白暫虎が知る最強の神の存在感
(番外編)真の最強キャラ、八百刃出陣
「それでは、蒼牙の所に行って来るが、サボるなよ!」
白牙の言葉に八百刃が手を振る。
「前の恋人との復縁交渉頑張って!」
白牙が睨み返す。
「違う! あのクラスの存在が何時までも下位世界にいるのは、問題だから、蒼貫槍の所にでも入れと、説得に行くんだ!」
笑顔で八百刃が言う。
「誤魔化さなくても良いのよ。それと、獣姿だからって人前では、駄目よ」
白牙が鼻で笑って言う。
「向こうで、お前の似合わない激しい夜の情事の事を話しておこう」
去っていこうとする白牙にしがみ付き八百刃が言う。
「お願いだから、止めて!」
「次に言ったら、実行するぞ?」
白牙の言葉に必死に頷く八百刃。
「守りますからどうか、どうか、そういう恥ずかしい話を暴露しないで下さい」
懇願する八百刃を放置して白牙が八百刃の執務室を出る。
「白牙様、お気をつけてください」
そう頭を下げるのは、白牙の代理で傍役をやる、白い虎の八百刃獣、白暫虎であった。
「俺の留守の間、あいつの監視を頼んだぞ」
白牙の言葉に困った顔をしながら白暫虎が答える。
「了解しました」
そして、白暫虎が部屋に入ると、普通に仕事をしている八百刃。
「白牙様が不在の間、傍に仕えさせて頂きます」
頭を下げる白暫虎に手をパタパタさせて八百刃が言う。
「そんなに緊張しない。基本的には、ここでの事務処理だし、本当にあちきが動く場合は、白牙を呼び戻すから、気楽に居てよ」
フレンドリーな対応に白暫虎が苦笑する。
「八百刃様は、もう少し神としての威厳を持つ必要があると思われます」
八百刃が首を傾げる。
「別に良いとおもうけどな」
肩を竦めるしか出来ない白暫虎であった。
「それでは、俺も仕事に行って来ます」
「頑張ってね!」
狼の上位八百刃獣、闘威狼が頭を下げて部屋を退室するのを見送る八百刃。
それを見送った後、白暫虎がある事に気づいた。
「そういえば、今は、上位八百刃獣が不在ですね」
お気楽そうな顔で八百刃が言う。
「全員揃うって事も珍しい忙しい連中だからね。白牙が不在にすると、こういう状況が発生しやすいんだよ」
「こんな時に襲撃があったら大変ですね」
白暫虎の言葉に苦笑する八百刃。
「自分が言っている意味を解ってる?」
白暫虎が理解できず首を傾げると八百刃は、大して気にした様子も見せずに続ける。
「すまないけど、こっちの資料を運んでおいて」
白暫虎が頷き、資料を持ってその場を離れた。
白暫虎が、資料を運び終えた帰り道、熊の中位八百刃獣、和怒熊と会う。
「和怒熊様、お疲れ様です」
「お疲れ様」
笑顔で返す和怒熊は、八百刃獣の中でも穏健派で且つ世話好きで有名だった。
だから白暫虎は、質問してしまう。
「先程、八百刃様に上位八百刃獣が不在で襲撃があったら大変ですねと言いましたら、苦笑されましたが、どうしてでしょうか?」
和怒熊の顔が強張る。
「白暫虎くん、間違っても他の八百刃獣の前で、今の事をいっては、駄目だよ」
和怒熊の言葉に自分が大変な事をした事に気付き慌てる白暫虎。
「何を間違えたのでしょうか!」
和怒熊が小さなため息を吐いて答える。
「八百刃様は、戦いの神。その戦いの神が襲撃を予想せず、不利な状態になるなんて事がある訳が無い。その質問は、八百刃様の戦神としての資質を疑るものになるのだよ」
言われて事の重大さに気付き白暫虎が困惑する。
「八百刃様は、お怒りでしょうか?」
和怒熊が少し困った顔をして言う。
「あのお方は、そういった事には、大らかだから大丈夫な筈だが、これからは、気をつけるんだよ」
「はい」
駆け出す白暫虎であった。
八百刃の執務室に駆け込んだ白暫虎。
「八百刃様!」
すると八百刃は、慌てる。
「卵料理を食べるための分身作成なんて、絶対してないよ!」
八百刃の手元では、巧妙に細工された分身の元があったのをみて、大きくため息を吐き白暫虎が思った。
『このお方なら気にしないだろう』
生まれも育ちも神殿で、八百刃の本気と相対した事がない若き八百刃獣であった。
「ねえ、一休みしない?」
強請る八百刃に白暫虎が答える。
「色々有りまして、遅れていますので、この部屋にある仕事だけは、片付けてください」
八百刃は、大きくため息を吐いて、未処理の情報の山に向かおうとした。
その時、入り口から連絡が入る。
『八百刃様、襲撃です!』
慌てる下端の八百刃獣に八百刃が答える。
「前から指示している様に、素直に通していいよ」
『しかし、かなり強力な神です。今は、上位のお方も居りません。お戻りになるまでの間だけでも、我々が……』
