026 これから、そして……
本日三話目です
出かけた時は二人だった。帰って来た時には七人もの大所帯と成ってしまった。それでも帰って来れる場所が在るのは嬉しいモノだ。それは新しく仲間と成った子供達にも言える事だろう。ヴェイルでしっかり学んで、ナッシンに帰れる様にしよう。
「親方有難う。直ぐにも試したいけど、その前に相談が在ります」
親方にナッシンの村へ家を建てる計画を伝える。まだ、侯爵家からの承諾は得ていないが問題ないだろう。
そこで必要なのは建設が出来る大工と俺の依頼を熟せる職人の確保だ。
「大工なら心当たりが在るから安心せい。だが、職人と成ると難しいの」
「えっと何故に?」
「お前さんからの依頼で飯は食えるのか?その村は小さいのじゃろ?」
「じゃ~どうすれば良いですかね?」
「手っ取り早いのは雇う事じゃ。この場合は奴隷を買う事じゃがな」
「また奴隷購入ですか!?」
「仕方が無かろう『魔導工学』等と聞いた事も無い代物じゃ必要なのは錬金術師と日用鍛冶師だからの」
「日用鍛冶師?」
親方達は鍛冶師と呼び、鍋やフライパンと言った日用品を作る職人を日用鍛冶師と区別するらしい。違いは作り方が大きく違う。親方達の制作はスキルで行う其れに対し、日用鍛冶師は俺が知る炉で鉄を溶かし叩いて作る職人だ。
「成程ね。だったら俺でも出来るかも」
「炉と道具が在れば、後は力作業だしな。コヤツ等に仕込んでも良いじゃろう」
「そうだね。親方ナイス・アイデア」
結局、アレンを日用鍛冶師・トットを錬金術師の卵にしよう。どうせ仕上げは俺に掛かって来るんだし、実験レベルには二人で十分だろう。
簡単に大工の棟梁と顔合わせを済ませ、錬金術師と日用鍛冶師の所にも顔繋ぎが済んだのが、陽が沈む頃で宿に戻れたのは夕食前の時間と成った。
「明日からの行動を発表します。女子組三人は午前中に勉強。午後からは女将の下で此処で給仕の練習をして下さい。男子組二人は午前中レイと共に狩りの手解き、午後から勉強です。判った?」
「「「「「はい」」」」」
「旦那様は何を為さるんですか?」
「俺は領主夫人の依頼の準備と家の件で打ち合わせだな」
予定を伝え皆揃っての夕食タイムだ。しっかり食べて体を作ろう。特にカレンとアイーシャは、年頃の娘なのに少し線が細すぎる。アレンとトットも育ち盛りの男の子モリモリ食べて大きく成ろう。
部屋は、男子組みと女子組それと俺とレイのツインの三部屋を借りる事にしていた。当然、俺達の階とは違う階にしたよ。色々と在るからね。
明日から忙しい日々が続く、英気を養う為にも俺はレイとの大切な時間を過ごそうと考えてた所に来客が在った。俺達の部屋をノックしたのはアイーシャだ。
「どうした?明日からの事で相談か?」
「……」
部屋を訪ねて来たわりに彼女は無言で下を俯いて居る。何を聴いても幾ら訪ねても要領を得ない。そして、レイが行動に出る。
「旦那様、今宵は私彼方で寝ますね」
アッチで、どっちだよ?俺を置いてスゴスゴと部屋を出て行く。ゴニョゴニョとアイーシャに何かを告げた様だ。ハッとした面持ちでアイーシャは顔を挙げ、レイはドアを閉めた。
静けさが部屋に沁み込む。アイーシャの呼吸が荒い気がする。徐に彼女は俺の胸元へガバッと飛び込んで来た。
「えっ!?ど、どうした?」
「……初めてなんです。ですから優しくして下さいませ」
「???……あっ!」
過去の記憶が甦った。レイとの最初の夜の日だ。アイーシャは、あの時のレイと同じ様に俺に身を差し出しに来たのだと判った。だが……レイとでは違う。
アイーシャは借金奴隷なのだ。全てを差し出す必要は無い。永遠の契約を交わした訳では無い。俺の素性もバレたから秘密を共有する間柄を持つ必要が無い。
確かにアイーシャのポテンシャルは高く、傍に居て欲しいとは思うが……。
「無理はしなくて良いよ。いずれ好きな男性が現れるかもしれないし」
「無理です。私の体には二つの血が流れています。ご存じなんですよね。ですから私をお求めに成られたんですよね。そう私が思わない様にと、配慮までされて、気遣って……両親以外優しくされた事は在りませんでした。両親以外私を普通に見る者は居ませんでした。私を見る目は誰もがジロジロと、好色で、舐め回す様に、時々アレンにも感じるんです。決して彼が汚い大人達と同じだとは思いません。ですが、ですが!ご主人様の御手付きと成れば私を見る目も変わると思いますし私も救われる気がします。ですから、どうかわたしを今夜お抱き下さい」
