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07

僕は店の扉を勢いよく開けると店の主人ガッドに挨拶もそこそこに注文した武器ができているか尋ねる。


「扉を壊す気か小僧!!」


第一声で怒られた、そりゃそうか。


僕は今日、ログインして宿屋で二人と朝食を食べた後、急ぐ足を抑え競歩でガッドの鍛冶屋を目指した。

店に着くとガッドは約束通り槍を完成させていてくれた。

ひどい目に合わなくて済みそうだな、僕が。


ガッドが「持ってみろ」と僕に槍を渡す、槍は三又でありトライデントと言った方がいいか、三本の穂先になっている。

分からなかったらフォークなどをイメージして欲しい。投げる方じゃなく食器の方ね。

外の二本がドリルのように螺旋を描き、真ん中の部分が青より透明な水色で、まるで太陽に照らされた透明な海を想像させる。


「綺麗だ…」


僕が見惚れていると「ゴホン…」とガッドの咳ばらいが聞こえる。

おっと、ボーッとしてた。早速《鑑定》してみる。


【片手槍:ホーンアクアの槍】 レア度2 重量2 耐久値280 攻撃力ATK+11 属性水

『説明:天然素材を使い作られた三又の槍。水の属性を持つ。 ノープリウスの殻×3+ドリル状の角×2+???+???で作成可能 製作者ガッド』


鑑定結果がこう。

まず攻撃力がビーギナーより7高く、耐久値が倍以上、重量も下がっていて、おまけに水属性もあるなんて、いいの?いいのこれ?反則じゃない?

圧倒的ではないか我が槍は、ふふふ、笑いが止まりませんよ。


「すごいですね!」


新しくなった槍を見ながら、製作者のガッドに称賛を送った。


「いいから構えてみろ」


僕の称賛の言葉を無視してガッドが促す、僕はガッドの言葉に素直に従い構えてみると「少し甘いな…」と僕の構えでは無く自分で作った武器に対しての感想だった。

「貸してみろ」と言われ僕は槍を渡すと何処から出したのか鉄のやすりを取り出し木の部分を磨きだした。


「どうだ?」


再度渡された槍を持ち構えてみるとさっきよりフィットする。

何これ~、やだこれ~、ベストやないの~

パーフェクト!パーフェクトだ!!ガッド!!!

ガッドは僕の顔を見て頷くと納得したようだ。


次にガッドが槍の性能の説明をしていく。

三本のうち外の二本にホーンラビットの角を使い真ん中の部分はノープリウスの殻を三つ使い頑丈にしているという事だ。

ねずみ色したあの殻がこんな見事な水色になるのか…

しかしあんなに大きかったのがこんな縮んじゃって…寒かったの?


説明を終えるとガッドは「何かあれば俺のところに持ってこい、相談位は乗ってやる」と言ったので、僕は「はい、ありがとうございますガッドさん」と感謝の言葉を口にした。

それに対してガッドは「フン」と鼻を鳴らすだけだった…

何このツンデレ、髭をツインテールにするよ。




    ◇◇◇




僕はガッドにお礼を言ってから店を出るとその足で冒険者ギルドへ向かった。

昨日はまったく依頼を受ける事が出来ずギルドランクは上がらないまま終わってしまった。

僕の目的はあくまで図書館であり、本なのです。

決して料理屋を開くことではない。


冒険者ギルドに入ると中は初日よりは空いている、僕は依頼が貼ってある掲示板ではなく直接窓口に向かった。

初心者の僕には依頼の良し悪しが分からないので聞いた方が早いだろうと思って。

「すいません」と声をかけると前回担当してくれた女性が座っていて僕を見て「ユウさん、いらしゃい」と名前を覚えていてくれた。


前回同様にどんな依頼があるか聞くと「実は…」と受付のお姉さんは少し躊躇しながら言葉を選んだ。


「薬草採取を、お願いしたいのですが、量が量なのでどうしたものかと…」

「いくつなのですか?」

「……200です」

「え!?200」


前回の依頼の10倍だ。


「現在ポーションの在庫不足が起こりつつありそうなのです…」

「在庫不足ですか…」

「ええ、一昨日からどうもポーションの需要が上がってきているようで…」


受付のお姉さんが言いにくそうにしている、恐らくプレイヤーが原因なのだろう。

これが誰かが言っていた需要と供給の話に繋がるのか…


プレイヤーが冒険に行き怪我をしたらポーションを使う。

サービスが開始したばかりでプレイヤーは一律初期スキルなのでLVも上がっていない、怪我をしてもポーションぐらいしか回復の手段がないのだろう。

(光魔法もあるだろうが全員が取得してる訳では無いだろうし…)

その為プレイヤーはポーションをどんどん買っていき、この街に有ったポーションが無くなっていく…

しかし、街の規模を考えればポーションを作る人、薬師はクルル夫婦だけでは無いだろうに……

作っても作っても足りないって事か?つまりこれが供給が滞る…


……?だったら薬を調合できる人を探した方がいいと思うが?

