九尾鳥の写し身を使う者
八百刃獣は、魔法の呪力の元になる事もあります。その為に、非道な手段を使う人間も居た
八百刃獣の中でも古株で、属性能力の多彩さでは、最強とさえ言われる九つの色の尾を持つ鳥、九尾鳥。
元々は、九頭鳥という魔獣だったが、己の所為で大切な少女を死なせてしまった事を悔い、全ての判断を八百刃に任せるとして、八つの頭を消滅させて、今の姿になった。
現在は、主に魔法や術等の高位存在の力を介在した業の管理を行っている。
そして、今回、禁術に関わる事になる。
遠い異世界。
大抵の者は、強力な術を使えた。
逆に言えば、術を使えぬ者には、地獄の様な世界だった。
パーティー会場。
そこで下働きで働きをする少女、ミレイユが、広い会場を息切らせて走っていた。
「お嬢様、持ってまいりました」
そういって差し出されたアクセサリーを、ミレイユを雇う高位術者を多く輩出させる名家の娘、カレイユがあざけ笑う。
「あら、随分と遅かったのね。あまり遅いから、自分で出してしまったわ」
そういって、ミレイユが持つのと同じアクセサリーを見せ付ける。
ミレイユは、悔しそうにしながらも頭を下げる。
「すいません」
「本当に術もろくに使えない屑は、駄目ね」
カレイユは、ネチネチと攻める。
その間、ミレイユは、反論も許されず、悔しそうに俯くしか出来なかった。
「いい加減にしろ!」
そう言って出てきたのは、ミレイユと同じ下働きの少年、カレントだった。
「カレント!」
ミレイユが視線で止めるが、カレントは、止まらない。
「そのアクセサリーだって、ミレイユが出て直ぐ、術で作ったんだろうが! 人を弄るのもいい加減にしろ!」
それを聞いて、カレイユが不愉快そうな顔をして術を放つ。
『レッドテールボール』
炎の塊が、カレントに放たれた。
誰もがカレントの死を疑わなかった。
そして、それを大半の者が止め様としなかった。
「誰か!」
ミレイユが叫んだ。
『ブルーテールウォール』
水の壁が現れて炎の塊を包み、消滅させる。
それを見て、カレイユが術を発動した人物を見る。
「何で邪魔をするのですか、お兄様?」
その人物、カレイユの兄、カイサーは、答える。
「彼等は、我が家の貴重な財産だ。それをお前の気分で失うわけには、行かない。それだけだ」
不機嫌そうにカレイユが言う。
「こんな、術も使えない奴等の代わりなんて、マジックドールで十分ですわ」
苦笑するカイサー。
「お前は、まだ術者としては、未熟だ。どんなに巧妙に作っても人の手で作ったマジックドールでは、人の代わりには、ならない。色々な意味でな」
そういって、ミレイユを見る。
その視線に含まれた意味をミレイユも理解し、辛そうに頷く。
「おい、キューク。この馬鹿を牢屋に連れて行け」
「解りました」
カイサーの言葉に従い、ミレイユやカレントと同じ下働きのキュークがカレントを拘束して牢屋に連れて行った。
「どうして、俺は、術がつかえないんだ」
牢屋の中で悔しそうにするカレント。
そんなカレントに彼を牢屋に連れて来たキュークが言う。
「そんな下らないことを考えていたのか?」
カレントがキュークを睨み言う。
「お前は、考えたことは、ないのか! この世は、強い術を使えるかどうかで全てが決まる。俺が強い術を使えれば、奴等に思い知らせてやれるのによ!」
キュークが呆れた顔をして言う。
「それで、今度は、お前が他人を術で支配するのか?」
カレントが怒鳴る。
「馬鹿言うな! 俺がそんな事をするか!」
キュークは、肩を竦めて言う。
「今さっき言ったばかりだぞ、より強い術の使い手になって、自分より弱い術者を術で虐げると」
「俺がやるのは、虐げて居る奴等だけだ!」
カレントの言葉にキュークは、上を見ながら言う。
「好きなだけ言ってろ、お前がどんな妄想をしようと良いが、自分のやった事の結果だけは、理解しておけよ」
カレントが舌打ちして言う。
「解ってる、どうせ暫くは、食事抜きで給金も出ないんだろう」
キュークは、少し考えてから言う。
「本気で言っているのか?」
