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【Bar風花】秋の彼岸SS 天孫のお墓参り 〜え⁉息子の嫁が木花咲耶姫だったんですけど⁉〜

【前書き】


※本作は『Bar風花-kazahana-』の秋彼岸SS(高千穂家のお墓参り編)です。

※可憐な和装で『アバルト695 トリブート・フェラーリ』のステアリングを握る美和さんと、天国からそれを見守る天ちゃんのご両親を描いています。

※排気音の響く秋晴れの空と、温かなおはぎの匂いを感じながらお楽しみください。


どうぞ、そっとカウンターの向こう側を覗いてみてください。

第一章:お空の上の穏やかなお茶会


 秋の爽やかな風が吹き抜ける天国の縁側。

 どこまでも続く一面のお花畑を見下ろすその場所で高千穂賢一と澄江の夫妻はのんびりとお茶をすすっていた。

 「今日は秋のお彼岸ですねぇ父さん。天今年もお墓参りに来てくれるかしら」

 お茶請けの煎餅を小さな口でかじりながら母の澄江が優しく目を細める。

 生前と変わらないおっとりとした声に元高校教師の父・賢一は手元の湯呑みを置き懐かしそうに頷いた。

 「あああいつは不器用だが義理堅いからな。毎年命日と彼岸には必ず顔を出してくれる」

 「だがルポライターの仕事ばかりで相変わらず泥だらけの軽トラに乗ってちゃんと飯を食べているのか心配だよ」

 「ふふあの子は昔から夢中になると寝食を忘れますからねぇ。天ももういい大人ですしそろそろ良い奥さんでもできたら安心なんですけれど」

 「そうだなあいつの愚直で不器用な性格を理解してくれる慎ましいお娘さんが来てくれたら言うことはないんだが……」

 親心ゆえの他愛のない会話を交わしながらふたりは地上にある風花町の小高い丘高千穂家代々の墓所へと視線を向けた。

 その時だった。

 山あいの静かな墓地に突如として腹の底を揺さぶるような爆音が響き渡る。

 ——ズガガガガッ、パパンッ!

 「な、なんだ!? なんだこのレーシングカーのような爆音は!?」

 賢一が思わず腰を浮かせる。

 澄んだ秋空を切り裂いて聞こえてきたのは明らかに只者ではない官能的で甲高い重低音。

 のどかな墓地へと続く一本道を真っ赤な一台の車が弾丸のような勢いで駆け上がってくるのが見えた。

 「父さん見て! すごく綺麗な真っ赤な小悪魔みたいな車よ!」

 「ば、バカ言えあれはアバルトだ! しかもただのアバルトじゃない……あのロッソ・コルサのボディにふたつのグレーライン17インチのアロイホイール……間違いない、『アバルト695 トリブート・フェラーリ』だぞ!? 世界限定車じゃないか!!」

 車好きだった賢一が身を乗り出して叫ぶ。

 イタリアの跳ね馬のソウルを宿した最高峰のコンパクトモンスターが高千穂家の墓地駐車場へと滑らかに滑り込みレコードモンツァマフラー特有の澄んだアイドリング音を響かせて停車した。

 「なぜあんなプレミア価格の限定車がうちの墓所に……まさか暴走族か!?」

 賢一が唾を飲み込んで注視する中アバルトの助手席のドアがそっと開く。

 降り立ってきたのは大事そうに重箱を両手で抱えた若い男だった。

 「……え?」

 賢一と澄江は同時に目を丸くした。

 「……て、天……!? あいつなんで助手席から重箱抱えて降りてきてるんだーッ!?」




第二章:真っ赤なアバルトから降り立った「国宝級の美女」


 「ふぅ……美和さんやっぱりこの車音がすごすぎるよ……! お父さんたちお空の上でびっくりしてないかな!?」

 助手席から降りた櫻庭天は抱えた重箱を落としたりしないよう抱え直しながら苦笑交じりに運転席へと声をかけた。

 「あらそんなことないわよ天ちゃん( ´∀` )✨ 『今日はお義父様とお義母様にご挨拶する特別な日なんだから一番とっておきのお車で行こう』って言ってくれたのは天ちゃんじゃない♪」

