表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
53/61

第一部エピローグ 陽だまりの執筆

【Bar風花 -kazahana-】第一部エピローグ 陽だまりの執筆


※Bar風花シリーズ・第一部最終話エピローグです。

※これまでの全杯をお読みいただいた皆様へ、心を込めてお届けする完結編です。

※静かな春の陽だまり、手作りの甘味、愛おしい日常、穏やかな再出発が好きな方向け。

※派手な展開はありません。ただ、ようやく手に入れた「普通の幸せ」を、ゆっくり味わってください。


 ある春の午後。

 風花町の神社脇にある小さな平屋。

 暖かな日差しが差し込む和室で、天ちゃんはパソコンに向かい、一文字ずつ丁寧に言葉を紡いでいた。


 フリーランスのルポライターとして歩み始めた、新しい人生。

 背後から漂う柔らかな気配。

 「お茶、どうぞ」と微笑む美和さん。

 右のワインレッド、左の琥珀——二つの瞳は、もう神話の記号ではなく、ただ一人の男を愛する女性の温もりだけを映している。


 庭には満開の桜。

 ガレージには愛車たちが静かに並び、迷いの雨はもう降らない。

 神話は終わり、愛おしい「日常」という名の奇跡が、今、静かに動き出した。


 Bar風花へようこそ。

 第一部の、最後のグラスをお注ぎします。

どうぞ、春の陽だまりの中で、ゆっくりとお付き合いください。

(Bar風花・第一部完)

 ある春の午後。


 風花町の神社の傍らに佇む、小さな平屋。


 暖かな日差しが畳に長い影を落とす和室で、天ちゃんはノートパソコンに向かい、一文字ずつ丁寧に言葉を紡いでいた。


 かつて組織の論理に縛られていた彼が選んだ、フリーランスのルポライターという新しい人生。


 今はただ、自らの魂が突き動かされるままに、真実と想いを言葉に変える日々を送っている。


 ふと、背後から衣擦れの音と共に、柔らかな気配が漂った。


 「……少し休んだら?」


 振り返ると、そこには慈愛に満ちた笑顔を浮かべた美和さんが立っていた。


 お盆の上には、湯気を立てる淹れたてのお茶と、淡いピンク色が春を告げる手作りの桜餅が乗っている。


 「根を詰めすぎると、せっかくの春が逃げちゃうわよ」


 彼女の瞳――右のワインレッドと、左の琥珀――は、今や遠い神話の記号ではない。


 目の前の男を愛し、共に生きることを選んだ一人の女性としての、確かな輝きを宿していた。


 「ありがとう、美和さん。……ちょうど今、この物語の最後の一行を書き終えたところなんだ」


 天ちゃんが視線を向けた窓の外。


 庭では一本の桜が誇らしげに満開の花を咲かせ、その足元ではカクテルの彩りとなるレモンやライムの木が、若々しい葉を陽光に透かしている。


 視線を移せば、そこには二人の歩みを見守ってきた相棒たちの姿があった。


 ガレージの奥、柔らかな光に包まれて眠るのは、美和さんの魂の片割れとも言えるディーノ246GT。


 その官能的な曲線は、静止していてもなお、美しい旋律を奏でているようだ。


 その隣では、最強の熱量を秘めたNinja H2カーボンと、年月を経てなお色褪せないGPZ900Rが、かつての激闘を労うように静かに呼吸を整えている。


 庭先の駐車場には、小柄ながらも奔放な鼓動を刻むアバルト695トリブート・フェラーリと、天ちゃんの新たな一歩を支える質実剛健なTOYOTA GRヤリスが、寄り添うように並んでいた。


 どれもが、かつての孤独な旅路を共にし、そして今、二人の「日常」を彩る大切なピース。


 もう二人の頭上に、迷いの雨は降らない。


 壮大な神話は幕を閉じ、愛おしい日常という名の奇跡が、今、静かに動き出したのだ。


 美和さんはお盆を置くと、ふと画面を覗き込むようにして首を傾げた。


 「そういえば天ちゃん、ずっと根を詰めて……どんなお話を書いていたの?」


 天ちゃんは少し照れくさそうに、しかし誇らしげに微笑んで答えた。


 「うん。主人公が偶然訪ねたBarで色々な体験をして、最後はその店のバーテンダーの女神様と結ばれる……そんなお話だよ……」


 美和さんは、悪戯っぽく、けれどどこか嬉しそうに笑いながら問いかける。


 「ふふ、素敵じゃない。そのお話のタイトル、もう決まっているの?」


 「うん……この物語のタイトルは……」


 天ちゃんが立ち上がり、美和さんのために椅子を引く。


 主が離れ、つけっぱなしになったパソコンの画面上。


 カーソルの横で静かに、けれど力強く刻まれていたのは、一つの題名だった。


 『Bar風花-kazahana-』〜夜の桜が、カウンターに咲く〜



 (Bar風花・第一部 完)

あとがき


 第一部エピローグ 陽だまりの執筆、いかがでしたでしょうか。


 ……とうとう、ここまで来ました。

 記憶を失くした朝から、再びBar風花で出会った二人。

 数千年の輪廻と忘却、神の約束、そして魂の叫びを経て、ようやく手に入れた「人間の時間」。


 天ちゃんと美和さんが、ただの夫婦として、ただの恋人として、陽だまりの中で桜餅を頬張る——そんな当たり前で、奇跡のような日常。

 執筆中、わたし自身も何度も胸が熱くなって、キーボードを打つ手が止まりました。

 これが、ずっと描きたかったBar風花の「本当の終わり」であり、同時に「本当の始まり」だと思っています。


 第一部はここで完結させます。

 第二部では、櫻庭 あまねとして婿入りした天ちゃんと、櫻庭 美和として生きる美和さんの、ほんわかとした日常をお届けします。

 愛車でドライブしたり、カウンターでグラスを傾けたり、桜の季節を一緒に過ごしたり……。

 きっと、もっと身近で、もっと甘くて、もっと温かいお話になるはずです。


 ここまで読んでくださったすべての皆様、本当にありがとうございます。

 あなたがこの物語に寄り添ってくれた時間こそが、Bar風花にとって最高の「陽だまり」でした。


 第二部の扉も、もうすぐ開きます。

 どうか、これからも温かく見守っていただけたら幸いです。


 それでは——おかえりなさい、天ちゃん。

 そして、ようこそ、本当の日常へ。


天照(Bar風花)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