エルフそれもダークエルフの血を継いだアイーシャの体は、美しい輝きが在った。褐色肌は、この地方では珍しいのだろう。メリハリの在るボディーラインは男心を擽るんだろう。小麦色の肌に映える赤髪ショート。美人と言える整った顔には、妖しい光を放つグレーの瞳。エルフの血を引き継いだ証の尖った耳先は、よく観察しないと気付かない程だ。
俺もレイが傍に居なかったら、どんな目で彼女を見ていたか自信が無い。小麦色に肌を焼く事を知って居なかったら、彼女に溺れていただろう。ただ、それだけだ。疚しい気持ちが全然湧かなかった訳では無いんだ。
「俺もその辺の男と変わらないし、アイーシャは恋をしないツモリか?」
「はい。しません。というかレイ様と共にご主人様に全てを捧げます」
「……アイーシャは借金奴隷なんだよ。無理する必要はないんだ」
「ご主人様なら、どんな視線もお受け致します。私は両親以外から初めて優しさを受けたんです。閉じてた心が開き始めたんです。一生御傍に居させて下さい」
ふと、レイを買った金額が頭にチラついた。獣人はこの世界で差別を受けている。もしかしたら、ダークエルフやWも同じかもしれないと思った。
俺もレイもアイーシャもこの世界では異端児かもしれない。
「大丈夫。大丈夫。俺はアイーシャを棄てたりしない。ずっと傍で守ってあげる。ずっと傍に居よう。俺達は家族だ。だから安心しろ」
いつの間にかアイーシャの頬は濡れていた。レイと同じく泣いていた。
「俺がお前をずっと守ってやる」
戸惑いながら、震えつつ次第にアイーシャは俺に身体を委ねていった。恐怖が、孤独さが、少しづつ癒される様に。心が、体が満たされる様に。気持ちが穏やかに成るにつれ、彼女の反応が激しくなる。心が落ち着くにつれ体が喜びに代わる。
アイーシャはレイと共に俺の家族と成って行く。
朝日を迎える前に工藤は目が覚めた。傍には安らかな顔で寝ているアイーシャが居る。今まで見た事も無い穏やかで可愛い寝顔だと感じた。
そっと頬にキスをするとアイーシャが目を覚ました。交わす視線に不安は感じない。寂しさは感じない。孤独さは感じない。恥じらいと喜びだけが感じられる。
「お、おはようございます」
「おはよう」
「その、少しは喜んで頂けましたか?レイ様に近づける様……努力致します」
朝食は皆揃って食べる様にしていた。少し昨日とは雰囲気が違って居る。
男組は背筋を伸ばし、カレンは何かを考えて居る。アイーシャはレイに気を配りレイは皆に気を配る。変わらないのはテトリアだけだ。今朝はテトリアの存在が俺を癒してくれた。
予定通り食後に活動を始めた。勉強は冒険者ギルドの二階で行う。既に部屋も借り、教師役も雇う段取りは整えている、シャルルに全てお願いしてたからだ。先ずは、全員でギルドへ向かう。子供達全員を冒険者登録する為だ。それと教師役の者との挨拶を交わす為だ。
教師役は二人。午前と午後で別れている。日毎に入れ替わる予定。だから全員と顔合わせを行った。期間は一月の予定だ。其れまでに学び切れなかったら俺とレイで教える予定だ。一月後には別の事を学んで貰うからだ。
ナッシン村へ帰るまでの期限は冬が明けるまでだ。其れまでに子供達には多くの事を学んで貰いたい。喩え俺の下を離れても十分に独り立ち出来る様に……
挨拶を終え、それぞれの持ち場へと向かった。女組はこのまま授業へと入り、男組はレイに連れられ町の外で狩りを覚える。そして俺は大工の棟梁の下へ相談に向かった。
俺が立てる家は二軒の予定だ。一軒は自宅兼工房もう一軒は温泉宿だ。
温泉宿が成功すれば、ナッシン村は息を吹き返すだろう。それ以上に成るかもしれない。だから失敗しない様に入念な計画を立てる。資金は侯爵家と伯爵家から融資してもらう予定だ。だから俺も頑張る。この世界に絆が出来たから。この世界に掛替えの無い家族が出来たから。俺は頑張って生きて行く。この世界に来た理由が知りたい。探る為の力と金が要るだろう。だから俺は頑張ると決めた。
コレにて一章を終わります。二章は紋様の力を利用して開発をしていく話を中心に新天地ナッシン村の予定ですが、それは機会が在れば書きたいと思います。
拙い文章・誤字脱字にとお見苦しい点を披露致しました。長々と御付き合い頂きありがとうございました。 英心




