【Bar風花】第二章 週末釣具店ショッピング 〜蒼き愛車とおっとりメイドの夢タックル〜
【前書き】
※本作は、架空の町「風花町」を舞台に紡ぐ、大人の純愛と少し賑やかな日常の物語です。
※神話の影をすこしだけ纏った登場人物たちが、今日も穏やかな時間を重ねています。
夏の陽光が青く澄みわたる土曜日の午後。
櫻庭家のリビングから始まった何気ない会話は、気づけば市内の巨大な釣具店を巻き込んだ、ちょっとした大冒険へと姿を変えていきました。
どうぞ、そっとカウンターの向こう側を覗いてください。
第1章:週末の作戦会議とプロフェッショナルの血
夏の風花町は、陽が昇るにつれて草木の香りが濃くなっていく。
土曜日の昼下がり、明るい陽光が差し込む櫻庭家のリビングで、ソファやテーブルを囲んで座っていたのは櫻庭家の面々――天、美和、千草、そして深雪だった。時刻は十三時を過ぎたところだ。
「明日はいよいよ日曜日だし、防波堤でサビキ釣りに挑戦してみようか?」
天が爽やかな笑顔で切り出すと、テーブルの脇で冷たい和紅茶の入ったグラスを傾けていた美和が、ふんわりと目を細めた。
「明日ねぇ。たくさん釣れたら、お家での晩ご飯はもちろん、お店の常連さんたちにもちょっとしたお裾分けや特別なおつまみとして出せそうで楽しそうね」
「あらあら、明日のサビキ釣り、本当に楽しみですのね♪ 獲れたてのアジやサバでしたら、自家製出汁醤油の南蛮漬けや、獲れたてのアジのサクサク唐揚げに、キリッと冷えた大吟醸を合わせるのが最高ですわねぇ♪」
千草がおっとりと微笑みながら、すでに頭の中で完璧な献立を組み立てている。
「……ん。……あじの南ばんづけ……からあげ……( ・∀・ )✨」
低血圧で天の肩に顎を乗せていた深雪も、黄金色の瞳をきらりと輝かせた。
「明日の本番に備えて、今日の昼のうちに必要な道具を揃えておこう。ただ、海から遠いこのあたりの釣具店だと海の仕掛けは品揃えが少し物足りないかもしれないから、ドライブを兼ねて市内の大型釣具店まで買い出しに行ってみようか。ついでに将来、風花川の上流でヤマメやアマゴを狙う時のために、綺麗な渓流釣り用の道具も一緒に見ておこう」
天がそう言ったその時、玄関の方からピンポーンと穏やかなチャイムの音が響いた。
「あら、どなたかしら?」
美和が首をかしげると、天が玄関へと迎えに行き、すぐに明るい声が戻ってきた。
「あ、一条さん! いらっしゃい」
「みなさんこんにちはぁ〜。櫻庭様、橘法律事務所のほうから、先日ご依頼をいただいておりました櫻庭家関連の書類をお持ちしましたえぇ」
手元にクリアファイルを抱えた一条結が、ふんわりと柔らかい笑みを浮かべてリビングに姿を現した。
「あら、わざわざ届けてくださってありがとう。まあ、どうぞお掛けになって」
美和が優しく勧めると、一条さんはテーブルの一角に書類を丁寧に広げながら、笑顔で一礼した。
「お話の途中でお邪魔して、相すみませんねぇ。……ふふっ、みなさん何やとっても楽しそうなお話をされてはりましたけど、どんな話題だったんどすかぁ?」
「ちょうど明日、みんなで防波堤のサビキ釣りに行こうって話していたところなんだ。その道具を買いに、今から市内の大型店まで出かけようと思ってね」
天がそう答えると、一条さんのタレ目がさらに柔らかく細められた。
「明日のサビキ釣りに、渓流釣りのお道具選びやすかぁ? ふふっ、それなら私もぜひご一緒させておくれやす。私、ソロキャンと一緒に釣りも嗜みますさかい、女性陣のみなさんに扱いやすいお道具のアドバイスができまっせぇ〜」
「……ゆきおねえちゃん、釣り……詳しい( ・∀・ )✨」
「頼もしいね! それじゃあ一条さんも一緒に、市内の大型釣具店へドライブに出発しようか」
第2章:蒼き韋駄天と美しい渓流タックル
一行を乗せて風花町の路地を静かに発進したのは、天の愛車――ソニックブルーマイカの輝きを纏う『SUBARU エクシーガ GT』だった。
足元にはマットゴールドのRAYS鍛造ホイールとゴールドのブレンボキャリパーが覗き、オーリンズの車高調がフラットで静粛な乗り心地を生み出している。室内は全席SPARCOのセミバケットシートに換装された豪奢な六人乗り仕様。二列目のスパルコシートにゆったりと体を預けた美和が、静かなボクサーサウンドに包まれながら心地よさそうに目を細めた。
「本当にこのお車、どこに座っても少しも揺れなくて体が楽ね……。ドライブには最高だわ」