言葉が途中で止まる。
白暫虎が戸惑った。
さっきまでのゆるゆるな表情は、そこには、無い。
「あちきに戦い方について、意見をするの?」
『すいません!』
連絡が切れて、破壊音がどんどん近づいてくる。
そして現れたのは、双頭の竜を背から生やし、獅子の顔を胸に持ち、鳳凰の翼で羽ばたく神だった。
「我こそは、覇獣神、我餓牙なり! 同じ獣を使役する神であるお前より、私の方が優れていることをここで示してやろう!」
それに対して白暫虎が言う。
「それだったら、上位のお方が居る時に来たらどうなのだ!」
鼻で笑う我餓牙。
「笑止! 八百刃の力は、所詮は、八百刃獣が居ればこそだという証拠! そんな者に最強の名は、相応しくない! 食らえ、ライオンサンダー!」
胸のライオンの口から雷が放たれる。
八百刃は、白暫虎に手を向ける。
「剣と化せ」
白暫虎が変化した剣を一振りして、雷撃を逸らす八百刃。
それを見て高笑いをする我餓牙。
「今のですら、逸らすのが精一杯みたいだな! もっと強い八百刃獣を使ったらどうだ?」
八百刃は、平然と言う。
「まさかと思うけど、あちきに本気で勝てると思ってるの?」
我餓牙が怒り狂う。
「その驕り昂り、後悔させてやる! ツインドラゴンブレス!」
灼熱の炎と極寒の冷気が八百刃に迫るが、八百刃は、前進して、それぞれに一撃ずつ入れて逸らしてよけてしまう。
悔しそうな顔をする我餓牙。
「一筋縄では、行かぬな。しかし、お前の攻撃力で我が防御は、破れぬ!」
八百刃が頷く。
「そうだね、白暫虎じゃ、貴方の防御力を打ち破るまで力を籠めたら滅んでしまうね」
『私は、構いません』
白暫虎が悲壮な事を言うが八百刃は、手を横に振り言う。
「別に必要ないから」
「どういう意味だ?」
我餓牙の言葉に八百刃が笑みを浮かべて言う。
「ここが、あちきの神殿だって事」
八百刃が指を鳴らすと、空間に穴が開き、別々に雷撃と炎と冷気が我餓牙に襲い掛かる。
「馬鹿な!」
大ダメージを食らって地面に墜落する我餓牙。
八百刃は、その前に立ち言う。
「もう一度聞くけど、あちきに勝てると思ってるの?」
「今だったら我が力が勝っている筈だ!」
必死に攻撃を放つが全てが逸らされ、そして、我餓牙に返っていく。
絶望の表情を浮かべる我餓牙。
「どうしてだ! どうして勝てないのだ!」
それに対して、時空神、新名の亀の使徒、萬智亀が現れて言う。
「八百刃様に相対した全ての者が言う。何もしても通じず、どんな防御も無効とされる、絶対にて究極最強の戦神、それが八百刃様だと」
「お久しぶり、新名や狼打は、元気にしてる?」
気楽な八百刃の言葉に萬智亀が苦笑しながら返事をする。
「はい。それより、こいつは、預かっていきますが、宜しいでしょうか?」
八百刃は頷く。
「うちに居ると、八百刃獣が処分しろって、うるさそうだから持っててよ」
「まだ働いてもらわないと困りますので、そうさせて頂きます」
失意の我餓牙を連れて萬智亀が去っていった。
虎の姿に戻った白暫虎が言う。
「しかし、何故このタイミングが解ったのでしょうか?」
「こちらから情報を流して、誘導していたからに決まっているだろう」
影から現れたのは、外で仕事をしている筈の影の鬼の八百刃獣、影走鬼だった。
「それってどういう意味ですか?」
白暫虎の言葉に八百刃が苦笑する。
「最近前線に出ないから、あちきが弱いって勘違いしてる奴等が多くってね。そういう奴等に見せ付ける為にわざと情報を漏らしたの」
「八百刃様のお考えは、お前などが到底及びも着かないほど高みにある。不遜な言葉は、慎め。白牙殿の息子でなければ処分していたぞ」
影走鬼の叱りに小さくなる白暫虎を慰めるように八百刃が言う。
「気にしない、気にしない。それより、もしも蒼牙がこっちにきたら修羅場になると思わない?」
八百刃が楽しそうに言う。
「修羅場とは、何の事だ?」
その声に八百刃が笑顔で言う。
「だから、前の恋人と今の恋人との間で、おこる女の戦いが……」
そこまで言った所で八百刃が固まる。
「……もう帰ってきたの?」
そこにいたのは、白牙だった。
「元々、今回の作戦の為だったからな。あいつも即答で断ったから直ぐに帰ってきた」
八百刃が顔を引きつらせながら言う。
「もっとゆっくりして来れば良かったのに」
白牙が情報の山を指差して冷たい笑みを浮かべる。
「そうだな、その為には、あの山の数倍の事務仕事をこなしてもらおうか」
「事務仕事嫌い! あちきは、現場が良い!」
八百刃の要望は、聞き入れられないのであった。