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大地蛇が見守る封印に関わる者達

大地蛇は、封印の管理等もやっています。今回は、そんな封印の一つの話

 八百刃が神名者時代には、左頭を勤め、八百刃獣の中でも最年長とも呼ばれる、大地蛇ダイチジャ

 大地を司り、封印や結界の管理を主な仕事としている、大蛇型の八百刃獣である。

 そして、今回は、ある封印に関わる事で大地蛇が直接赴く事になった。



 その世界は、二つの月が浮かび、一体の蛇龍、ナーガによって支えられた世界だった。

 しかし、そのナーガは、生贄を求めた。

 そして、その生贄は、ある一族がやる事になっていた。



「まだ、子供が出来ないのか?」

 偉そうに髭を生やした男、この世界で、神と言われるナーガを崇める一派の長、蛇使い、カタブ=ラアラブの言葉に、その少女は、申し訳なさそうに答える。

「すいません」

 カタブは、忌々しげに答える。

「もう、次の儀式まで時間が無い。今夜から、男を増やすぞ」

「はい」

 従順に頷く少女であった。



 ナーガが眠ると言われる聖都に近くの森の泉、そこで少女が体を清めていた。

 まだ、胸の膨らみも目立たないその体には、男のおぞましい欲望の痕跡が残っていた。

 少女の頬に涙が流れる。

「この状況で道を聞くのは、マナー違反だな」

 男の声に慌てて泉に体を沈める少女。

 そして、木々の陰に一人の男が立っていた。

「すまない。覗くつもりは、無かった。道に迷ったんだ、服を着たら少し行った所にある老木の所に来てくれ」

 そのまま男は、その場を去る。

「今の人は?」

 少女は、首を傾げる。



 男が老木に体を預けていると少女がやって来た。

「お待たせしました」

「ろくに体も洗ってないだろう。俺は、待つのは、平気だから、もう一度洗って来たらどうだ?」

 男の言葉に少女は、寂しげな笑みを浮かべて言う。

「良いのです、いくら体の表面を洗っても、私の穢れは、落ちませんから」

 その言葉に男は、じっくりと少女の顔を見て言う。

「俺には、とても穢れている様には、見えないな。その瞳には、清らかな光がある」

「……そんな事は、ありません」

 意外と美形な男の顔に戸惑い、顔を逸らす少女。

 そして、男は、辛い思い出を思い出すような顔で答える。

「男にとって大切なのは、その心だ。例えどんなに体が穢れて居ても、その心がある限り、護りたいものなのだ」

 少女が問い返すのも躊躇われる程、その表情は、辛く悲しそうだった。

「すまないが聖都まで、連れて行ってもらえるか?」

 男の言葉に少女が少し困った顔をして言う。

「近くまででしたら案内できます、それでよろしいですか?」

 男は、首を傾げる。

「あんた、聖都に住んでるのでは、ないのか?」

 少女が頷く。

「聖都に住めるのは、ナーガに認められた聖なる民だけです。ナーガに嫌悪された私の一族は、聖都に入ることは、許されていません」

 男は大きなため息を吐く。

「そんな風になっていたのか」

 少女は、頭を下げて言う。

「そういうわけで、近くまででしたら案内できますので、行きましょう」

 男は、手を横に振り言う。

「良い、どちらかと言うと俺は、君の一族に用があるのだから。一族の責任者の所に案内してくれるかい?」

 驚いた顔をする少女だったが直ぐに困った顔をする。

「すいません、私の一族は、私以外の人間は、皆……」

 頭をかく男。

「そこまで行っているのか」

 その時、一人の少年が駆けて来た。

「リーナ!」

 そして少年は、男を見つけて怒鳴る。

「お前も、リーナを狙ってきた奴だな!」

 殴りかかる少年だったが、男は、平然と受け止めて言う。

「その行為、正しいと思うが、実力が足らないな」

 男の言葉に、必死に男の手から逃れようとしながら少年が怒鳴り返す。

「うるさい! リーナには、これ以上、手を出させないぞ!」

 すると男は、少年を殴り飛ばす。

 少女、リーナは、慌てて少年に駆け寄った。

「すいません、ガーナに悪気は、無かったのです。どうか許して下さい!」

 必死に頭を下げるリーナを無視して、男は、少年、ガーナの胸倉を掴みあげて言う。

「本当に護りたかったら、口だけになるな。力が足りないなら考えろ。本当の意味でその子を救う方法が絶対にある筈だ」

「……絶対に俺が助けるんだ!」

 叫ぶガーナを男が地面に投げ捨てる。

「そんな事では、泉で流れていたその子の涙を止める事は、出来ないぞ」

 その言葉にガーナが慌てて、リーナに駆け寄った。

「まさか、また奴等が来てたのか!」

 リーナが顔を逸らして言う。

「仕方ないの、次の儀式まで時間が無いから、早く子供を作らないといけないから」

