方との齟齬に繋がります」
舌打ちする赤風目。
「現役の足を引っ張るからロートルは、嫌なのだ!」
そして、事件は、その翌日、起こった。
「何を言いたいのだ!」
赤風目が黒縛糸を怒鳴る。
「何度でも言おう、自分より若輩の小娘の下で働くなど、紅炎甲も情けない奴だと言ったのだ!」
黒縛糸の嘲りの言葉に赤風目が敵意を孕んだ風を放つ。
「若輩娘に尻尾を振る根性が無い神の属神が勝てるつもりか!」
黒縛糸の影から無数の黒い糸が放たれて、赤い風とぶつかろうとした。
「お止め下さい!」
その声と共に放った炎翼鳥の炎が両方を一瞬で消滅させた。
「邪魔をするな!」
「小娘の使徒が神々の争いに口を挟もうとは、片腹痛いわ!」
両者の攻撃が炎翼鳥に直撃し、大きな傷を負い、倒れる炎翼鳥。
一発触発のその場所に、少女の声が響く。
「そこまでにして貰えますか?」
声の方を向くと八百刃の分身が立っていた。
驚く赤風目。
「八百刃様、どうしてここに?」
八百刃は、そちらに目を向けずに言う。
「今すぐ帰ってください。そうすれば、貴方があちきの八百刃獣に傷を負わせた事は、無かった事にします」
その言葉に、自分がとんでもないことをした事に気付き、赤風目が慌てて弁明をする。
「これは……」
しかし八百刃は、そちらを見ずに続ける。
「あちきが顔を向ける前だったら間に合います」
赤風目は、悔しそうにその場を後にした。
八百刃は、炎翼鳥の傍に行って言う。
「攻撃されれば処分するお題目が出来るからって、馬鹿な事は、しないの。本気で処分する必要がある時は、あちきがどうにかするんだかね」
「しかし、今回の一件は……」
八百刃が強い意思を籠めた目で問う。
「あちきが信じられないの?」
その一言で、炎翼鳥が頭を下げる。
「勝手な事を致しまして、すいませんでした」
八百刃は、炎翼鳥に力を注ぎ込み、傷を癒し始める。
そんな八百刃を見て高笑いをあげる黒縛糸。
「部下のコントロールも満足に出来ないとは、なんと未熟。その程度で、最上級神を名乗るとは、不遜もいい所だ!」
八百刃は、振り返り頭を下げる。
「謝罪が遅れましたが、今回の一件の事は、全てあちきの管理不行き届きです。深く謝罪させて頂きます」
満足気な顔をして黒縛糸が言う。
「解っていれば宜しい。それでは、謝罪の証として、私の世界への干渉をしない事を誓え!」
勝ちを確信した黒縛糸と自分の失敗に悔しそうな顔をする炎翼鳥。
しかし八百刃が貫く瞳で言う。
「今の一言で確定しました。貴方は、神々が決めた世界安定法の違法行為を容認し、それを増長させている、違反者だと。これは、最終通告です。世界安定法を守り、己の神としての職務を全うすると誓って下さい。そうすれば、今回の一件は、罪を問わない事にします」
いきなりの展開に黒縛糸が言う。
「小娘の分際で! 私は、お前が人だった時より更に古き時から、神として世界を管理せし者。お前の様な若輩者に何故従わないといけないのだ!」
八百刃は、少しだけ悲しそうな顔をするが背を向ける。
「白牙に直ぐに帰れと言われているの。処罰を行い、代わりの神が来るまでの間、この世界の監視と出入りの制限を頼むね」
炎翼鳥が頭を下げる。
「拝命いたしました」
「待て!」
黒縛糸がその糸を放つが、全てが炎翼鳥の炎で消滅する。
炎翼鳥は、黒縛糸の前に立ち告げる。
「終わりだ。お前の世界は、立派に代わりが出来る者が来るまで私が保護することを誓おう」
「ふざけるな! たかが使徒の分際で!」
世界を監視するのに用いていたのを含む、全て力を収束して一本の糸にする黒縛糸。
「この糸は、世界そのものを束ねたのと同じだけの力を秘めている。下等な使徒には、受け止めることなど出来ぬ!」
突き進む黒い糸。
しかし、その糸は、炎翼鳥を覆う炎を突破出来なかった。
「馬鹿な、さっきは、通じたのに何故?」
戸惑う黒縛糸に炎翼鳥が答える。
「さっきまでは、お前の攻撃が通じる様に防御を解いて居ただけだ。お前程度の力が偉大なる八百刃様の力を授かった私に通じる訳がないのだ!」
その瞳には、散々八百刃を馬鹿にされた怒りの炎が宿っていた。
「塵一つ残さず消えろ!」
炎翼鳥が放った炎は、抵抗する事も許さず黒縛糸を消滅させた。
「ご苦労だったな」
替わりの神が到着してようやく戻ってきた炎翼鳥を迎えに出てきた白牙が声をかけた。
「いえ、態々八百刃様の御足労を頂く事になって申し訳ないと思っています」
その言葉に大きくため息を吐く白牙。
「そうだったな。しかし、今回の裏事情をどうやって察知したんだ?」
炎翼鳥が注意して見ると白牙の背中に物凄く小さな八百刃が居た。
発見された事に気付いた小八百刃が逃げようとした動きで白牙が気付き、捕まえる。
「どうして、誰も気付かなかった?」
すると小八百刃が答える。
「一種の催眠術だよ。ここに居る人には、本体が知らない内にあちきを見えないようにしていたの」
「なるほど、長期間、ここを離れていた私には、その効果が切れていたという事ですか」
炎翼鳥が納得する中、白牙が笑顔で言う。
「一つ聞きたいんだが、どうして、こんな事をしていた? 俺達の事を極秘に監視するためか?」
「勝手な事をするかどうかなんて、調べようと思えばちょっと力を使えばすぐだし、そんなのは、あちきのポリシーに反してるよ」
小八百刃の答えに白牙が頷く。
「そうだろう。実際問題、今回は、お前に内緒で動こうとしたんだ、監視されていても文句は、無い」
安堵息を吐く小八百刃だったが、白牙が続ける。
「本当の目的は、俺の行動をいち早く本体に伝える為だろうが! 炎翼鳥、こいつを隔離しておけ!」
そう告げると白牙が八百刃の執務室に駆け戻っていく。
小八百刃が焦りまくる。
「どうしよう!」
炎翼鳥が疲れた顔で言う。
「今度は、何をしようとしていたんですか?」
小八百刃が目を逸らして言う。
「内緒で卵料理を食べに行くための分身の作成」
この後、八百刃は、白牙に長々と説教を受ける事になるのであった。




