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ドキッ! 奇跡の出会いは書き込み不足? 私はモブの君に恋をする

 エリオット王子から逃げ出した私は、図書室の隅っこに隠れていた。

 心臓のバクバクが止まらない。


「……落ち着け私。エリオットはメインヒーローだから、無駄にエフェクトが過剰だっただけ。他のキャラなら、もう少し人間味があるはず……」


 自分に言い聞かせ、震える手で本を手に取った、その時だった。



「図書室内では静粛に。……それとも、俺に叱られたいのか?」


 冷ややかな声と共に、背後にスッと真っ黒な影が落ちた。

 この声は、攻略対象その二、冷徹宰相令息のレナードだ。知的な眼鏡キャラである。

 彼なら少しはマシかもしれない。淡い期待を抱いて顔を上げると――。


(……!?)


 そこにいたのは、物理演算の狂った眼鏡をかけた男だった。

 レンズが異常なまでに反射を繰り返し、角度を変えても瞳が常に真っ白に発光している。


 しかも、彼が動くたびに眼鏡のツルが肌に食い込んでいる――というか、もはや呑まれていた。彼もエリオットと同様、ビニール人形のような血色のないつるりとした、毛穴やシワなど一切存在しない肌をしている。


「ふん、君の心拍数は140。嘘をついても無駄だ。……俺に恋をしているんだろう?」


 レナードが眼鏡のブリッジを中指でクイッと押し上げる。

 その動作に合わせて、『シャーン!』という不自然にデカい金属音が空間に鳴り響いた。SEが実体化して聞こえる!?


「とんでもない! 恋じゃなくて動悸! 命の危機なんです!」


 私は本を投げ出し、再び全力で逃げ出した。





 中庭に飛び出せば、今度は攻略対象その三、腹黒系ショタキャラのニコラスがいた。


「お姉さん、一緒に遊ぼうよぉ」


 天使のような微笑み。……のはずだった。

 だが、近づいてくる彼を見て、私は膝から崩れ落ちそうになった。

 彼の目は顔の面積の半分を占めるほど巨大で、その奥には銀河のようなラメが渦巻き、見ていると深淵を覗き込むかのような心地がしてくる。そして深淵もまた、こちらを覗いているのだ……。


(ダメだ。この世界の美形は、人間の脳が処理できる範疇を超えてる……!)


 ふと見回せば、ヒーローたちが四方八方から、それぞれの決めポーズを維持したまま、等速直線運動でぬるぬる滑るように近づいてくる。


 逃げ場がない。


 常に舞い散るキラキラ粉塵。激しすぎるレンズフレア。彼方まで吸い込まれそうな全開の瞳。


「やだ……こないで……誰か、誰か助けて……っ!」


 私が半泣きで頭を抱え、地面にうずくまった、その時。



「――大丈夫ですか?」


 不意に、霧が晴れるような、穏やかな声がした。

 派手なエフェクトも、耳を突き刺す効果音もない。恐る恐る顔を上げると、そこに一人の少年が立っていた。茶色の髪に、普通の制服。

 顔立ちは……正直、よく分からない。なぜか彼の顔周辺には常にうっすらとモヤがかかっているような、あるいはさらっと描いただけの下書きのような、不思議な透明感があった。


「顔色悪いですよ。保健室まで、肩貸しましょうか?」


 差し出された手。

 ざらりとした質感の、テカリのない低画質感。開発側の予算分配を世知辛くも感じるが、とても安心する手だ。なにより、彼からは謎の光る粉が出ていない!



「ああ……あああああ……! 普通の人だ……テカってない人がいた……っ!」


 私は彼のシャツの裾を掴み、人目も憚らず号泣した。


 攻略対象たちが「……チッ、邪魔が入ったか」と、なぜか全員同時に舌打ちをしてくるりと去っていく。






「——はぁ……、ありがとうございます……。あなた、お名前は?」


「名前? ああ、僕はただの図書室管理補佐ですよ。名前なんて、呼んでもらうほどのものはありませんから」


 彼は困ったように笑った(ような気がした)。

 顔ははっきり見えない。けれど、その適当な書き込みの薄さが、今の私には世界で一番の癒やしだった。



「いいえッ! あなたこそが私の真のヒーローです!!」


 こうして私は、攻略対象から全力で逃げ回りつつ、顔のよくわからないモブキャラの彼に付きまとうという、前代未聞のゲーム攻略を開始したのだった。 

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