「馬鹿を言っているんじゃない! 今更、生贄の儀式なんてやる必要があるか!」

 ガーナの言葉にリーナは、真剣な顔で答える。

「そうしないと、ナーガ様がお怒りになるわ」

「そんな事は、絶対に無い! だから、もう自由に生きていいんだ!」

 ガーナが怒鳴った時、大地が震えた。

 驚くリーナ。

「まさか、ナーガ様がお怒りに……」

 ガーナが拳を握り締めながら言う。

「……違う、違うんだ」

「事情は、だいたい解った。俺は見守らせて貰う事にする」

 そのまま男は、その場を去った。



 翌日、リーナの所にカタブの配下の僧兵達がやってくる。

「蛇使い様がお呼びだ」

 リーナは、全てを悟った顔で言う。

「解りました」

「待ちやがれ! リーナは、連れて行かせねー!」

 ガーナが僧兵達に向かっていくが、あっさり叩き伏せられて、床に押さえつけられる。

「我々に逆らいおって、この場で処刑してやる!」

 慌ててリーナが駆け寄る。

「私は、大人しくついていきます。ですから、ガーナだけは、助けてください! 大切な幼馴染なんです!」

 必死に懇願するリーナに僧兵は、渋々頷く。

「最後の願いだ、叶えてやろう」

「ありがとうございます」

 頭を下げるリーナ。

「馬鹿、死ぬことになるぞ!」

 ガーナが押さえつけられながらも必死にもがき叫ぶ。

「私の為にありがとう。でも良いの、ずっと覚悟をしていた事だから」

 そしてリーナは、僧兵と共に一生で一度だけ踏み込む事が許された聖都に向かっていった。

 二度と聖都以外の地を踏むことも無い覚悟をもって。



「解っているな、ナーガ様のお怒りを静める、それがお前の仕事だ」

 カタブの言葉にリーナが頷く。

「解っています。必ず、ナーガ様のお怒りを静めてみせます」

 逃げ出さないための牢獄に連れて行かれるリーナ。

 その姿を見送ってから幹部の一人が言う。

「あの一族も最後の一人、これからは、儀式は、どうすれば?」

 カタブが鼻で笑って言う。

「封印は、あの一族の人間でなくても良いのだ。適当な理由をつけて、他の奴等にやらせれば良い」

 驚く一人の若い幹部。

「それでは、どうしてあの様な真似を?」

 カタブは、肩を竦めて言う。

「有力者の中には、あんな胸もろくに無い娘が良いって変態も多い。丁度良い理由だったのだ」

 多くの幹部が納得する中、その若い幹部が言う。

「恥ずかしくないのですか?」

 それに対してカタブが本気で解らない様子で質問を返す。

「何がだ、ダーダ」

 若い幹部、ダーダが力説する。

「あの少女は、使命の為、自らの体や命を犠牲にしているのです。それをそんな事の為に使うなど!」

 カタブが鼻で笑う。

「ナーガ様に嫌悪された一族に罰を与えているだけだ。逆に感謝されても良いと思っているがな」

 他の幹部も同意していく。

 ダーダは、腐りきった蛇使いと幹部に激しい嫌悪を覚え、その場を後にした。



 リーナが閉じ込められている牢獄にダーダがやって来た。

「すまないと思うが、私には、これくらいの事しか出来ない」

 そういって、ダーダは、彼が手に入れられる最高級のアクセサリーをリーナに渡す。

「死んでいく私には、過ぎた物です」

 断るリーナだったが、ダーダが首を横に振る。

「駄目だ、君の死の価値は、こんな宝石等では、変えられない。本当なら、私が代わるべきなのかもしれない」

 それに対してリーナが笑顔で答える。

「気にしないで下さい。私は、納得した上で、この命を捧げるのです」

「しかし……」

 ダーダが言葉に詰まらせていると、森に居た男が現れて言う。

「封印の強化には、人の魂が必要なのは、確かだが、それは、決まった一族のものでなくても構わない。詰り、お前が犠牲になる必然性は、無い」

 ダーダがいきなり現れた男に戸惑いながらも言う。

「お前は、何者だ。それに、今の話は、本当なのだな?」

 カタブがいっていた言葉と一致する答えにダーダも今更ながら、リーナを犠牲にする事に躊躇を覚えていた。

 しかし、リーナの気持ちは、変わらなかった。

「他の人を犠牲にしてまで私は、生き残るつもりは、ありません。私は、この世界が好きです。だから、この命を捧げるのです」

 ダーダは、悔しそうにしているとリーナが言う。

「もし願いを一つだけ聞いてくださるのでしたら、お願いしたい事があります」

 リーナの言葉にダーダが頷く。

「何でも言え、どんな無理な願いでも叶えてやろう」

 リーナが遠く、自分の育った家の方を向いて言う。

「ガーナをお願いします。小さい頃、親も無く、村の厄介者として育てられた私の所に、捨て子としてやってきた彼は、私にとって、もっとも大切な人なのです。彼が、幸せに生きられる様に、どうか、お願いします」

