17.【適合手術】
side:レイモンド
アリスの様子がおかしい…
いつも必死になって訓練しているのに、今日は集中していないようじゃった。
いつもクールな感じだが、今日はテンション自体低い気がする。
時期的に適合手術の話を聞かされたのだろう。
ここでアリスはほぼ成功するぞ!と話すのは簡単だが、自暴自棄になりかけているアリスには自分のことを1回考えて欲しい。
そんなきっかけになれば、と思ってはいるがどうすればいいか、正解が分からない。
今も晩御飯を家族3人で囲んでいるが、アリスの顔は浮かないように見える。
「アリス、今日、なんか元気ないんじゃない?」
悩んでいると、妻のレミーが先に話しかけた。
「え!?そ、そうかな!?」
「ママは誤魔化せませんよ!何に悩んでいるのか、相談してもいいんですよ。私たちはアリスの味方なんですから」
「そうじゃぞ!」
レミーも予想は出来ているだろうが、アリスに促すようだ。
「…………実は今日、適合手術の話を聞いてさ、適合者じゃないとバグズは倒せないの?」
「それは…適合していない兵士の進路は知ってる?」
「わかんない…」
「適合していない場合はね、11歳からBSF普通戦闘学校になるの、そこで機銃課や経理課、研究課を選ぶことになる。経理部はまぁ事務系ね、研究課は武器やバグズの研究室ってところね。それで、バグズを倒すってのは機銃課になる。バグズの甲殻は硬いからかなりの銃火器になるんだけど、その扱いや装甲車、戦闘ヘリなどの操作を行う感じになる。だから、バグズを倒せないってことはないわ」
「それは適合者じゃなくても倒せるけど、あんまり倒せないってこと?」
「そうね、言ってしまえばそう。街中で機銃掃射なんて出来ないし、山間部とか人かいなくても一緒。
バグズへ向けて進行する道が難しいし、ヘリでも木で視界が開けずバグズが見えないなんて、理由はいろいろでるわ。条件が整わないとなかなか難しいのが現状。住宅街のほうに行かないよう包囲、防衛線としての運用が多いわ。」
「そう、なんだ……
でも、私はたくさんバグズを倒したいから…頑張って…絶対倒してやるって思ってたのに、何も出来ずに死ぬかもしれないって……」
アリスはもう泣きそうな顔をしている。目に浮かぶ涙は今にもこぼれ落ちそうだ。
「アリスが頑張ってるのは知っているよ。でも、どうしてそんなに倒したいの?復讐したいの?」
「うん、お姉ちゃんやお母さん、おばあちゃんおじいちゃんはバグズに殺されたんだもん!」
「アリス…亡くなったお姉ちゃん達はアリスに復讐して欲しい訳じゃない、生きてて欲しかったんだよ!?復讐のためにアリスが危険なことをすることを望まないわよ!」
「そうじゃ…あの時お姉ちゃんはアリスを助けたくて行動したんじゃ、そこをよく考えてから、自分がどうしたいのか決めるのじゃ」
「当然、私達だってアリスが大切だから、お姉ちゃんやお母さんの考えがわかる。アリスには復讐に囚われず、自分の意思を持って生きて欲しいって」
アリスはまだ小さいが、賢い子じゃ。下手に理屈も分かってしまうから、悩み、気持ちと折り合いが難しい問題なのだろう。
もっと相談に乗りながら話す方が良いのじゃろうか。子育てとは難しいのぉ……
_____________
お姉ちゃんの最後の光景がフラッシュバックする。
私をバグズから助けようと押してくれた瞬間…
悲惨な思いででしかない…
訓練に挫けそうになった時に思い出していたお姉ちゃんの最後はいつも無音だった…
「アリスは生きッ…テ……」
でも、確かに生きてと言っていた。
お母さんも逃げてって言ってた。
忘れるはずないのに。
どうして私達なの?といっぱい疑問に思った。
絶対に許さないとも思った。
私がいっぱい倒せば報われると思った。
でも、みんな望んでない?
じゃあ、私はどうすれば?
あの村で"なぜか"1人だけ生き残った。
いや、お姉ちゃん達に"生かしてもらった"んだ。
なんで私なんかを………
「アリス」
ママが私を抱きしめる。
あったかい温もりを感じる。
パパもその上から抱きしめてくる。
「私達はあなたが大切なのよ。アリスには幸せに生きて欲しい。」
「うん…」
「あなたの意見は尊重したいわ、でも、あなた自身の命を軽く見てはダメよ」
「うん…わかった…」
……半分も成功率がないものは出来ない…よね。
私は機銃課を目指そう。
命を軽々しくしない、大切だ。だけど、それでもバグズは憎い。倒すべき対象だ。
むしろ、私みたいな人を出さないためにも必要だ。市街地を守るため、逃がさないための機銃課だって大事なことじゃないか。
今までバグズへの恐怖を憎しみで上書きしていただけに思えてきた…
______________
翌朝、私は宣言する。
朝食を囲んだ状態ではあるが、パパとママに宣言する。
ずっと考えてたせいで寝不足だけど、宣言する。
「私は適正ありでも適合手術うけない!機銃課を目指す!そこで私みたいな思いをみんなしないように助けたい!」
「それがアリスの答え、やりたいことなのね」
「うん!」
「みんなを助けたい…か、自暴自棄でバグズを倒すって考えは改められたようじゃな」
「うッ、ごめん」
「よし!ワシからとっておきの情報じゃ!アリスは既に擬似適合しており、適合手術の成功はほぼ確実らしいぞ!」
「は?」
「え?」
「ん!?」
ちょっと、理解が出来ていない…
いま、なんて言った!?
「いや、アリスはあの村で負った傷から少量バグズの血と混合してるようでな、既にちょっとだけ適合しておる。耐性が出来とるみたいで、改めて適合手術を行えば、完全に能力に目覚めるし、まず間違いなく成功すると研究室の話じゃ!」
「え!?じゃあ、私は特殊戦闘部隊を目指せるってこと?」
「うむ、そうじゃな!」
「ふ、ふふっ、やったーー!!!」
「良かったのぉ!」
ママがパパの頭を鷲掴みする。
「あなた…今の話…私聞いてないけど…」
…
「あ、いや、アリスに考えるきっかけをと…」
「そうね、アリスにはいい機会だったわ…
それで?」
「あ…いや、そのじゃな…」
「私に話してない理由は??」
ママの腕の力が強まっていく。ママだって適合者だ、体格のいいパパを片手で持ち上げてしまった。
「あ、す、すまんかった!言ったとばかり…
忘れておったのじゃ!」
「ちゃんと言いなさい!」
バシンッ!!
ママのビンタが炸裂した。
パパの顔にはしっかりと手のひらの形がついている。
こわい…
ママには逆らわないようにしよう…
あと、パパは私にも黙っていた…
理由は分かるけど、ちょっと気に入らない所もある。
「私、もうパパじゃなくて、オヤジって呼ぶことにする」
同級生の男子はそう呼んでいた。
「え!?」
随分悲しそうな顔をしているが、これでいいのだ。
オヤジには…
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