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外骨格を着た人間が初めて得る感想。
それは往々にして「自分が超人になった!」という錯覚にも近いものだ。
「うひゃっ!? わっ!? すごっ!?」
M2のテスト起動兼チュートリアルを内蔵されたAIから指示されて熟している佐々木さんは、その人間を完全に超えたスペックに振り回されると同時に興奮していることが声から分かった。
そうだよな、そうなるよ、よく分かる。私も二週間、人間のスペックが如何に低いかと知らしめる基礎訓練の後、初めて普通科採用型の83年式紫苑を着た時、まるで世界が変わったように感じたもの。
現行の紫苑より二世代前の教練用といえど、生身との差は凄まじかった。
今までひいこら言いながらハイポート走で殺されかけていたコースを数分で走破でき、綱を掴んで必死こいてよじ登っていた壁を殆ど溜めなしで飛び越え、10mの高さを落下しても足が痺れさえしない。
正に超人になったような気分。今なら何にも負けない、本当に憧れたRPGの登場人物になれるような高揚感を覚えたものだ。
まぁ、現実を知った今なら、あの時の自分の肩を叩いてやりたくなるけどね。
「跳ねすぎるなよー、オートバランサーがあっても危ないぞー」
「了! いやっ、でも! これ! すごっ!!」
軽いテスト駆動から、巡航走行のテストに移った彼女は指示通り五歩の助走でトップスピードを出すためぽんぽんと跳ねているが、無駄の多い動きだ。戦場であれだけ頭を上げていたら、相手のマークスマンか砲手から吹っ飛ばされるぞ。
こっちの弓手もそれくらいしてくるからな。
……なんで鋼の鏃と、怪異の腱を使ったとはいえど複合弓で展性チタンが貫通できるんですかね?
冷静になると本当に正気を蝕まれる大地だ。というか、何だよ、張力400kg近い弓って。外骨格がなければ引けない張り詰め方に耐える弓と、それで千切れない弦とか怖すぎるわ。列島も再現しようとしているけれど、コスパが悪くて実証実験から先には進んでないんだよな。
それを持って生まれてくる生物is何って感じだけど、本当に勘弁して貰いたいね。
一通り起動チュートリアルを終えた佐々木さんが戻ってくると、彼女は運動量からして息を切らすはずもなかろうに、胸の高鳴りで声が弾んでいた。
「すっ、凄いッスね課長! これ! もっと動かしたら、かなり軽く動けそうッス!」
「扱いやすいかい? ま、そこがM2のウリだからね」
パラミリモデルでM2が傑作50選に選ばれているのは、そのサードバーティー対応製品の多さと安さ、部品の汎用性もあるのだが、肉体の延長に限りなく近い操作性に依る部分も多い。
他にももっと滑らかに対応できる機種は幾らでもあるが――たとえばセンチュリア・シリーズとか――コスパという点において、PMCが調達できる中でM2のそれは図抜けている。
いわばエントリーモデルの見本、その習熟性における簡便性は素晴らしい。
それを見越してカンパニーが用意してくれたんなら、素晴らしいチョイスだと褒めてられるんだけどねぇ……。
うん、シンプルに安価だから選んだんだろうな。一式含めても安いし、維持コストも安価となればね。
本当は、多少扱いづらくても生残性に優れた物か、隠密性が高い物を寄越してほしかったんだが。その方が新兵は生き延びやすいから。
「さて、じゃあ成らしがてら弾倉二つ三つ撃ってみるかい?」
「えっ、良いんスか!?」
「部活で扱うのとは物が違うぞ。FCSもな」
とりあえず用意しておいた、生身では持ち上げるのがやっとのバトルライフルを渡してやると、佐々木さんは丁寧に安全装置を確認し、ボルトを引いてからチェンバーに指を入れて装填されていないことを確認。そこから覗く弾倉に弾頭が詰まっていることを認めると、こちらをちらっと見た。
安全距離を取ってくれと言っているのだ。よしよし、ここら辺の基礎ができてるのはありがたい。マジで銃の基礎を知らない人間だったら、私の手間は十倍以上増えていただろう。
「装填許可、願いまーす!」
「ん? ああ、どうぞ」
「初弾、装填しまーす!」
大きな声での許可申請と宣言は、部活での倣いだろう。発砲可能状態にある部員の近くを不用意に通らないようにするための習慣か。
槓桿を引いて薬室に弾丸を送り出した後、彼女はリズが並べてくれた仮標的の前で構えを取ったが……。
「うわっ、気持ち悪!? な、なんか後ろから無理矢理押さえ込まれてるような……」
「ああ、サポート機能だな。佐々木さん、軽度電脳化してFCSインストールしてるだろ? それと外骨格がリンクして最適の姿勢を取らせようとしているんだろ」
「何か無理矢理体動かされて凄く気持ち悪いッス!」
ふーむ、たしかに。私もエイムアシストはオフにしてるし、銃の扱いに慣れている人間に姿勢アシストは気持ち悪いか。クロスカントリーやってたのなら銃の構えに拘りもあるだろうし、変に構えを強制すると良くないクセが出そうだ。
「AIにコマンドを送れば良い。チュートリアルをにあっただろう? コマンドプロンプトを起動して、エイムサポートをオフにすれば良い」
「了! コマンド、エイムサポートオフ」
気色悪い感覚が抜けたからだろう。一息吐いた彼女は腰に重心を据えた立射姿勢を取り、そのまま引き金を引いた。
一発ど真ん中……とはいかない。初めて扱う銃、初めての口径、初めての外骨格。
それで150mをブルズアイされたら、何を教えればいいのやらって話だ。
しかし、マンターゲットに当てたのは凄いな。大したもんだ。
「えぇ……こんなデッカい銃なのに反動が殆どなかった……」
「銃自体が外骨格向けにゴツく作ってあるから、反動が軽いんだ。ガス軽減システムとか色々考えられてあるしな。クニトモ・ライトアームズの傑作だけあるだろう?」
佐々木さんが使うことになっている、自己防衛火器は私のバトルライフルと同じ物だ。今時は12.7mmなんて半端すぎるが、慣らしには最適だ。
パラミリ仕様でも重装甲型や高級機を持ち出してきたらどうしようもない豆鉄砲であったとしてもね。
そして、怪物や西方人にとっても威力不足のきらいがある。
15.5mmなら、大口径高初速なのもあって、もうちっと話は違ってくるんだが……弾がお高いんだよなぁ。
ウチみたいな泡沫企業がバンバカ撃ちまくれる訳もなく、まぁ泣く泣く最低限通用する50口径で我慢しているわけだ。
「この子、なまら素直……ちょっと上がるから……こう」
銃声。イヤーマフをしていなければ鼓膜を痛めるほどの音に耐えた後、巻き上げられた粉塵から庇った手を退ければ、最初より左上にずれて弾は着弾していた。
「そんで、こうで……こう」
続く弾丸は次々に標的中央に近づいていき、遂には見事なハートショットとして突き刺さった。
「いよっし!」
「ほー、初めての銃をワンマガジン使い切らずハートショットか。大したものだ」
まぐれではない。この子、銃のクセとFCSの感覚をカンで掴み自分で調整したな。
なるほどなるほど……中々どうして悪くないじゃないの。
「よし、装備点検終わり。20mmはもう少し機体に慣熟してからの方が良いな。じゃあ次の任務を下達する」
「了!」
「装具はずーし!」
「はい?」
耳慣れない言い方のせいだったのか、小首を傾げてしまった佐々木さんに、私は装備を外してくることだと教えてやった…………。
業界用語だけど浸透しすぎて普通に使ってしまって通じないあるある。




