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赤風犬が受ける研修

赤風犬再び、新人研修です

 八百刃獣の中にも新入りが居て、研修も存在する。



「えーとこれは、何ですか?」

 新入り八百刃獣の赤風犬が連れてこられたのは、大量の資料が蠢く部屋だった。

「ここには、過去の様々な戦いの記録が収められている。それを一通り目を通すように」

 教育係の鏡界兎の言葉に赤風犬が大声を上げる。

「こんな膨大な資料を全部見るんですか!」

 鏡界兎が肩をすくめる。

「まさか、ここの知識を全部理解しているのは、八百刃様と上級八百刃獣様くらいだよ。君に求められるのは、一通りだけ。時々私が質問に来るから、それに連続して五回答えられたらここの研修は、おしまいだ」

「なるほど」

 赤風犬が納得するのを見てから鏡界兎が去っていった。

「しかし、どれから見ていけば……」

 膨大すぎる資料に半ば途方にくれるのであった。



 八百刃神殿の通路。

「いきなりあれは、きついんじゃないか?」

 和怒熊が心配そうに鏡界兎に声を掛けてきた。

「仕方ないでしょう。あれは、八百刃様に直接お目通りして八百刃獣になったってかなり下級の八百刃獣にねたまれていますから、雑用をさせながら仕事を覚えさせられないんですよ」

「そうだよな。八百刃様とまともに会話をした事が無い八百刃獣だって多く居るからな」

 和怒熊が小さくため息を吐くと鏡界兎が肩をすくめる。

「実際問題、八百刃様は、下級八百刃獣にも十分に気を配られておられる。何かトラブルを起こせば直ぐにサポートが入るのは、そのおかげですしね」

 強くうなづく和怒熊。

「そう、立派なお方だ」

「そうやってお前等が頼るから八百刃様が現場に出たがるのだ」

 そうきつい言葉を口にするのは、百姿獣であった。

「「百姿獣様、ご苦労様です」」

 挨拶をする二刃に対して百姿獣が言う。

「下級八百刃獣の失敗程度は、本人達に対応させていくべきなのだ。八百刃様の立場をお考えにいただければ、もっと大局的な行動をとられることが大切なのだ」

 百姿獣の説教を鏡界兎と和怒熊が黙々と訊いていると、百姿獣の背後に忍び寄る影。

 それに気づいた鏡界兎が慌てて最敬礼をする。

「八百刃様、この様な場所にどの様な御用でしょうか!」

 百姿獣も慌ててふりかえるとそこに、八百刃が居た。

「八百刃様、何か御用がありましたら、おっしゃってください。我々八百刃獣は、貴女様の手足となるべく存在しているのです」

 八百刃が手を横に振る。

「違うって、八百刃獣は、あちきの手足なんかじゃない。個々が考え力を出してくれている。あちきは、その道しるべを出してるだけなんだよ」

 神々しい笑顔に百姿獣もただ頭が下がる。

「申し訳ありません。我が身の驕りを痛感します」

「気にしない。これからも頑張ってね」

 八百刃は、そういい残して去っていく。

「八百刃様は、凄い御方ですね」

 感嘆する鏡界兎に百姿獣が告げる。

「そうだ、その八百刃様の余計な手間を掛けさせないように教育は、十全に行え」

「了解しています」

 鏡界兎が受諾する。



「間違ってすいません、すいません!」

 数度目の間違いに必死に頭をさげる赤風犬に鏡界兎は、苛立っていた。

「間違いは、あることは、仕方ないよ。しかし、一回も当てられないというのは、どういうことですかね! ちゃんと資料を見ていたんですか!」

「はい!」

 赤風犬の答えに鏡界兎は、ため息を吐く。

「次も間違えた場合は、覚悟をしておくように」

 去っていく鏡界兎が残した一言に赤風犬は、青褪める。

「このままだと折角八百刃獣になれたのに、クビになってしまう」

 必死に資料の山に向かおうとした時、肩を叩かれる。

「資料探しを手伝ってくれる?」

 赤風犬は、完全に硬直した。

「忙しいの?」

 八百刃の確認に赤風犬は、慌てて答える。

「いえ、八百刃様の命令より優先する事は、ありません!」

 苦笑する八百刃。

「これは、仕事じゃないから命令じゃないよ。あくまでお願いだよ」

「それでも、私は、八百刃獣です。八百刃様の用事を第一にします」

 即答する赤風犬に八百刃が告げる。

「八百刃獣にとって第一にするのは、自分達が管理する戦いが次に繋がるかどうか。戦いと言うのは、常に全てを終わらす危険性を抱いているものなの。それを回避する為に、あちき達は、全力を費やしている。それだけは、覚えておいて」

 赤風犬が頭を下げる。

「諌め、ありがとうございます」

「それで、手伝って貰える?」

 八百刃の言葉に赤風犬が笑顔で答える。

「はい。きっとそれは、次に繋がる道だと確信していますから」



 大量の資料を探すなか、赤風犬が尋ねた。

「なぜ八百刃様が直々にここにいらっしゃったのですか? 一言、おっしゃれば八百刃獣が全て、調べてご報告されると思いますが?」

 八百刃は、調べごとを続けながら答える。

「知りたい事だけを調べていたら自分の考えだけに囚われてしまうよ。自分が気付かなかった事に大切な事があるかもしれない。例えば、この戦争では、他の神の使徒の干渉で悪化していた。こんなものは、よっぽどの事じゃない限りあちきまで届いてこない。小さいことかもしれないけど、そんな小さいことが戦争を大きく変える事もあるから、あちきは、時間があれば自分で調べる事にしてるの」

「自分の調べたいことだけを調べていたら自分の考えだけに囚われる……」

 赤風犬がその言葉をはんすうする様を見て八百刃が言う。

「欲しかった資料は、見つかったよ。そうそう、八百刃獣は、何かを失敗してクビになるなんて無い。八百刃獣を続けるも、辞めるも常に八百刃獣自身の意思だけ」

 八百刃がそういい残して、去っていった。

 赤風犬は、再び資料を見る。

「そうか、八百刃様は、その私を導いてくれていたんだ。ついつい自分の理解できる資料だけを選んで調べていた。それでは、知識が広がる訳が無いのは、当たり前だった」

 赤風犬は、改めて資料を学び始めた。



「正解、順調だね」

 暫くして試しに来た鏡界兎が満足そうに問うと赤風犬が誇らしげに答える。

「全部、八百刃様のおかげです」

 そこに白牙が駆け込んできた。

「そこの、八百刃様が調べ物をしていたのは、ここら辺だな」

「はい、そうですが」

 戸惑う赤風犬を他所に白牙が怒鳴る。

「鏡界兎、チェックするから力を貸せ!」

「解りました」

 鏡界兎は、鏡を使って分身すると白牙と共に情報のチェックを始めた。

 少しすると鏡界兎が一つに戻り資料のコピーを差し出す。

「お探しの物は、これですかね?」

「それだ! あいつめ、また勝手に現地に行きやがって!」

 受け取った白牙が走り去っていく。

「何があったのですか?」

 赤風犬の問いかけに鏡界兎がため息を吐く。

「また八百刃様が自分で現場に出られたみたいだね。本当に小事なら我々にお任せくだされば良いのに」

「しかし、自分でやるから意味があると八百刃様にも拘りがあるみたいですが」

 赤風犬の反論に鏡界兎が白牙に渡した資料のオリジナルを見せる。

「トラブルが起こった場所の傍においしい卵料理を出す店があって、そこによっている可能性が高いのだよ」

 流石にフォロー出来ない赤風犬だった。

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