蒼牙が相対する従わない神
八百刃に従えないという神様の登場
八百刃は、強大な力で戦神を束ねる存在。
しかし、そんな八百刃を拒絶する存在もまたあるのであった。
そこは、神々が集う場所。
「八百刃には、従えない」
そういったのは、戦神の一柱、紅蓮刃だった。
「何故だ?」
この場で一番の上位者、蒼貫槍が聞き返す。
「あれが最強の事は、誰もが認める事だ。しかし、あれは、神々を滅ぼす存在だ」
紅蓮刃の言葉に神々に動揺が走る。
「人々の進化、それは、神化を意味する。我々の存在を脅かす者を生み出そうとしているのだ」
紅蓮刃の言葉を蒼貫槍は、否定しない。
「管理派のやり方が正しいとは、言わない。それでも八百刃に従い続ければ、その先にあるのは、我々の衰退のみ。逆に何故、貴方は、八百刃に従う。貴方は、かつて敵対していたと聞く」
蒼貫槍は、過去を懐かしむような顔をする。
「そうだな。私は、あれに完膚なきまでに敗北した。あれが、真の戦神だからだ。私は、その真の戦神になる為に、その下に居る。それだけだ」
「その先に待っているのが衰退としっていてもか!」
紅蓮刃の詰問に蒼貫槍があっさり頷く。
「それが戦神の役目ならば進んで踏み石にもなるつもりだ」
ざわめく神々の中、紅蓮刃が声を荒げる。
「俺は、嫌だ! 俺は、神だ! 人を、下位世界の者達に対して絶対的な力を持つ事を許された者だ。その地位を捨てる事など俺は、絶対に認めない」
その言葉に多くの神々が共感する。
その時、蒼貫槍の足元で沈黙していた蒼牙が尋ねる。
「八百刃様に敵対できると思っているのですか?」
戦神達は、怯む。
他ならぬ戦神達は、八百刃の絶対的な力を知っているのだ。
「従わないだけだ。あれも敵対しなければ、何もしてこない。そういう存在だ」
苦虫を噛み潰した様な顔でそれだけを告げる紅蓮刃。
「好きにすれば良い。八百刃も自らの意志で戦わない者まで戦わせようとは、思わないだろう」
蒼貫槍の言葉でその場は、終わった。
しかし、これが後々のしこりになる事は、目に見えていた。
「早急に紅蓮刃を粛清するべきです」
八百刃の神殿に報告に来た蒼牙に白金虎も頷く。
「そうですね。直ぐに上位の御方にその言葉をお伝えして、動いていただきます」
動き出そうとした白金虎。
その時、神殿に八百刃の声が響く。
『紅蓮刃の反意、それも当然の事だよ。全ての八百刃獣に言っておくよ、敵対しない限り、紅蓮刃に対する対処は、必要なしとする。これは、あちきの命令だよ』
舌打ちする蒼牙。
「聞かれていたか」
「違うだろう、あれは、こういった争いごとを事前に察知する勘を持っているんだ」
白牙がやって来た。
「それでは、放置するというのですか?」
白金虎の言葉に白牙が頷く。
「命令された以上、八百刃獣には、何も出来ない」
「詰り、私が動く分には、問題ないのだな」
蒼牙の言葉に白牙が苦笑する。
「お前が動くというのか?」
「あくまで個人的に動くつもりだ。あれの考えは、我が主に敵対するのと同じだからな」
蒼牙が背中を見せた時、八百刃が前に現れた。
「行くんだったら、この子も一緒に行かせて」
百爪を蒼牙に乗せる。
「お母さん、久しぶり」
「百爪、一応八百刃獣でしょう。それが命令違反して大丈夫なの?」
心配する蒼牙に百爪が頷く。
「大丈夫、あたしは、ただ見学するだけだから」
蒼牙が八百刃を見る。
「何を御考えなのですか?」
八百刃は、頬をかく。
「色々と、でも、今は、流れのままに進ませるだけ」
「一使徒には、最上級神の遠大な御考えは、理解できませんが、自分の考えて動かせていただきます」
蒼牙が八百刃神殿を離れていくのであった。
紅蓮刃は、自分の管轄する世界に居た。
「戦い続け滅びる。そして新たな人間が産まれる。それだけで世界は、回り続ける。神々は、それを見守るだけで良い」
目のまで行われている最終戦争を静かに見守る紅蓮刃。
そこに蒼牙が現れる。
「紅蓮刃様、八百刃様は、この戦いを抑制するように命じられていた筈です」
「八百刃には、従わない。俺は、俺の思い描く戦神のあり方を貫く」
紅蓮刃が淡々と答える中、蒼牙がその牙を煌かせる。
「そうですか、ならば命令違反の罪で、ここで処刑させてもらいます」
紅蓮刃が苦笑する。
「裁判もなしに極刑か、随分と荒いやり方。蒼貫槍殿の意志では、無いな?」
蒼牙は、あっさり頷く。
「その通り。独断専行、罰は、受ける所存!」
「一介の使徒に負けるつもりは、ない!」
紅蓮刃は、その象徴たる紅蓮の刃を生み出し、蒼牙の牙を迎え撃つ。
両者の戦いは、熾烈を極めた。
決着のつかないまま、時が過ぎていく中、人々の最終戦争も終りを迎えようとしていた。
「流石は、蒼貫槍の第一使徒、強大な力を持つな。しかし、その力、何時まで持つかな?」
「貴方を倒すまで持てば十分!」
せめぎ合う両者、しかし、その力は落ち始めていく。