「ほんまにそうどすなぁ。エンジンの音もまるで遠くで聞こえる子守唄みたいに静かですし、ずっとお上品なお布団に包まれているみたいで、いつまででも乗っていたくなりますわぁ〜」
二列目のウォークスルー空間を挟んで並ぶ千草と一条さんも、快適なシートのホールド感にご満悦だ。
市内の大型釣具店へと到着すると、天井まで届く棚に整然と並ぶ無数の竿やリール、カラフルなルアーや仕掛けの数々に、女性陣から小さく感嘆の声が漏れる。
「うわぁ……すごい種類ね。どこから見たらいいのか迷ってしまうわ」
美和が店内を見渡すと、一条さんがおっとりとした笑顔で隣に寄り添った。
「美和様、まずは将来のための渓流釣りのお道具から見てみましょかぁ。風花川のヤマメやアマゴはすごく目が良うおすさかい、竿もしなやかで糸が細く、扱いやすいものがええどすえぇ〜」
一条さんはしなやかな指先で、軽量で美しいカーボン製の渓流竿を一本手にとった。
「この竿はすごく軽くてしなやかですし、女性の手でも扱いやすいお道具どすえぇ。こういう綺麗な毛鉤を使うと、まるで水面を跳ねる虫みたいで見ていても可愛らしおすなぁ〜」
「本当ね……まるで小さな工芸品みたい。こんな綺麗な毛鉤が透き通った川面を流れてきたら、お魚さんも思わずうっとりしちゃいそうね」
美和が繊細な毛鉤をしみじみと眺めていると、一条さんが柔らかな笑顔で頷いた。
「そうですねぇ。いつか美和様とご一緒に、風花川の清流で渓流釣りを楽しむのも素敵どすえぇ」
ひとしきり渓流コーナーの美しさを堪能したあと、一行は明日の本番に向けた海釣りコーナーへと歩みを進めた。
明日のサビキ釣りの仕掛けを一通りカゴに入れたあと、天はふと隣のルアー&リールコーナーに足を止め、メカニック特有の鋭い目つきでスピニングリールを手に取った。
「うーん、このリールはギアの噛み合わせがしっかりしていて、巻き心地もすごくスムーズだね。海水が掛かりやすいサビキ釣りだからこそ、こういうタフで頑丈な作りのものを選んでおくと安心だよ」
「さすが天さん、目の付け所が鋭いですわねぇ。サビキの仕掛けも、万が一大きめのアジやサバが連子(連掛け)でかかった時のために、少し丈夫なハリスの号数を選んでおくと安心ですわぁ〜」
一条さんが実用的なアドバイスを優しく微笑みながら添えると、天も頼もしそうに深く頷いた。
第3章:深雪ちゃんのマイ竿と、忍び寄る「異変」
一通りの買い出しを終えようとしたその時、一条さんはふと足を止め、近くの棚に並ぶ子供用のロッドコーナーに目を留めた。
「あら、見ておくれやす。深雪ちゃん用のかわいいお竿がおますえぇ」
一条さんは深雪の前でひざまずくと、ピンク色の可愛らしいコンパクトロッドを優しく手に取ってみせた。
「深雪ちゃん、防波堤からのサビキ釣りなら、このくらいの短うて軽いお竿が一番扱いやすいんどすえぇ。お仕掛けも、針の上に小さなピンクのゴムやスキンがついたものが、アジやサバには大人気なんどすえぇ〜」
「……ピンクの針で……お魚さんがいっぱい……( ・∀・ )✨」
「そうどすえぇ。下につけるアミカゴにコマセを入れて、海の中で優しくちょんちょんと揺らすだけで、アジさんたちが鈴なりに釣れちゃいますさかいねぇ〜」
「……みゆきの……おさお……( ・∀・ )✨」
深雪は一条さんから受け取ったピンクの竿を、両手で壊れ物でも扱うように大切そうに抱え込んだ。
「ふふっ、深雪ちゃん、すごく気に入ったみたいね。一条さん、良いアドバイスをありがとう」
美和が微笑んでお礼を言うと、一条さんは「ふふっ、お役に立てて良うおすしたぁ〜」と胸を張る。
その時、天が首をかしげながらあたりを見回した。
「……あれ? ところで千草お姉ちゃんはどこに行ったんだろう?」
先ほどまでサビキ用のバケツを選んでいたはずの千草の姿が、いつの間にか見当たらない。
「あらぁ……千草さんなら、あちらの奥のコーナーに吸い寄せられていかはりましたえぇ?」
一条さんが指さした先――そこは、和やかなサビキコーナーから少し離れた、無骨で巨大な道具が威圧感を放つ【磯釣り・遠征大物エリア】だった。
第4章:千草お姉ちゃんの「夢タックル」事件
急いで奥のコーナーへ向かった天たちの目に飛び込んできたのは、うっとりとした表情で巨大な竿を構える千草の姿だった。
千草が手にしていたのは、まるで小枝のよう……ではなく、人間を文字通り叩きのめしそうなほど太く重厚なGT・マグロ用のキャスティングロッドだった。そしてそのリールシートには、圧倒的な存在感を放つ超大型スピニングリール(ステラSW 20000番級)が重々しく鎮座している。