それに対してカレントが不機嫌そうに言う。
「他に何があるって言うんだよ。俺には、失って困るものなんて無い」
「お前には、だ。気付いていないんだったら、救いも無いな」
キュークの物言いに鉄格子から腕を伸ばしてキュークを掴み言う。
「何が言いたいんだ!」
キュークは、まともに相手する気も無いのかその腕を払って、パーティー会場の残飯を食べ始める。
「答えろ!」
カレントが鉄格子を鳴らして怒鳴るとキュークが頭をかいて言う。
「今頃、ミレイユは、カイサー様に抱かれている頃だな、お前の罪を許してもらう交換条件でな」
「どういうことだ!」
目を血走らせるカレントにキュークが冷め切った目で言う。
「自分のした事をもう少し冷静に考えるんだな、パーティー会場であんな真似をして、命が助かったのは、カイサー様の言ったような表向きの理由だけじゃない。ミレイユの貞操の為だ。前々からカイサー様は、言っておられた、抱いた時の抵抗や反応は、どんなマジックドールより生身の少女が良いと」
「出せ出せ出せ!」
暴れるカレントを無視して食事を続けるキューク。
暫く暴れ、両手を血塗れにしてカレントが叫ぶ。
「絶対に許さねえ!」
「誰をだ?」
キュークの言葉にカレントが憎しみを籠めて言う。
「カイサーの奴等に決まってるだろうが!」
冷たい目でキュークが言う。
「詰り、お前は、自分のした事に反省をしてないんだな?」
「俺がどうして反省しなきゃいけないんだ!」
カレントが怒鳴るとキュークが答える。
「お前があんな事をしなければミレイユが貞操を奪われる事は、無かった。カイサー様が言っていた様に直接的に危害を加える事は、汚点にしかならない。合意としなければカイサー様の失点になるからな。そして、ミレイユが合意するのは、お前を助ける為に決まってるだろう」
言葉に詰まるカレントにキュークが続ける。
「それを覚悟の上での行動ならまだ良いが、考えもしなかったんだな。お前もカイサー様達と一緒だ」
「何が一緒だって言うんだ!」
カレントが反射的に怒鳴るとキュークが答える。
「ミレイユの気持ちが理解しようとしないで、自分の気持ちだけで動いて、ミレイユを傷つける。何処が違うんだ?」
何も言い返せず、自分の無力さに拳を握り締めて血を流すカレントだった。
翌日からカレントは、変わった。
今までの反抗的な態度をなくなり、従順になった。
そして、そんなカレントを悲しそうな目で見るミレイユが居た。
「ほら、食べなさい」
カレイユが床に捨てた食事を食べるカレント。
「本当に術を使えない人間って犬と同じね」
楽しそうに高笑いをあげるカレイユ。
そしてカレイユが去った後、ミレイユが来て言う。
「どうして、カレントは、こんな事をする男じゃなかった筈よ?」
カレントは、視線を逸らして言う。
「お前を汚させてしまった俺には、意地を張る資格なんて無いんだ」
ミレイユは、そんなカレントの顔の前に回りこみ、手で顔を押さえて真正面から言う。
「あたしは、どんな相手でも意地を張る貴方だから、交換条件に乗ったの。こんな貴方の為じゃ無い!」
カレントは、拳を床に叩きつけて言う。
「だが、俺は、お前を護ることすら出来ない!」
それに対してミレイユが抱きついて言う。
「一人で戦わないで。二人で戦おう。カレントが意地を張って、あたしがそれを支える」
二人は、自然と唇を合わせていた。
そして、カレントが抱きしめた時、ミレイユが吐血する。
慌てるカレント。
「どうした!」
白目を剥くミレイユに必死に呼びかけるカレント。
「これは、禁術の生贄にされたな」
キュークが後ろから声を掛けてきた。
「何か知っているんだったら、説明しろ!」
カレントに睨まれてキュークが言う。
「カイサー様が、あそこまで回りに気を使っている理由だ。密かに生み出した、ある神の使徒の写し身を維持する為に生殖行動を利用した作った呪術的パスを使ってミレイユの生命力を奪っていたんだろう。このままでは、死ぬな」
カレントは、キュークにミレイユを渡して言う。
「こいつを頼む。俺は、カイサーの所に行って、止めさせる」