 その言葉にダーダが悔し涙を流す。

 男は、ダーダに言う。

「答えてやれ。それがお前の義務だ」

 ダーダが頷く。

「絶対に幸せにする。だから、心配するな」

「ありがとうございます。これで心残りが消えて、安心していけます」

 リーナの答えにダーダは、打ちのめされた。



 儀式の日、多くの人々がリーナの封印の穴に落とされる瞬間を見ようと駆けつけていた。

 その目は、蔑みと優越感しか無かった。

 そして、カタブが儀式の祭祀としてリーナの前に立つ。

「これより、ナーガ様への生贄の儀式を行う」

 民衆が歓喜する。

 その時、人々を掻き分けてガーナが現れる。

「止めろ! リーナは、その穴には、落とさせない!」

 カタブが舌打ちして命令をだす。

「早く黙らせろ!」

 僧兵達がガーナを押さえつける。

「放しやがれ!」

 暴れるガーナの所にダーダが来て言う。

「大人しくしているのだ。君の事は、リーナさんから頼まれている。このまま君に罰を与える真似をさせる訳には、行かない」

「俺の事なんてどうなっても良いんだ! あの女の娘を、リーナを助けたいんだ!」

 ガーナが叫んだ時、大地が震え、穴から巨大な蛇龍、ナーガが顔を出す。

「ナーガ様……」

 人々が驚愕する中、ガーナは、全身から脂汗を垂らしていた。

 カタブは、震え、リーナを押し出して言う。

「あんた様への生贄は、ここに居ます。どうかお怒りをお沈め下さい!」

 多くの者が混乱する中、リーナだけは、穏やかな表情のまま、ナーガの前に出る。

「ナーガ様、初めまして。私の名前は、リーナと言います。この肉体と魂でナーガ様のお怒りを和らげて下さい」

 全身をさらけ出し、目を瞑るリーナ。

 ナーガは、何もしない。

「違う、俺は、そんな事を望んでいない!」

 ガーナの叫びに答えるように大地の鳴動は激しくなる。

 震えるカタブと民衆。

 戸惑うリーナ。

「ナーガ様、私では、不足なのでしょうか?」

「強力な封印を無理に破って首を出している、答える事が出来ないほどの苦痛なのだ」

 あの男が現れて、そう告げると、指を鳴らす。

 すると鳴動が静まった。

「封印を一時的に無効化した。これで平気だろう。ナーガ、それともガーナって呼んだ方が良いのか?」

 男の言葉に、ガーナとナーガが同時に言う。

「『どちらでも構わない。しかし、お前は、何者だ』」

 驚く一同を無視して男が言う。

「何で、無力な人の姿になってまで地上に出て来た。それ程に自分の贖罪が辛かったか?」

 それに対してガーナとナーガが答える。

「『この世界を破壊しかけた罪、その贖罪として大地に楔とされた。当初は、それを成した神々を恨んだ。しかし、そんな封印の中、封印強化として送られてきた者たち、リーナの先祖達が私を慰めてくれた。封印強化を行うため、話せるのは、ほんの数日だったが、彼等のその小さな体からは想像できない、強い心は、俺の心を貫いた。だから、もう良い、この贖罪が済むまで我は、大地の楔たる役目を全うする。だから封印強化の為の生贄など要らないのだ』」

 男が質問をする。

「それがどうして、あの娘と共に暮らす事になったのだ?」

 ガーナは、複雑な顔をして答えた。

「事実を伝える為に封印の隙間からこの体を作った。隙間の小ささから子供の姿にしか成れなかった。そのままでは、信じてもらえないと思い、成長するまで待つことにした。その間、あの強き心の一族の最後の一人と一緒に暮らす事にしたのだが……」

