【Bar風花】第二章 響子ちゃんの1日~快速な一日と、町の鼓動~
前書き
風花町の朝は、響子ちゃんの声で始まる。
山崎豆腐店の作業場から轟天号で爆走する早朝配達。
市役所で観光振興に奔走する昼。
櫻庭ガレージで天ちゃんと車をいじりながらのクールダウン。
そして夜はBar風花の定位置で、美和さんのシンガポール・スリングを片手にみんなと笑う。
快速で、賑やかで、どこか優しい。
響子ちゃんの、ただの「一日」。町の鼓動を感じながら、のんびりお付き合いください。
風花町の夜明けは早い。
山崎豆腐店の作業場では、もうもうと立ち上る湯気の中で、響子ちゃんが割烹着姿で立ち働いていた。
「お父さん、こっちの厚揚げ、もういいよ!」
元気いっぱいの声が、湯気の向こうに飛んでいく。
彼女は巨大な保冷箱を、ブリヂストン社の業務用実用車ジュピターS、通称『轟天号』の荷台にガチャンと固定した。
早朝の配達は、響子ちゃんにとって毎日の「筋トレ」タイムだ。
轟天号に跨り、まだ眠る路地裏を爆走する。
風を切る音に負けない大声で、彼女は叫んだ。
「おはよーございまーす!」
その声が、町を目覚めさせる目覚まし時計代わりだった。
朝の風はまだ少し冷たい。
響子ちゃんはヘルメットを被ったまま、豆腐の香りを胸いっぱいに吸い込んだ。
今日も、この町の朝を、自分が運んでいる気がして、なんだか嬉しくなる。
AM 08:00、市役所の『ひまわり』へ変身
豆腐の香りをシャワーで流し、今度は市役所の制服に着替える。
愛車のイエローのスイスポに飛び乗り、天ちゃんに調整してもらったばかりのシフトをカチカチと楽しみながら市役所へ向かった。
「観光振興係の山崎です!」
窓口ではお年寄りの世間話に付き合い、奥のデスクでは町おこしイベントの予算案と格闘する。
お昼休みには、高瀬美由紀さんのサロンの前をスイフトスポーツで通りがかり、窓越しに声をかけるのがお決まりのコースだ。
「美由紀さーん、お昼食べたー?」
スイスポの窓を開けて明るく笑う響子ちゃんの姿は、風花町の中でもちょっとした名物になっていた。
PM 17:30、櫻庭ガレージへ『ピットイン』
定時退庁後、彼女はまっすぐ櫻庭家へ向かった。
「天ちゃーん! スイスポのブレーキ、少し鳴き始めたかも!」
ガレージに滑り込む黄色い影。
天ちゃんが「また無理な減速したでしょ」と苦笑いしながら点検を始める横で、響子ちゃんは天ちゃんの淹れてくれた冷たいお茶を飲みながら、今日一日の「町の事件簿」を報告する。
このひとときが、彼女にとってのクールダウンの時間だった。
「今日ね、市役所の会議でさ、『風花町の桜を活かした新イベント』って提案したら、みんな『響子ちゃんらしいね』って笑ってくれたんだよ!」
天ちゃんは工具を片手に聞きながら、時々相槌を打つ。
その穏やかな笑顔を見ていると、響子ちゃんの胸の奥がふわっと温かくなる。
PM 20:00、『Bar 風花』の解放区
そして夜。
『Bar 風花』の重厚な扉を、彼女は「お疲れ様でーす!」と遠慮なく開けた。
定位置の第1席に座り、美和さんにオーダーするのはもちろん「シンガポール・スリング」。
「ぷはーっ! 生き返る〜! ねぇ天ちゃん、さっきのブレーキの件だけどさ……」
奥の席にいる天ちゃんに絡みつつ、隣に現れた美由紀さんと「女の美容会議(というか愚痴大会)」に花を咲かせる。
美和さんがシェイカーを振る音が、店内に心地よいリズムを刻む。
響子ちゃんはグラスを傾けながら、今日一日の出来事を次々と話した。
美由紀さんは時々眼鏡を押し上げて笑い、美和さんは静かに微笑みながら新しい一杯を用意してくれる。
この時間が、響子ちゃんにとって一番の「ご褒美」だった。
PM 22:30、琥珀色の余韻と、明日の豆腐
二杯目の「スプモーニ」をゆっくり飲み干し、彼女は席を立った。
「あー、明日も早いんだった! 美和さん、ごちそうさま! 天ちゃん、明日の朝、豆腐持っていくからねー!」
夜風の中、路地裏に響子ちゃんの元気な声が響く。
帰宅して布団に入る前、彼女はふと思う。
この町に、あんなBarがあって、あんな仲間がいて、本当に良かったな、と。
明日もまた、豆腐を焼き、町を走り、みんなの顔を見て、笑って生きる。
それが、響子ちゃんの、快速で、温かい一日だった。
あとがき
響子ちゃんの1日、いかがでしたか?
豆腐を焼いて、町を走って、みんなの顔を見て、Bar風花で一息。
彼女の快速で温かい日常を書いていて、こっちまで元気が出てきました。
風花町が、こんな風に生き生きしているのは響子ちゃんのおかげだな……と改めて思いました。
読んでくださってありがとうございます。
またいつか、別の誰かの「一日」をカウンターでお届けできたら嬉しいです。
天照(Bar風花)