「あらあら皆様、見て頂戴ませ。このリール……最大ドラグ力が25キロもあるそうですわよ。PEラインの8号が300メートルも巻き込めるとか」
千草はおっとりとした声を弾ませながら、常人なら腕がプルプルしそうな超ヘビー級のタックルを、なぜか涼しい顔でスッと支えてみせている。
「ちょっ、千草さん……? それは黒潮のモンスター級を相手にする、正真正銘のガチな遠征用タックルじゃ……」
「ふふっ、天さん。明日もし防波堤の足元に、迷子のマグロや巨大なクエがうっかり通りかかったとしても、このお道具なら一網打尽ですわよ? 獲れたてをその場で贅沢にお刺身にして差し上げますわ♪」
「防波堤にマグロは回遊してこないよ!? 博多湾で100キロのマグロが掛かったら大事件だよ!」
天の必死のツッコミに、一条さんも脳内スパコンを高速回転させながら助舟を出した。
「まぁ、千草さん……。明日向かう防波堤でそんなお大層なお大物はさすがに釣れませんえぇし、仮にそんなお道具で小さなおアジさんを狙おうものなら、針にかかった瞬間にお魚さんが弾け飛んでしまいますわぁ……?」
「あらまあ、そうなのですかぁ? アジさんが弾け飛んでしまうのは困りますわねぇ……」
美和も優しく千草の肩に手を置いた。
「千草、お気持ちはありがたいけれど、そんな大物が釣れたら明日の晩はBarじゃなくて解体ショーになってしまうわね。うちは静かにお酒を楽しむお店なんだから」
「ふふ、美和様がそうおっしゃるなら仕方ありませんわねぇ♪」
一条さんの上品なたしなみと、美和の冷静なツッコミにより、千草は名残惜しそうに20000番の巨大リールを棚へと戻したのだった。代わりに、明日みんなと一緒に堤防でサビキ釣りを楽しむための扱いやすい万能ロッドに落ち着き、天は心の中でそっと胸を撫で下ろした。
第5章:車内の温かな帰路と、明日の大漁祈願
買い物を終え、夕暮れが迫り琥珀色の街灯が灯り始めた市内から風花町へと戻る道中。エクシーガGTの広大なリアラゲッジには、全員分のサビキ仕掛け、将来のための渓流道具、ライフジャケット、そして大小のクーラーボックスが綺麗に積み込まれていた。
「ふぅ、無事にみんなの道具も揃って良かったよ。 お付き合いありがとう、明日はいよいよ本番だね」
「ふふっ、どういたしましてぇ。みなさんが楽しそうにお道具を選んでおられるのを見ていたら、私もほんまに明日の釣りが楽しみになってきましたえぇ〜」
二列目の席で一条さんがおっとりと微笑む。
三列目の特注コンソールの隣では、マイサビキ竿を両手でしっかりと抱え込んだ深雪が、心地よいボクサーサウンドの振動に揺られながらすっかりスリープモードに入っていた。
「……あじの……なんばんづけ……からあげ……( ・∀・ )✨」
「ふふ、深雪ちゃんたら、寝言でもお魚のお料理のことを考えているわ。明日はみんなでたくさん釣って、賑やかで美味しいパーティーにしましょうね」
美和は助手席から体を大きく後ろへと捻り、3列目シートに座る深雪の純白の髪を優しく撫でた。
「深雪、明日はいっぱいお魚さんを釣ろうねぇ……」
「ええ、お任せくださいませ。明日は私が特製のコマセをご用意しますし、釣れたてのアジはすぐにサクサクの唐揚げにして、みなさまに美味しく召し上がっていただきますわ♪」
千草が頼もしく微笑み、車内には温かな笑い声が広がっていった。
車窓の外には、静かな夕闇に包まれ始めた風花町の街並みが広がっている。
明日訪れる日曜日、防波堤で受ける海風とみんなで囲む笑顔の食卓を思い浮かべながら、天の運転する蒼きエクシーガGTは今夜の営業と明日の準備が待つ『Bar 風花』へと滑らかに戻っていくのであった。
【あとがき】
最後までお読みいただき、本当にありがとうございます。
今回はいつもの『Bar風花』の静謐な夜から少し離れて、真っ昼間の大型釣具店を舞台にした賑やかな週末のひとコマをお届けいたしました。
南蛮漬けや唐揚げを心待ちにする深雪ちゃんの愛らしさや、一条さんの柔らかい京言葉、そして千草さんの想像の斜め上を行く「夢タックル」の暴走など、キャラクターたちの日常の温度感を楽しく感じていただけたなら幸いです。
明日はいよいよ、防波堤でのサビキ釣り本番。
果たしてどんな美味しいお魚たちが待っているのか、そして釣れたてのアジはどんなお皿になってカウンターを彩るのか——。
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それではまた、次回の夜の帳でお会いしましょう。
署名:天照(Bar風花)