 男は、大きなため息を吐く。

「離れられなくなったって所だな?」

 ガーナが頷き答えた。

「そうだ、しかし、リーナが死んでしまっては、意味が無い。今日でこの生活も終わりだ」

 続けてナーガが言う。

『お前達が証人だ。我はその贖罪の為、大地の楔になり続ける。だから封印強化など不要だ。だからもう二度と生贄など捧げるな』

 民衆がどよめく中、蛇使いのカタブが叫ぶ。

「封印から逃れる為の嘘を吐きおって、知っているのだぞ、お前がこの世界を食らい神になろうとしていた、邪悪な存在だという事を! 誰がお前などを解放するか!」

 男が呆れきった顔をする。

「するとお前等は、それと知った上でこいつを神と民衆に騙った、人々を操っていたって事だな?」

 民衆のざわめきに自分の失言に気付くカタブ。

「それは……」

 そして男が言う。

「ナーガよ、お前に伝えなければいけない事がある。お前の贖罪の期間は、終了した。お前は、もう自由だ」

 意外な言葉にナーガが驚く。

『そんな馬鹿な……』

 男が続ける。

「これは、神々の決定であり、強制事項である。お前は、この世界から元の世界に戻るのだ」

 ナーガが長い沈黙の後、質問をする。

『この世界は、どうなるのだ?』

 男は、淡々と答える。

「お前が抜けた反動により大災害が起こり、多大な被害が発生するだろうが、これまでお前の支えによって生み出された安全な期間と相殺されたと判断する事になった」

『ならば、我は、楔としてこの世界に留まる』

 ナーガの答えに男が鋭い目つきで言う。

「言った筈だ、強制だと。高位の存在の下位世界への干渉は、神々の禁じる事、例外は、許されない」

 人間大の存在にナーガは、怯んだが、それでも引かなかった。

『一度は、神に逆らった身だ、従う義理は、無い!』

 双方の間に生まれた純粋な気迫のみで、突風が吹き荒れる。

「止めてください。私達の為に神と逆らうなんて無謀な事をしないでください!」

 リーナがナーガとガーナに向かって哀願する。

「『しかし、そうしなければこの世界に大きな被害が出るんだぞ!』」

 リーナが目に涙を浮かべて言う。

「だからって、ガーナが酷い目に会うのを黙って見ていられません」

 圧倒的な力を感じさせた男にも引かなかったナーガもその言葉には、戸惑う。

 男が困った顔をしていたが、驚いた顔をする。

「我が主、聖獣戦神八百刃様から神託が降りた。お前が全ての力を捨て、人として生を全うすると言うならば、お前の体と力をこの世界の楔とする事の許可を与えると」

『この体に未練など無い。喜んでその提案を受けよう』

 ナーガの答えに男が頷き、大地が震え、ナーガより巨大な大蛇、大地蛇へと変化した。

『我が力、大地蛇の力持ちて、汝を大地の楔にせん!』

 大地が盛り上がり、ナーガの体を喰らい、ナーガを封印していた大穴を塞いだ。

「ガーナ!」

「リーナ!」

 抱き合う二人を暖かい目で見下ろす大地蛇であった。



 数日後、ダーダは、リーナとガーナが住む家にやって来た。

「あの後、全ての事実が判明した。蛇使いとは、ナーガに仕えていた人間のリーダーでナーガと同じく贖罪の為にあの地に居た。それを誰かが神とすりかえることで、今の地位を手に入れていたのだ。そして、リーナさんの一族も、誰もが嫌がった封印強化の役目を自ら進んで行った者だったらしい。罪悪感を覚えた人々の事を気遣い、聖都から離れて暮らしていたのを、やはり歴代の蛇使い達が事実を捻じ曲げていたらしい」