あ、材料の問題になるのか、材料が無ければ作れる人がいても宝の持ち腐れになってしまうか。


僕が一人うんうん考えていたら「ユウさん?」と受付のお姉さんが僕を上目使いに見ながら、僕が考え込んでいるのを見て、もしかしたら依頼を受けないと思っているのか不安そうにしている。

やはり女性の上目使いは卑怯だと思う、胸がキュンキュンする。


「はい、受けま…あ」


前回と同じ事を思い出した、バックに入らないじゃないか。


「すいません、バックの容量が…」

「大丈夫です、用意してあります、はい!」


ドン!とカウンターにバックを取り出すと僕に向かいニッコリと笑顔でを見せる。

用意がいいね。

うん、守りたいこの笑顔。


「貸し出しで50コルになります」


うん、お金はしっかり取るのね。

その笑顔はどこかのファーストフードの0円スマイルに見える。


==========


依頼:緊急クエスト


『薬草採取』


品質3以上の薬草を出来る限り多く持って来て欲しい


0/200

※最低個数


報酬:3000コル

※それ以上も1個15コルで買い取り


依頼主:生産ギルド

==========


あれ?クーリーではない、生産ギルドって何だ?

僕は依頼を確認するとお姉さんに聞いてみた。


「はい、この問題は生産管理をしているギルドへ責任が移行しました」


組合(ギルド)って言うくらいだからデカいところなんだろう。

まあ、この問題は個人でどうこう出来そうにないしな。




    ◇◇◇




依頼を受けて、さっそく僕は西の草原に来ていた。

やっぱりか…西の草原は今日も人が溢れ返っていた。

薬草採取の依頼を受けていたのはどうやら僕だけではないのだろう。

ホーンラビットを追い回すのではなく下を向きガサガサと採取をしている人と、その人を守るように辺りを見回す人が見える。

僕には出来ないパーティプレイだな、何故なら僕はロンリーでオンリーなグローリーだからだ。


さて、始めるか。


前回とやり方は一緒、ウサギを見つけ食べている所を後ろからぐさり。

今の僕にはこのやり方しかできない。まあ、《採取》のスキルを取ればいいんだろうが、BPがな~…


さっそく見つけたので攻撃を開始する前に、やってみたい事がある。

まったく使っていない《風魔法》だ。死蔵してごめんね。

たしかメニューから開いて選択すると発動するんだよね。

僕はさっそく試してみることにした。


メニューには魔法は一つしかなく、迷うことなく僕は『ウィンドボール』を選択する、すると口がひとりでに詠唱をはじめた。


『精霊に仕えし従者、自然と共に歩む者、空を舞う自由な君、我に力を貸し、共に歩み共に生きよう、我が捧げる魔、捧げるは生、君が貸すは風『ウィンドボール!』』


こ、これは……




   ◇◇◇




「えい」


僕の槍が薬草を食べているホーンラビットを突くとホーンラビットは一撃で光の粒子になり消えた。

ガッドの作った槍は最高だな、一撃で相手を倒せるとは…

え?魔法?何それ、そんなのあったけ?

あの子使えないのよ、詠唱をしている途中でウサギに気付かれて逃げられるし。

流石にそれで見切りをつけた訳では無い。

何とか詠唱が終わって攻撃が発動したと思ったら見えないの、風だから。

だからどこに魔法が飛んだか分からない、色付けろよ運営。


まあ、いずれ使えるかも知れないから一応最初の攻撃の前に使ってはいるんだが、何がどこに飛んでるんだか分からない、チュートリアルで使った《魔法補助》を付ければ問題ないのかもしれないが…


それにしても変だな、さっきから薬草が見つからない。

ホーンラビットは居るが、品質が3以上の薬草が全くない。

他のプレイヤーが全て持って行ってしまったのか、依頼を受けているのは自分だけではないし、それとも一度抜いた薬草は生えてこないとか?


