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魔剣の魔法使い  作者: サイトウアキバ
11/11

1-10 卒業試験2

轟音が屋敷の壁に反響して庭に響き渡った。


元が液体故に衝撃の大半は地面に逃げている。

だがそれでも無防備な体勢で巨大な水球をまともに打ちつけられたダメージがないわけじゃない。


「ガ…ハッ!ゴホッ…ゴホッ…!……オエェ…ゴホッ!」


頭を打ったせいでひどい眩暈、大量に飲んでしまった水と、それで溺れかけたことによる酸欠と吐き気。


「ぐ…うぅ…」


足をふらつかせながら何とか立ち上がるが焦点も定まらず、正直まともに戦闘を続けられる状態じゃない。


「いやいや、あんたもう無理でしょ。終わりよ終わり」


気づけばミュウ先生は腕を組んで見下すような目で俺を見ていた。


「まだ…です。やれます」


あれだけ大見得を切っておいてこんなやられ方じゃ格好悪いじゃないか。


「…………あっそ」


ミュウ先生そう呟いて腕を解くと今度は濡れた地面の中からまたも無数の拳大の岩弾がボコボコと生えてくるように出てくる。


「さっさと楽にしてあげるから」


「くっ…!」


質量も加わった岩弾が直撃した時のダメージは水弾の比ではない。


(頭に当たったら終わる)


水弾と同じように風をまとわせた拳で弾いていくが、今度は弾いている手の方にしっかりとダメージが蓄積されていく。

しかもさっきの水弾は最後の一撃の為にわざわざ計算されて撃たれていたようだが、この岩弾はどうやらこれで終わらせる気で満々の様だ。


「痛ッ!?……ガッ…グッ…!」


1発目2発目を両手で弾いた後に間に合わないタイミングで3発目の岩弾を防具のない腹や足にしっかりと当ててくる。

もちろん風で軌道を曲げようと何度も試しているが、いかんせん単純な出力差でミュウ先生に敵わないらしい。


「い、ギィッ……!」


ついに額に岩弾が直撃して思わずたたらを踏んだ。

地面にボタボタと血が滴るのが目に入る。


「フィルーーーゥ!!」


母様の悲鳴にも似た叫び声が響いた。

父様が掴んだ手を振り払って駆け出しかけた母様を手を突き出して制止する。


「っ…!?」


大丈夫ですよ母様。予定通りですから、大丈夫。

すこ~しだけ!気に食わない所はありますが、予定通りなんですよ。

そして手を握ってから親指をグッと天に伸ばした。


「……まだやるの?」


ミュウ先生が少し苛立ちが混じった声で問いかける。


「ハァ…ハァ…はは、そろそろ本気でいきますよ」


ミュウ先生は無言のまま地面から新たな岩弾を生成する。

初めの奇襲以外に何一つ良いところは無し。

頭からの流血で視界は霞むし、岩弾が直撃した箇所もズキズキと限界を訴えてくる。


(でも!今!この瞬間を!待ってたんだ!!!)


瞬間に空中に足場を生成してミュウ先生の頭上へと駆け上がる。


「んなっ!?」


時刻はそろそろ正午。太陽の位置はほぼ真上。


「くっ…」


ミュウ先生が目を眩ませて狙いを定められないうちに次々と新たな足場を作り直してさらに上を目指す。

風で精一杯補助してるとはいえ、この状態で空中をぴょんぴょんと駆け上るのはつらい…。

だけどこの瞬間を逃したら勝機は二度と来ない!


「う、あ、ああああああ!!」


そして、最後の一蹴りで何とか目的の場所に飛び移った。


「ちょっと驚いたけど…で?そんなとこに行ってどうするの?もう終わりで良い?」


ミュウ先生が屋敷の屋根に乗った俺を眩しそうに見上げる。

もう魔力も8割は使い切ったし体中痛いし、逃げられるのなら逃げてしまいたい。

だけどミュウ先生には、ここまで俺を鍛えてくれたミュウ先生だけにはそんな姿死んでも見せたくない!


「はい、もう終わりです」


最後に残った魔力をすべて使い切るつもりで突風を起こす。


形はミュウ先生を周りの地面ごと丸く筒状の壁に包み込むように。


「ッ!?」


ミュウ先生が慌てて頭を守るように腕で防御する。

何をされるか察した様だけどもう遅い。


「これが、俺の本気です!」


突風がミュウ先生の周りを渦巻き、柔らかかくなった地面を抉り、自らが散々生み出した泥水や岩弾を巻き上げて魔力で出来た狭い壁の中暴れ狂う。



風が止む。

時間にして5秒もないくらいだが、ミュウ先生の周囲の地面は円状に芝が全て剥がれ落ち、泥でまみれていた。


肝心のミュウ先生だが、特に倒れることもなかったが、両手をだらりと下げて俯いているせいで顔が見えない。

綺麗だった金髪も含めて全身泥まみれで、服は岩弾のせいか所々ボロボロになっていた。


「……ふっ!」


本当に最後に残った魔力でクッションを作り、よろめきながら何とか地面に着地する。


「もう…魔力が残ってないです。……俺の負けです、ミュウ先生」


「…………」


返事がない。


「……ミュウ先生?」


「…………」


やはり何も答えない。

意表をついたとは言え、いくら何でもミュウ先生なら致命傷になるほどではないはずだ。


「え、ちょっと…?」


徐々に歩み寄るが両手をだらりと下げて俯いた姿のままピクリとも動かない。

まさか本当に運悪く岩弾が頭にでも当たってしまったのだろうか?ああ、あんなにポコポコ作るから!