「何が起こった?」
困惑する紅蓮刃に隠れて観戦していた百爪が人々の方を指差す。
「最終戦争が回避されるよ」
紅蓮刃が慌てて人々の戦いを見渡す。
両者が全滅するしかなかった筈の戦いが終結し、敵対していた者同士が助け合っていた。
「馬鹿な、この戦いは、両者全滅で終結する。その筈だ!」
「人は、勝手に進化して行くんだよ」
意外な声に紅蓮刃が固まる。
「八百刃様」
蒼牙が叫び、百爪を持ち上げた八百刃がいう。
「このタイミングに来る為に百爪を連れて行かせたんだよ」
「何が目的だ! やはり俺を粛清するつもりか!」
絶対強者に対する恐怖を意地で払いのけて紅蓮刃が怒鳴る。
八百刃は、淡々と告げる。
「別に。衰退したくないと思う気持ちは、正しい事だもん、あちきは、それを否定したりしない」
「だったら、何故この場に居るのだ!」
紅蓮刃の問い掛けに八百刃が即答する。
「貴方の問い掛けに答えるため」
「俺の問い掛けだと? 俺は、何も問い掛けていないぞ?」
途惑う紅蓮刃に百爪がいう。
「さっき、人間が戦いを止めた事を不思議がっていたじゃん」
「口の利き方に気をつけなさい」
蒼牙が母親らしい忠告をする中、紅蓮刃が八百刃を睨む。
「勝手に進化する。それがお前の答えか!」
八百刃が遠い目をする。
「あちき達が何もしなくても人は、勝手に進化する。でもその進化を見守るだけでは、何も意味が無い。あちき達もそれに合わせて進化しなくては、いけない。その為に、あちき達は、人々の進化を促す行動をする。それこそがあちき達の進化に繋がるはずだから」
「人が進化するのが不味いのだったら進化を抑制すればいいだろう!」
紅蓮刃の言葉に八百刃が正面から答える。
「同じであり続ける事は、何者にも出来ない事。全ての者が常に変わり続ける。時には、退化と呼ばれる事もあるけど、それもまた進化なんだよ」
「退化が進化だと、ふざけた事を言うな!」
紅蓮刃の反論に八百刃が人を指差す。
「知っている、あそこで戦っている人々は、元々は、優れた魔法を使えた。でも一部の者にしか使えない魔法より科学技術の発達が勝り、次第に魔法が衰退した。しかしそれは、必然なの。魔法と科学、両方を同士に発展させる事は、難しい。ならばその種にとって有益な方を優先して発展させただけ。衰退という名の進化それが、この展開を生んだ。そして、その戦いの中で戦わなくても恐れ、弱気と言った負の進化を得て、最終戦争を回避したんだよ」
紅蓮刃が途惑う。
「解らぬ! 進化とは、何だ! 退化とは、何なのだ!」
「そうだね、解らない。そんな解らない物を拒絶する気持ちも解るけど、理解できていないものを完全に排除する事なんて出来ないんだよ」
八百刃の理論的な説明に紅蓮刃が絶叫する。
「八百刃、お前は、常にそうだ! 我々の何歩も先に居る。俺は、怖いのだ。お前という絶対者の前では、我々神ですらちっぽけな存在になる事が!」
その姿を見て蒼牙が知る。
「そうか、紅蓮刃は、八百刃様を畏怖し、それ故にその下に居る事を拒絶したのか」
「笑いたければ笑え! 戦神でありながら戦う事を拒絶した弱気存在を!」
自傷を籠めた叫びをあげる紅蓮刃に八百刃は、笑みを浮かべる。
「さっき言ったよね。それも進化なんだよ。あちきは、そんな進化も認めるよ」
紅蓮刃は、途惑うしかない。
「何もかもが八百刃、貴女の掌の上と言うのか」
八百刃は、何も答えない。
紅蓮刃が全てを諦めた顔をする。
「八百刃様に従う。幾ら抗ってもその定めから逃れられないのなら、せめて自らその定めに従います」
それは、完全な敗北宣言だった。
八百刃神殿。
「戦わずして、相手を完膚なきまでに敗北させる。流石は、八百刃様」
蒼牙が感嘆を述べていると白牙が駆けて来る。
「あいつを見なかったか?」
「お戻りになっていないのか?」
蒼牙が不思議そうな顔をしていると白牙が怒りを堪えながら答える。
「紅蓮刃様への説得って言うから行かせたのに、全然帰ってこない。それで変に思って調べてみたら、紅蓮刃様が居た世界の料理本のデータが残っていた。最初から、食事するつもりで出て行ったな!」
そこに八百刃が帰ってきた。
「今回も御仕事、忙しかったな」
睨む白牙。
「真っ直ぐ帰って来いと言って置いた筈だが?」
八百刃は、視線を逸らす。
「真っ直ぐ帰ってきたよ」
白牙が蒼牙を指差す。
「それでどうして蒼牙の方が早いんだ?」
「えーと、そうそう、百爪が具合悪くなったって一休みしていたの。そうだよね、百爪」
無理やり同意を求める八百刃に百爪が頷く。
「うん。でも、二人で十人前は、やっぱり食べすぎだったよね。気持ち悪くなるんだもん」
「当然だな、二人で十人前食べればな」
白牙の冷たい視線が降り注ぐ中、八百刃が顔を引きつらせる。
「偉大な神様なのだがな」
深い溜息を吐く蒼牙であった。