……考え事をしながら歩いてはいけない、歩きながら本を読むな。端末をいじるな。昔色々言われてきた気がする。僕は人の注意は聞くものだと改めて思い出した。


狼と目が合った。


「ッ!」


僕は反射的に槍を構え突きを繰り出す、前回と同じく狼はひらりと躱そうとするが、狼の体は槍の端、角で作られた部分に当たったらしく、一歩後退する。

当たった部分が小さな光の粒子が出てるのを確認しながら僕は、狼から目を離さず槍を構え、どうするべきか考える。

(戦うべきか?逃げた方が良さそうだけど…)

先ほどの攻撃が当たったのがいけなかった、それが勝てる可能性を僕に見せ判断を鈍らせる。

迷っている暇なんてなかった、狼がこちらを口を開けて襲ってきた。

僕は《跳躍》で上に飛び跳ね、運が良い事に今回は木の枝に立つことが出来た。

しかし狼は僕が跳んだ事を気づいていたようで顔をこちらに向けた。

狼と目が合うと狼は喉をそらし大きく口を開けようとした。


ヤバい!?


僕は槍を両手で持ち狼に向け再度《跳躍》し槍で突き刺そうとする。

しかし狼は僕が跳んできたのが見えてたのか口を閉じ余裕を持って横に避けた。


ダン!と言う音と共に僕は地面に落ちダメージを受けるがそれでも今の狼の行動は阻止しなければいけなかった。

恐らく『遠吠え』

僕は先ほど木を伝い逃げようと考えたが『遠吠え』を使われ仲間を呼ばれた場合最終的に捕まり食べられるだろう。


狼は落ちてきた僕を噛みつこうと口を開け飛び込んできた、先ほど落ちてきた衝撃で僕の足は《跳躍》を許さず僕はとっさに槍を横に構え、槍の柄を狼の口に入れる。

狼は噛み千切ろうとするが槍の柄は硬く砕けない。

てめえ、壊したら分かってるんだろうな?僕がガッドに怒られるんだぞ!

狼との攻防、いや、一歩的な攻撃、噛みつこうとする狼の力は強く僕はだんだんと押し倒されようとしている。

これは人と動物の力の差か、それともシステム的STRの差か。

力で負け地面に押し倒された僕は槍から手を離した、狼は口で槍を遠くに投げ捨てる。

僕は槍を手放したと同時に右足で思いっきり狼を蹴り上げたが、狼は浮くこともなくビクともしなかった。

自由になった口で僕を食べようとする狼の顎を僕はとっさに肘でかち上げ抱くように腕で包む、口を開けさせない様にと。

僕はもう一度蹴ろうと今度は両足で蹴り上げた。


地面を


スキル《跳躍》によって狼を抱えたままの僕は半月を描きながら空中を回転した。

バァン!と言う音が鳴り響きさっきとは逆に僕が上になり狼を押し倒した状態になる。

僕はふらつく頭を押さえ槍のある方へ歩く。

槍を拾い後ろを振り向けば狼もふらつきながら立ち上がる。


「ハァ…ハァ…」


息が荒れる、体が悲鳴を上げている、腕が上がらない。

僕のことなど関係なく狼は大きく口を開け飛び込んできた。

僕は崩れる体に身を任せる様に沈め、飛び込んできた狼の下で槍を立て《跳躍》した。


「ああああああ!!!」


《跳躍》した事で僕と狼は互いにぶつかり車に衝突したように弾け飛ぶ、僕は疲れ切った体を無理に起こすと槍は狼の胸に深く刺さりそこから光の粒子が出ていた。

しかし狼は諦めていなかった、震える体を無理に立たせ、諦めていない眼差しを僕に向ける。


その目を見た時僕は、わずかに一歩下がった。気圧されている。死の恐怖を感じている。もう死にそうな狼に…

僕は「ゴクリ」と一つ唾を飲み込み眉間に力を入れ覚悟を決めて前へと歩く。


(止めておけ)


僕の槍は狼の胸に刺さり武器は無い。


(無意味だ)


口からは先ほどから使っている言葉が出る。


(ほっといても、もうすぐ死ぬ)


メニューからではなく何度も使ったので覚えてしまった詠唱を終え、狼の前に立つ。


(たかだかモンスターに)


狼は僕を見ながら、最後の力で飛び出し噛みつこうと大きく口を開けた。

僕は狼から体を少しずらし口の部分を避け首に掌底のように触れ叫ぶ。


『ウィンドボール!!』


掌から出た魔法は狼を横に吹き飛ばす。

動かなくなった狼は、光の粒子になって消えていった。

僕は光の粒子を確認すると安堵し仰向けに倒れた。


「終わった……」


それしか言葉が出なかった。

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