落ち着いているが、強い意志が篭った言葉にキュークは、頷き、自分がつけていた腕輪を渡す。
「御守りだ。つけていけ」
カレントが受け取り駆け出す。
「カイサー、ミレイユにつけたパスを切れ」
カレントの言葉にカイサーが鋭い目をして言う。
「何故、お前がそれを知っている?」
「そんな事は、どうでも良い。ミレイユが危ないんだ、急げ」
カイサーは、苛立ちを籠めて言う。
「所詮は、術も使えない屑か。次の生贄を探さないといけないな」
カレントは、拳を握り締めて言う。
「お前だけは、ここで倒す!」
殴りかかるカレントにカイサーが言う。
「愚かな、その身で我が手に入れた力を見るが良い」
上着を脱いで、自分の左胸に埋め込まれた青い羽を光らせる。
『ブルーフェザーアイスエンド』
カイサーの胸から放たれた青い光は、触れたものを次々と氷結、破壊して進んでいく。
「痕跡も残さず消えろ!」
カイサーが高らかに宣言した。
しかし、その光は、カレントに触れたが、何も起こらなかった。
「馬鹿な……。名を呼ぶのすら禁じられる高位神の使徒、九尾鳥の写し身を使った術だぞ、お前みたいな屑が平気な訳がない!」
カイサーが混乱して連続して、術を放つが、壁や、遠くの山まで一瞬で砕く青い光もカレントには、通じない。
「終わりだ!」
カレントの拳がカイサーを一撃で沈黙させる。
「これを取れば良いのか?」
「それは、触れるだけで全生命力を奪う。カイサーは、その回避する為にミレイユみたいな生贄を使い続けた」
いきなり現れたキュークの言葉に、カレントは、手が一瞬止まった。
しかし、カレントは、はっきりという。
「すまない、俺が死んだらミレイユを連れて逃げてくれ」
そしてカイサーの胸から青い羽根を剥ぎ取るカレント。
次の瞬間、その青い羽は、弾けてキュークが渡した腕輪に吸収されてしまった。
「どうなってるんだ?」
カレントが聞き返す為に振り返るとそこに九尾の鳥が居た。
『汝は、見事、試練を乗り越えた、その腕輪は、汝を護るだろう。しかし、忘れるな、戦うのは、あくまで汝であり、その意思である事を』
そのまま消えていく。
呆然とするカレントの耳にキュークの声が届く。
『ミレイユの生命力は、回復させておいた。サービスだ』
その後、キュークの姿を見た者は、誰も居ない。
八百刃の前に立たされる九尾鳥。
「こっちが言いたい事は、解ってるよね?」
八百刃の言葉に九尾鳥は覚悟を決めて頷く。
「解っております。今回の件は、不認可で作られた写し身の処分だけの予定でした。過剰な内部干渉と取られてもおかしくない事です。罰は、受けるつもりです」
それに対して白牙がきつい目で言う。
「罰を受けて済む問題だと思っているのか? 上級八百刃獣の独断行動、周囲も認めないぞ」
九尾鳥は、辛そうに告げる。
「上級八百刃獣の地位を失う覚悟は、あります」
睨む白牙。
「馬鹿が、お前の立場を考えない行動でどれだけの問題が発生すると思ってるのだ!」
ただ耐えるしかない九尾鳥。
そんな中、八百刃が手を叩き言う。
「はいはい、勝手に進めない。それと、白牙、あちきがそんな失敗すると思ってた?」
白牙が、慌てて、情報サーチをする。
「おい、何時の間に今回の事が、正式な仕事になったんだ!」
怒鳴る白牙に八百刃が答える。
「あのね、あちきは、九尾鳥に指示を出す立場なんだよ。あの状況で何をするか位は、読めるよ」
驚く九尾鳥に八百刃が言う。
「たまには、自分が正しいと思うことをしても良いよ。責任は、きっちりあちきが取るから」
「ありがとうございます。八百刃獣だった事を今日ほど嬉しく思った事は、ありません!」
感動に震えながら頭を下げる九尾鳥。
大きなため息を吐く白牙。
「どうでも良いが、記述の仕方に何箇所もミスがあるぞ」
驚いた顔をする八百刃。
「嘘!」
白牙が問題の情報を表示させながら言う。
「普段からちゃんとやってないから間違えるんだ!」
その後、情報の修正等をさせられながらひたすら白牙に説教される八百刃であった。