 ダーダの告白にガーナが憤慨する。

「とんでもない奴等だ」

「この世界の喰らおうとして、元々の原因を作ったお前には、責められないがな」

 微調整の為に残っていた男、大地蛇の言葉に視線をそらすガーナ。

「しかし、元の世界に戻れなくて後悔していないのか?」

 ダーダの質問にガーナは一片の曇りの無い顔で答える。

「当然だ、この世界には、大切な奴が居るからな」

 微笑ましそうに見ながらダーダが言う。

「ところで、そのリーナさんは、何処に?」

 ガーナが手を叩き言う。

「そうそう、大地蛇さんよ、あんたの知り合いって奴が昨日から泊ってご飯を食ってるぞ。今も台所でうどんを食べている」

 ダーダが首を傾げる。

「大地蛇様の知り合いが、ご飯を食べるのか?」

 しかし、大地蛇は、直ぐに思い当たり、台所に駆け込む。

「お疲れさん。周りの神々への挨拶は、済ませておいたから、帰りに結果だけ報告しておいて」

 幸せそうに生卵をのせたうどんをすするポニーテールの少女。

「こんな所で、何を為さっているのですか、八百刃様!」

 大地蛇の言葉にポニーテールの少女、八百刃が答える。

「今言ったとおり挨拶。あちきの独断で勝手な事をさせたから、その事に対するお詫びのね」

 視線を逸らす八百刃に大地蛇が言う。

「そういう事でしたら、配下の者に代行させるのが普通です」

 手をパタパタさせて八百刃が言う。

「やっぱそういう事は、自ら動かないと」

「自分達の人事権を持っている最上級神に謝られに来られた方が迷惑です。白牙殿は、知っているのですか?」

 大地蛇の質問に八百刃が朗らかに笑って答える。

「白牙がそんな事を許すわけ無いじゃん」

 激しい脱力感に襲われる大地蛇を無視して八百刃が言う。

「うどんをおかわり、卵は、二つ載せてね」

 大地蛇が睨むと八百刃が話を逸らすように言う。

「そういえば、ある世界では、うどんに生卵をのせたのを月見うどんって言うらしいよ。生卵二つのは、この世界の月見うどんになると思うよ」

 リーナが持ってきたどんぶりに手を伸ばそうとした八百刃の手の上に子猫の姿の白牙が乗る。

「解らないように、力を最小限にしてた分身なのに、どうして気付いたの?」

 戸惑う八百刃に白牙が言う。

『いつからの付き合いだと思ってるんだ。お前が卵料理を食べている時の表情ぐらい見れば解る。やっていると解れば、食事を楽しむ為のリンクを辿れば直ぐだ。帰るぞ』

「せめてもう一杯だけ! 作っちゃった物は、勿体無いでしょ?」

 懇願する八百刃に白牙が頷く。

『そうだな、勿体無いな』

 八百刃が頷くが白牙が大地蛇の方を向く。

『すまないが、八百刃様の代わりに食べておいてくれ』

「そんな代打は、要らない!」

 八百刃は、泣くが、白牙に連れ帰られていってしまった。

「あれが噂に聞く、最強の神、八百刃なのか?」

 信じられ無そうに聞くガーナに大地蛇は、視線を逸らす。

「聞かないでくれ」

 大地蛇は、リーナからどんぶりを受け取り、そこに浮かぶ二つの生卵とこの世界の月を結びつけて、世界を超えた二人の愛が、この世界の月の様に永遠に続くことを願うのであった。

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