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ドキッ! 薔薇が舞い散る音ゲー対決! 私はモブ君の判定ラインを死守したい!

  図書室補佐の彼――通称モブ君と出会ってから一週間。私の生活は一変した。


 登校するなり、私は彼のいる図書室の裏口や、放課後の資料室へ直行する。


「ああ、モブ君……。今日も肌がマットで安心するわ……。テカってないって素晴らしい……。なんて美しいグラフィックなの」


「先輩、また僕の袖を掴んで深呼吸するのやめてもらえます? 怖いですよ」


 モブ君の顔は相変わらず、描き込みを忘れた絵みたいにぼんやりしている。けれどその低解像度が、ハイレゾ地獄に疲れた私の眼球に優しすぎるのだ。

 だが、そんな平穏をクリーチャーたちが許してくれるはずもなかった。



 ――バァン!!!!


 資料室の扉が、物理法則を無視した音量で開かれる。


「見つけたよ、迷子の子猫ちゃん。こんな地味な男と何をしているのかな?」

 現れたのは、エリオット王子。


 今日も今日とて、彼の背後からは出どころ不明のスポットライトが照射され、資料室の埃がキラキラとダイヤモンドダストのように輝いている。相変わらず完璧に整った左右対称の顔が、本能的な恐怖を沸き上がらせる。


「眩しっ! 眩しすぎて目が潰れそう!」


「ふっ、僕の愛の輝きが眩しすぎるのかい?」


 さらに、部屋の隅の暗闇から、冷徹宰相令息のレナードがヌッと現れる。

「……計算外ですね。君がこれほどまでに質の低い個体に執着するとは」


 レナードが眼鏡を直すと、『シャーン!』と耳をつんざく音が鳴り、ビクッと肩が揺れる。何回聞いても慣れない音だ。さらに眼鏡の反射光でこっちの視力まで削りにきている。


「お姉さん、僕たちと遊ぼうよ。その人は、僕が消してあげちゃおっか……?」

 ニコラスが、不穏な台詞を吐いている。ゲームをプレイしている時は感覚が麻痺していたけど、リアルに対峙すると容姿も相まって怖すぎる。彼は巨大な銀河の瞳をギラつかせながら、可愛く首を傾げた。


(骨格どうなってんの!? 四十五度以上傾いてるよ! ポッキリいっちゃうよ!)



 お願い、誰かこれが夢だと言って。私は彼らの誰かを攻略しなきゃいけないの?



「や、やめなさい! モブ君を消すのは私が許しません!」


 私は細目で(そうすると視界がぼやけるのだ)彼らを睨んでモブ君の前に立ちはだかり、両手を広げた。

すると、攻略対象たちが一斉に、待機モーションのような不自然な反復横跳び風の動きで固まった。脚が妙に細長いな……まるで蜘蛛の脚みたい……。


「ほう……。僕たちを差し置いて、その彼を選ぶというのか。納得いかないね。なら勝負だ!」


 エリオットがパチンと指を鳴らした瞬間、私の視界に異変が起きた。



 突如として、空中に三本の縦のバーと、三つのボタンが現れたのだ。そしてどこからともなく、安っぽいシンセサイザーのBGMが爆音で流れ始めた。突然万華鏡に突っ込まれたみたいだ。頭痛がする!



「待て待て待て、何!? 何が始まったの!?」


「勝負は簡単さ。僕たちが順番に愛の言葉を囁く。君がより『コンボ』を繋げた方が勝ちだ」


 乙女ゲーム特有の、唐突すぎる音ゲー・ミニゲームの強制実装だ!


「先行は僕だ。いくよ!」

 エリオットがポーズを決めると、画面端からキラキラ光る星が、猛スピードで流れてくる。


『キミの(★) 瞳に(★) 乾杯(★)』

「いやっ、ちょまっ!」


 突然始まった儀式に流され、タイミングを合わせてとにかく星をタップすると、エリオットの周囲から薔薇の花びらが噴水のように噴き出して視界を埋め尽くした。


「うわっぷ、花びらがっ… 判定ラインが見えない! 演出が物理的に邪魔!!」



 続いてレナード。

「愛とは、距離と速度と時間の関係に過ぎません。……僕が証明してあげましょう」


『 時速四キロで逃げる弟を (★)』

『 時速十二キロのタケシ君が追う (★)』

『 二人の距離がゼロになるのは何分後? (★)』


「どこかですっごく見覚えあるやつ!!単純にキモいっ! 」



 最後はニコラスだ。

「お姉さん、最後は僕だよぉ。……宇宙の果てまで、一緒に『きゅん』しよ?」


 彼が巨大な瞳をパチリと瞬かせた瞬間、視界がぐにゃあぁと歪み、禍々しい異次元に染まる。


『 きゅるきゅる(★)』

『 ぎゅーっ (★)』

『 ずっと一緒だよぉおぉおぉ(★)』


「ひっ……! 擬音が三次元で迫ってくる! しかも首をかしげるたびに画面全体が四十五度ずつ傾いて酔う!!」



 攻略対象たちが代わる代わる、高画質なエフェクトと過剰なSEを撒き散らしていく。私の精神ゲージはもうボロボロだ。


「さあ、最後は君だ。モブ」


「え……僕、別に先輩のこと何とも思ってないんですけど……」

 モブ君がしぶしぶ前に出る。



「……あ、あの。先輩、図書の返却期限、明日までですよ」(★)


 流れてきたのは、ノーツとは呼べないほどただの星が一つ。演出も、爆発もない。ただ、彼の素朴な声に合わせて、ポーン……とどこか懐かしい八ビット音が響いただけだった。

 だが、それがいい。


 曼荼羅のような情報の大洪水にオーバーヒート寸前だった私の脳に、その低ビットの静寂が染み渡る。


「……これだ。私が求めていたのは、この安らぎなのよ……!」


 私は流れてきた唯一のノーツを、魂を込めてタップした。その瞬間、モブ君の顔の横に、『PERFECT!』という文字が控えめに浮かんだ。


「勝者、モブ君!!!」


「な、なんだって……!? 僕たちのスペシャルコンボが、そのたった一打に負けただと……!」


 膝をつく攻略対象たち。当然だ。お前たちのノーツは演出がうるさすぎて、もはや初見殺しの無理ゲーなんだよ!



「先輩、勝ったみたいですけど……なんだか僕、すごく複雑な気分です」


 困り顔で頭を掻くモブ君。そんな彼の周囲にだけ、不思議と平和な空気が流れていた。



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