「せんせ…うわあっ!?」


肩に手を伸ばそうとした瞬間、見計らったようにガバッと抱き着かれ、そのまま地面に打ちつけられた。


「やっぱり演技だったんじゃないですか!ああもう、もう何もできませんってば!」


「……わね」


「だから放し……え?今何か言いました?」


ボソリと耳元で何か呟かれたが、自分で声を荒げていた為に聞き逃してしまった。


「合格よ。よく…やったわね」


手を抜いて体を起こし、馬乗りの形になってからミュウ先生は今にも泣きそうな優しい笑顔でゆっくりとそう言った。


「……え?」


こんな優しく笑うミュウ先生なんて見たことがなくて思わず見とれてしまった。

あれ?いや…一度だけこんな笑顔を見たような気もする。


(確か…あれは)


「でもね…」


ミュウ先生が脇の下から手を入れて俺を抱き起してくれる。

そして、そのまままた優しく強く抱きしめられた。

かすかに花のような香りがしてすごく心地良い。


(そうだこの匂い…初めて会った時も、確かこんな…)


「ふうにいいいいいい痛たたたたたた!?」


「女に使うような魔法じゃ、ない、わ、よ、ねええええええ?」


体中の骨が砕けそうな強さで締め上げられ悲鳴があがる。


「し……しぬ……」


「ふんっ!」


さっきまでの態度は何だったのか、ボロ雑巾のように投げ捨てられて全身も心も痛い。


その時、顔に影が差した。

顔を向けると、父様と母様が側に来ていた。

母様はボロボロと涙を流している。やはり相当心配をかけてしまったようだ。


「フィルには内緒だったけどね、今回の試験はミュウ先生に一撃を当てられるかどうかっていう内容だったんだ」


「まさかあんな無茶な方法でやられるとは思ってなかったわ」


ミュウ先生がふんとそっぽを向きながら唇を尖らせる。


「そうだったんですね。でも…ずっと手加減されてたしやっぱり少し悔しいです…」


「……何でそう思ったんだい?」


「いやだって、あんな素直に正面から攻撃する必要もないですし、それに岩弾だって一斉に飛ばせばそれで終わりじゃないですか」


そもそも突き詰めれば最初の奇襲の時に咄嗟に石板で防御が間に合う程の速さなのだ。

石板でなく、岩壁でしっかり防いでから岩弾で畳みかければあの瞬間に決着は着いていたはず。

自分には本気を出す価値もないのかと苛立ちも覚えたが、最初からそういう試験だったのだから仕方がない。

それに、実際に本気を出す程でもないのは事実だろう。やはり遠い存在なんだと改めて感じる。


「だ、そうですよ?ミュウ先生?」


父様がミュウ先生をちらり見ると、ミュウ先生は唇を尖らせたまま不機嫌な顔で答えた。


「ふん、しょーがないじゃない。だって私魔法苦手なんだもん」


「…………え?」


衝撃すぎる言葉に一瞬頭が真っ白になった。


「ええ、ええ、そりゃ確かに私は全部の属性魔法使えますよ?でもそれだけ。1つ1つはそこまで得意じゃないのよ」


「いや…え?でも…」


「岩弾だってね、あの出力じゃ3つが限界だったの。それ以上同時に撃とうとしたらあんたの風に負けちゃうから使えなかったのよ」


「え、いや、えっと…じゃあ?」


まだ思考がうまく追いつかない。


「まあ力の半分くらい…………結構本気だったわよ」


頭を軽く掻きながら最後に小さく呟いた言葉が徐々に染み込んでくる。


「でもあんたはこうしてズタボロで私はまだ元気だから負けてませーん。私の勝ちでーす!ベロベロー!」


ミュウ先生が子供の様に悪態をつくが、まあ実際その通りだからあまり気にしないことにする。


『結構本気だったわよ』


どこまで信じて良いかわからないが、手を抜いてくれてた訳じゃないと言ってくれたことがとても嬉しかった。

ミュウ先生が師事してくれた8年間、その恩に少しは報えただろうか。

それなら、きっと笑顔で別れられる。


「はぁー、泥まみれだしとにかく水浴びね水浴び。はぁー、体も痛い。はぁー誰かさんのせいでなぁー」


「ふふ、フィルも凄いことになってるしまずは水浴びね。手当と食事はその後、ね」


母様が小さく親指を立てた。


「はい、とにかく体を綺麗にしないと…いてて」


母様に支えられながら痛む体を何とか起こす。


「あ、そうだ」


急にミュウ先生がパンと手を叩いてわざとらしい声をあげた。

多分ろくでもないことを思いついたに違いない…。


「合格祝いに一緒に水浴びしよっか。どうせ体動かないでしょ?洗ってあげるから」


「……はい?」


やっぱりろくでもないことだった…。

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