 パタンと品の良い音を立てて運転席のドアが開く。

 降り立ったのは可憐な秋草の柄が施された深緑色の着物を纏った女性だった。

 艶やかな黒髪を軽く結い上げ異色瞳を優しく輝かせている。

 「お待たせ天ちゃん重箱重くない?」

 「大丈夫だよ美和さんの手伝ってくれたおはぎすごく美味しくできたから早くお父さんたちに見せたいな」

 「ふふそうね( ´∀` )✨」

 ふたりは仲良く並びお墓へと続く石段を歩き始めた。

 一方お空の上では高千穂夫妻が完全に言葉を失っていた。

 「つ、妻ぁぁぁーーーッ!? い、いつの間に……天のやついつの間にあんな国宝級の美人と結婚したんだーーーッ!?」

 賢一はお茶を吹き出し縁側から転げ落ちそうになりながら叫ぶ。

 「まあまあまあ! なんて可愛らしいお嫁さん! お着物姿で真っ赤なスポーツカーを運転してくるなんてすごく粋で素敵ねぇ!」

 澄江は目を輝かせお空の上から手を叩いて大喜びしている。

 「いやいやおかしいだろ澄江! あいつは築数十年の平屋で軽トラに乗ってる愚直なルポライターだぞ!? なんであんな浮世離れした美人と結婚できてしかも限定フェラーリ仕様のアバルトで墓参りに来るんだ!?」

 混乱を極める賢一をよそに天と美和はお墓の前へと辿り着いていた。

 天が手際よく水桶から柄杓で水を汲みお墓を綺麗に清めていく。

 美和はその隣で着物の合わせが乱れないよう静かに裾を整えると墓石に向かって深々と頭を下げた。

 「お父様お母様はじめまして。天ちゃんの妻の美和です。いつも天ちゃんを優しく見守ってくださってありがとうございます( ´∀` )✨」

 澄み渡るような美しい声が秋の墓所に静かに響き渡った。




第三章:天国での大パニック


 「聞いたか澄江……『妻の美和です』って言ったぞ……幻聴じゃない本当に天のお嫁さんだ……!」

 賢一は感涙にむせびながら胸を押さえた。

 「よかったわねぇ父さん。あんなに綺麗で優しそうな奥さんをもらえて……天は本当に幸せものね」

 澄江が温かい眼差しでふたりを見つめる。

 しかし次の瞬間。

 美和がお墓の前でそっと手を合わせ顔を上げた時だった。

 ふわりと。

 秋の爽やかな風に乗って甘く重厚な桜と果実の香りが広がっていく。

 美和の背後にまるで満開の桜が舞い散るかのような圧倒的な神気が揺らめいた。

 それと同時に墓地の周囲に咲いていた秋桜が一斉にピンと茎を伸ばしまるで女王に頭を垂れるように鮮やかに咲き誇る。

 その圧倒的な光景を目にした瞬間元高校教師で神話や古代史に造詣が深かった賢一の顔色が一瞬で蒼白になった。

 「……す、澄江……」

 「どうしたの? 父さん鳩が豆鉄砲を喰らったような顔をして」

 「あ、あの凛とした立ち振る舞い……異色の瞳……そして一瞬で季節を狂わせて桜を咲かせるほどの圧倒的な神性……まさかまさかあのお方は……!」

 賢一の膝がガクガクと震え出す。

 「木花咲耶姫さまだーーーッ!!?」

 「え……? このはな……?」

 「皇グループの頂点にして日本神話の最高峰の女神様だぞ!!? な、なんでそんな雲の上の存在……いや本物の神様がうちの息子の嫁になってるんだーーーッ!?」

 「ええええっ!? 息子の奥さん神様なの!?」

 ようやく事態の狂気性に気づいた澄江も賢一と一緒になってお空の上で抱き合いガクガクブルブルと震え出した。

 「神様が……神様がうちの墓にお参りしてくださってる……! しかもアバルト695トリブート・フェラーリを乗り回して……! 意味が分からん情報量が多すぎて頭がどうにかなりそうだ!!」

 頭を抱えてのた打ち回る賢一の横で地上ではどこまでも穏やかな時間が流れていた。




第四章:おはぎとアバルト、そして涙


 天はお墓の横にある小さなベンチに腰掛け持ってきていた重箱の蓋をそっと開けた。

 中には美和と一緒に丸めた綺麗に形の揃ったきなこと小豆のおはぎが整然と並んでいる。

 「お父さんお母さん。報告が遅くなってごめんね。僕美和さんと結婚しました」

 天はお墓に向かって少し照れくさそうに頭をかいた。

 「皇グループのこととか僕たちの立ち位置とか色々複雑なこともあるんだけど……僕は美和さんを一人の女性として愛しているし毎日すごく幸せです」

 美和は嬉しそうに異色瞳を細めると天の腕にぎゅっと抱きついた。

 「ふふ私も天ちゃんの奥さんになれて世界一幸せですよ( ´∀` )✨ お父様とお母様が大切に育ててくださったからこんなに優しくて素敵な天ちゃんに出会えました。本当にありがとうございます」

