表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
99/101

【Bar風花】第二章 千草お姉ちゃん居座る ~風花に舞う白き静戒 ―規律の同居と、残された刃―

前書き


※静かな同居生活の始まり編

※戦闘も恋愛もありません。ただ完璧すぎるメイドと、研ぎ澄まされた緊張感だけ

※Bar風花の外側で起こる、櫻庭家の新しい日常です


Bar風花の扉が閉まった夜。

山の神が去った後、残されたのは純白のメイド服を纏った千草。


「今日から離れを拝借いたしますわ」

拒否権など、最初から存在しない。


玄関に規律が通り、縁側に刃のような視線が突き刺さる。

天と千草、互いに微笑みながら交わす火花。


甘やかされるためではない。

守られるためでもない。

ただ、櫻庭天が「家族」として相応しいか、静かに試され続ける日々の始まり——。


どうぞ、そっと覗いてください。

 『Bar 風花』の重厚な扉が閉まり、黒塗りのセダンが夜の闇へと溶けていった後、風花町の路地には不自然なほどの静寂が残された。


 山の神・崇道の圧倒的な威圧感が去ったはずなのに、天の背筋を伝う微かな戦慄は、消えるどころか密度を増している。


 その原因は、数歩先で月光を浴びて佇む、純白のメイド服姿の女性——千草にあった。


「……千草さん、本当によろしいのですか?」


 美和が問いかけると、千草は表情一つ変えず、ただ完璧な所作で一礼した。


「ええ。冴子奥様からは『監視と護衛』を命じられておりますわ。……天様。わたくし、今日からそちらの平屋の離れを拝借いたします。……よろしいですね、美和様」


 その声は、鈴を転がすように清らかだが、天の耳には「処刑人」としての冷徹な響きが僅かに混じって聞こえた。天様。その呼び方は、親しみではなく、一線の境界線を引くための「礼儀」そのものだった。


「……拒否権は、なさそうですね。分かりました。歓迎します、千草さん」


 天は努めて冷静に答えた。天にとって彼女は、美和の姉の様な存在であると同時に、皇グループの深淵を体現する「白鹿」という名の刃そのものだった。



 

 一、静かなる侵食 メイドの機能美と境界線


 櫻庭家に戻ると、家の中の空気は一変していた。


 千草が足を踏み込んだ瞬間、玄関の空気は浄化され、生活感のあった空間に「規律」という名の背骨が通った。


「天様、美和様。お風呂の用意は済ませてあります。わたくしは台所と離れの整理をしておりますので、お構いなく」


 千草はそう言い残すと、流れるような動作で奥へと消えた。


 彼女の動きには無駄がなく、また「甘え」を誘うような隙も一切ない。


 美和が風呂へ向かった後、天はリビングで一人、いつもより整然としすぎた空間に、居心地の悪さと、それを上回る「守護」の重みを感じていた。


 離れからは、千草が荷物を整理する僅かな音さえ聞こえてこない。


 かつて多くの穢れを掃除してきたその手は、今、櫻庭家の日常を「完璧」に書き換えようとしている。



 

 二、縁側の対話 火花散る沈黙


 一時間後。美和が寝室に引き上げた後、天は熱を冷ますために縁側に出た。


 そこで、既に自身の身の回りを整え終えたのであろう千草と、鉢合わせた。


 彼女は夜景を眺めながら、庭の暗がりを見つめていた。その背中には、天が踏み込んでいい「家族」としての温もりはまだない。


「……天様。今夜の構成、御当主様は満足していらっしゃいましたわ」


 千草が、顔を向けずに口を開いた。


「ありがとうございます。……千草さんからも、そう見えましたか」


「ええ。ですが……」


 千草がゆっくりと振り返る。

 その瞳には、かつて戦場を凍りつかせた「白鹿」の鋭い光が宿っていた。


「わたくしの目は、御当主様ほど甘くはございませんわ。……あなたが美和様を支えきれなくなった時。その時は、わたくしがあなたの代わりに……すべてを『掃除』させていただきますこと。お忘れなく」


 それは、温かな家族の会話などではなく、明確な警告だった。


 天は一瞬、息を呑んだが、すぐに不敵な笑みを返した。


「……それは光栄だ。あなたがその刃を抜かずに済むよう、僕は僕のやり方で、彼女の隣を死守させてもらいますよ」


 二人の間に、目に見えない火花が散った。


 千草は、天のその返答を聞くと、ふっと表情を和らげた——いや、それは「標的としての価値」を認めたような、残酷なほどに美しい微笑だった。


「……期待しておりますわ。それでは、おやすみなさい。明日の朝食は六時です」



 

 三、未完の距離 新しい日常の始まり


 千草が離れへと去った後、天は一人、縁側に残された。


 千草さんがいてくれることで家は温かくなるどころか、今はまだ、研ぎ澄まされた刃を突きつけられているような緊張感がある。


 けれど、天は嫌いではなかった。


 美和を守るために、自分もまた「白鹿」の目に晒されながら、高みを目指し続けなければならないという、この過酷な日常。


「……さて。明日から、面白くなりそうだ」


 天は、千草が淹れておいてくれた——驚くほど雑味のない、冷徹なまでに完璧な冷茶を一口飲み、静かに立ち上がった。


 明日から始まる、千草との奇妙な同居生活。


 それは甘やかされるためのものではなく、櫻庭天という男が、神々の家族として相応しいか試され続ける、果てなき戦いの始まりだった。

あとがき


千草お姉ちゃんの居座り、書いていて背筋がゾクゾクしました。


完璧すぎる所作と、一切の隙を見せない「白鹿」の視線。

それでも天が不敵に笑い返す瞬間が、なんだかすごく風花らしいなと思いました。


これから始まる、規律と刃と、ほんの少しの温もりの同居生活。

短いですが、櫻庭家の新しいページを開く話になりました。


読んでくださってありがとうございます。

また次の夜に、カウンターか縁側でお待ちしています。


天照(Bar風花)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