 ふたりは寄り添いながら重箱からおはぎをひとつずつ手に取り一口食んだ。

 「う~ん! 天ちゃん今日の小豆の炊き加減完璧ね! すごく美味しいわ( ´∀` )✨」

 「あはは美和さんが餡子を練るのを手伝ってくれたおかげだよ。きなこも香ばしくて美味しいね」

 真っ赤な限定スーパーカーの横で手作りの重箱を囲み仲良くおはぎを分け合うふたり。

 その微笑ましくも温かな光景をお空の上から見つめていた賢一の興奮が静かに冷めていった。

 震えていた肩が落ち賢一の目からポロポロと大きな涙がこぼれ落ちる。

 「……父さん……?」

 「……神様だろうとフェラーリだろうと……そんなことはどうでもいいな」

 賢一は目元を袖で拭い温かい笑顔を浮かべた。

 「あの不器用で自分の気持ちを口にするのが苦手だった天が……あんなに柔らかく嬉しそうに笑っている……」

 「ええ……本当にそうですねぇ」

 澄江も目元を濡らしながら深く頷いた。

 「あんなに美しい神様が天の手作りのおはぎを『美味しい』って笑って食べてくださっている。……天を心から愛してくださっているのが痛いくらい伝わってくるわ」

 「ああ高千穂の家を天を……あんなにも温かく守ってくださる奥さんが来てくれたんだ。……これ以上の幸せがどこにある」

 ふたりはお空の上の縁側でしっかりと手を繋ぎ直し地上のふたりを見つめ続けた。

空の青さは地上に生きる者たちを優しく包む。

第五章:風花町の空に響く最高の爆音

 「ごちそうさまでした。お父さんお母さんまた来ますね」

 重箱を片付けお墓に深く一礼した天と美和。

 美和がふと秋晴れの空を見上げると広がる青空の向こう太陽の周りに綺麗な円形の虹が浮かび上がっていた。

 「あら天ちゃん見て? お空からお父様とお母様が『安全運転で行ってね』って笑顔で手を振ってくれているわ( ´∀` )✨」

 美和が嬉しそうに空を指さす。

 「あはは本当だね。きっと二人とも美和さんに会えてすごく喜んでくれたんだと思う」

 「ふふ嬉しいわね。じゃあお義父様とお義母様に私の最高のかっこいい走りを見せてあげなくちゃ( ´∀` )✨」

 「えっ美和さん!? ここ山道だから安全運転でね!?」

 慌てる天を横目に美和は可憐に着物の裾をさばいてアバルトの運転席へと乗り込んだ。

 キーを回すとレコードモンツァマフラーがパパンッ!と威勢の良いブリッピング音を響かせ重厚なアイドリング音が静かな墓地に満ちていく。

 『天をよろしくお願いしますね美和さん』

 『ふたりで仲良くずっと幸せになるのよ』

 お空の上から送られる温かな言葉と視線を受け止めながら美和はそっとアクセルを踏み込んだ。

 真っ赤なアバルト695トリブート・フェラーリが官能的なエキゾーストノートを秋空に響かせ紅葉し始めた風花町の山並みの中へと滑らかに駆け抜けていく。

 大好きな人の体温と手作りのおはぎの甘い余韻。

 そしてお空からの温かな祝福に包まれながらふたりを乗せた車はどこまでも続く愛おしい日常へと戻っていくのだった——。

【あとがき】


最後までお読みいただき、本当にありがとうございます。

今回は秋のお彼岸SSとして、高千穂家のお墓参りに出かける天ちゃんと美和さん、そしてそれをお空の上から見守るご両親のエピソードを描いてみました。

最近はサンバー(アゲトラ)を愛車にする天ちゃんですが、美和さんの「特別なご挨拶だから」という優しさから、真っ赤なアバルト695トリブート・フェラーリでお墓参りに向かうというギャップを楽しんでいただけたら幸いです。

どれだけ偉大な神様であっても、お義父様とお義母様の前では「天ちゃんの可愛いお嫁さん」としておはぎを食べる美和さんと、そんなふたりを泣いて喜ぶご両親の温かさが伝われば嬉しく思います。


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天照(Bar風花)

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